保護観察所の業務に関する問題です。
保護観察所の業務は基本的に更生保護法に規定されていますが、一部、医療観察法にも規定があります。
問123 保護観察所の業務として、不適切なものを1つ選べ。
① 精神保健観察を実施する。
② 仮釈放者に対する保護観察を実施する。
③ 遵守事項違反による仮釈放の取消しを行う。
④ 保護観察に付された者に対する恩赦の上申を行う。
⑤ 少年院に入院中の少年に対する生活環境の調整を実施する。
解答のポイント
保護観察所の業務を把握している。
選択肢の解説
まずは、大まかでよいので保護観察所の業務を把握しておきましょう。
保護観察所は、各地方裁判所の管轄区域ごとに全国50か所に置かれ、更生保護の第一線の実施機関として、以下の事務を行っています。
- 保護観察
- 生活環境の調整
- 更生緊急保護
- 恩赦の上申
- 犯罪予防活動
また、医療観察制度による処遇の実施機関として、心神喪失等の状態で重大な他害行為をした人に対する以下の事務も行っています。
- 生活環境の調査
- 生活環境の調整
- 精神保健観察
本問では、ほとんど上記の内容を理解していれば解けるようになっていますが、以下の解説では具体的な条項も含めて示していきましょう。
① 精神保健観察を実施する。
こちらは少しひねりの入った選択肢になります。
保護観察所の業務に関する規定は、基本的に更生保護法に示されているのですが、本選択肢の内容は医療観察法に示されています。
医療観察法第19条に「保護観察所は、次に掲げる事務をつかさどる」とされ、以下が示されています。
- 第三十八条(第五十三条、第五十八条及び第六十三条において準用する場合を含む)に規定する生活環境の調査に関すること。
- 第百一条に規定する生活環境の調整に関すること。
- 第百六条に規定する精神保健観察の実施に関すること。
- 第百八条に規定する関係機関相互間の連携の確保に関すること。
- その他この法律により保護観察所の所掌に属せしめられた事務
このように保護観察所の業務として精神保健観察が挙げられていることがわかりますね。
入院によらない医療を受けさせる旨の決定を受けた人及び退院を許可された人について、原則として3年間、厚生労働省所管の指定通院医療機関による医療が提供されるほか、保護観察所による精神保健観察に付されて、必要な医療と援助の確保が図られることになります(精神保健観察は医療観察法第106条に規定)。
非常に単純化して言えば、精神保健観察とは、その人の生活状況の見守りということになります。
以上より、選択肢①は適切と判断でき、除外することになります。
② 仮釈放者に対する保護観察を実施する。
まず仮釈放等とは、地方更生保護委員会の決定(更生保護法16条)によって、収容期間が満了する前に被収容者を一定の条件を付して仮に釈放することを指します。
こちらには以下の4種類があります(社会内処遇規則9条参照)。
- 懲役又は禁錮に受刑者に対する仮釈放(刑法28条)
- 拘留受刑者又は労役場留置者に対する仮出場(刑法30条)
- 少年院収容者の仮退院(少年院法12条2項)
- 婦人補導院収容者の仮退院(売春防止法25条1項)
そして、仮釈放を許された者は、仮釈放の期間中、保護観察に付されることになります(更生保護法第40条)。
このほか、更生保護法では、仮釈放の審理において犯罪被害者等の意見を聴取する制度等を整備しています。
以上より、選択肢②は適切と判断でき、除外することになります。
③ 遵守事項違反による仮釈放の取消しを行う。
保護観察対象者は、保護観察期間中、遵守事項を遵守しなければならず、これに違反した場合には、仮釈放の取消し等のいわゆる不良措置が執られることがあります。
遵守事項には、全ての保護観察対象者が守るべきものとして法律で規定されている一般遵守事項と、個々の保護観察対象者ごとに定められる特別遵守事項とがあり、特別遵守事項は、主として次の5つの類型になります。
- 犯罪又は非行に結び付くおそれのある特定の行動をしないこと
- 健全な生活態度を保持するために必要と認められる特定の行動を実行又は継続すること
- 指導監督を行うため事前に把握しておくことが特に重要と認められる生活上又は身分上の特定の事項について、あらかじめ、保護観察官又は保護司に申告すること
- 特定の犯罪的傾向を改善するための専門的処遇を受けること
- 社会貢献活動を一定の時間行うこと
これらを踏まえ、実際には保護観察対象者の改善更生のために特に必要と認められる範囲内で具体的に定められることになります。
保護観察対象者に遵守事項違反または再犯等があった場合に「不良措置」が執られることになります。
こちらについては、刑法第29条に仮釈放取消の要件が以下のように定められています。
- 仮釈放中に更に罪を犯し、罰金以上の刑に処せられたとき。
- 仮釈放前に犯した他の罪について罰金以上の刑に処せられたとき。
- 仮釈放前に他の罪について罰金以上の刑に処せられた者に対し、その刑の執行をすべきとき。
- 仮釈放中に遵守すべき事項を遵守しなかったとき。
このように、遵守事項違反は仮釈放の取消しに該当する行為であることがわかりますね。
本選択肢の肝は、こうした仮釈放取消しの決定を誰が行うかを把握していることです。
更生保護法第75条に「刑法第二十九条第一項の規定による仮釈放の取消しは、仮釈放者に対する保護観察をつかさどる保護観察所の所在地を管轄する地方委員会が、決定をもってするものとする」とあります。
このように、仮釈放の取消しは「保護観察所の所在地を管轄する地方委員会」の決定によって行われます。
この「地方委員会」とは、地方更生保護委員会の略称であり、この委員会が行う業務は以下のように規定されています(更生保護法第16条)。
- 刑法第二十八条の行政官庁として、仮釈放を許し、又はその処分を取り消すこと。
- 刑法第三十条の行政官庁として、仮出場を許すこと。
- 少年院からの仮退院又は退院を許すこと。
- 少年院からの仮退院中の者について、少年院に戻して収容する旨の決定の申請をすること。
- 少年法第五十二条第一項又は同条第一項及び第二項の規定により言い渡された刑について、その執行を受け終わったものとする処分をすること。
- 刑法第二十五条の二第二項及び第二十七条の三第二項の行政官庁として、保護観察を仮に解除し、又はその処分を取り消すこと。
- 婦人補導院からの仮退院を許し、又はその処分を取り消すこと。
- 保護観察所の事務を監督すること。
- 前各号に掲げるもののほか、この法律又は他の法律によりその権限に属させられた事項を処理すること。
こちらにも「仮釈放を許し、又はその処分を取り消すこと」とありますね。
この点からも、仮釈放の取消しは地方更生保護委員会の権限であることがわかります。
以上より、選択肢③が不適切であり、こちらを選択することになります。
④ 保護観察に付された者に対する恩赦の上申を行う。
まず恩赦には、政令で罪の種類や基準日等を定めて該当する者に対して一律に行う政令恩赦と、特定の人に対して個別的に審査した上で行われる個別恩赦があり、本選択肢の内容は後者に関するものになります。
恩赦法施行規則第1条には「恩赦法第十二条の規定による中央更生保護審査会の申出は、刑事施設若しくは保護観察所の長又は検察官の上申があった者に対してこれを行うものとする」とあります。
また、同法第1条の2には「次に掲げる者は、職権で、中央更生保護審査会に特赦、特定の者に対する減刑又は刑の執行の免除の上申をすることができる」とされ、「保護観察に付されている者については、その保護観察をつかさどる保護観察所の長」とあります。
上記は恩赦法の中での規定ですが、これを受ける形で更生保護法にも恩赦の規定があります。
更生保護法第89条に「恩赦法第十二条に規定する審査会の申出は、法務大臣に対してするものとする」とあります。
このように、保護観察に付された者に対する恩赦の上申は、保護観察所の業務のひとつであると言えますね。
よって、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。
⑤ 少年院に入院中の少年に対する生活環境の調整を実施する。
そもそも保護観察官の役割として「保護観察官は、医学、心理学、教育学、社会学その他の更生保護に関する専門的知識に基づき、保護観察、調査、生活環境の調整その他犯罪をした者及び非行のある少年の更生保護並びに犯罪の予防に関する事務に従事する」と定められています(更生保護法第31条第2号)。
この中に「生活環境の調整」も含まれていることがわかりますね。
具体的には、更生保護法第82条に「収容中の者に対する生活環境の調整」として、以下のように定められています。
- 保護観察所の長は、刑の執行のため刑事施設に収容されている者又は刑若しくは保護処分の執行のため少年院に収容されている者(以下この条において「収容中の者」と総称する)について、その社会復帰を円滑にするため必要があると認めるときは、その者の家族その他の関係人を訪問して協力を求めることその他の方法により、釈放後の住居、就業先その他の生活環境の調整を行うものとする。
- 地方委員会は、前項の規定による調整が有効かつ適切に行われるよう、保護観察所の長に対し、調整を行うべき住居、就業先その他の生活環境に関する事項について必要な指導及び助言を行うほか、同項の規定による調整が複数の保護観察所において行われる場合における当該保護観察所相互間の連絡調整を行うものとする。
- 地方委員会は、前項の措置をとるに当たって必要があると認めるときは、収容中の者との面接、関係人に対する質問その他の方法により、調査を行うことができる。
- 第二十五条第二項及び第三十六条第二項の規定は、前項の調査について準用する。
第1号の「収容中の者」というのが、本選択肢の「少年院に入院中の少年」のことですね。
このように、少年院に収容されている少年に対する生活環境の調整は、保護観察所の業務と言えます。
よって、選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。