公認心理師 2018追加-115

保護観察において受講が義務付けられた、医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく、特定の犯罪傾向を改善するための体系化された手順による専門的処遇プログラムに該当しないものを1つ選ぶ問題です。

専門的処遇プログラムについては、公認心理師2018追加-68にも出題されていました。
内容まで問われると難しいかもしれませんが、どういう種類があるかは把握しておきたいところです。

解答のポイント

専門的処遇プログラムの種類を把握していること。

専門的処遇プログラム

2004年、奈良県内において、過去に児童を対象とするわいせつ事犯を繰り返し、保護観察付執行猶予と仮釈放により、二度にわたって保護観察を受けていた元保護観察対象者が、7歳の女児を誘拐・殺害しました。
このほか、2004年~2005年にかけて成人の保護観察対象者による重大な犯罪が散発したことを契機とした国民の批判の高まりを背景に、法務大臣は2005年に更生保護のあり方を考える有識者会議を設置しました。
そして、同会議の報告を踏まえて、法務省は、更生保護制度改革として以下を設定しました。

  1. 更生保護法の制定
  2. 保護観察の充実強化(専門的処遇プログラムの拡大を含む)
  3. 保護観察の実施者である保護観察官と保護司との連携の円滑化
  4. 刑務所出所者等総合的就労支援対策等の推進
  5. 自立更生促進センター構想の推進
  6. 組織・体制面の充実強化

こうした流れで制定された更生保護法では、その第51条において「保護観察対象者は、一般遵守事項のほか、遵守すべき特別の事項(以下「特別遵守事項」という)が定められたときは、これを遵守しなければならない」と規定されております。
そして、同条第2項第4号に「医学、心理学、教育学、社会学その他の専門的知識に基づく特定の犯罪的傾向を改善するための体系化された手順による処遇として法務大臣が定めるものを受けること」と定められています。
これが「専門的処遇プログラム」と呼ばれているものになります。

特別遵守事項は、個々の保護観察対象者ごとに、それぞれの問題性に応じて定められるものですが、2006年9月の執行猶予者保護観察法の改正により、仮釈放者だけではなく、保護観察付執行猶予者についても定めることができるようになり、これは2008年6月施行の更生保護法にも引き継がれています。

この専門的処遇プログラムは、具体的には、性犯罪者処遇プログラム、覚せい剤事犯者処遇プログラム、暴力防止プログラム、飲酒運転防止プログラムの4種類があります(平成20年法務省告示第219号)

犯罪白書によると、これらのプログラムは「いずれも認知行動療法等の専門的な知見に基づくものであり、保護観察対象者に犯罪に結び付くおそれのある認知の偏りや自己統制力の不足等の自己の問題性を理解させた上で、再犯に及ばないようにするための具体的な方法を習得させることにより、その改善更生を図ろうとするもの」となっています。

選択肢の解説

『④暴力団離脱指導プログラム』

上記の通り、本選択肢は専門的処遇プログラムに含まれていないことがわかります。

暴力団関係者に対する施策としては、刑事施設において、2006年度から受刑者に対する特別改善指導の一つとして「暴力団離脱指導」が行われ、警察と協力した離脱支援が実施されています。
また2013年度から受刑中の離脱支援の結果、仮釈放となった保護観察中の者について、暴力団関係者との交際等に係る警察から保護観察所への情報提供が実施されているほか、保護観察所において離脱を希望した者に対して各種就労支援制度の活用等を積極的に行っています

暴力団関係の支援は行っておりますが、選択肢④は専門的処遇プログラムには該当しないため、こちらを選択することが求められます。

以下では、他のプログラムの設定背景等について述べていきます。

『③性犯罪者処遇プログラム』

専門的処遇プログラムの中で最初に導入されたのは性犯罪者処遇プログラムです。
法務省は、2004年の奈良県の女児殺害事件を契機として、2005年に性犯罪者処遇プログラム研究会を設置しました。
性犯罪者処遇プログラム研究会は、欧米諸国における実証研究により効果が認められている認知行動療法を基礎としたプログラムが有効であるとし、また、実証的データに基づ
いた科学的検討によって、プログラムの効果と限界を明らかにすることが必要であると指摘しました。
性犯罪者処遇プログラムの導入は、更生保護法施行前の2006年からであり、受講は遵守事項で義務付けられました。
具体的な内容については、法務省矯正局から出ている「矯正施設における性犯罪者処遇プログラムの具体的内容」を参考にしましょう。
以上より、選択肢③は専門的処遇プログラムに該当するので除外できます。

『①暴力防止プログラム』

薬物乱用防止処遇プログラムと暴力防止プログラムは2008年の更生保護法施行に伴い開始されています
殺人・傷害致死等の事犯者で、以前にも暴力的犯罪の前歴等を有している者等は、この指導を受けることになります。

暴力防止プログラムでは、保護観察官が概ね2週間ごとに5回にわたり、保護観察対象者と面接し暴力行為に及んだときの行動を分析させて、暴力行為につながりやすい自己の思考傾向(例えば、常に相手が悪いと考えたり、相手に無理な要求を押し付けようとする傾向)を自覚させ、その思考傾向の変容を促すとともに、危機的な場面(例えば、交際相手の前で悪口を言われた場面)で暴力行為を回避する方法を考えさせてロールプレイング等で身に付けさせるなどの指導を行っています。
また、各回の面接の終了時には、自己の行動の観察(例えば、怒りを感じたときの気持ちを記録させるなど)やリラクゼーションの技術(深呼吸等によりリラックスする方法)の練習等の宿題も与えています。

以上より、選択肢①は専門的処遇プログラムに該当するので除外できます。

『⑤薬物乱用防止プログラム』

薬物乱用防止処遇プログラムと暴力防止プログラムは2008年の更生保護法施行に伴い開始されています
こちらのプログラムの具体的内容についてはこちらに載っていますので、ご参照ください。

以上より、選択肢⑤は専門的処遇プログラムに該当するので除外できます。

『②飲酒運転防止プログラム』

飲酒運転による悲惨な事故の発生等により、刑事罰や行政処分の強化がなされ、それに
伴い飲酒運転による事故件数等は減少傾向にあります。
しかし、飲酒運転による悲惨な事故はあとを絶たず、飲酒運転に対しては、社会的に厳しい目が向けられていました。

そうした中で、保護観察に対しても飲酒運転事犯者の処遇等の充実が求められてきました。
そこで、該当する保護観察対象者の処遇を充実するため、2009年度に飲酒運転防止プログラムの策定を開始し、2010年10月から全国の保護観察所において実施されるようになりました
こちらのプログラムの具体的内容についてはこちらに載っていますので、ご参照ください。

以上より、選択肢②は専門的処遇プログラムに該当するので除外できます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です