少年鑑別所で用いる、少年の再非行の可能性と教育上の必要性を把握する法務省式ケースアセスメントツールにおいて、意欲、態度、今後の教育等によって改善し得る要素として、誤っているものを1つ選ぶ問題です。
こちらのツールについては、法務省矯正局からいくつかの資料が出ています。
本解説は上記を基に作成しますが、その他ホームページ等でも詳しく情報が載っているので興味のある方は探してみてください。
あまりインターネットの情報を基に解説は書きたくないのですが、本問のような官公庁から出ている資料が出典となっている場合は仕方がないでしょう。
解説を書く上では楽ですけど。
解答のポイント
法務省式ケースアセスメントツールにおける「静的項目」と「動的項目」について理解していること。
法務省式ケースアセスメントツールとは
法務省矯正局では「再犯防止に向けた総合対策」の一環として、少年の再非行防止に資するための調査ツール「法務省式ケースアセスメントツール(MFCA)」を開発し、少年鑑別所において運用を開始しました。
本ツールは、心理学、犯罪学等の人間科学の知見を踏まえて、少年鑑別所に入所した少年の実証データに基づき、統計学的な分析を経て開発したものです。
少年の再非行の可能性等を把握するとともに、保護者との関係性の調整や社会適応力の向上など、何を目標として働き掛けをすれば再非行を防止できるのかを明らかにすることをその目的としています。
本ツールを用い、より精度の高い調査(鑑別)を実施することにより、少年院や保護観察所等における教育や処遇への支援を強化するほか、処遇効果の検証に活用することとしています。
このツールは、ソーシャルボンド理論(Hirschi,T.)および 低自己統制(Hirschi,T.&Gottfredson,M.)とも関連があるとされています。
ハーシによるソーシャルボンド理論では、人が犯罪をしないのは社会とのしっかりとした絆があるからであり、その絆が弱まったときや、壊れたときに逸脱した行動が起きると考えます。
この社会的絆についてハーシは、愛着(attachment)、投資(commitment)、巻き込み(involvement)、信念(belief)という4つの絆を提案しています。
これらのボンドが犯罪や非行の抑止要因となっており、いいかえれば、他者への愛情が感じられなかったり、積み重ねてきた投資が無為になったりすれば、ボンドの統制力が弱まって犯罪や非行が発生することになります。
また、低自己統制理論では、犯罪者や非行少年の特徴的な性格特性について論じています。
本ツールの調査項目は、少年の生育環境や過去の問題行動歴・非行歴等これまでの出来事等に関する項目(5領域24項目)と再非行を防止するための教育や処遇を行う必要性に関する項目(4領域28項目)の計52項目で構成されています。
少年の生育環境や過去の問題行動歴・非行歴等これまでの出来事等に関する項目は「静的項目」と呼ばれ、教育等によって変化しない領域とされています。
下位領域として生活環境、学校適応、問題行動歴、非行・保護歴、本件態様が挙げられ、具体的な項目は以下の通りです。
- 「家族に少年を虐待する者がいた」
- 「学校内で問題行動を頻発していた」
- 「小学校時に家出又は無断外泊があった」
- 「初回の警察補導の措置を受けた年齢が13歳未満である」
- 「本件は指導・監督を受けている期間中の再非行である」
これらの24項目から「静的項目」は構成されています。
これに対して、再非行を防止するための教育や処遇を行う必要性に関する項目は「動的項目」と呼ばれ、教育等によって変化し得る領域とされており、それ故に処遇のターゲットと言えます。
下位領域として保護者との関係性、社会適応力、自己統制力、逸脱親和性などが挙げられ、具体的な項目は以下の通りです。
- 「保護者は少年に対して高圧的である」
- 「学校又は職場内で必要とされる決まりを軽視している」
- 「学校生活又は就労生活に対する意欲が乏しい」
- 「欲求不満耐性が低い」
- 「犯罪性のある者に親和的である」
これらの28項目から「動的項目」は構成されています。
各項目の評定結果を数値化し、静的領域及び動的領域それぞれの下位領域ごとに、粗点とT得点(少年鑑別所入所者の中での当該少年の相対的な位置を示す値)をプロフィールとして表示します。
得点が高い場合には、再非行に関連する問題性が相対的に大きいことを示します。
評定結果は、少年鑑別所で得られた情報と総合して検討され、スコアによる概括的な理解と評定項目自体に立ち戻っての分析が行われます。
家庭裁判所調査官との事例検討での活用され、少年院・保護観察所に対する実効性ある処遇指針の提示に役立てられています。
選択肢の解説
『①本件態様』
本ツールにおいて本件態様は「静的項目」に該当し、教育等によって変化しない領域とされています。
具体的な項目としては「本件は指導・監督を受けている期間中の再非行である」「本件は同種事案の再非行である」などになります。
ちなみに同じく静的項目として、以下が挙げられています。
- 生活環境:
「家族に家庭内暴力をする者がいた」「本件時に家出や浮浪の状態にあった」「家族に少年を虐待する者がいた」 - 学校適応:
「学校内で問題行動を頻発していた」「学業不振があった」 - 問題行動歴:
「小学生時に家出又は無断外泊があった」「小学生時に喫煙又は飲酒があった」 - 非行・保護歴:
「初回の警察補導等の措置を受けた年齢が13歳以下である」「財産非行がある」
これらが変わりにくい領域とされています。
これらの静的項目は「過去に起こったこと」という意味で設定されているということです(コメント下さった方、ありがとうございます)。
過去に起こったことなので「事実」として変えようがなく、更に、そうした「事実」を有している人は再非行率が高いという統計的な根拠によって示されています。
上記の「変わりにくい」とは「変化しにくい」ということではなく、「事実として生じており、それがあることで再非行率等が高くなることは誰にでも当てはまる」という意味で捉えておくと良いでしょう。
生活環境は、本人へのアプローチに留まりやすい矯正教育を考えれば理解できます(保護者にアプローチしたとしても、挙げられている項目を見ればそう簡単に改善する類のものとも思えませんね)。
ただし、これに対して「保護者との関係性」は動的項目に挙げられていますね。
環境は変わりづらいけど、保護者が高圧的にならないようにする、本人が保護者に反発しないようにすることは可能ということですね。
学校適応については、学校というたいていは3年という枠組みがある中でのお話ですから、その短い間で大きな変化が見られ難いかもしれません。
ただし、動的項目に「社会適応力」があり学校に関する言及もあることから、学校生活全般が変わりづらいというわけではないようです。
また「学業不振」についても矯正教育で変化するとはなかなか言えないでしょうね。
問題行動歴や非行・保護歴が「矯正教育で変わりにくい」とはどういう意味か分かりかねます。
たぶん「こういう特徴がある人は、矯正教育をしても変化しにくいですよ」という意味だと思われます。
確かに問題行動歴や非行・保護歴の項目にあるように、非行や問題行動が低年齢から生じているのであれば、その矯正は非常に困難と言えるかもしれません。
以上より、選択肢①が誤りと判断でき、こちらを選択することが求められます。
『②逸脱親和性』
『③自己統制力』
『④社会適応力』
『⑤保護者との関係性』
これらの選択肢は「動的項目」に該当し、教育等によって変化し得る領域とされており、それ故に処遇のターゲットになります。
少年院での矯正教育や保護観察所の指導などを通じて改善が期待できるものであり、再非行防止に向けての働き掛けの目標となります。
以下のような項目で構成されています。
- 逸脱親和性:
「法律を軽視している」「犯罪性のある者に親和的である」「反社会的な価値観や態度に親和的である」 - 自己統制力:
「欲求不満耐性が低い」「感情統制が悪い」 - 社会適応力:
「学校又は職場内で必要とされる決まりを軽視している」「学校生活又は就労生活に対する意欲が乏しい」 - 保護者との関係性:
「保護者は少年に対して高圧的である」「保護者に反発している」
これらの領域は静的項目と異なり、「いま現在の要因」であり、これからの関わりによって左右される可能性があるものです。
静的項目という「過去に起こった事実」ではなく、「たとえ過去から引き継いでいる特徴でも、いま現在のものであり、これからの関わりによって変化し得る」ということですね。
以上より、選択肢②~選択肢⑤は正しいと判断できるので除外することが求められます。
お世話になります。
細かいところですが、
MFCA→MJCA( Ministry of Justice Case Assessment tool)。
今のところ、RNRモデル同様全く理解できていません。