公認心理師 2019-113

問113は更生保護に関する問題です。
更生保護とは、犯罪をした者および犯罪のおそれのある非行者を更生させるために、これらの者を保護する事業または制度(いわゆる社会内処遇)のことを指します。
少年犯罪関係で出てくる保護観察も更生保護の一種ですが、更生保護自体はもっと広い概念ですから間違えないようにしましょう。

問113 更生保護の業務及び制度として、誤っているものを1つ選べ。
①収容期間を満了して矯正施設を出所した人に対する緊急の保護制度
②心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人に対する医療観察制度
③社会内処遇を円滑にするための地域社会の理解や協力を求める犯罪予防活動
④施設内処遇を受けている人を収容期間満了前に社会内処遇を受けさせる仮釈放制度
⑤緊急通報への迅速な対応ができるように地域的に定められた範囲を巡回監視する活動

さて、こちらの問題に関しては私が答えを導き出した順を追って説明していきましょう。
まずは更生保護の業務を行っているだろう保護観察所の根拠法について考えました。
保護観察所は、法務省設置法及び更生保護法に基づいて設置されています。

法務省設置法第24条には保護観察所の業務について「保護観察所は、更生保護法第二十九条各号及び心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第十九条各号に掲げる事務をつかさどる」とありました。
これらの条項を追いながら検証していけば、各選択肢の解説になります。
それではいきましょう。

解答のポイント

主に更生保護法に規定されている更生保護の業務について把握していること。

選択肢の解説

①収容期間を満了して矯正施設を出所した人に対する緊急の保護制度

この選択肢の内容は更生緊急保護に関して問うたものになっていると思われます。
更生緊急保護制度については、更生保護法の第五章に規定が連なっております。

更生保護法第85条は以下の通りです。
「この節において「更生緊急保護」とは、次に掲げる者が、刑事上の手続又は保護処分による身体の拘束を解かれた後、親族からの援助を受けることができず、若しくは公共の衛生福祉に関する機関その他の機関から医療、宿泊、職業その他の保護を受けることができない場合又はこれらの援助若しくは保護のみによっては改善更生することができないと認められる場合に、緊急に、その者に対し、金品を給与し、又は貸与し、宿泊場所を供与し、宿泊場所への帰住、医療、療養、就職又は教養訓練を助け、職業を補導し、社会生活に適応させるために必要な生活指導を行い、生活環境の改善又は調整を図ること等により、その者が進んで法律を守る善良な社会の一員となることを援護し、その速やかな改善更生を保護することをいう」

そして上記の「次に掲げる者」とは以下の通りです。

  1. 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行を終わった者
  2. 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行の免除を得た者
  3. 懲役又は禁錮につき刑の全部の執行猶予の言渡しを受け、その裁判が確定するまでの者
  4. 前号に掲げる者のほか、懲役又は禁錮につき刑の全部の執行猶予の言渡しを受け、保護観察に付されなかった者
  5. 懲役又は禁錮につき刑の一部の執行猶予の言渡しを受け、その猶予の期間中保護観察に付されなかった者であって、その刑のうち執行が猶予されなかった部分の期間の執行を終わったもの
  6. 訴追を必要としないため公訴を提起しない処分を受けた者
  7. 罰金又は科料の言渡しを受けた者
  8. 労役場から出場し、又は仮出場を許された者
  9. 少年院から退院し、又は仮退院を許された者(保護観察に付されている者を除く)

選択肢①の内容は上記第1号の規定の者を指していると見なせますね。
以上より、選択肢①は正しいと判断でき、除外することが求められます。

②心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った人に対する医療観察制度

先述の通り、法務省設置法第24条には保護観察所の業務について「保護観察所は、更生保護法第二十九条各号及び心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第十九条各号に掲げる事務をつかさどる」とありました。
「これは医療観察法の区分だから、更生保護法の枠組みとは違うだろう」と考えてはいけませんよ。

更生保護法第19条各号は以下の通りです。

  1. 第三十八条(第五十三条、第五十八条及び第六十三条において準用する場合を含む。)に規定する生活環境の調査に関すること。
  2. 第百一条に規定する生活環境の調整に関すること。
  3. 第百六条に規定する精神保健観察の実施に関すること
  4. 第百八条に規定する関係機関相互間の連携の確保に関すること。
  5. その他この法律により保護観察所の所掌に属せしめられた事務

保護観察所は第106条に定められている精神保健観察を実施する機関として規定されていることがわかりますね。

医療観察法第106条には以下のように規定されております。
第四十二条第一項第二号又は第五十一条第一項第二号の決定を受けた者は、当該決定による入院によらない医療を行う期間中、精神保健観察に付する

上記の第42条の第1項第2号とは「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 入院によらない医療を受けさせる旨の決定」とあります。
また、第51条第1項第2号とは「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、この法律による医療を受けさせる必要があると認める場合 退院を許可するとともに入院によらない医療を受けさせる旨の決定」とされています。

つまり、通院決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、(原則として3年間)厚生労働省所管の指定通院医療機関による医療が提供されるほか、保護観察所による精神保健観察に付され、必要な医療と援助の確保が図られます
地域社会における処遇ということですね。
なお、これを担当するのが社会復帰調整官(医療観察法第20条に規定)です。

保護観察所は、指定通院医療機関や処遇に携わる精神保健福祉関係機関と「ケア会議」を開催するなどして、処遇を実施する上で必要となる情報を共有するとともに、地域社会における処遇(医療、精神保健観察、援助)の内容を「処遇の実施計画」として定めます。
対象者本人とその保護者も、基本的にケア会議に出席して意見や希望を述べることが可能です。

以上より、選択肢②は正しいと判断でき、除外することが求められます。

③社会内処遇を円滑にするための地域社会の理解や協力を求める犯罪予防活動

先述の通り、法務省設置法第24条には保護観察所の業務について「保護観察所は、更生保護法第二十九条各号及び心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第十九条各号に掲げる事務をつかさどる」とありました。

この第29条に掲げられている事務は以下の通りです。

  1. この法律及び売春防止法の定めるところにより、保護観察を実施すること。
  2. 犯罪の予防を図るため、世論を啓発し、社会環境の改善に努め、及び地域住民の活動を促進すること。
  3. 前二号に掲げるもののほか、この法律その他の法令によりその権限に属させられた事項を処理すること。

この第2号が本選択肢の内容を指していると思われます。
犯罪をした人や非行のある少年が社会の中で自立できるよう、彼らを取りまく地域の力をいかしながら、その再犯・再非行の防止と社会復帰の促進のための指導・援助を行うのが「社会内処遇」ですから、地域住民から理解や協力を得られるようにすることも重要ということですね

以上より、選択肢③は正しいと判断でき、除外することが求められます。

④施設内処遇を受けている人を収容期間満了前に社会内処遇を受けさせる仮釈放制度

先述の通り、法務省設置法第24条には保護観察所の業務について「保護観察所は、更生保護法第二十九条各号及び心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律第十九条各号に掲げる事務をつかさどる」とありました。

この第29条に掲げられている事務は以下の通りです。

  1. この法律及び売春防止法の定めるところにより、保護観察を実施すること
  2. 犯罪の予防を図るため、世論を啓発し、社会環境の改善に努め、及び地域住民の活動を促進すること。
  3. 前二号に掲げるもののほか、この法律その他の法令によりその権限に属させられた事項を処理すること。

この第1号の内容が(「この法律」の部分ですね)、本選択肢の内容を指していると考えられます
具体的には更生保護法で定められた仮釈放制度に関する内容ですね。

仮釈放に関しては更生保護法第33条以下に規定がなされております。
その最後の条項、第40条には「仮釈放を許された者は、仮釈放の期間中、保護観察に付する」とあります
そもそも仮釈放とは、刑務所などの矯正施設に収容されている人の中で一定の要件を満たした収容者を、収容期間満了前に仮に釈放する制度です。
仮釈放自体は刑法第28条に定められており、これによって更生の機会を与え、円滑な社会復帰を図るのが目的です。
釈放された後も刑期の満了までは保護観察対象として、受刑者は定期的に保護観察官や保護司と面接を行い、生活習慣を改善する義務を負います

以上より、選択肢④は正しいと判断でき、除外することが求められます。

⑤緊急通報への迅速な対応ができるように地域的に定められた範囲を巡回監視する活動

こちらの内容は警察官が行うものと考えられますね。
警察法第2条には「警察は、個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に当ることをもつてその責務とする」とあります
この条項を根拠として、いわゆる巡回連絡(日本の警察署の地域課の交番勤務の警察官が地域住民や事業所を訪問し犯罪の抑止、災害防止などの目的を持ち行う活動)が行われています
巡回連絡には、住民との良好な関係を保つため、受持区内の実態を掌握するためという目的もあります。
※選択肢には巡回監視と表現されていますが、この巡回連絡のことだろうと思われます。

主に交番勤務のお巡りさんがしている活動ですね。
地域警察官が、担当する地域の家庭、事業所などを訪問し、犯罪の予防、災害事故の防止など住民の安全で平穏な生活を確保するために必要な事項の指導・連絡や、住民からの意見・要望などの聴取を行います

職務質問などをこの中ですることもあるのでしょうね。
ただし、職務質問自体は警察官職務執行法第2条(警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる)を根拠法にするものです。

以上より、選択肢⑤は誤りと判断でき、こちらを選択することが求められます。

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