特別支援教育に関する問題です。
正解は選びやすい問題だったかなと思います。
問47 特別支援教育に関する内容として、適切なものを1つ選べ。
① 就学相談では、保護者の意見聴取をすることになっている。
② 就学相談の判定結果による就学先は、通常学級又は特別支援学級のいずれかである。
③ 特別支援教育を受けている児童生徒数の割合は、2021年までの10年間で減少し続けている。
④ 通級による指導は、多くの教科教育を通常の学級で受けながら、一部の授業を学校以外の外部関係機関で行うものである。
選択肢の解説
① 就学相談では、保護者の意見聴取をすることになっている。
② 就学相談の判定結果による就学先は、通常学級又は特別支援学級のいずれかである。
就学相談とは、主に小学校に就学する前年度に、発達の気になる子どもが、通常学級に在籍するのが適切なのか、通常学級に在籍して通級指導を受けるのが適切なのか、あるいは特別支援学級か、特別支援学校か、といったいくつかの選択肢の中から、子どもにとってどこに在籍することがもっとも力を伸ばすことのできる選択となるのかを相談、協議する機会となります。
子ども一人一人の教育的ニーズに応じた支援を保障するためには、乳幼児期を含め早期からの教育相談や就学相談を行うことにより、本人・保護者に十分な情報を提供するとともに、幼稚園等において、保護者を含め関係者が教育的ニーズと必要な支援について共通理解を深めることにより、保護者の障害受容につなげ、その後の円滑な支援にもつなげていくことが重要とされています。
就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当とされています。
このことからも「就学相談では、保護者の意見聴取をすることになっている」が適切であることがわかりますね。
冒頭でも述べている通り、就学相談の結果、さまざまな就学先があり得ます。
通常学級、通常学級に在籍しつつ通級による指導を受ける、特別支援学級(知的なのか、情緒なのか)、特別支援学校などです(だから選択肢②の「就学相談の判定結果による就学先は、通常学級又は特別支援学級のいずれかである」は間違い)。
ただし、就学時に決定した「学びの場」は固定したものではなく、それぞれの児童生徒の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら柔軟に転学ができることを、すべての関係者の共通理解とすることが重要です。
ですから、就学相談の初期の段階で、就学先決定についての手続の流れや就学先決定後も柔軟に転学できることなどについて、本人・保護者にあらかじめ説明を行うことになります。
こうした就学先を決めるのが教育委員会内に設置される「就学指導委員会」になりますが、この名称について、早期からの教育相談・支援や就学先決定時のみならず、その後の一貫した支援についても助言を行うという観点から「教育支援委員会」といった名称とすることが適当とされ、以下のように機能を拡充し、一貫した支援を目指す上で重要な役割を果たすことが期待されています。
- 障害のある子どもの状態を早期から把握する観点から、教育相談との連携により、障害のある子どもの情報を継続的に把握すること。
- 就学移行期においては、教育委員会と連携し、本人・保護者に対する情報提供を行うこと。
- 教育的ニーズと必要な支援について整理し、個別の教育支援計画の作成について助言を行うこと。
- 市町村教育委員会による就学先決定に際し、事前に総合的な判断のための助言を行うこと。
- 就学先の学校に対して適切な情報提供を行うこと。
- 就学後についても、必要に応じ「学びの場」の変更等について助言を行うこと。
- 「合理的配慮」の提供の妥当性についての評価や、「合理的配慮」に関し、本人・保護者、設置者・学校の意見が一致しない場合の調整について助言を行うこと。
こうしたことを行いつつ、本人の特性に応じた就学先を合意していくことになるわけです。
ご存じの方も多いでしょうが、実際には子どもの状態像を親が正しく把握している場合ばかりではなく(こども園が伝えていない、家と園では状態像が違うなどさまざまな理由によるもので、単に親の無理解に限定しない)、なかなか本人に合う就学先にならない場合も少なくありません。
そういった場合でも、入学後に示される本人の状態像を伝えつつ、必要であれば、親の障害受容などのケアを行いつつ、本人が適切な教育を受けられるようアプローチしていくことになります。
以上より、選択肢②は不適切と判断でき、選択肢①が適切と判断できます。
③ 特別支援教育を受けている児童生徒数の割合は、2021年までの10年間で減少し続けている。
こちらについては文部科学省が出している「特別支援教育の充実について」という資料に記載があります。
この資料の中の「特別支援学校等の児童生徒の増加の状況(H24→R4)」を見ていくと、直近10年間で義務教育段階の児童生徒数は1割減少する一方で、特別支援教育を受ける児童生徒数は倍増しています。
特に、特別支援学級の在籍者数(2.1倍)、通級による指導の利用者数(2.3倍)の増加が顕著です。
平成24年度時点の「義務教育段階の全児童生徒数」は1040万人、「特別支援教育を受ける児童生徒数」は30.2万人であり、割合としては2.9%でした。
それが令和4年度時点になると「義務教育段階の全児童生徒数」は952万人(0.9倍)、「特別支援教育を受ける児童生徒数」は59.9%万人(2.0倍)であり、割合としては6.3%とかなり上昇していることがわかりますね。
このうち、特別支援学校(視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱・身体虚弱)は6.6万人(平成24年:全体の0.6%)だったのが、8.2万人(令和4年:全体の0.9%)になっており、1.2倍となっています。
これが小中学校の特別支援学級(上記の障害種に情緒障害が加わる)になると、16.6万人(平成24年:全体の1.6%)だったのが、35.5万人(令和4年:全体の3.7%)と2.1倍という大幅な上昇になっています。
同じく小中学校の通級による指導では、7.2万人(平成24年:全体の0.7%)だったのが、16.3万人(令和4年:全体の1.7%)と2.3倍というこちらも大幅な上昇になっています。
こうした状況をどのように捉えるかは、かなり個人差があると思います。
昔からよくされている説明が「発達障害という概念が出てきて、これまで見過ごされてきた子どもたちをキャッチできるようになった」というものです。
この説明は、確かに発達障害という概念が世に広まった段階では説得力のあるものでしたが、いま現在でも同じように通用するかは不明です。
「子どもの数は減り続けているのに、発達障害の数は増え続けている」
この事実にどのようなロジックを付けるか、これは支援者としてのスタンスが現れるところでしょうね。
個人的には、家庭内や学校での関わりを工夫すれば発達障害として扱われずに済んだであろう事例をたくさん見てきています。
また、子どもの我を「個性」と見なしてしまい、受け容れすぎているという事例も多く見ています。
同じような命題として「子どもの数は減り続けているのに、不登校は増え続けている」というのもあります。
個人的には単なる制度論では納まりきらない命題であると思っていて、ここにどのようなロジックを展開するか、こちらも支援者としてのスタンスが問われそうです。
話を戻すと、本選択肢の「特別支援教育を受けている児童生徒数の割合は、2021年までの10年間で減少し続けている」というのは事実と異なる内容であることがわかりますね。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
④ 通級による指導は、多くの教科教育を通常の学級で受けながら、一部の授業を学校以外の外部関係機関で行うものである。
「通級による指導」の制度上の位置づけとして、学校教育法第81条第1項においては、幼・小・中・高等学校において障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うことを定めており、すべての学校において特別支援教育が実施されることとされています。
その上で、通級による指導は、学校教育法施行規則第140条及び第141条に基づき行われています。
第140条 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校又は中等教育学校において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第50条第1項(第79条の6第1項において準用する場合を含む)、第51条、第52条(第79条の6第1項において準用する場合を含む)、第52条の3、第72条(第79条の6第2項及び第108 条第1項において準用する場合を含む)、第73条、第74 条(第79条の6 第2項及び第108 条第1 項において準用する場合を含む)、第74条の3、第76条、第79条の5(第79条の12において準用する場合を含む)、第83条及び第84条(第108条第2項において準用する場合を含む)並びに第107条(第117条において準用する場合を含む)の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる。
一 言語障害者
二 自閉症者
三 情緒障害者
四 弱視者
五 難聴者
六 学習障害者
七 注意欠陥多動性障害者
八 その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの
上記の通り、通級による指導は、障害に応じた特別の指導を通常の教育課程に加え、又はその一部に替えて行うものであり、通級による指導を受ける児童生徒については、特別の教育課程を編成する必要があります。
上記の140条で「…の規定にかかわらず」とされている学校教育法施行規則の各条文には、小・中・高等学校の教育課程を編成する教科等や授業時数、教育課程の基準が各学習指導要領に基づくことが定められています。
通級による指導のために特別の教育課程を編成するには、これらの規定の適用を外しておく必要があることから、このように規定されているわけです。
また、第八号で定められている「その他」に該当する障害は、肢体不自由、病弱及び身体虚弱であることが、「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について」(平成25 年10月4日付け25文科初第756号初等中等教育局長通知)において明らかにされています。
なお、知的障害者については、知的障害者に対する学習上又は生活上の困難の改善・克服に必要な指導は、生活に結びつく実際的・具体的な内容を継続して指導することが必要であることから、一定の時間のみ取り出して行うことにはなじまないことを踏まえ、現在、通級による指導の対象とはなっていません。
上記を踏まえれば、本選択肢の「通級による指導は、多くの教科教育を通常の学級で受けながら」までは適切な内容であることがわかると思います。
ただ、その後の「一部の授業を学校以外の外部関係機関で行うものである」が適切な内容になっていません。
文部科学省は担当する教師について「通級による指導の担当教師は、当該学校の教員免許状を有する者である必要があり、加えて、特別支援教育に関する知識を有し、障害による学習上又は生活上の困難を改善し、又は克服することを目的とする指導に専門性や経験を有する教師であることが必要ですが、特定の教科の免許状を保有している必要はありません。ただし、各教科の内容を取り扱いながら障害に応じた特別の指導を行う場合には、当該教科の免許状を有する教師も参画して、個別の指導計画の作成や指導を行うことが望ましいです」としています。
つまり、通級による指導は、基本的にその児童生徒が所属する学校で行われるものであり、その児童生徒の発達特性上課題とされる一部の授業の時間に教室を抜け、別教室で実施される「通級による指導」に参加するというイメージです。
ただ、まだ通級による指導がどこまで定着・浸透しているかは地域差があります。
例えば、自校で通級による指導が行われていない場合、それが行われている近隣の学校にまで子どもが出向くというパターンも以前は見られました(これは通級による指導が浸透して、ずいぶん改善されたのではないかと思います。その都度、親が送迎をするというのはやはり現実的ではないですからね)。
他にも、教師が本務となる学校以外の学校において通級による指導を行う場合(いわゆる巡回による指導を行う場合)はあり得ますから、その場合は連携を取り、どういった点に課題があるかをきちんと共有しておくなどの課題がありますね。
いずれにせよ、通級による指導では「一部の授業を学校以外の外部関係機関で行うもの」ではないことがわかると思います。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。