公認心理師 2024-154

限局性学習障害のある児童への支援に関する問題です。

状態像を踏まえ、どういった支援があることで公平な教育機会を提示できるかを考えていきましょう。

問154 9歳の女児A、小学3年生。Aは、限局性学習症/限局性学習障害と診断され、通級による指導を受けている。通常の学級におけるAの授業中の読み書きの困難さとして、「黒板の字を写すのに時間がかかる」、「教科書を読んでも字や行をとばして読んでしまう」、「語や文章を不自然に区切って読むことがある」、「どこを読んでいるかを追いかけることが難しくなる」、「文字が枠からはみ出す」、「形態的に似ている文字の誤りが多い」などがある。手先の不器用さは目立たないが、書くことを避ける傾向にある。
 教室において、Aが授業に参加できるようにする読み書きの支援として、適切なものを2つ選べ。
① 利き手を確立するように働きかける。
② メモを用いて発表する練習をさせる。
③ 単語や文のまとまりごとに、スラッシュを入れる。
④ 教室の掲示物を整理して、視覚的に余計な刺激をなくす。
⑤ 黒板に書く文章と同じものをプリントにし、手元に置いて写し書きをさせる。

選択肢の解説

① 利き手を確立するように働きかける。
② メモを用いて発表する練習をさせる。
③ 単語や文のまとまりごとに、スラッシュを入れる。
④ 教室の掲示物を整理して、視覚的に余計な刺激をなくす。
⑤ 黒板に書く文章と同じものをプリントにし、手元に置いて写し書きをさせる。

本事例の読み書きの困難さとしては、以下のような事柄が挙げられています。

  1. 黒板の字を写すのに時間がかかる
  2. 教科書を読んでも字や行をとばして読んでしまう
  3. 語や文章を不自然に区切って読むことがある
  4. どこを読んでいるかを追いかけることが難しくなる
  5. 文字が枠からはみ出す
  6. 形態的に似ている文字の誤りが多い

事例の状況を踏まえると、こうした困難さは限局性学習障害に起因するものであり、重要なのは「障害を踏まえた支援を入れることで、限局性学習障害のない他の児童と同じような学習機会を得ることができる」ことです。

読むことの課題としては上記の2、3、4が該当し、書くことの課題としては上記の1、5が該当し、読み書き両方の課題となるのは6ですね。

こうした特徴やアプローチの前提を踏まえた上で、各選択肢を見ていきましょう。

まず選択肢①に「利き手を確立するように働きかける」とありますが、一般にだいたい4~5歳くらいに利き手が決まってきます。

更に、本事例では利き手が確立していないことを示唆する情報はありませんし、上記の読み書きの困難さと「利き手の曖昧さ」は無関係であると見なすのが自然です。

続いて、選択肢④の「教室の掲示物を整理して、視覚的に余計な刺激をなくす」ですが、これは視覚的刺激が多すぎて目が散って不注意になってしまう場合に取られることが多い対応になりますね。

不注意になりやすい場合、後ろの席よりも前の席にした方が集中できることがあるのは、目に入る刺激が前の席の方が少ないからですが、それと同じ理屈として「教室の掲示物を整理して、視覚的に余計な刺激をなくす」というのが有効な場合はあります。

しかし、本事例の問題では、そうした不注意の特徴が明示されているわけではありませんから、この対応は優先的に実施されるものではありませんね。

そして、選択肢②の「メモを用いて発表する練習をさせる」ですが、本事例の読みの問題(教科書を読んでも字や行をとばして読んでしまう・語や文章を不自然に区切って読むことがある・どこを読んでいるかを追いかけることが難しくなる)は学習障害で生じていると考えられ、これは「メモを用いて発表する練習」をすることで改善するようなものではありませんね。

単に練習を積んで改善するものではないということは、例えば「読字障害 見え方」などで検索してもらえれば、どのように字が見えているか画像で見ることができます。

発達障害は神経発達症とDSM-5では称されており、これは生まれつきの脳の働きに偏りがあるために、物事の捉え方や行動パターンなどに違いが生じ、日常生活に困難が生じている状態であることを示しています。

即ち、単に練習を積んで(少なくとも今すぐ)何とかなる問題ではないというのは明らかな話なわけですね。

というわけで、ここで挙げられている選択肢①、選択肢②および選択肢④は不適切と判断できます。

選択肢③の「単語や文のまとまりごとに、スラッシュを入れる」という対応ですが、これは教科書を読んでも字や行をとばして読んでしまう・語や文章を不自然に区切って読むことがある・どこを読んでいるかを追いかけることが難しくなるといった問題を示している本事例において効果的な可能性が高い対応であると言えます。

ただ「読む」と言っても、その実、文字の形を判別する・1行分の文字を目で追い続ける・目にした文字を音に変換する・文章を適度なまとまりで区切って読む・その意味を理解する、などのように多くの作業が内包されています。

文章にスラッシュを入れることで、どこまで読んでいいのか分かりやすくなり、読みやすくなりますし、まだ読まない文章は下敷きなどで隠して要らない情報を遮断する等の対応も効果的な場合が多いですね。

慣れてきたらスラッシュを入れるなどの支援を減らしつつ、興味を持っている分野の本を利用するなどして楽しく音読できる環境を整えることが重要になります。

また、選択肢⑤の「黒板に書く文章と同じものをプリントにし、手元に置いて写し書きをさせる」についても効果的な対応であると考えられます。

事例は「手先の不器用さは目立たないが、書くことを避ける傾向にある」とありますので、黒板の字を写すのに時間がかかる・文字が枠からはみ出すといった問題は手先の不器用さからくるものではないことがわかります。

こうした問題が生じる理由として、例えば、視覚情報処理(文字のパーツの位置関係や大きさを認識したり、パーツから形を構成したりする働き)の不全であったり、ワーキングメモリの問題によって一時貯蔵しておける記憶量が少ないといった問題が存在する可能性があります。

これらの対応として「黒板に書く文章と同じものをプリントにし、手元に置いて写し書きをさせる」というのは合理的なものであり、目の前のプリントを見た方が視覚情報処理がしやすいですし、黒板‐ノートの往復よりも手元のプリント‐ノートの往復の方が見る→書くが速やかにできるので書く作業がやりやすくなることが期待できます。

以上より、選択肢③および選択肢⑤が適切と判断できます。

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