公認心理師 2024-131

オペラント条件づけの理論を応用したプログラム学習の要件に関する問題です。

プログラム学習については過去問でも出題されていますね。

問131 オペラント条件づけの理論を応用したプログラム学習の要件として、適切なものを2つ選べ。
① 学習者のペースで進めることができる。
② これから学ぶ内容に関連した情報が事前に与えられている。
③ 課題は系列化・細分化され、難易度順に配置されて提示される。
④ 正誤のフィードバックは、課題を回答した後にしばらく時間を置いて提示される。
⑤ 科学的な法則や原理について、学習者自身が探求することを通じて推論をしていく。

選択肢の解説

① 学習者のペースで進めることができる。
③ 課題は系列化・細分化され、難易度順に配置されて提示される。
④ 正誤のフィードバックは、課題を回答した後にしばらく時間を置いて提示される。

プログラム学習は、スキナーの理論提起が主たる契機となって構築されたものです。

プログラム学習におけるプログラムとは「学習目標を書く学習者に達成させるために学習内容を具体化し目標行動として、あらかじめ系列化した意図に従って確実に学習させる整理・体系化した内容」を指します。

すなわち、学習内容が強化の論理に従って細かく順序よく整理され(=スモールステップの原理)、ステップごとに学習者の反応が喚起されるよう(=積極的反応の原理)に進行しながら、各ステップの学習の確認(=フィードバックの原理)がなされ得るようになっていることです。

また、プログラムによる学習の進度は各学習者の個別(=自己ペースの原理)に応じてなされます。

更に、意図的に作成され学習者に供するプログラムは常時学習者の学習結果により修正(=学習者検証の原理)されることが特徴です。

つまりプログラム学習は以下のようにまとめられます。

  1. スモールステップの原理:最終目的に至るまでの下位目標を難易度の順に配列し、スモールステップを重ねることで最終目的に到達できるようにする。
  2. 積極的反応の原理:回答を書くなどのように積極艇に行動で反応させる。反応には強化(正誤に基づくフィードバック)が与えられる。
  3. フィードバックの原理:正誤に基づくフィードバックは回答の直後に即時的に与えられる。
  4. 自己ペースの原理:個人差に応じて、学習者のペースで進められる。「オペラント=自発」であることからも、これが前提であると言える。
  5. フェイディングの原理:はじめは正答が出やすいようにヒントなどの援助を多く与えるが、次第に援助を減らし、自己の力で行うようにさせる。
    (なお、これらの原理について一つ、以下を掲げる研究者もいます)
  6. 学習者検証の原理:教師により作成された上述のプログラムの妥当性を、学習者の理解や発達度との一致度により検証する。

こうしたプログラム学習の長所は、①学習者の能力や学習態度に対応して、学習を最適化できる、②教師の学習指導方法における個人差の影響を小さくできる、③自分で誤答を訂正することができ、不安の高い学習者も安心できる、などが挙げられます。

これに対して、プログラム学習の短所は、①プログラム学習そのものを適用できる教科が、確実に正解が出せる科目に限られる、②学習者の自由な発想や積極的な学習活動を育成しづらい、③課題が単調になり、学習者が飽きてしまうことがある、などが挙げられます。

上記を踏まえ、ここで挙げた選択肢を見ていくと、選択肢①の「学習者のペースで進めることができる」は自己ペースの原理であり、選択肢③の「課題は系列化・細分化され、難易度順に配置されて提示される」はスモールステップの原理であることがわかりますね。

また、選択肢④の「正誤のフィードバックは、課題を回答した後にしばらく時間を置いて提示される」については、フィードバックの原理(正誤に基づくフィードバックは回答の直後に即時的に与えられる)に反していますね。

反応と刺激の時間的近接性は、それらの結びつきを強めますから「直後に即時的に」フィードバックされることが重要なのは基本的事項と言えるでしょう。

以上より、選択肢④は不適切と判断でき、選択肢①および選択肢③が適切と判断できます。

② これから学ぶ内容に関連した情報が事前に与えられている。

Brunerは1960年に、学習者が原理原則を「発見学習」(学習者自らが試行錯誤して学ぶこと)できるように授業を組み立てる方法を提唱しました。

発見学習とは、学問の本質となる「構造」を、学習者が自ら「発見」し、仮説を立てて事実を検証するなかで、学習の方法や学習する力を伸ばしていく考え方のことをいいます。

Ausubelはこれを、教師が知識内容を提示し学習者が「受容学習」(教員が学習者に一斉授業を行うタイプの学習のこと)を行う伝統的な教育方法と対峙するものとして位置づけました。

オーズベルは、現代では習得すべき学習内容が膨大であることから、すべてを発見学習で学ぶことは非現実的であるとして、受容学習の重要性を強調しました。

また、学習には有意味学習と機械的学習があります。

機械的学習は、意味を考えずに丸暗記する方法であり、こちらは記銘や想起が困難なうえ、確実に行うためにはリハーサルを大量に行う必要があります。

これに対し、有意味学習は「学習者がすでにもっている知識に学習材料をうまく関連づけることによって新しい概念を獲得しようとする学習」であり、記銘・再生や再認のどの段階も機械的学習よりも容易であり、保持期間も機械的記憶よりも長いという特徴があります。

有意味学習では、学習内容が認知構造に関連付けられて処理されているため、新たに学習すべき量が少ない、学習所要時間や記憶負担も少なく、意味的学習想起が生じやすい、問題解決場面に役立ちやすい、などの特徴を持つとされており、教科書をいかに有意味化するかが重要であるとされています。

こうした「発見学習 対 受容学習」「有意味 対 機械的」の4通りを組み合わせると「機械的受容学習」「機械的発見学習」「有意味受容学習」「有意味発見学習(いわゆる発見学習)」の四つの学習型に分類され、オーズベルが提唱したのは「有意味受容学習」です。

有意味受容学習とは、有意味学習の「学習者がすでにもっている知識に学習材料をうまく関連づけることによって新しい概念を獲得しようとする学習」と、受容学習の「指導者によって提示される学習内容に基づいて進められる学習」を組み合わせたものです。

ですから、学習者が新しい概念や情報に接したとき、それを自分自身の既有の認知構造に組み入れて解釈しようとする性向を有しており、提示される学習材料が学習者の知的能力や知識に応じた適切なもの(潜在的に有意味)であれば、学習者は自らの力でその意味を理解し、それを利用可能な知識として獲得することができるわけです。

この有意味受容学習を助けるものとして先行オーガナイザーがあります。

新たに学習する内容に関連する抽象的・概念的な枠組みを先に呈示しておくと、新たな内容を理解しやすくなることが分かっており、先行オーガナイザーとは、学習前にあらかじめ呈示する枠組みのことを言います。

要するに、ポンと提示された最終形の学習内容と学習者の認知構造との間にはギャップがあるので、このギャップを埋めて学習内容を学習者の認知構造に適切に結び付けるのを支援するものが先行オーガナイザーということになります。

記憶内の既有知識が明確かつ適切に構造化され、しかも安定していれば、新しい学習内容は正確な意味づけがなされて構造化され、既有の意味ネットワークにうまく移植されることになりますが、既有知識の構造が曖昧で混沌とした状態で不安定な場合は、新しい情報の受容学習は妨害されて、定着は成功しないとオーズベルは考えました。

学校で授業を受ける前に、学習者個人が予習をすると効果的であることが知られていますね。

これは、予習が主体的な学習姿勢を形成すると同時に、予習内容が先行オーガナイザーの働きを持つためと考えられています。

選択肢②の「これから学ぶ内容に関連した情報が事前に与えられている」というのは、この先行オーガナイザーのことを指していると考えられ、これは有意味受容学習のことを指していると見なすことができます。

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

⑤ 科学的な法則や原理について、学習者自身が探求することを通じて推論をしていく。

こちらの「学習者自身が探求することを通じて推論をしていく」については、アクティブラーニングの内容に近いと感じます。

アクティブラーニングとは、これまで多かった教員の一方的な講義形式の授業ではなく、生徒が能動的に考え、学習する教育法のことを指し、具体的にはグループディスカッション、ディベート、グループワークなどを通して認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験などの育成を図ります。

ただ、本選択肢では「科学的な法則や原理について」という制約がありますね。

これは探究学習(生徒自らが課題を設定し、解決に向けて情報を収集・整理・分析したり、周囲の人と意見交換・協働したりしながら進めていく学習活動のこと)における理科授業の内容に近い印象があります。

これは、学校においては「総合的な学習(探究)の時間」として、変化の激しい社会に対応して、探究的な見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、よりよく課題を解決し、自己の生き方を考えていくための資質・能力を育成することを目標に設定されているものです。

探究学習は、小学校と中学校では「総合的な学習の時間」、高等学校では「総合的な探究の時間」を通じて学びます。

また、高等学校では、「古典探究」や「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」「理数探究基礎」「理数探究」などの探究学習の科目があります。

このうち「理数探究」に近い印象を受けますね。

いずれにせよ、この内容はプログラム学習のものではないことがわかりますね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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