教職員のバーンアウト予防に関する問題です。
常識で考えれば解けるだろうという問題でしたね。
問51 教職員のバーンアウトを予防するために教職員自身や学校が行うべき有効な方策や環境整備として、不適切なものを1つ選べ。
① 教職員の援助要請を促進する。
② 業務処理が速い教職員のペースに従わせる。
③ 業務時間・量が過重負担にならないようにする。
④ 休息や気分転換などストレス発散のセルフケアを行いやすくする。
解答のポイント
メンタルヘルスを保つ環境を理解している。
選択肢の解説
① 教職員の援助要請を促進する。
② 業務処理が速い教職員のペースに従わせる。
③ 業務時間・量が過重負担にならないようにする。
④ 休息や気分転換などストレス発散のセルフケアを行いやすくする。
本問については、平成23年1月25日付け初等中等教育企画課長通知「平成21年度教育職員に係る懲戒処分等の状況、服務規律の確保及び教育職員のメンタルヘルスの保持等について」を見ていきましょう。
上記の通知のメンタルヘルスに関する箇所を抜き出すと以下の通りです。
- 校務の効率化等の推進:
各学校の管理職は、学校における会議や行事の見直し等による校務の簡素化を図るとともに、文書やデータの共有化等を進めることによって業務を効率的に遂行するなど、一部の教育職員に過重な負担がかからないよう適正な校務分掌を整えること。
各教育委員会においても、学校における教育職員の事務について適宜見直しを図り、その効率化と軽減に努めること。その際、平成20年3月31日付け19文科初第1413号により通知しているとおり、各学校への調査・照会や調査研究(モデル校)事業に関する事務負担の軽減について具体的な計画を立て、着実に実施すること。
なお、各教育委員会においては、下記の文部科学省ホームページに掲載している教育職員の勤務負担軽減に関する特色ある教育委員会の取組事例も参照しつつ、校務の効率化等の推進を図ること。 - 気軽に相談できる職場環境づくり等:
職場内の人間関係の希薄化が指摘されており、日頃から、教育職員が気軽に周囲に相談したり、情報交換したりすることができる職場環境を作るよう、特段の配慮を行うこと。特に各学校の管理職は、心の健康の重要性を十分認識し、自ら親身になって教育職員の相談を受けるほか、配慮が必要な教育職員を把握した場合には、例えば、中心となって相談を受ける職員を指名するなど具体的な対応を行うこと。
また、精神疾患による休職者のうち、約半数が所属校勤務 2年未満で休職発令されていることを踏まえ、人事異動等により職場環境に変化があった教育職員には十分配慮すること。 - メンタルヘルス不調の早期発見、早期治療:
各学校の管理職は、メンタル面での不調が見られる教育職員の早期発見・早期治療に努めること。例えば、教育委員会がメンタルヘルスに関するチェックシートを作成し、教職員がこれを活用してメンタルヘルスの状況を把握し、希望者には面談を実施することや、各学校の管理職がメンタル面での不調が疑われる教育職員に気付いた場合、必要に応じて教育委員会と連携しながら早めに医療機関への受診を促すなど、適切な対応をとること。 - 復職支援体制の整備・充実:
教育委員会においては、病気休職者が円滑に職場復帰できるよう、復職支援体制の整備、充実に努めること。また、各学校の管理職においては、当該教育職員への理解と協力が得られるような環境を整備するとともに、体調等を考慮の上、適切に復職支援プログラムを実施するなど、復帰後しばらくの間は経過を観察し、適切な配慮や支援を行うこと。 - メンタルヘルスに関する意識啓発や相談体制の充実:
教育委員会において、メンタルヘルスに関する意識啓発や、教育職員が気軽に相談できる相談窓口を設置し、その周知を図るなどの取組を推進するとともに、積極的な学校訪問等を行い、学校の様子や各教育職員の状況を的確に把握するよう努めること。併せて、各学校の管理職に対してメンタルヘルスに対処するための適切な研修を実施するよう努めること。
また、労働安全衛生法においては、全ての事業場において、事業者は、労働者の週40時間を超える労働が1月当たり100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申出を受けて、医師による面接指導を行わなければならないこととされています。各都道府県・市町村教育委員会におかれては、全ての学校において、面接指導を実施できる体制を整備するようお願いします。
本問と上記の内容が必ずしも合致するわけではありませんが、それとは無関係に「教職員の援助要請を促進する」「業務時間・量が過重負担にならないようにする」「休息や気分転換などストレス発散のセルフケアを行いやすくする」ということが適切なバーンアウト予防になることはわかると思います。
学校ではどうしても児童生徒の問題が第一に考えられ、そこで働く教職員の職場環境としての整備は二の次になりがちです。
たとえば、「体調が悪いけれどテスト前で授業を自習にするわけにはいかない」というとき、授業だけはなんとか行い、それ以外の時間は体を休めたいと思っても、落ち着いて休める場所がなかったり、また他の教職員に迷惑をかけてしまうと気遣かったりと、休みにくい状況にあると思います。
その結果、少々(というよりもかなり)体調が悪くても無理をしてフルに働き、その結果、体調は悪化し、疲労はたまっていくということになりがちです。
「教職員の援助要請を促進する」「業務時間・量が過重負担にならないようにする」「休息や気分転換などストレス発散のセルフケアを行いやすくする」ということが達成されている環境がメンタルヘルス上好ましいことは言うまでもありませんね。
こちらのサイトによると、バーンアウトは「情緒的消耗感」、「個人的達成感の後退」、「脱人格化」という3つの要素から成り立ちます。
「情緒的消耗感」とは、気持ちが疲れ果て、もう働くことができないと消耗してしまった状態を指し、仕事による心地よい疲れや疲労感とは異なり、気持ちがすり減り、疲れ果てた状態で、情緒的消耗感はバーンアウトの中心であり核となる次元といわれています。
「個人的達成感の後退」とは、仕事を通して得られる達成感や充実感が減少することを指し、「どれだけ仕事を頑張っても報われない」、「批判ばかり受ける」、「善意でやったことが悪く評価される」と感じられる状況下では、やる気も停滞し、児童生徒や保護者への対応に気持ちが入らなくなってしまうわけです。
3つめの「脱人格化」とは、対人援助職である教職員が児童生徒や保護者等と距離を置くようになることを表しており、職場内での対人関係が嫌になり、児童生徒や保護者だけでなく、同僚や上司との関係を避けたり、逆に怒りをあらわに攻撃的な態度になったりということが見られます。
こうした状態を避けるための環境として、本問の「教職員の援助要請を促進する」「業務時間・量が過重負担にならないようにする」「休息や気分転換などストレス発散のセルフケアを行いやすくする」が重要になってくるわけですね。
さて、これらに対して「業務処理が速い教職員のペースに従わせる」ということがあまりよろしくないのは感覚的にわかると思います。
ですが、重要なのは「これがなぜ良くないのか」をきちんと説明できることですから、その辺をしていきましょう。
中井久夫先生の「精神科治療の覚書」は名著中の名著ですが(旧版よりも新版の方が圧倒的に読み易い。書体の違いは大きいですね)、この中に「治療のテンポと律速過程」という章が設けられております。
この章の中で第一次世界大戦、第二次世界大戦において連合国の船が船団を組んで艦艇の護衛を受けた際、護送船団組織の第一原則は「いちばん遅い船の速力に合わせること」であったことが述べられています。
18ノットを出す当時の高速船があっても、8ノットしか出せない老朽貨物船が1隻でも混ざっていれば、船団全体の速力は8ノットになるわけです。
中井先生は「これは単純な論理だが、鉄則といわれるほど動かしがたい。仮に、揺るがせばたちまち船団のまとまりは失われる」としています。
一般に、いくつかの過程から成る複合過程があるときに、この複合過程の進行速度は一番遅い素過程によって決まるものであり、この素過程は、複合過程の「律速過程」と呼ばれます。
治癒に向かう過程が「複合過程」であることは言うまでもありませんが、中井先生は、治療者は治療にあたる際に目下の「律速過程」が何であるかを考え、それを念頭に置く必要があると述べています。
中井先生は、この船団の例を治療の過程と関連させながら述べていますが、私はこの船団の鉄則は組織論にも援用可能であると考えています。
もちろん、学校組織のすべての業務を「業務処理が遅い教職員」に合わせていけば、学校組織自体が成り立たないということもあり得るので、あらゆる状況下でも当てはまるとは言いませんが、少なくとも選択肢②にある「業務処理が速い教職員のペースに従わせる」のではより一層組織が成り立たないのは想像に難くありませんね。
それぞれの組織成員が個々にできることは行えばよいのですが、常に「業務処理が速い教職員のペースに従わせる」という対応を取っていれば、それについていけない教職員のメンタルヘルスが悪化するのは言うまでもないことでしょう。
以上より、選択肢①、選択肢③および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。
また、選択肢②が教職員のバーンアウトを予防するために教職員自身や学校が行うべき有効な方策や環境整備として不適切と判断でき、こちらを選択することになります。