学校におけるスクールカウンセラーの業務に関する問題です。
「公認心理師の行動」とはなっていますがあまり関係はなく、組織の中での自身の職責の範囲を知っておけば解ける内容になっています。
問48 学校でスクールカウンセラーとして業務に当たる公認心理師の行動として、最も適切なものを1つ選べ。
① 緘黙のある児童への対応について、担任教師にコンサルテーションを行った。
② チーム学校の運営体制として、スクールカウンセラーが管理責任者となる体制を提案した。
③ 児童生徒理解・支援シートの作成への協力を依頼されたが、担任教師による作成を提案し、関与を控えた。
④ アウトリーチで訪問した児童宅で父親から児童が暴力を受ける場面を目撃したが、児童から強く口止めされたため、児童相談所への通告を控えた。
解答のポイント
スクールカウンセラーの職責の範囲を理解している。
選択肢の解説
① 緘黙のある児童への対応について、担任教師にコンサルテーションを行った。
こちらはスクールカウンセラーの業務に関する理解が問われています。
文部科学省のこちらのページにスクールカウンセラーの業務がまとめられていますから、こちらから抜粋して述べていきましょう。
- 面接相談:カウンセリング
・生徒のカウンセリング
・保護者のカウンセリング
・教職員のカウンセリング - 面接相談:コンサルテーション
- 協議:カンファレンス
- 研修・講和
こちらが文部科学省が定めているスクールカウンセラーの業務であり、本選択肢の内容は上記の2に該当するものです。
コンサルテーションに該当する箇所を抜き出しておきましょう。
コンサルテーションは、あるケースについて、その見方、取り扱い方、かかわり方、などを検討し、適格なコメント、アドバイスなどを行う。
カウンセリングよりも指示的な意味合いが強く、従って対象に対するなんらかの見方、意見、コメントなどを、コンサルタントであるカウンセラーが提示しなければならない。
コンサルテーションとカウンセリングを混同して、コンサルテーションの場面でただ受容的な傾聴に徹するとしたら、教職員から「なんのアドバイスももらえない」という不満が出てくることになる。
コンサルテーションの具体例としては、上記の対応が困難な様々の事例のほかに、もっと一般的に臨床心理学的観点から意見を求められることも多い。
- 不登校をどう理解するか、及びそれへの対応の仕方フリースクールの意味、必要性、是非など
- その他の問題行動や症状の理解の仕方、及びそれへ対応の仕方
- 生徒指導上の問題に関する心理学的観点からの助言
- 発達上の課題に対する理解の仕方、及びそれへの対応の仕方
- 学級、学年、学校が崩壊状態になっている場合のその事態の理解の仕方、対処の仕方
- 虐待の理解の仕方、被虐待時への対処の仕方
- 災害、事件、事故などへの危機対応、心のケアの行い方、PTSDの理解の仕方
- 教職員のメンタルヘルスに関する管理職の相談
などである。
いずれにしてもその場面では、臨床心理学的な観点からの適格なアドバイス、コメントが求められているのであるから、その期待を裏切らず、要求を満たさなければならない。
そのためには、スクールカウンセラーは、それらの事象に対する臨床心理学的な見方に精通していなければならないし、それらに関する最新の研究成果にも精通していなければならない。
コンサルテーションの枠組みで行われる保護者との面接もある。
例えば
- 友人が子供の不登校で悩んでいる、その親子にどのように対応すればよいのか
- 近隣の家で虐待が行われているようだ
- 地域に困った人がいるがどうも精神病らしい
など、直接自分の子供や家族のことではない相談が持ち込まれる場合である。
このような場合も、どこへ相談に行けばよいかなど、できるだけ具体的なアドバイスができるように対応する必要がある。
特に虐待などの場合は、当事者がスクールカウンセラーの勤務する中学校や担当の小学校の生徒である場合が多いので、状況を詳しく聴取し具体的な対応をしなければならない。
また隣接の校区である場合は、情報をその中学のスクールカウンセラーに通知する必要がある。
その他に
- 友人が隣接する校区のスクールカウンセラーの言葉や対応に傷つけられた
- 知り合いの子供が通う学校のスクールカウンセラーは、相談室で生徒にタバコを吸わせている。
など、スクールカウンセラーへの怒りや抗議がよせられることがある。
これらは、事実関係の確認など困難な局面が予測されるので、自ら解決しようとせずスクールカウンセラーのスーパーバイザーに報告することが望ましい。
上記にある通り、スクールカウンセラーの業務には、子どもが示す疾患や問題の理解と対応を教職員に伝えるということが含まれています。
ですから、本選択肢の「緘黙のある児童への対応について」もきちんと教職員に伝えることがスクールカウンセラーの業務であり、これができていないとスクールカウンセラーとしての役割を果たせていないことになってしまいます。
このことはもしかすると多くのカウンセラーにとって高すぎる要求かもしれません。
きちんと病理や問題の生じるストーリーを理解し、それを教職員に伝えることができ、しかも、現場の状況を踏まえて活用できるような形での対応を助言するということです。
先輩も指導者もいない、基本的に一人で自身に与えられた業務のすべてをこなさなくてはならないスクールカウンセラーという「一人職場」ならではの大変さがそこにはあるでしょう。
こうした大変さに押され、スクールカウンセラーを辞めてしまったり、もっと良くないのが「教育のシステムが悪い」などのように、自分がうまくいかない状況への不協和を「教育システムの不備」「教職員に問題がある」といった形の認知の修正によって納得しようとするというパターンも見受けられます。
この手の認知の修正が起こってしまうと、教育領域で働きつつも「学校を信用しない」「子どもの問題には常に学校側に要因がある」という捉え方をするようになってしまうため、もう教育領域で働いていくことは不可能でしょう(本人が働いていたとしても、現場から煙たがられるようになってしまう)。
結局は実践の中で学び、機能できるように成長していくしかないのですが、少なくとも「システムが悪い」などのような手が届かない事柄のせいにして生きていくのは、今後起こる理不尽と感じる出来事にも「そういうやり方」で対処することになるので気をつけておきましょう。
以上より、選択肢①が適切と判断できます。
② チーム学校の運営体制として、スクールカウンセラーが管理責任者となる体制を提案した。
こちらはチーム学校に関する基本的な理解が問われています。
中央教育審議会では平成27年12月21日の第104回総会において、「チームとしての学校の在り方と今後の改善方策について(答申)」を取りまとめました。
上記を骨子として、文部科学省には「「チームとしての学校」の在り方」というページが設けられているので、こちらを参照にしつつ解説していきましょう。
まず、チーム学校とは、学校教育の活性化を目指し、教員が指導力を発揮できる教育環境の整備として、教員とは異なる専門性や経験を有する専門的スタッフを学校に配置又は派遣し、教員と 教員以外の者がそれぞれ専門性を連携して発揮し、学校組織全体が一つのチームとして力を発揮することで、学校組織全体の総合力を高めていこうとする取り組みです。
チーム学校としての学校像とは「校長のリーダーシップの下、カリキュラム、日々の教育活動、学校の資源が一体的にマネジメントされ、教職員や学校内の多様な人材が、それぞれの専門性を生かして能力を発揮し、子供たちに必要な資質・能力を確実に身に付けさせることができる学校」とされています。
「チームとしての学校」において、専門能力スタッフ等の位置付けや役割分担を検討するに当たっては、学校は、校長の監督の下、組織として責任ある教育を提供することが必要であり、「チームとしての学校」に含まれる範囲は、少なくとも校務分掌上、職務内容や権限等を明確に位置付けることができるなど、校長の指揮監督の下、責任を持って教育活動に関わる者とするべきとされています。
同時に、「チームとしての学校」において、例えば、組織的かつ継続的に子どもの安全確保に取り組む等地域との連携や、ボランティア等の地域人材との連携は欠かすことのできないものであり、引き続き取組を進めていく必要があります。
校長などの管理職のリーダーシップの下、「チームとしての学校」を支える文化を創り出していくことも重要とされています。
多様な経験や専門性を持った人材を学校教育で生かしていくためには、教員が、子どもたちの状況を総合的に把握して指導を行い、成果をあげている面にも配慮しながら、教員が担うべき業務や役割を見直し、多職種による協働へと学校の文化を変えていくことが大切になり、例えば、養護教諭や栄養教諭、スクールカウンセラー、看護師等などの数が少ない、少数職種が孤立しないよう、学校全体で意識改革を行い、専門性や立場の異なる人材をチームの一員として受け入れることが挙げられています。
上記からも、チーム学校の運営体制として、スクールカウンセラーが管理責任者になる体制ということはあり得ず、校長のリーダーシップの下で行われていくものであるとされていますね。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 児童生徒理解・支援シートの作成への協力を依頼されたが、担任教師による作成を提案し、関与を控えた。
まずは児童生徒理解・支援シートの実物を見ておくことが大切です。
文部科学省のサイトに参考様式として開示されており、各教育委員会でこれを参考にして独自に様式を作成していることになります(なので、県や市町村によって様式が異なるのは当然のことと思っておく)。
おそらく、教育機関で働いている人でないと目にすることはないものになるでしょうが、何かしらの不適応や課題を有する子どもたち全員分を作っていると思っておいて問題ありません。
この「児童生徒理解・支援シート」とは、支援の必要な児童生徒一人一人の状況を的確に把握するとともに、当該児童生徒の置かれた状況を関係機関で情報共有し、組織的・計画的に支援を行うことを目的として、学級担任、対象分野の担当教員、養護教諭等の教員や、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等を中心に、家庭、地域及び医療や福祉、保健、労働等の関係機関との連携を図り、学校が組織的に作成するものです(文部科学省のこちらの資料からの引用)。
ですから、スクールカウンセラーがこのシートへの協力を依頼されれば、関与を控えることは業務上あり得ないと考えておきましょう。
児童生徒理解・支援シートへの関与は、スクールカウンセラーとして働く人に付与されている業務の一つですから、これに関与しないということは「私は私に与えられた業務をしません」と言っているようなものです。
もしも、スクールカウンセラーが児童生徒理解・支援シートの作成の必要性を感じない場合であっても、少なくとも教育をしている側はその必要性を感じているわけですから、「その必要性に駆られる濃度の違い」がその子ども及び家庭の課題・問題とつながっていないかという視点で再考してみると良いでしょう。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④ アウトリーチで訪問した児童宅で父親から児童が暴力を受ける場面を目撃したが、児童から強く口止めされたため、児童相談所への通告を控えた。
いくつかの視点から明確にしつつ解説していきましょう。
まずは「スクールカウンセラーのアウトリーチ」についてです。
結論から先に述べると、「スクールカウンセラーのアウトリーチ」は可能です。
ただ、そのやり方は都道府県によってかなり違いがあります。
近年で一番多いのは「教職員と一緒に児童生徒宅へ行くのであればOK」というルールだろうと思います。
私自身は、こうしたルールが不明瞭な時代からスクールカウンセラーをしていましたから、自分の車で不登校生徒の家に行って、一緒に話したりゲームをするなどして関わり、本人や家族の様子を学校で共有し、学校がその時点でできるアプローチを助言するなどをしていました。
そういうやり方によって再登校する、高校以降は問題なく過ごせているという結果を経験しているだけに、「教職員と一緒に行く」という縛りはカウンセリング要素を極端に下げてしまうだけに残念な思いもあります。
しかし、学校という組織に勤める人間として、「道中で事故に遭った時にどうするのか」「アウトリーチの直後に子どもたちに不穏な行動が出たらどうするのか」「スクールカウンセラーが加害者(もしくは被害者)になるような事態の想定」「誰も見ていない状況で支援することのリスク」などを踏まえれば、教職員と一緒でなければならないというルールは当然のことであろうと思います。
ですから、「教職員と一緒に児童生徒宅を訪問する」という中でできることを考えるのが我々の役割ですから、その範囲でカウンセリング要素を発揮できるアプローチを行っていくことが重要になります。
一言添えるなら、私は自分自身が「そういうルール化がなされていなかった時代を生きたこと」を幸運だと思っています。
そういう経験の中でしか得られないこと、例えば、子どもが学校で見せる姿はごく一部であること、また、子どもが家庭で見せている姿もまた一部に過ぎないこと、親の姿の見せ方も社会的状況で大きく変わること(変わるのが当然であり、変わらないのであれば、その「社会性の程度」が子どもの問題とつながっている可能性もあること)などを学ぶことができましたし、それを踏まえて親との面接で聞く内容も変わってきたと思います。
人はどうしても自分が見えているものが世界のすべてだと感じるようになりがちですが、「枠組みを超えることができた時代」を生きてきたからこそ、目の前の事態だけに左右されないというマインドが自戒的に生じるようになったと思うのです。
さて、続いては「父親から児童が暴力を受ける場面を目撃した」という場合の対応として、「児童から強く口止めされたため、児童相談所への通告を控えた」についてです。
この記述は2つの視点から問題ありと言えます。
まずは言わずと知れた、法律的な枠組みを理解していないという問題です。
児童虐待防止法第6条には「児童虐待を受けたと思われる児童を発見した者は、速やかに、これを市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所又は児童委員を介して市町村、都道府県の設置する福祉事務所若しくは児童相談所に通告しなければならない」と規定されていますから、当然本選択肢の状況は通告することが「法的義務」となります。
個人ではなくスクールカウンセラーとして勤務しているのであれば尚更、この状況で通告しないというのは大きな問題となりますから、直ちに学校から児童相談所へ通告するよう管理職に進言することが求められます。
また、本選択肢では通告を控える理由として「児童から強く口止めされたため」が挙げられていることが、ますます良くないところです。
法律的な枠組みがあろうとなかろうと、目の前の事態に対してどういう判断をするかは「専門家である自分が」「組織に所属する専門家として」なされる必要があります。
この専門家としての判断を「児童から口止めされたから」と、子どもの要因に帰するのは責任転嫁であり、スクールカウンセラーという職責を放棄していることになります。
この手の口止めはよくある話(例えば、いじめの加害者になったとき、リストカットをしているときなど)ですが、ベースは「子どもがしたこと、子どもが置かれている状況を踏まえ、学校(専門家)が学校の責任で判断する」ということになります。
そういうスタンスと、それでも子どもの支援者としての立ち位置を維持するという相反するように見える2つの方針(実はこの2つは相反するものではないのですけどね)を成立させることが支援者として重要になってくるのです。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。