公認心理師 2022-56

過去問でも出題された通知に関する問題です。

通知自体は改訂されていますが、出題内容は改訂と関係なく作成されておりますね。

問56 不登校児童生徒への支援の在り方について(令和元年、文部科学省)の内容として、適切なものを2つ選べ。
① 学校に登校するという結果を最終的な目標として支援する。
② 学習内容の確実な定着のために、個別の教育支援計画を必ず作成する。
③ 組織的・計画的な支援に向けて、児童生徒理解・支援シートを活用する。
④ フリースクールなどの民間施設やNPO等との積極的な連携は、原則として控える。
⑤ 校長のリーダーシップの下、スクールカウンセラー等の専門スタッフも含めた組織的な支援体制を整える。

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※改訂前の内容ですが、この内容を把握していれば解けます。

解答のポイント

不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)」を把握している。

選択肢の解説

① 学校に登校するという結果を最終的な目標として支援する。
④ フリースクールなどの民間施設やNPO等との積極的な連携は、原則として控える。

これらの選択肢に関しては、不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)の「1.不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方」から抜き出してみましょう。


(1)支援の視点
不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること。また、児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。

(2)学校教育の意義・役割
特に義務教育段階の学校は、各個人の有する能力を伸ばしつつ、社会において自立的に生きる基礎を養うとともに、国家・社会の形成者として必要とされる基本的な資質を培うことを目的としており、その役割は極めて大きいことから、学校教育の一層の充実を図るための取組が重要であること。また、不登校児童生徒への支援については児童生徒が不登校となった要因を的確に把握し、学校関係者や家庭、必要に応じて関係機関が情報共有し、組織的・計画的な、個々の児童生徒に応じたきめ細やかな支援策を策定することや、社会的自立へ向けて進路の選択肢を広げる支援をすることが重要であること。さらに、既存の学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検討し、なじめない要因の解消に努める必要があること。
また、児童生徒の才能や能力に応じて,それぞれの可能性を伸ばせるよう、本人の希望を尊重した上で、場合によっては、教育支援センターや不登校特例校、ICTを活用した学習支援、フリースクール、中学校夜間学級(以下、「夜間中学」という。)での受入れなど、様々な関係機関等を活用し社会的自立への支援を行うこと。
その際、フリースクールなどの民間施設やNPO等と積極的に連携し、相互に協力・補完することの意義は大きいこと。

(3)不登校の理由に応じた働き掛けや関わりの重要性
不登校児童生徒が、主体的に社会的自立や学校復帰に向かうよう、児童生徒自身を見守りつつ、不登校のきっかけや継続理由に応じて、その環境づくりのために適切な支援や働き掛けを行う必要があること。

(4)家庭への支援
家庭教育は全ての教育の出発点であり、不登校児童生徒の保護者の個々の状況に応じた働き掛けを行うことが重要であること。また、不登校の要因・背景によっては、福祉や医療機関等と連携し、家庭の状況を正確に把握した上で適切な支援や働き掛けを行う必要があるため、家庭と学校、関係機関の連携を図ることが不可欠であること。その際、保護者と課題意識を共有して一緒に取り組むという信頼関係をつくることや、訪問型支援による保護者への支援等、保護者が気軽に相談できる体制を整えることが重要であること。


これらを見ると「「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく」や「フリースクールなどの民間施設やNPO等と積極的に連携し、相互に協力・補完することの意義は大きい」とありますね。

この辺は平成28年の同通知でも同じ内容になっています。

以上より、選択肢①および選択肢④は不適切と判断できます。

さて、教育臨床に携わる者として、この通知を読んでの連想を述べておきましょう。

不登校対応が「「学校に登校する」という結果のみを目標にしない」とすることに関しては、おそらく多くの人にとって違和感が無くなっていると思います。

「学校に登校する」ことを目標にして行われる支援の問題は確かに多くありますが、私は今でも「学校に登校する」ことを目標に支援を行うことが多いです(少なくとも、不登校事例において「本人が動き出すまで待ちましょう」ということは絶対に言わない。こういう「動きを待つ」という方針を小中学校での不登校事例で使うのは、「現状でも何かしら動きがある場合」に限ります。なお「様子を見ましょう」という言葉は使う人の臨床力がかなり出ますね)。

ただし「学校に登校する」に至るまでのスモールステップの道筋をかなり細かく網羅し(家庭での過ごし方(自室にこもっている時の声のかけ方、リビングで長く過ごすために必要な関わりなど)、家族の関わり方(甘えのテーマやお手伝い、外出の是非など)、学校の声掛けの仕方(教員からの手紙の内容、登校を誘う際のやり方)、学校からの刺激の入れ方(宿題や家庭訪問の活用の仕方、受験時の対応)など)、そしてそれらが複雑なつながり方をしているので、一見して「学校に登校することを直接目指しているように見えない」だろうとは思います。

要は「学校に登校することを目標にする=直接的に学校に誘う」という直線的な認識はかなり粗雑なものであり役に立ちづらいもので、実際の回復過程はもっと繊細で柔軟で個別性の高い現象であるということなんです。

ですから「学校に登校することを目標にしない」ということが正しいか否かは一概には言えず、支援者の臨床の在り様次第かなと思っています。

② 学習内容の確実な定着のために、個別の教育支援計画を必ず作成する。
③ 組織的・計画的な支援に向けて、児童生徒理解・支援シートを活用する。

これらの選択肢に関しては、不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)の「2.学校等の取組の充実」から抜き出してみましょう。


(1)「児童生徒理解・支援シート」を活用した組織的・計画的支援
不登校児童生徒への効果的な支援については、学校及び教育支援センターなどの関係機関を中心として組織的・計画的に実施することが重要であり、また、個々の児童生徒ごとに不登校になったきっかけや継続理由を的確に把握し、その児童生徒に合った支援策を策定することが重要であること。その際、学級担任、養護教諭、スクールカウンセラー、スクールソーシャルワーカー等の学校関係者が中心となり、児童生徒や保護者と話し合うなどして、「児童生徒理解・支援シート(参考様式)」(別添1)(以下「シート」という。)を作成することが望ましいこと。これらの情報は関係者間で共有されて初めて支援の効果が期待できるものであり、必要に応じて、教育支援センター、医療機関、児童相談所等、関係者間での情報共有、小・中・高等学校間、転校先等との引継ぎが有効であるとともに、支援の進捗状況に応じて、定期的にシートの内容を見直すことが必要であること。また、校務効率化の観点からシートの作成に係る業務を効率化するとともに、引継ぎに当たって個人情報の取扱いに十分留意することが重要であること。
なお、シートの作成及び活用に当たっては、「児童生徒理解・支援シートの作成と活用について」(別添2)を参照すること。


このように支援にあたって「児童生徒理解・支援シート」を活用することが明記されていますね。

不登校支援において「情報」は非常に重要なものです。

私は長年教育臨床に携わっていますが、「学校内で支援する場合」と「学校外の教育機関で支援する場合」では、教育機関という共通点があってもかなり情報量が異なります(これは教育以外の機関であればなおさらだろうと思います)。

学校という「社会的な場」での本人の振る舞いや言動は、不登校児の実態をかなり克明に示し、見立てに欠かせない情報となります。

さて、選択肢②の「個別の教育支援計画」は不登校支援で使われるものではありませんね。

 「個別の教育支援計画」は、障害のある児童生徒の一人一人のニーズを正確に把握し、教育の視点から適切に対応していくという考えの下、長期的な視点で乳幼児期から学校卒業後までを通じて一貫して的確な教育的支援を行うことを目的としています(こちらに関しては文部科学省の「参考1 「個別の教育支援計画」について」で述べられています)。

作成を担当する機関が、①障害のある児童生徒の実態把握、②実態に即した指導目標の設定、③具体的な教育的支援内容の明確化、④評価、という手順で計画の作成・点検を行います。

対象となるのは「障害のある幼児や児童生徒で、特別な教育的支援の必要なもの」であり、障害の範囲に関しては「視覚障害、聴覚障害、知的障害、肢体不自由、病弱、言語障害、情緒障害、LD、ADHD、高機能自閉症 等」とされています。

このように「個別の教育支援計画」は、不登校児童生徒への支援に関わるものではありませんね(もちろん、不登校児で上記の障害が想定される場合には、作成されることもあり得ます)。

なお、不登校児に対する学習支援に関しては、不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)で以下のように述べられています。


6.不登校児童生徒の学習状況の把握と学習の評価の工夫
不登校児童生徒が教育支援センターや民間施設等の学校外の施設において指導を受けている場合には、当該児童生徒が在籍する学校がその学習の状況等について把握することは、学習支援や進路指導を行う上で重要であること。学校が把握した当該学習の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合には、当該学習の評価を適切に行い指導要録に記入したり、また、評価の結果を通知表その他の方法により、児童生徒や保護者、当該施設に積極的に伝えたりすることは、児童生徒の学習意欲に応え、自立を支援する上で意義が大きいこと。

(4)不登校児童生徒に対する多様な教育機会の確保
不登校児童生徒の一人一人の状況に応じて、教育支援センター、不登校特例校、フリースクールなどの民間施設、ICTを活用した学習支援など,多様な教育機会を確保する必要があること。また、夜間中学において、本人の希望を尊重した上での受入れも可能であること。
義務教育段階の不登校児童生徒が学校外の公的機関や民間施設において、指導・助言等を受けている場合の指導要録上の出席扱いについては、別記1によるものとし、高等学校における不登校生徒が学校外の公的機関や民間施設において、指導・助言等を受けている場合の指導要録上の出席扱いについては、「高等学校における不登校生徒が学校外の公的機関や民間施設において相談・指導を受けている場合の対応について」(平成21年3月12日付け文部科学省初等中等教育局長通知)によるものとすること。また、義務教育段階の不登校児童生徒が自宅においてICT等を活用した学習活動を行った場合の指導要録上の出席扱いについては、別記2によるものとすること。その際、不登校児童生徒の懸命の努力を学校として適切に判断すること。
なお、不登校児童生徒が民間施設において相談・指導を受ける際には、「民間施設についてのガイドライン(試案)」(別添3)を参考として、判断を行う際の何らかの目安を設けておくことが望ましいこと。
また、体験活動においては、児童生徒の積極的態度の醸成や自己肯定感の向上等が期待されることから、青少年教育施設等の体験活動プログラムを積極的に活用することが有効であること。


不登校児の学習に関しては、なかなか難しい問題だなと思っています。

他の児童生徒が1日5時間6時間という授業を受けている中、不登校児がそれと同じ時間家庭学習するのは現実的ではありませんし、ICTを活用した授業を受けたことでどの程度学力が保持できるのかも未知数です。

ですから、不登校児の学習に関して「同級生に追いつけなければ学校に行くことができない」という考え方で接することは、永久に学校に行けない可能性があるとも言えます。

そういう考え方でいくよりも「自分がどのような姿であれ、自分であることを認められる」ということを目標に据えた方が、それこそ長い人生の中で有用であると感じることが多いです。

言い換えれば、勉強が同級生よりもできなくても学校に行ける、という状態の方が望ましいわけです(学校に行くことが必ずしも望ましいのか、という意見はあるでしょうが、私は「それ以外の生き方もあるよ」という無責任なことは言えません。やはり人と異なる生き方というのは現代社会において大変なことだと思います。もちろん、それでも本人が「これが自分の人生だ」と思えるなら良いのですが)。

このように、不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)において「児童生徒理解・支援シート」を活用することが重視されています(ちなみに、こちらのシートは平成28年度の通知から示されていましたね)。

また、「個別の教育支援計画」は不登校児を対象としたものではなく、障害のある児童生徒のために活用するものですね。

よって、選択肢②は不適切と判断でき、選択肢③は適切と判断できます。

⑤ 校長のリーダーシップの下、スクールカウンセラー等の専門スタッフも含めた組織的な支援体制を整える。

これらの選択肢に関しては、不登校児童生徒への支援の在り方について(通知)の「2.学校等の取組の充実」から抜き出してみましょう。


(3)不登校児童生徒に対する効果的な支援の充実

  1. 不登校に対する学校の基本姿勢
    校長のリーダーシップの下、教員だけでなく、様々な専門スタッフと連携協力し、組織的な支援体制を整えることが必要であること。また、不登校児童生徒に対する適切な対応のために、各学校において中心的かつコーディネーター的な役割を果たす教員を明確に位置付けることが必要であること。
  2. 早期支援の重要性
    不登校児童生徒の支援においては、予兆への対応を含めた初期段階からの組織的・計画的な支援が必要であること。
  3. 効果的な支援に不可欠なアセスメント
    不登校の要因や背景を的確に把握するため、学級担任の視点のみならず、スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカー等によるアセスメント(見立て)が有効であること。また、アセスメントにより策定された支援計画を実施するに当たっては、学校、保護者及び関係機関等で支援計画を共有し、組織的・計画的な支援を行うことが重要であること。
  4. スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーとの連携協力
    学校においては、相談支援体制の両輪である、スクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーを効果的に活用し、学校全体の教育力の向上を図ることが重要であること。
  5. 家庭訪問を通じた児童生徒への積極的支援や家庭への適切な働き掛け
    学校は、プライバシーに配慮しつつ、定期的に家庭訪問を実施して、児童生徒の理解に努める必要があること。また、家庭訪問を行う際は、常にその意図・目的、方法及び成果を検証し適切な家庭訪問を行う必要があること。
    なお、家庭訪問や電話連絡を繰り返しても児童生徒の安否が確認できない等の場合は、直ちに市町村又は児童相談所への通告を行うほか、警察等に情報提供を行うなど、適切な対処が必要であること。
  6. 不登校児童生徒の学習状況の把握と学習の評価の工夫
    不登校児童生徒が教育支援センターや民間施設等の学校外の施設において指導を受けている場合には、当該児童生徒が在籍する学校がその学習の状況等について把握することは、学習支援や進路指導を行う上で重要であること。学校が把握した当該学習の計画や内容がその学校の教育課程に照らし適切と判断される場合には、当該学習の評価を適切に行い指導要録に記入したり、また、評価の結果を通知表その他の方法により、児童生徒や保護者、当該施設に積極的に伝えたりすることは、児童生徒の学習意欲に応え、自立を支援する上で意義が大きいこと。
  7. 不登校児童生徒の登校に当たっての受入体制
    不登校児童生徒が登校してきた場合は、温かい雰囲気で迎え入れられるよう配慮するとともに、保健室、相談室及び学校図書館等を活用しつつ、徐々に学校生活への適応を図っていけるような指導上の工夫が重要であること。
  8. 児童生徒の立場に立った柔軟な学級替えや転校等の対応
    いじめが原因で不登校となっている場合等には、いじめを絶対に許さないき然とした対応をとることがまずもって大切であること。また、いじめられている児童生徒の緊急避難としての欠席が弾力的に認められてもよく、そのような場合には、その後の学習に支障がないよう配慮が求められること。そのほか、いじめられた児童生徒又はその保護者が希望する場合には、柔軟に学級替えや転校の措置を活用することが考えられること。
    また、教員による体罰や暴言等、不適切な言動や指導が不登校の原因となっている場合は、不適切な言動や指導をめぐる問題の解決に真剣に取り組むとともに、保護者等の意向を踏まえ、十分な教育的配慮の上で学級替えを柔軟に認めるとともに、転校の相談に応じることが望まれること。
    保護者等から学習の遅れに対する不安により、進級時の補充指導や進級や卒業の留保に関する要望がある場合には、補充指導等の実施に関して柔軟に対応するとともに、校長の責任において進級や卒業を留保するなどの措置をとるなど、適切に対応する必要があること。また、欠席日数が長期にわたる不登校児童生徒の進級や卒業に当たっては、あらかじめ保護者等の意向を確認するなどの配慮が重要であること。

このように校長のリーダーシップの下、SC等の専門スタッフも含めた組織的な支援体制が重要になってくることが明記されています(ちなみに、こちらのシートは平成28年度の通知から示されていました)。

よって、選択肢⑤は適切と判断できます。

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