意外と過去問で取り上げられていない就学相談に関する問題です。
私はこども園~高校で臨床をしているので理解しやすかったですが、遠い人ほど仕組みを把握していないだろうと思います。
ですが、大切な事柄なのでしっかりと理解しておくことが求められますね。
問24 特別な教育的支援を必要とする子どもへの就学相談や就学先の決定について、最も適切なものを1つ選べ。
① 就学相談を経て決定した就学先は、就学後も固定される。
② 就学相談は、心理検査の結果を踏まえて就学基準に照らして進める。
③ 就学相談のために、都道府県教育委員会は就学時健康診断を実施する。
④ 保護者、本人等との合意形成を行うことを原則とし、市町村教育委員会が最終的に就学先を決定する。
⑤ 就学先が決定した後に、保護者への情報提供として、就学と当該学校や学級に関するガイダンスを行う。
関連する過去問
なし
解答のポイント
就学先決定の流れを理解している。
文部科学省の「就学相談・就学先決定の在り方について」を把握している。
選択肢の解説
① 就学相談を経て決定した就学先は、就学後も固定される。
② 就学相談は、心理検査の結果を踏まえて就学基準に照らして進める。
④ 保護者、本人等との合意形成を行うことを原則とし、市町村教育委員会が最終的に就学先を決定する。
これらの選択肢については、文部科学省の「就学相談・就学先決定の在り方について」から引用しつつ解説をしていきましょう。
就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め、障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する仕組みとすることが適当である。その際、市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である。保護者や市町村教育委員会は、それぞれの役割と責任をきちんと果たしていく必要がある。このような仕組みに変えていくため、速やかに関係する法令改正等を行い、体制を整備していくべきである。なお、就学先を決定する際には、後述する「合理的配慮」についても合意形成を図ることが望ましい。(参考資料16:障害のある児童生徒の就学先決定について(手続きの流れ))
- 現在、多くの市町村教育委員会に設置されている「就学指導委員会」については、早期からの教育相談・支援や就学先決定時のみならず、その後の一貫した支援についても助言を行うという観点から、「教育支援委員会」(仮称)といった名称とすることが適当である。「教育支援委員会」(仮称)については、以下のように機能を拡充し、一貫した支援を目指す上で重要な役割を果たすことが期待される。
(ア)障害のある子どもの状態を早期から把握する観点から、教育相談との連携により、障害のある子どもの情報を継続的に把握すること。
(イ)就学移行期においては、教育委員会と連携し、本人・保護者に対する情報提供を行うこと。
(ウ)教育的ニーズと必要な支援について整理し、個別の教育支援計画の作成について助言を行うこと。
(エ)市町村教育委員会による就学先決定に際し、事前に総合的な判断のための助言を行うこと。
(オ)就学先の学校に対して適切な情報提供を行うこと。
(カ)就学後についても、必要に応じ「学びの場」の変更等について助言を行うこと。
(キ)後述する「合理的配慮」の提供の妥当性についての評価や、「合理的配慮」に関し、本人・保護者、設置者・学校の意見が一致しない場合の調整について助言を行うこと。 - 「教育支援委員会」(仮称)においては、教育学、医学、心理学等の専門家の意見を聴取することに加え、本人・保護者の意向を聴取することが必要である。特に、障害者基本法の改正により、本人・保護者の意向を可能な限り尊重することが求められていることに留意する必要がある。また、教育においては、それぞれの発達の段階において言語の果たすべき役割が大きいとの指摘もあることから、必要に応じて、委員会の専門家に言語発達に知見を有する者を加えることなども考えられる。必要に応じ、各教育委員会が関係者のための研修会を行うことなども考えられる。
- 就学時に決定した「学びの場」は、固定したものではなく、それぞれの児童生徒の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら、柔軟に転学ができることを、すべての関係者の共通理解とすることが重要である。そのためには、教育相談や個別の教育支援計画に基づく関係者による会議などを定期的に行い、必要に応じて個別の教育支援計画及び就学先を変更できるようにしていくことが適当である。この場合、特別支援学校は都道府県教育委員会に設置義務があり、小・中学校は市町村教育委員会に設置義務があることから、密接に連携を図りつつ、同じ場で共に学ぶことを追求するという姿勢で対応することが重要である。その際、必要に応じ、「教育支援委員会」(仮称)の助言を得ることも考えられる。
これらを踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。
まずは選択肢②の「就学相談は、心理検査の結果を踏まえて就学基準に照らして進める」に関してです。
就学先を決定する仕組みに関しては「障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定する」とあります。
そしてその前段階に「就学基準に該当する障害のある子どもは特別支援学校に原則就学するという従来の就学先決定の仕組みを改め」ともありますね。
すなわち選択肢②の内容は、就学先決定の仕組みが改められる前のものであり、現在採用されている就学先決定の仕組みとは異なるものであることがわかりますね。
続いて選択肢④の「保護者、本人等との合意形成を行うことを原則とし、市町村教育委員会が最終的に就学先を決定する」についてです。
上記にある通り「市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である」とされていますから、この選択肢の内容は適切であることがわかりますね。
この選択肢を選べなかった人のほとんどは「最終的には保護者や本人の意向が最大限考慮されるのでは」と考えたのだと思います。
残念ながら、上記のように考えてしまう人は「教育委員会も含めた学校の責任」に関する基本的・根本的な思い違いをしています。
ここである事例の話をしていきましょう(もちろん、本質を損なわない程度に改変しています)。
- 不登校傾向のある高校生女子。中学生からの不登校傾向であり、いじめをはじめとした学校の要因で不登校が生じているのではない。
- 進級に際して、本人も親も友人と同じクラスになることを強く希望していた。
- 一方、その友人の親からは「あの子にしがみつかれて、うちの子が疲弊している。同じクラスには来年はしないでほしい」という訴えがあった。
- これらの事情を踏まえ、学校は本人と友人を別クラスにした。
- その後、本人は不登校傾向が強まり、親からは強いクレーム(うちの子が学校に行けなくなったのは、学校がそんなクラス編成にしたせいだ!)が出た。
- 当然だが、学校は友人の親から「別クラスにしてほしい」という旨の話があったことは明かさず、「学校として総合的に判断して決めました」と伝えている。
この事例の内容を読んで、この事例は良くならないと思った方も多いでしょうし、それは正しい認識です。
なぜなら、心理的問題とは「問題の在り処を正しく理解していないと、改善が生じにくいという特徴」を有しているからです。
上記の事例では、不登校の要因は色々考えられるわけですが「友人と同じクラスになれなかった」という「学校に所属する以上、避けられない通常強度のショック体験」によって不登校傾向が強まるという点に問題があるのは間違いないでしょう(いじめ等がないのは確認済みだし、本人らもそれは認めている)。
すなわち、当人たちの自我強度等にも課題があるのは間違いがないわけですが、それを「学校が誤ったクラス編成をしたために、不登校になった」と認識しているわけです。
言い換えれば、自分たちの心理的課題にベクトルが向かねばならないのに、学校という外にベクトルが向いているので、前述の心理的問題の原則によって改善が生じにくくなっているわけです。
さて、この事例で大切なのは最後の「当然だが…」という点です。
なぜ学校が友人の親から「別クラスにしてほしい」という旨の話があったことを伝えずに対応するのか?
これを単に「守秘義務があるから」という理由で済ませてはいけません。
もちろん、守秘義務もあるわけですが、根っこにあるのは「どのようなクラス編成を行うかは、学校が最終的に判断をしてその責任を負う」という原則があるからなんです。
ですから、「友人の親から「別クラスにしてほしい」という旨の話があった」ということを理由にしてクラス編成をしました、と考えるのは学校の責任を放棄していることになります。
あくまでも「どのようなクラス編成を行うかは、学校が最終的に判断をしてその責任を負う」という原則に基づき、その編成に伴う現実(保護者からのクレームなど)を受けとめていくのが「学校の責任」なんです。
ですから、私は年度末の保護者会で「〇〇さんと別のクラスにしてください」と平気で言ってくる親に対して(もちろん、いじめなどの事実がないのは前提として。もしもいじめの事実が認定されていれば、保護者から言われなくても変えるものです)、「自分の責任の範囲をわかっていない未成熟な人である」という認識をもって関わるようにしています。
クラス編成によって起こるさまざまな出来事に責任を持ち、対応をするのはあくまでも学校側なのに、その責任を果たす力のない(おそらく果たす気もない)一保護者がその決定に口出しをしてくるというのは、明らかに分を弁えず他者の領域に踏み込む行為なわけです。
話を選択肢④に戻すと、就学先決定に関して最終的な決定権を持つのは市町村の教育委員会になるわけですが、言い換えればその決定に責任を持っていくという意味でもあり、この責任を保護者や当人に被せるのは教育機関としての責任放棄になるわけです。
もちろん、背景には「保護者や本人の意向が必ずしも適切とは言えない」「保護者や本人は教育機関の実情を必ずしも理解しているわけではない」という現実もあるわけですが、それは後付の理由に過ぎず、根っこにあるのは「それが教育機関としての責任だから」というのが理由であると考えておくことが大切です。
このような原則を理解しておくと、選択肢④が適切であるという理解がしやすいだろうと思います。
ちなみにあくまでも保護者や本人等との合意形成が原則になるのは言うまでもありませんが、文部科学省の「就学相談・就学先決定の在り方について」には「就学先決定について意見が一致しない場合について」も以下のように記載があります。
共生社会の形成に向けた取組としては、教育委員会が、早期からの教育相談・支援による相談機能を高め、合意形成のプロセスを丁寧に行うことにより、十分に話し合い、意見が一致するように努めることが望ましい。しかしながら、それでも意見が一致しない場合が起こり得るため、市町村教育委員会の判断の妥当性を市町村教育委員会以外の者が評価することで、意見が一致する可能性もあり、市町村教育委員会が調整するためのプロセスを明確化しておくことが望ましい。例えば、本人・保護者の要望を受けた市町村教育委員会からの依頼に基づき、都道府県教育委員会による市町村教育委員会に対する指導・助言の一環として、都道府県教育委員会の「教育支援委員会」(仮称)に第三者的な有識者を加えて活用することも考えられる。なお、市町村教育委員会は、あらかじめ本人・保護者に対し、行政不服審査制度も含めた就学に関する情報提供を行っておくことが望ましい。
このように「保護者や本人等との合意形成」がかなり重視されていることもわかるはずで、「学校の責任でやっていくんだから、教育委員会の判断を押し通す」というわけでもないのです。
こうした丁寧な手続きを経て、就学先が決定されていくわけですね。
そして、選択肢①の「就学相談を経て決定した就学先は、就学後も固定される」についても見ていきましょう。
上記には「就学時に決定した「学びの場」は、固定したものではなく、それぞれの児童生徒の発達の程度、適応の状況等を勘案しながら、柔軟に転学ができることを、すべての関係者の共通理解とすることが重要である」とありますから、決定した就学先であってもそれは変更可能であることが示されていますね。
発達に課題がある場合、ある領域の初期値が低い(つまり苦手が強い、不器用である)ということが目を引くことが多いのですが、一般に伸びるスピードも遅い場合が多いです。
しかし、いわゆる未熟児や一部の発達障害児(ADHD児が多い印象)はこの伸びるスピードが阻害されていない場合があり、教育の中で通常学級相当まで発達が促進されることもあり得ます(特に未熟児の場合は、遅くとも中学卒業までには発達の遅れは概ね取り戻すことができます)。
ですから、決定された就学先であっても、それが就学後も固定されるという考え方は、そうした実情に即したものになりませんから、選択肢①の内容が不適切なことがわかりますね。
以上より、選択肢①および選択肢②は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。
⑤ 就学先が決定した後に、保護者への情報提供として、就学と当該学校や学級に関するガイダンスを行う。
文部科学省の「就学相談・就学先決定の在り方について」には「情報提供の充実等」の項目が、以下の通り設けられております。
○ 就学相談の初期の段階で、就学先決定についての手続の流れや就学先決定後も柔軟に転学できることなどについて、本人・保護者にあらかじめ説明を行うことが必要である(就学に関するガイダンス)。このことは、就学後に学校で適切な対応ができなかったことによる二次的な障害の発生を防止する観点からも重要である。
○ 自分の子どもを学校、市町村教育委員会、地域が進んで受け入れてくれるという姿勢が見られなければ、保護者は心を開いて就学相談をすることができない。学校や市町村教育委員会が、保護者の「伴走者」として親身になって相談相手となることで保護者との信頼関係が生まれる。学校、市町村教育委員会は、まずは障害のある子どもを地域で受け入れるという意識を持って、就学相談・就学先決定に臨むとともに、保護者に対して、子どもの健康、学習、発達、成長という観点を大切にして就学相談・就学先決定に臨むよう働きかけることが必要である。
○ 小学校が就学相談の窓口となり、幼稚園や保育所と日常的に連携を行うことで障害の状態やニーズを把握している市町村もあり、これに当たっては、就学相談に関する管理職研修を実施するとともに、住民向けに広報誌で周知を図っているなどの工夫が見られる。また、特別な支援を必要とする子どもへの支援を行うネットワークを取りまとめる機関を設け、巡回相談などの各種教育相談を実施させるとともに、必要に応じて、教育、医療、保健、福祉の連携を行っている市町村もある。これらの先行事例も参考としながら、相談・支援体制の充実に努めることが必要である。
○ 就学先を決定するに当たり、就学先の学習の具体的な様子が分からなければ、保護者は判断を行うことができない。例えば、英国、米国においては、行政側が、医療、福祉など教育以外の情報も含めた適切な情報を保護者に提供し、また、他の保護者とも情報交換できるセンターの設置などの取組を行っている。改正障害者基本法においても、本人・保護者に対する十分な情報提供が求められており、地域の学校で学ぶことや特別支援学校で学ぶことについて、体験入学などを通じた十分な情報提供を行っていくことが重要である。
○ 平成19年の学校教育法改正においても、各学校が学校運営状況の評価を行うこととされており、それを学校・家庭・地域間のコミュニケーションツールとして活用し、情報共有や連携協力を促進することを通じて、学校・家庭・地域それぞれの教育力を高めていくことが期待されている。このことからも、今後情報提供の更なる充実が図られていくことが期待される。
○ 障害のある子どもの能力を十分発達させていく上で、受入先の小・中学校には、必要な教育環境の整備が求められることになる。このためには、あらかじめ人的配置や物的整備を計画的に行うよう努めるとともに、後述する「合理的配慮」の提供を行うことが必要である。障害の状態、教育的ニーズ、学校、地域の実情等に応じて、本人・保護者に、受けられる教育や支援等についてあらかじめ説明し、十分な理解を得るようにすることが重要である。
○ 保護者の思いと子ども本人の教育的ニーズは、異なることもあり得ることに留意することが必要である。保護者の思いを受け止めるとともに、本人に必要なものは何かを考えていくことが必要であり、そのためには、市町村教育委員会が本人・保護者の意見を十分に聞き、共通認識を醸成していくことが重要である。(参考資料17:児童の権利に関する条約(抄))
○ 市町村教育委員会が、保護者への説明や学校への指導・助言等の教育支援を適切に行うためには、専門的な知識を持った職員を配置するなどの体制整備が必要である。現行の「就学指導委員会」においても、自治体によっては、専門家の専門性が十分ではない、あるいは、単独で専門家を確保することが困難といった課題もある。例えば、専門家の確保を他の自治体と共同で実施することや都道府県教育委員会からの支援を受けることなども考えられる。
上記の通り、ガイダンス等に関しては就学先が決定する前の段階、就学相談の初期の段階で行われるのが原則になります。
就学と当該学級へのガイダンスは「就学先が決定する前」に行われなければならないのは、当然のことと言えるでしょう(医療で言うインフォームドコンセントみたいなものですね)。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。
③ 就学相談のために、都道府県教育委員会は就学時健康診断を実施する。
就学時健康診断とは 学校保健安全法に基づき、翌年度の4月に小学校に入学する子どもを対象に、市町村が実施する健康診断です。
学校保健安全法には「就学時の健康診断」が以下の通り定められています。
第十一条 市(特別区を含む。以下同じ。)町村の教育委員会は、学校教育法第十七条第一項の規定により翌学年の初めから同項に規定する学校に就学させるべき者で、当該市町村の区域内に住所を有するものの就学に当たつて、その健康診断を行わなければならない。
第十二条 市町村の教育委員会は、前条の健康診断の結果に基づき、治療を勧告し、保健上必要な助言を行い、及び学校教育法第十七条第一項に規定する義務の猶予若しくは免除又は特別支援学校への就学に関し指導を行う等適切な措置をとらなければならない。
これらを踏まえると、選択肢③の「就学相談のために…就学時健康診断を実施する」という点に関しては、大きな間違いはないと考えられます。
第12条に「特別支援学校への就学」という就学相談の内容が含まれていますから、就学時健康診断の目的と矛盾はないですね。
実際は保育園や幼稚園、こども園の時期から、発達に関する相談を持ち掛けていることが多いので「就学時健康診断で初めて取り上げられる」ということは少ないのですが、保護者の中には発達の相談を促しても反応がないこともあります。
そういう時には就学時検診などの「法律で定められた枠組みの中で発達に関する課題をやり取りしていく」という形を取った方がやり易い場合も多いです。
本選択肢の誤りは「都道府県教育委員会は…」という「就学時検診を行う主体」に関する認識であると言えます。
第11条にもあるように、就学時検診を行うのは「市町村の教育委員会」とされていますから、都道府県教育委員会ではありません。
この点が単純に誤りだと言えますね。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。