公認心理師 2022-152

いじめの支援会議におけるスクールカウンセラーの対応に関する問題です。

スクールカウンセラーという立場でできること、できないことを理解しておくことが求められます。

問152 14歳の女子A、中学2年生。Aは、同級生からのいじめについて、同じ中学校に勤務しているスクールカウンセラーBに相談をしている。Aについて、教育相談コーディネーターの教師が中心となって支援チームの会議が開かれた。支援チームの会議には、Bのほかに、Aの担任教師と学年主任、養護教諭、生徒指導主事及び管理職が参加した。会議ではAの支援や学校としての対応をどのように行うかが検討された。
 Bの会議での対応として、不適切なものを1つ選べ。
① いじめに関する専門的な知見などを提供する。
② いじめの重大事態かどうかの判断を主導する。
③ クラスや学年などで行う心理教育の実施について検討する。
④ Aの具体的な支援策に関わる教職員研修の実施について検討する。
⑤ 守秘義務に配慮しながら、Aとの面接についての情報や見立てを提供する。

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解答のポイント

いじめの支援会議におけるSCの責任の範囲を理解している。

選択肢の解説

② いじめの重大事態かどうかの判断を主導する。

こちらは当該いじめが重大事態であるか否かの判断を行う際に、どこが主体となるかに関する理解を問うている選択肢と言えます。

文部科学省のこちらの資料によると、重大事態に該当するか否かの判断については以下が示されています。

  1. 判断主体:いじめ法28条1項の規定による調査(以下単に「調査」という)は、「学校の設置者又はその設置する学校」が、重大事態に該当すると「認める」ときに行うものとされている。したがって、重大事態に該当するか否かを判断するのは、学校の設置者(以下単に「設置者」という)又は学校である。
  2. 基準時:重大事態に該当するか否かの判断は、重大被害の発生時を基準にして行う。調査を通じて、事後的に、いじめがあったとの事実が確認されなかったり、いじめはあったものの重大被害との因果関係は認められないとの判断に至ったりしたとしても、そのことにより遡及的に重大事態への該当性が否定されるものではない。
  3. 「認める」:「認める」とは、「考える」ないし「判断する」の意であり、「確認する」「肯認する」といった意味ではない。よって、学校又は設置者が、いじめがあったと確認したりいじめと重大被害の間の因果関係を肯定したりしていなくとも、学校又は設置者が重大事態として捉える場合があり、調査した結果いじめが確認されなかったり、いじめにより重大被害が発生した訳ではないという結論に至ることもあり得る。
  4. 「疑いがある」か否かの判断に関する留意事項:基本方針においては、「児童生徒や保護者からいじめられて重大事態に至ったという申立てがあったとき(児童生徒及び保護者が法に定める重大事態の規定を認識していないことも想定されることから、申立てに重大事態という言葉がなくても、申立内容から同等の状況が類推できる場合を含む)は、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たる」ものとされている。これは、判断主体はあくまでも学校又は設置者であるから、学校又は設置者が、いじめの実行行為と重大被害の発生との間に因果関係が存在しないと判断した場合やそもそも対象児童生徒に対するいじめがなかったと判断した場合には、通常は重大事態として扱わないものの、児童生徒や保護者から上記の申立てがあったときは、疑いが生じたものと解さざるを得ないため、重大事態に該当するとの判断を下す必要があることを明らかにしたものである。
    なお、基本方針の当該記載が適用されるためには、児童生徒や保護者からの申立内容が「いじめにより」重大被害が生じたというもの5である必要があり、学校は、この要件を満たす申立てがあった場合は、重大事態として対応する。

上記を踏まえればわかる通り、重大事態の判断主体は「学校の設置者又は学校」となります(公立学校における「学校の設置者」は、学校を設置する地方公共団体になりますね)。

ちなみに、実際の重大事態での対応等については、文部科学省の「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」に詳しく述べてありますね。

上記からも明らかなように、重大事態の判断主体はSCではなく「学校の設置者又は学校」とされていますから、本選択肢のように「いじめの重大事態かどうかの判断を主導する」のはSCであるはずがありませんね。

実践の中で「これって重大事態になりますか?」と判断を聞かれることって実はけっこう多いのですが、上記のようなSCの責任の範囲を確認した上で、指針等を踏まえた上で当該事例をどのように捉えるかの見解を伝えることになります。

あくまでも判断の主体がSCではないことを踏まえて、責任の範囲を踏み越えないように留意しつつ意見を述べていくということですね。

以上より、選択肢②は不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

① いじめに関する専門的な知見などを提供する。
⑤ 守秘義務に配慮しながら、Aとの面接についての情報や見立てを提供する。

これらの選択肢に関しては、SCが支援チームの中での役割に該当するといえます。

選択肢①の「いじめに関する専門的な知見などを提供する」というのは当然のことではありますが、「専門的な知見」というのは、いじめによって生じる心理的状態の説明だったり、実際にAがどのような精神状態であるかを伝えていくことが挙げられるでしょう。

今時、学校の先生方もよく勉強されていることが多いので、いじめに関する一般論を超えた形で「いま目の前にいる子どもの支援につながるような助言」が重要になってきます。

そして「いま目の前にいる子どもの支援につながるような助言」をしていく上で欠かせない情報になるのが、選択肢⑤の「Aとの面接についての情報や見立て」になります。

Aとの面接の中でどういうやり取りをしているか、例えば、個人情報についてどこまでやり取りしているかについての記述はありませんが、そうした守秘を踏まえて「Aとの面接についての情報や見立て」を伝えていくことが重要です。

それを伝えることで、Aが現在どういった状態にあるのか、Aにとってどういった対応が望ましいと考えられるのか、対応をとった時のAの反応に関する予測などを専門家として伝えていくことが選択肢①の内実と言えます。

こういった「専門的な知見」と「実際の事例」とを掛け合わせた形で、支援会議の中で発信していくことが、その場にいるSCに求められることであると言えるでしょう。

以上より、選択肢①および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

③ クラスや学年などで行う心理教育の実施について検討する。
④ Aの具体的な支援策に関わる教職員研修の実施について検討する。

これらについては、いじめ事案の対応としてSCが行うことができる事項であり、これらを支援会議の中で提案し、実施を検討することは適切であると考えられます。

選択肢③の「クラスや学年などで行う心理教育の実施」に関しては、様々な手法がありますが「いま現にいじめが起こっている」という状況を踏まえての心理教育であることが重要です。

一次予防~三次予防まであるわけですが、それぞれの状況に応じたプログラムである必要があり、例えば、「いま現にいじめが起こっている」という状況で、一次予防的(いじめが起こっていない状況で全体に行う予防的アプローチ)に行うプログラムを実施しても効果が薄いのは当然ですね。

これだけではなく、クラス単位で行うのか、学年単位で行うのか、演習を入れるのか、などを踏まえ、狙いを定めて、効果的な内容にしていくことが重要になってきます(一般的には、対象の人数が多くなるほどに、心理教育の内容が一般論に偏りがちであり、一人ひとりが自分のこととして聞いてくれる割合は減る)。

上記のような諸点を踏まえて、SCの業務の一つとして心理教育を提案・検討することはあり得ることと言えます。

選択肢④の「Aの具体的な支援策に関わる教職員研修の実施」についても、SCの業務の範囲内で行うことが可能な内容であると言えます。

こちらは選択肢⑤と関わる部分でもありますが、Aへの見立てを踏まえて定められた対応の中に「教職員全体で共有しておいたほうが良い事柄」が含まれている場合があります。

例えば、Aが周囲に対して緊張感・不安感が強くなっている可能性があり、その対処として教職員が声掛けを積極的に行っていき、本人の安心感が高まるようにしていくという場合がありえます。

そういう時に、教職員全体に研修を行うことで、Aへの見立て上、教職員が声をかけても大丈夫であること(教職員に声をかけられるのが嫌という生徒もいるので、Aがそうではないこととその理由を伝えることが重要になる)、どういう声掛けの仕方をすると安心感が高まりやすいか、などについて伝えていくことはいじめの対応の一つとしてあり得ることです。

もちろん、こうした研修を実施するにあたっては、Aのいじめ案件について教職員で共有することが前提となってくるので、その点についてのAやその保護者がどう考えるかも話し合っておくことが求められます。

ここで挙げた選択肢のように、具体的な方策を提案・検討することも支援会議で行われるべきことであり、特にいじめ対応のような状況では、どういった支援策を具体的に行っていくかを被害者側に提示することが重要になってきますね。

よって、選択肢③および選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

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