学校におけるピアサポート・プログラムに関する問題です。
資料がなかったので、母校の図書館まで探しに行きました(それらしい書籍が、母校の図書館にしかなかった)。
問43 学校にピアサポート・プログラムを導入する目的として、不適切なものを1つ選べ。
① 思いやりのある関係を確立する機会を提供する。
② 公共性と無償性という基本を学ぶ機会を提供する。
③ 学校のカウンセリング・サービスの幅を広げる機会を提供する。
④ リーダーシップ、自尊感情及び対人スキルを向上させる機会を提供する。
⑤ 傾聴や問題解決スキルなど他者を援助するスキルを習得する機会を提供する。
解答のポイント
学校におけるピアサポート・プログラムに関する概要を理解している。
選択肢の解説
① 思いやりのある関係を確立する機会を提供する。
③ 学校のカウンセリング・サービスの幅を広げる機会を提供する。
④ リーダーシップ、自尊感情及び対人スキルを向上させる機会を提供する。
⑤ 傾聴や問題解決スキルなど他者を援助するスキルを習得する機会を提供する。
まずここでは、学校におけるピアサポートプログラムについて述べていきましょう。
ここでの解説は以下の書籍を参考にしています。
児童生徒は、困り事や心配事を友だちに相談することが多いとされており、ピアサポートはこの事実に基づいたものです。
カナダのピアプログラムの第一人者であるレイ・カーは「基本的にはピアサポートとは生徒たちに他の人を思いやることを学ばせ、その思いやりを実践させる方法の一つです。そのため自己探求と意思決定を可能にさせるだけのコミュニケーションスキルが要になってきます。ピアヘルパーはプロのカウンセラーやセラピストではありません。彼らは、彼ら自身も生徒でありつつ、仲間の生徒が問題を結論までじっくり考えたり現在抱えている悩みを見つめたいというときに、きちんとしたスーパービジョンの下で援助していく人なのです」と述べています。
仲間の影響をこのように利用するのは、同年代の仲間が同じような態度を取り、同じような興味を持ち、同じような言語を話すというだけでも、大人のカウンセラーや教師と比べて有利な資質を備えているという点で、理にかなっています。
ピア活動は、スーパービジョンの下で、生徒が他の子どもの言葉に耳を傾け、彼らの成長と発達を支援することを学ぶものです。
ピアサポーターは年が近い分「大人臭さ」がないので、悩みを打ち明けやすいとされています。
ピアサポーターの力を借りると校内の「語らない大多数(silent majority)」に手が届くようにもなり、このsilent majorityこそ、輝かしい功績があるわけではなく、かといって大失敗もしていない、ごく普通の悩みを抱えている子どもたちと言えます。
さて続いてはピアサポートプログラムの目的について述べていきましょう。
プログラムを導入する時には、学校という場ならではのニーズや特性が反映された目標を設定する必要があります。
ピアサポートプログラムの開始に当たって含まれることの多い6つの目標は以下の通りです。
- 他の生徒との間に意義のある思いやりに満ちた関係を築く機会を生徒に提供する。
- 傾聴、コミュニケーション、問題解決、対立解消法などの支援スキルのトレーニングをする。
- 生徒による援助リソース(学習の援助、問題解決、ミディエーション、情報提供など)を学校に提供する。
- 生徒にリーダーシップ、自尊感情、人間関係スキルなどの向上を促す。
- 互いに思いやりを持ち、それを実践する雰囲気を学校内に創り出す。
- 校内のガイダンス・カウンセリングの幅を広げる。
これらは一般的なものであり、たいていの学校の状況に合うと考えられます。
本問は、上記を踏まえて作成された問題であると考えられます。
選択肢①の「思いやりのある関係を確立する機会を提供する」は上記の1を、選択肢③の「学校のカウンセリング・サービスの幅を広げる機会を提供する」は上記の6を、選択肢④の「リーダーシップ、自尊感情及び対人スキルを向上させる機会を提供する」は上記の4を、選択肢⑤の「傾聴や問題解決スキルなど他者を援助するスキルを習得する機会を提供する」は上記の2を指したものと言えますね。
これらより、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。
このまま学校におけるピアサポートプログラムの概説を続けていきましょう。
ピアサポーターを選ぶ時には、小規模な学校であれば、例えば最高学年全員をトレーニングしたり、大規模な学校であれば、同一学年またはいくつかの学年から募集したボランティアをトレーニングする等のやり方で、いくつかの実践において成功を収めています。
どのような対象をピアサポーターとするかによって、それぞれに長所や短所があるので、これを述べていきましょう。
まずクラス全員がトレーニングを受ける長所としては…
- 担任もピアサポーターらと一緒に研修会などの特別な行事に参加できる。
- 担任がSCと共同でピアサポーター用トレーニングの指導ができる。
- 担任がピアサポーターと毎日コンタクトが持て、彼らの活動時間スケジュールの管理ができる。
- 担任は、他の教師やピアサポーターとのコンサルテーションにいつでも応じることができる。
一方で、クラス全員がトレーニングを受ける短所としては…
- プログラムに参加したくない生徒には他の子どもたちがトレーニングセッション中、他にすることを用意する必要がある。
- 休み時間をピアサポートの仕事のために犠牲にしたくないという子どもも中にはいるかもしれない。
また、異なる学年からボランティアを募集する長所は…
- ボランティアをする生徒は、自分の希望でピアサポートに参加することになる。
- 異なる学年からのピアサポーターが集まれば、ピアサポーターたちは年齢的に偏ることなく学校内のどの学年にも同年齢として対応できる。
- ピアサポーターは複数のクラスから集まってくるので、クラス全員が出払ってしまったり、クラス活動が中断されることはない。
- 最高学年のピアサポーターが卒業しても、下の学年のピアサポーターたちが残るのでプログラムに継続性が生まれる。
一方、異なる学年からボランティアを募集する短所は…
- プラグラムの担当教師は研修会やトレーニングセッションに参加するため、クラスを離れるが、その時間をもらう許可を得なければならない。
- 学年やクラスが異なるのでプログラム担当教師はピアサポーターと会って活動スケジュールを調整する時間があまりとれない。
こうした長所短所を把握しつつ、最終的には担当教師が決めねばならないこともあるでしょうね。
このほかにも、実践するためには、管理職の理解、他の教職員への説明、保護者への説明、児童・生徒への説明、児童・生徒の選考、などが必要になってきます。
以上、ざっとですが学校におけるピアサポートプログラムについて概説しました。
私自身はそれなりに子どもと関わっていると言ってよい立場だと思いますが、こうしたプログラムがどの程度可能なのかについては疑問があります。
子どもがどの程度他者をサポートできるかについての疑問もありますが、こうしたプログラムを実践するほどの余裕が今の学校には無いようにも思うのです。
それほどに、今の教育現場は少ないリソースで回しているという印象を受けます。
もちろん、実践の報告とその検証があれば、ぜひ見てみたいものです。
② 公共性と無償性という基本を学ぶ機会を提供する。
こちらはボランティアの性質を述べたものになります。
ボランティア活動とはどのような活動かを定義するのは難しいため、定義そのものではなくボランティア活動の基本的な性格として、従来「自発性(主体性)」「利他性」「無償性」「公共性」「社会性」「先駆性」などが挙げられてきました。
いくつかについて詳しく述べると…
- 自発性の原則:公共機関や他人から強制されるのではなく、自発的意志に基づいて行われるものであるという原則
- 公共性の原則:活動が特定の人たちの単なる私益につながるものではなくて、社会や公共の福祉に役立つべきであるという原則
- 無償性の原則:活動の見返りとして金銭的報酬など、物的利益を期待すべきではないという原則
- 先駆性の原則:活動が画一的に取り組まれるだけではなく、社会の発展や開発をリードする先駆的な活動であるという原則
…などが示されていますね。
本選択肢の「公共性と無償性という基本を学ぶ機会を提供する」は、こうしたボランティアで示されることの多い原則について引用したものであると考えられます。
また、カウンセリングという営みについて理解している人は、本選択肢の「無償性」に引っかかるだろうと思います。
カウンセリングは無償で行われるべきものではありません。
カウンセリングで行うような様々な体験をきっちりとこなそうと思うと、報酬がなくては話にならないと思います。
クライエントが向けてくる複雑な感情体験を受け、それを如何にして治療的な関わりとして応答していくのか、という複雑な営みは決して無償で提供できるような類のものではないはずです。
もちろん、こうしたカウンセリングの原則が「学校におけるピアサポートプログラム」にも用いられるかは定かではありませんが、サポート=無償という結びつきには違和感を持つことが多いでしょうね。
いずれにせよ、本選択肢はピアサポートプログラムに関するものではなく、ボランティアの基本的な性格を示したものであると考えられます。
よって、選択肢②が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。