学校保健安全法と同法施行規則に関する問題です。
この問題文、個人的には結構衝撃でした。
これまで「施行規則」という表現が問題文になくても、施行規則からも当たり前のように出題されていました。
このように、きちんと「○○法」と「○○法施行規則」を分けて出題してくれると、解く方としても解説する側としても助かります。
問56 学校保健安全法及び同法施行規則について、正しいものを2つ選べ。
① 通学路の安全点検について、学校は一義的な責務を有する。
② 児童生徒等の健康診断を毎年行うかどうかは、学校長が定める。
③ 学校においては、児童生徒等の心身の健康に関し、健康相談を行う。
④ 市町村の教育委員会は、翌学年度の入学予定者に就学時の健康診断を行う。
⑤ 児童生徒等の健康診断の結果が児童生徒と保護者に通知されるのは、30日以内と定められている。
解答のポイント
学校保健安全法および同法施行規則で定められた、学校安全計画、就学時健診、健康診断、健康相談に関する内容を把握していること。
選択肢の解説
① 通学路の安全点検について、学校は一義的な責務を有する。
学校保健安全法第27条の「学校安全計画の策定等」には以下のような条項が定められています。
学校においては、児童生徒等の安全の確保を図るため、当該学校の施設及び設備の安全点検、児童生徒等に対する通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導、職員の研修その他学校における安全に関する事項について計画を策定し、これを実施しなければならない。
こちらには「通学を含めた学校生活その他の日常生活における安全に関する指導」という大まかな書き方がされておりますね。
この点についてもう少し詳しい資料を見ていきましょう。
通学路の安全確保については「学校保健法等の一部を改正する法律の公布について」に記載があります。
こちらによると学校の範囲は、①校舎、運動場など当該学校の敷地内のほか、②当該学校の敷地外であって、学校の設置者の管理責任の対象となる活動が行われる場所(農場など実習施設等)を想定している、とあります。
その上で、通学路に関しては以下のような記述があります。
通学路における児童生徒等の安全については、通学路を含めた地域社会における治安を確保する一般的な責務は当該地域を管轄する地方公共団体が有するものであるが、学校保健安全法第27条に規定する学校安全計画に基づき、各学校において児童生徒等に対する通学路における安全指導を行うこととするとともに、第30条において警察やボランティア団体等地域の関係機関・関係団体等との連携に努めることとされていることから、各学校においては適切な対応に努められたいこと。
このように「通学路を含めた地域社会における治安を確保する一般的な責務は当該地域を管轄する地方公共団体が有するもの」となっています。
もちろん、学校は通学路を指定するわけですから、交通安全のルールを教えたり、保護者や警察と連携したりすることは重要になってきます。
しかし、あくまでも通学路に関しては「一般的な責務は当該地域を管轄する地方公共団体が有する」と考えます。
また、学校の働き方改革について議論した中央教育審議会(業務の適正化・役割分担等に関する具体的な論点)でも、登下校時の見守り活動は、基本的には学校や教師の本来的な業務ではないと整理しました。
基本的に教員の業務外と判断されたのは「登下校時の通学路の見守り」「放課後以降のパトロール、補導時の対応」「教育以外に関する調査への回答」「給食費などの徴収・管理」「地域ボランティアとの連絡調整」の5つで、地域や教育委員会、事務職員、保護者などで分担する案を示しています。
この点については、思い違いをしている人が多いですね。
特に通学路で事件や事故に巻き込まれたとき、必ずと言ってよいほど学校の責任問題を口にする人がいます。
こうした思い違いの一因として、災害共済給付や「学校事故対応に関する指針」(平成28年3月31日文部科学省)など、通学・通園中の事故等を「学校管理下」に含めるものもあるためだろうと思います。
ですが、学校保健安全法の流れで考えると、通学路の安全点検について学校が一義的な責務を有しているわけではありません。
よって、選択肢①は誤りと判断できます。
② 児童生徒等の健康診断を毎年行うかどうかは、学校長が定める。
児童生徒等の健康診断については、学校保健安全法の第13条および第14条に定められております。
第13条第1項:学校においては、毎学年定期に、児童生徒等(通信による教育を受ける学生を除く)の健康診断を行わなければならない。
第13条第2項:学校においては、必要があるときは、臨時に、児童生徒等の健康診断を行うものとする。
第14条:学校においては、前条の健康診断の結果に基づき、疾病の予防処置を行い、又は治療を指示し、並びに運動及び作業を軽減する等適切な措置をとらなければならない。
このように学校では「毎学年定期に」健康診断を行うことが定められております。
つまり、健康診断は明確に法によって規定されていますから「行うか否か」を学校長が決めてよい事柄ではありません。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。
なお、学校保健安全法施行規則第5条には以下のような定めがあります。
第5条第1項:法第十三条第一項の健康診断は、毎学年、六月三十日までに行うものとする。ただし、疾病その他やむを得ない事由によつて当該期日に健康診断を受けることのできなかつた者に対しては、その事由のなくなつた後すみやかに健康診断を行うものとする。
第5条第2項:第一項の健康診断における結核の有無の検査において結核発病のおそれがあると診断された者については、おおむね六か月の後に再度結核の有無の検査を行うものとする。
意外と知られていないのが「6月30日までに行う」というものです。
だから養護教諭はそれまでに健康診断を済ませなければならないので、とても大変なのです。
ちなみに、今年度はコロナの関係でそれを過ぎることも可とされていたようですね。
そして、同規則第6条には健康診断における検査の項目が以下のように定められています。
- 身長及び体重
- 栄養状態
- 脊柱及び胸郭の疾病及び異常の有無並びに四肢の状態
- 視力及び聴力
- 眼の疾病及び異常の有無
- 耳鼻咽いん頭疾患及び皮膚疾患の有無
- 歯及び口腔くうの疾病及び異常の有無
- 結核の有無
- 心臓の疾病及び異常の有無
- 尿
- その他の疾病及び異常の有無
おそらく、多くの人が身に覚えがある内容ではないかと思います。
③ 学校においては、児童生徒等の心身の健康に関し、健康相談を行う。
まず学校保健法第7条には「学校には、健康診断、健康相談、保健指導、救急処置その他の保健に関する措置を行うため、保健室を設けるものとする」とあります。
そして、健康相談に関しては、第8条以下に条項が定められています。
第8条:学校においては、児童生徒等の心身の健康に関し、健康相談を行うものとする。
第9条:養護教諭その他の職員は、相互に連携して、健康相談又は児童生徒等の健康状態の日常的な観察により、児童生徒等の心身の状況を把握し、健康上の問題があると認めるときは、遅滞なく、当該児童生徒等に対して必要な指導を行うとともに、必要に応じ、その保護者に対して必要な助言を行うものとする。
第10条:学校においては、救急処置、健康相談又は保健指導を行うに当たつては、必要に応じ、当該学校の所在する地域の医療機関その他の関係機関との連携を図るよう努めるものとする。
まず、本選択肢はそのまま第8条の内容と言えますね。
健康相談に関しては「教職員のための子どもの健康相談及び保健指導の手引」に詳しく載っています。
この資料によると、健康相談の目的は、児童生徒の心身の健康に関する問題について、児童生徒や保護者等に対して、関係者が連携し相談等を通して問題の解決を図り、学校生活によりよく適応していけるように支援していくことにあります。
具体的には、児童生徒・保護者等からの相談希望、健康観察や保健室での対応等から健康相談が必要と判断された児童生徒に対し、心身の健康問題の背景(問題の本質)にあるものを的確にとらえ、相談等を通して支援することです。
また、一対一の相談に限定されるものではなく、関係者の連携のもと教育活動のあらゆる機会を捉えて、健康相談における配慮が生かされるようにするものである。
なお、勘違いされやすいですが、健康相談は養護教諭だけが行うものではありません。
上記の資料にも、養護教諭のほか、学級担任等や学校医等の役割も示されています。
当然ですが、子どもと関わる教職員全体で行っていくものです。
以上より、選択肢④は正しいと判断できます。
④ 市町村の教育委員会は、翌学年度の入学予定者に就学時の健康診断を行う。
こちらはいわゆる就学時健診に関する内容について問うていますね。
就学時健診については、学校保健安全法第11条および第12条に定められています。
第11条:市(特別区を含む)町村の教育委員会は、学校教育法第十七条第一項の規定により翌学年の初めから同項に規定する学校に就学させるべき者で、当該市町村の区域内に住所を有するものの就学に当たつて、その健康診断を行わなければならない。
第12条:市町村の教育委員会は、前条の健康診断の結果に基づき、治療を勧告し、保健上必要な助言を行い、及び学校教育法第十七条第一項に規定する義務の猶予若しくは免除又は特別支援学校への就学に関し指導を行う等適切な措置をとらなければならない。
このように市町村の教育委員会は、次の年度に入学する予定の子どもに対して健康診断を行うことになっています。
ちなみに「学校教育法第17条第1項の規定」とは、保護者が子どもを6歳~12歳まで小学校に就学させる義務のことです。
つまり、来年度小学校に入る保育園や幼稚園の年長さんに健康診断を行うわけですね。
なお、学校保健安全法施行規則第3条には就学時健診で行うべきことが以下のように定められています。
- 栄養状態は、皮膚の色沢、皮下脂肪の充実、筋骨の発達、貧血の有無等について検査し、栄養不良又は肥満傾向で特に注意を要する者の発見につとめる。
- 脊せき柱の疾病及び異常の有無は、形態等について検査し、側わん症等に注意する。
- 胸郭の異常の有無は、形態及び発育について検査する。
- 視力は、国際標準に準拠した視力表を用いて左右各別に裸眼視力を検査し、眼鏡を使用している者については、当該眼鏡を使用している場合の矯きよう正視力についても検査する。
- 聴力は、オージオメータを用いて検査し、左右各別に聴力障害の有無を明らかにする。
- 眼の疾病及び異常の有無は、感染性眼疾患その他の外眼部疾患及び眼位の異常等に注意する。
- 耳鼻咽いん頭疾患の有無は、耳疾患、鼻・副鼻腔くう疾患、口腔くう咽喉いんこう頭疾患及び音声言語異常等に注意する。
- 皮膚疾患の有無は、感染性皮膚疾患、アレルギー疾患等による皮膚の状態に注意する。
- 歯及び口腔くうの疾病及び異常の有無は、齲う歯、歯周疾患、不正咬こう合その他の疾病及び異常について検査する。
- その他の疾病及び異常の有無は、知能及び呼吸器、循環器、消化器、神経系等について検査するものとし、知能については適切な検査によつて知的障害の発見につとめ、呼吸器、循環器、消化器、神経系等については臨床医学的検査その他の検査によつて結核疾患、心臓疾患、腎じん臓疾患、ヘルニア、言語障害、精神神経症その他の精神障害、骨、関節の異常及び四肢運動障害等の発見につとめる。
小学校の規模によるのでしょうが、私のイメージではだいたい2グループ~3グループに分けて、各専門医のいる教室に診察を受けに行くような感じです。
栄養や聴力、眼の診察などを全部終えたら、知能に関する検査を行うことになります。
知能に関する検査については一斉にやっていることが多いように思いますが、それも学校の規模によって違うでしょうね。
私は立場上、就学時健診で講演する機会が多いです。
たいてい、子どもたちが知能検査を受けているときに、保護者を相手に講演するという感じです。
保護者の話を聞く態度によって、来年度の小学校1年生の落ち着き具合がかなり予測できます。
いずれにせよ、市町村の教育委員会は、翌学年度の入学予定者に就学時の健康診断を行うことが定められております。
よって、選択肢④は正しいと判断できます。
⑤ 児童生徒等の健康診断の結果が児童生徒と保護者に通知されるのは、30日以内と定められている。
選択肢②で述べたように、健康診断を実施することは義務となっていますね。
そして、その結果の通知に関しては、学校保健安全法施行規則第9条に定められています。
第1項:学校においては、法第十三条第一項の健康診断を行つたときは、二十一日以内にその結果を幼児、児童又は生徒にあつては当該幼児、児童又は生徒及びその保護者に、学生にあつては当該学生に通知するとともに、次の各号に定める基準により、法第十四条の措置をとらなければならない。
- 疾病の予防処置を行うこと。
- 必要な医療を受けるよう指示すること。
- 必要な検査、予防接種等を受けるよう指示すること。
- 療養のため必要な期間学校において学習しないよう指導すること。
- 特別支援学級への編入について指導及び助言を行うこと。
- 学習又は運動・作業の軽減、停止、変更等を行うこと。
- 修学旅行、対外運動競技等への参加を制限すること。
- 机又は腰掛の調整、座席の変更及び学級の編制の適正を図ること。
- その他発育、健康状態等に応じて適当な保健指導を行うこと。
第2項:前項の場合において、結核の有無の検査の結果に基づく措置については、当該健康診断に当たつた学校医その他の医師が別表第一に定める生活規正の面及び医療の面の区分を組み合わせて決定する指導区分に基づいて、とるものとする。
このように、健康診断の結果は21日以内に通知されることが定められています。
ちなみに上記の「法第14条の措置」とは、以下の内容です。
学校においては、前条の健康診断の結果に基づき、疾病の予防処置を行い、又は治療を指示し、並びに運動及び作業を軽減する等適切な措置をとらなければならない。
つまり、疾病の予防措置、治療の指示、学校生活での適切な措置のことを指しています。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。