公認心理師 2019-68

問68はいじめ事案への対応になりますね。
まずはいじめ事案だという認識と、いじめ事案のときの法律に則った初期対応について理解していることが大切です。

問68 9歳の男児A、小学3年生。同じクラスのBとCとはいつも一緒に下校していたが、1週間前からBとCは下校中にAをおいて走って帰ったり、3人分のランドセルをAに持たせたりしていた。そのため、Aがこのようなことを嫌がり、「学校に行きたくない」と言っていると、Aの保護者から校内の公認心理師に相談があった。
 Aの保護者に許可を得た上で、公認心理師が担任教師に行う助言として、最も適切なものを1つ選べ。
①Aを他の児童と帰らせるように助言する。
②BとCの謝罪をもって解決とするように助言する。
③Aにいじめられた理由を考えさせるように助言する。
④当事者の家庭での解決を求めるように助言する。
⑤事実を確認し、学校のいじめの対策組織に報告するように助言する。

まずは基本中の基本、いじめ防止対策推進法第2条に定められている、いじめの定義について見ていきましょう。
「この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう」

このような定義を鑑みても、本事例の内容は「いじめ」と認識するのが妥当であることがわかります。
まずは公認心理師として本事例が「いじめ」と認識することが重要で、その次に担任とやり取りの中でどういった対応を勧めるのか、を問われています。
今回はまずは正解の選択肢の解説から入っていった方が、他の選択肢についても解説しやすくなるので、その方向でやっていきましょう。

解答のポイント

いじめと思われる報告を受けたときに「最初に行うべきこと」を理解していること。

選択肢の解説

⑤事実を確認し、学校のいじめの対策組織に報告するように助言する。

いじめ防止対策推進法第22条において「学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする」と定められております。

この規定は、特定の教職員で問題を抱え込まず学校が組織的に対応することにより、複数の目による状況の見立てが可能となること、また、必要に応じて、心理や福祉の専門家であるスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー、弁護士、医師、警察官経験者など外部専門家等が参加しながら対応することなどにより、より実効的ないじめの問題の解決に資することが期待されることから設けられました(いじめの防止等のための基本的な方針より)。

そして、いじめ防止対策推進法第23条には「いじめに対する措置」として以下の6項を定めています。

  1. 学校の教職員、地方公共団体の職員その他の児童等からの相談に応じる者及び児童等の保護者は、児童等からいじめに係る相談を受けた場合において、いじめの事実があると思われるときは、いじめを受けたと思われる児童等が在籍する学校への通報その他の適切な措置をとるものとする
  2. 学校は、前項の規定による通報を受けたときその他当該学校に在籍する児童等がいじめを受けていると思われるときは、速やかに、当該児童等に係るいじめの事実の有無の確認を行うための措置を講ずるとともに、その結果を当該学校の設置者に報告するものとする。
  3. 学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする。
  4. 学校は、前項の場合において必要があると認めるときは、いじめを行った児童等についていじめを受けた児童等が使用する教室以外の場所において学習を行わせる等いじめを受けた児童等その他の児童等が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を講ずるものとする。
  5. 学校は、当該学校の教職員が第三項の規定による支援又は指導若しくは助言を行うに当たっては、いじめを受けた児童等の保護者といじめを行った児童等の保護者との間で争いが起きることのないよう、いじめの事案に係る情報をこれらの保護者と共有するための措置その他の必要な措置を講ずるものとする。
  6. 学校は、いじめが犯罪行為として取り扱われるべきものであると認めるときは所轄警察署と連携してこれに対処するものとし、当該学校に在籍する児童等の生命、身体又は財産に重大な被害が生じるおそれがあるときは直ちに所轄警察署に通報し、適切に、援助を求めなければならない。

特にこの第1項の報告先は、先に挙げた第22条に定められている「いじめの防止等の対策のための組織」であることが、「いじめの防止等のための基本的な方針」によって示されております。

当然、学校の特定の教職員が、いじめに係る情報を抱え込み、学校いじめ対策組織に報告を行わないことは、同項の規定に違反し得ると見なすことができます
学校いじめ対策組織において情報共有を行った後は、事実関係の確認の上、組織的に対応方針を決定し、被害児童生徒を徹底して守り通すことになります
もちろん、教育的な見地から加害者への支援も行っていくことが重要です。

このように、いじめがあると思われる事態に出会った場合、行うべきは以下の通りまとめることができます。

  1. 学校いじめ対策組織への報告を行うこと。
  2. 当該組織が中心となり、速やかに関係児童生徒から事情を聴き取るなどして、いじめの事実の有無の確認を行うこと。
    その際、事実確認の結果は、校長が責任を持って学校の設置者に報告するとともに被害・加害児童生徒の保護者に連絡する。
  3. いじめの有無、その状況、被害児童とその保護者の意向などを加味しつつ、その児童・生徒を守り通すという認識で対応を行う。
このように、事例の状況においては、まずは「学校のいじめ対策組織に報告」というのが最初に来るべきだと判断できます
ちょっと気になるのが、選択肢の文言が「事実を確認し、学校のいじめの対策組織に報告するよう」と報告と事実確認の順番が入れ替わっている点です
本来、こちらは「学校のいじめ対策組織に報告」→「事実確認」という流れになるのが適切なはずです。
もちろん「報告」と「事実確認」は同時並行的に行われるものですが、それでもいじめの訴えがあったこと、それを受けて事実確認をする必要があることなどを管理職等に伝えないままに「事実確認」を行うことは、できれば避けた方が良いと感じます。
事実確認の作業はけっこうデリケートなものになります。
担任教師を守るためにも、学校組織として「いじめの対応を行う」という流れのなかで事実確認をしてもらうのが適切です。
特に公認心理師として助言するのであれば、「報告」→「事実確認」という流れは崩すべきではないでしょう。
このように、わずかに引っかかる点はあるものの、他の選択肢の対応と比較して明らかにこちらの選択肢が最も適切と考えられます。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。

①Aを他の児童と帰らせるように助言する。
②BとCの謝罪をもって解決とするように助言する。
③Aにいじめられた理由を考えさせるように助言する。
④当事者の家庭での解決を求めるように助言する。

これら4つの対応は、共通する問題点があります。
それは「報告」「事実確認」という初期対応で欠かすことができない事柄をすっ飛ばしてしまっているということです
すなわち、この事案が「いじめであるか否か」という検証作業を全くしていない中で、いじめと勝手に判断して対応してしまっているという点が、そもそもの誤りなのです

大切なのは「対応として抜かしてはいけない事項を抜かしてしまっている」「勝手にいじめとはんだんしてしまっている」ということがこれらの選択肢の誤りポイントであるという認識であって、選択肢内で挙げられた対応に問題があるというのは副次的な理由にすぎません。
その辺の思路をしっかりと認識しておくことが、試験問題を解く上でも実践上でも大切なことです。

あくまでも副次的なことではありますが、各選択肢の対応の内容も検討していきましょう。

まず選択肢①の「他の児童と帰らせるように助言する」という対応ですが、こちらは事実確認後、本人らと話し合う中で導かれるなら有り得るのかもしれません。
しかし、事実確認もしておらず、Aの意向も聞かないままにそれを実行するというのはかなり無理があると言えます。
例えば、AがBやCと帰らないことをどうやってBやCに伝えるのか、一緒に帰らないことでいじめが悪化してしまう可能性はないのか、Aが一緒に帰るような児童(例えば、帰る方向が同じとか)がいるという確証はあるのか、一緒に帰る児童もいじめられる可能性はないのか、一緒に帰るとされた児童の保護者はどう思うのか、などが懸念されます
いずれにしても、事実確認が済んでいない中で行うことができる対応ではないと判断できますね。

選択肢②では、いじめの事実が明確でないのに「BとCの謝罪をもって解決とする」という対応をとることは、様々な問題が懸念されます
まずAやその保護者ですが、「謝罪をもって解決とする」と言われて納得できるはずもないでしょう。
また、いじめであると決めつけて「BとCの謝罪」となると、BやC、その保護者からの反発も予想されます。
いじめ事例では、いじめられた側が何かしらネガティブな関わりをしているという可能性も潜んでおり、一方的に加害者と決めつけた対応は問題があると言ってよいでしょう(もちろん、それでも事例のようなことをして良いわけではないが、一方的に言われてしまうと「反省」という心理状態が起こりにくくなる)。

選択肢③では、明らかに「いじめられた方が悪い」というスタンスで対応しています
「君にいじめられる理由があるのだ」と伝えているわけです。
これはAを更に傷つけ、学校が守ってくれない、学校が安全な場ではないという認識を持たせてしまう恐れがあります。

選択肢④では、学校の責任を放棄していると言えます。
先述したいじめ防止対策推進法第23条第3項に「学校は、前項の規定による事実の確認によりいじめがあったことが確認された場合には、いじめをやめさせ、及びその再発を防止するため、当該学校の複数の教職員によって、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者の協力を得つつ、いじめを受けた児童等又はその保護者に対する支援及びいじめを行った児童等に対する指導又はその保護者に対する助言を継続的に行うものとする」に定められています。
下校中という「学校外」で起こったことだという前提からの引っかけを狙った選択肢なのだと思われますが、冒頭で述べたように本事例は明らかに「いじめ」と捉えることが必要であり、上記の条項通り学校が対応していくことが義務付けられた状況と言えます。

このように各選択肢の対応自体にも、様々な問題がはらんでいることがわかります。
とは言え、まず「報告」「事実確認」「いじめの判断」が抜けているということが、これらの選択肢を誤りと判断する第一の理由であると認識しておきましょう
以上より、選択肢①~選択肢④は不適切と判断できます。

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