問26はいじめの重大事態の際の対応を問うものです。
いじめ防止対策推進法や文部科学省から出されている方針をチェックしておくことが重要です。
問26 いじめの重大事態への対応について、最も適切なものを1つ選べ。
①被害児童生徒・保護者が詳細な調査を望まない場合であっても、調査を行う。
②重大事態の調査を行った場合は、調査を実施したことや調査結果を社会に公表する。
③「疑い」が生じた段階ではなく、事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始する。
④児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるときに限り、重大事態として対応する。
⑤保護者から、いじめという表現ではなく人間関係で心身に変調を来たしたという訴えがあった場合は、安易に重大事態として対応しない。
確認しておきたいのは以下の資料になります。
- いじめ防止対策推進法:特に「第五章 重大事態への対処」を中心に。
- いじめの防止等のための基本的な方針(平成25年10月11日文部科学大臣決定(最終改定 平成29年3月14日)):いじめに関する全般的な対応が網羅されている。
- いじめの重大事態の調査に関するガイドライン:重大事態に関して詳しく述べてある。
これらの内容を把握していることが、本問を解く上では求められます。
緊急対応などで派遣される可能性があるカウンセラーや、学校で働くカウンセラーはこれらを前提としつつの対応が求められます。
働く上で「知らない」では済まされない知識ですから、しっかりと理解を深めておきましょう。
解答のポイント
いじめ防止対策推進法や文部科学省が出している重大事態に関する資料を把握しておくこと。
重大事態の対応
ここではまず重大事態の対応を幅広く把握していきましょう。
一部抜粋してまとめたものですから、可能であれば冒頭で紹介した資料の全文をご覧ください。
いじめ防止対策推進法における重大事態
いじめ防止対策推進法第28条には以下のように規定されています。
第1項:学校の設置者又はその設置する学校は、次に掲げる場合には、その事態(以下「重大事態」という)に対処し、及び当該重大事態と同種の事態の発生の防止に資するため、速やかに、当該学校の設置者又はその設置する学校の下に組織を設け、質問票の使用その他の適切な方法により当該重大事態に係る事実関係を明確にするための調査を行うものとする。
- いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
- いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
第2項:学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする。
第3項:第1項の規定により学校が調査を行う場合においては、当該学校の設置者は、同項の規定による調査及び前項の規定による情報の提供について必要な指導及び支援を行うものとする。
各条項に関する具体的内容
もう少し細やかに上記の条項の内容を把握していきましょう。
文部科学省が「いじめの防止等のための基本的な方針(平成25年10月11日文部科学大臣決定(最終改定 平成29年3月14日))」を示しているので、それを中心にしつつ。
法第1号の「生命、心身又は財産に重大な被害」については、いじめを受ける児童生徒の状況に着目して判断されます。
こちらは例えば…
- 児童生徒が自殺を企図した場合
- 身体に重大な傷害を負った場合
- 金品等に重大な被害を被った場合
- 精神性の疾患を発症した場合
…などのケースが想定されています。
こちらは「生命心身財産重大事態」と称されます。
法第2号の「相当の期間」については、不登校の定義を踏まえ、年間30日を目安とします。
ただし、児童生徒が一定期間、連続して欠席しているような場合には、上記目安にかかわらず、学校の設置者又は学校の判断により、迅速に調査に着手することが必要とされています。
こちらは「不登校重大事態」と称されます。
また、児童生徒や保護者から、いじめにより重大な被害が生じたという申立てがあったときは、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たります。
児童生徒又は保護者からの申立ては、学校が把握していない極めて重要な情報である可能性があることから、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないと断言できないことに留意することが大切です。
重大事態の報告
調査の趣旨及び調査主体について
調査結果の提供及び報告
この情報の提供に当たっては、適時・適切な方法で、経過報告があることが望ましいです。
これらの情報の提供に当たっては、学校の設置者又は学校は、他の児童生徒のプライバシー保護に配慮するなど、関係者の個人情報に十分配慮し、適切に提供します。
ただし、いたずらに個人情報保護を盾に説明を怠るようなことがあってはなりません。
いじめの重大事態の調査に関するガイドライン
こちらでは重大事態の調査に関して詳しくまとめてあります。
内容については、本問に関係がありそうな箇所を抜き出していきましょう。
【学校の設置者及び学校の基本的姿勢】
被害児童生徒・保護者が詳細な調査や事案の公表を望まない場合であっても、学校の設置者及び学校が、可能な限り自らの対応を振り返り、検証することは必要となります。
それが再発防止につながり、又は新たな事実が明らかになる可能性もあります。
このため、決して、被害児童生徒・保護者が望まないことを理由として、自らの対応を検証することを怠ってはなりません。
重大事態の調査は、被害児童生徒・保護者が希望する場合は、調査の実施自体や調査結果を外部に対して明らかにしないまま行うことも可能であり、学校の設置者及び学校は、被害児童生徒・保護者の意向を的確に把握し、調査方法を工夫しながら調査を進めること。
決して、安易に、重大事態として取り扱わないことを選択するようなことがあってはならないのです。
【重大事態として早期対応しなかったことにより生じる影響】
重大事態については、いじめが早期に解決しなかったことにより、被害が深刻化した結果であるケースが多いので、「疑い」が生じてもなお、学校が速やかに対応しなければ、いじめの行為がより一層エスカレートし、被害が更に深刻化する可能性があります。
最悪の場合、取り返しのつかない事態に発展することも想定されるため、学校の設置者及び学校は、重大事態への対応の重要性を改めて認識することが重要です。
被害児童生徒や保護者から、「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったとき(人間関係が原因で心身の異常や変化を訴える申立て等の「いじめ」という言葉を使わない場合を含む)は、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たる必要があります。
児童生徒や保護者からの申立ては、学校が知り得ない極めて重要な情報である可能性があることから、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないとは断言できないことに留意すること。
【被害児童生徒・保護者等に対する調査方針の説明等】
「いじめはなかった」などと断定的に説明してはならないこと。
※詳細な調査を実施していない段階で、過去の定期的なアンケート調査を基に「いじめはなかった」、「学校に責任はない」旨の発言をしてはならない。
事案発生後、詳細な調査を実施するまでもなく、学校の設置者・学校の不適切な対応により被害児童生徒や保護者を深く傷つける結果となったことが明らかである場合は、学校の設置者・学校は、詳細な調査の結果を待たずして、速やかに被害児童生徒・保護者に当該対応の不備について説明し、謝罪等を行うこと。
これら以外にも説明時の細やかな内容などが示されております。
ちょっと量が多いですけど、一読しておくことは大切だと思います。
選択肢の解説
①被害児童生徒・保護者が詳細な調査を望まない場合であっても、調査を行う。
上記で挙げた「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」にこちらについては定められております。
被害児童生徒・保護者が詳細な調査や事案の公表を望まない場合であっても、学校の設置者及び学校が、可能な限り自らの対応を振り返り、検証することは必要となります。
それが再発防止につながり、又は新たな事実が明らかになる可能性もあります。
このため、決して、被害児童生徒・保護者が望まないことを理由として、自らの対応を検証することを怠ってはなりません。
重大事態の調査は、被害児童生徒・保護者が希望する場合は、調査の実施自体や調査結果を外部に対して明らかにしないまま行うことも可能であり、学校の設置者及び学校は、被害児童生徒・保護者の意向を的確に把握し、調査方法を工夫しながら調査を進めること。
決して、安易に、重大事態として取り扱わないことを選択するようなことがあってはならないのです。
以上より、選択肢①が適切と判断できます。
②重大事態の調査を行った場合は、調査を実施したことや調査結果を社会に公表する。
法第28条第2項には「学校の設置者又はその設置する学校は、前項の規定による調査を行ったときは、当該調査に係るいじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等その他の必要な情報を適切に提供するものとする」とあります。
すなわち、調査報告は「社会」ではなく「いじめを受けた児童等及びその保護者」に対して行われるものです。
もちろんその方法に配慮や種々の留意すべき事項があるのは既に述べたとおりです。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③「疑い」が生じた段階ではなく、事実関係が確定した段階で重大事態としての対応を開始する。
法第28条の重大事態と見なすための条項には「~疑いがあると認めるとき」とあります。
- いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
- いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
これは選択肢にあるような「事実関係が確定した段階」ではなく、それが「疑われる段階」で重大事態として認定し、対応することが規定されているということです。
児童生徒や保護者から、いじめにより重大な被害が生じたという申立てがあったときは、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たります。
児童生徒又は保護者からの申立ては、学校が把握していない極めて重要な情報である可能性があることから、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないと断言できないことに留意することが大切です。
重大事態については、いじめが早期に解決しなかったことにより、被害が深刻化した結果であるケースが多いので、「疑い」が生じてもなお、学校が速やかに対応しなければ、いじめの行為がより一層エスカレートし、被害が更に深刻化する可能性があります。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
④児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるときに限り、重大事態として対応する。
こちらは法第28条第1項に関してになります。
こちらでは重大事態になり得る状況を以下のように規定しています。
- いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき。
- いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき。
上記の通り、重大事態と見なすには第2号、すなわち「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」でも認定する必要があります。
なお、条項にある「相当の期間」については、不登校の定義を踏まえ年間30日を目安とされています。
ただし、児童生徒が一定期間、連続して欠席しているような場合には、上記目安にかかわらず、学校の設置者又は学校の判断により、迅速に調査に着手することが必要とされています。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤保護者から、いじめという表現ではなく人間関係で心身に変調を来たしたという訴えがあった場合は、安易に重大事態として対応しない。
上記で挙げた「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」にこちらについては定められております。
被害児童生徒や保護者から、「いじめにより重大な被害が生じた」という申立てがあったとき(人間関係が原因で心身の異常や変化を訴える申立て等の「いじめ」という言葉を使わない場合を含む)は、その時点で学校が「いじめの結果ではない」あるいは「重大事態とはいえない」と考えたとしても、重大事態が発生したものとして報告・調査等に当たる必要があります。
児童生徒や保護者からの申立ては、学校が知り得ない極めて重要な情報である可能性があることから、調査をしないまま、いじめの重大事態ではないとは断言できないことに留意すること。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。