小学校6年生男児の事例ですね。
事例の内容からもっとも当てはまると思われる選択肢を選ぶ問題です。
この問題で強く感じたのは「診断名が付くには、明確な基準がある」ということです。
(当たり前といえば当たり前ですが)
一方、学校現場で使うような状態像を示す言葉は、大まかな子どもの状態を説明するために用いられることが多いため、そこまで厳密ではないという特徴を感じました。
この違いが、この問題を解く上で重要になった気がします。
事例の内容は以下の通りです。
- 授業中ボンヤリしていることが多く、学習に対して意欲的な様子を見せない。
- 指示をしない限り板書をノートに写すことはせず、学習全般に対して受動的。
- 常に学習内容の理解は不十分で、テストの点数も低い。
- 教師に対して反抗的な態度を示すことはない。
- 授業中に落ち着かなかったり立ち歩いたりはしない。
- クラスメイトとの人間関係にも問題はなく、休み時間は楽しそうにしている。
- 知能指数は標準的。
- 言語の遅れもなく、コミュニケーションにも支障はない。
- 読み書きや計算の能力にも問題はない。
これらを念頭に置きつつ、選択肢の検証を行っていきます。
解答のポイント
どういった状態を「学業不振」と呼ぶかを理解していること。
発達障害群の各障害の有無を、事例内容と結びながら判断できること。
選択肢の解説
『②学習障害』
学習障害の診断基準を挙げつつ、検証していきます(DSM-5を使います)。
- 不的確または速度が遅く、努力を要する読字
- 読んでいるものの意味を理解することの困難さ
- 綴字の困難さ
- 書字表出の困難さ
- 数字の概念、数値、または計算を習得することの困難さ
- 数学的推論の困難さ
これらについては「読み書きや計算の能力にも問題はない」とされているので該当しません。
それ以外にも、日常生活活動の障害は見当たらない等、学習障害の診断基準を満たすようなところは見当たりません。
よく言われる「勉強ができないけど、知的には問題がない」という点は当てはまりますが、それイコール学習障害と言えるわけではありません。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
『③発達障害』
まずはDSM-5の「神経発達症群/神経発達障害群」を考えていきます。
上記障害群の各群に事例が当てはまるかを考えていく必要があります。
- 知的能力障害群
→事例に「知能指数は標準的」とされているので除外。 - コミュニケーション症群/コミュニケーション障害群
→事例に「クラスメイトとの人間関係にも問題はなく、休み時間は楽しそうにしている」「言語の遅れもなく、コミュニケーションにも支障はない」とされているので除外。 - 自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
→まず基準Aの社会的コミュニケーションについては上記の通りなので除外。
→基準Bの行動、興味、活動の限定された様式については、それらしい記述がみられないので除外。 - 注意欠如・多動症/注意欠如・多動性障害
→事例に「授業中に落ち着かなかったり立ち歩いたりはしない」とあるので除外。 - 限局性学習症/限局性学習障害
→選択肢②にて除外済み。 - 運動症群/運動障害群
→事例にそれらしい記述がみられないので除外。
事例内容に書いてないものは、そういった所見が無いものとして扱います。
(書いてないものを「ある」と考えたら、事例問題自体が成り立たなくなりますので)
また、文部科学省によって定められている学習障害ではICD-10のF8およびF9が入ってきます。
その中には、行為障害、愛着障害などの記述もありますが、前者は「教師に対して反抗的な態度を示すことはない」によって除外、後者は記述がみられないので除外します。
以上より、選択肢③は不適切と判断できます。
『④学級不適応』
学級不適応とは、学級における様々な場面への適応の困難さを示すものを指し、集団への不適応、学業不振も含めた広い概念です。
文部科学省から「学校不適応対策調査研究協力者会議報告(概要)」が出されていますが、主に不登校を指して使用されている印象が強い言葉です。
(明確に「学級不適応」の定義を見つけられないでいますが…)
事例では、「クラスメイトとの人間関係にも問題はなく、休み時間は楽しそうにしている」とあること、登校はしていることが窺えることなどから、学級不適応と判断するには情報が不足している印象です。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
『⑤モラトリアム』
エリクソンの示した青年期の課題に関連する用語です。
アイデンティティの混乱を示すこの時期に、社会は通常、青少年が「自分自身を見つける」ために猶予を与えるので、この状態を「モラトリアム(moratorium)」と呼びます。
事例はこの段階にかかるギリギリ境界線という年齢なので、年齢によって除外することは避けておきます。
しかし、上記のようなアイデンティティの混乱を示す記述がみられないことなどから、除外することができると思われます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。
『①学業不振』
学業不振児とは、広義には学力の低い子どもを指すが、狭義には潜在的能力に見合うだけの学力を示していない子ども(アンダーアチーバー)を指します。
潜在的能力が低いために学力が低い学業遅滞児と概念的に区別されます。
学業不振の原因としては以下がその例として挙げられます。
- 身体的要因:視覚障害、心臓病等で十分に授業が受けられない。
- 性格的要因:神経質、情緒不安定などで集団学習が困難。
- 家庭的要因:両親の離婚、貧困等のため、物理的・精神的に学習に支障をきたす。
- 学校要因:学級運営、教師との関係などに問題があるため。
こうした諸原因に応じて教育、治療、環境改善により克服していくことが必要となります。
事例Aについてすでに述べたように、発達的な問題を確定させるような情報はありません。
そして上記には学業不振児の原因となりうるものを示しましたが、こうした原因がわからないと「学業不振」と呼べないわけではありません。
あくまでも「能力に見合った学力を示していない子ども」を「学業不振児」と呼ぶことを考えると、事例Aは「学業不振」の状態と捉えて問題ないと思われます。
よって、選択肢①が適切と判断できます。