9歳の男児A、小学3年生の事例です。
事例の内容は以下の通りです。
- Aは、小学校から学校で落ち着きがない様子が見られた。
- 担任教師がサポートしながら学校生活を送っていたが、学年が進むとささいなことで感情が高ぶったり教室の中で暴れたりするようになった。
- Aの学業成績はクラスの中で平均的であった。
- スクールカウンセラーとAの母親が継続面接を行い、Aには個別の指導が必要であると判断した。
挙げられた機関の役割について、しっかりと把握しておきましょう。
機関によっては「受け付けられないことはない」というところもありますから、その意味で「最も適切なものを選ぶ」という問題形式を採用することが適切な問題と言えますね。
機関には根拠となっている法律等がありますから、そちらも併せて押さえておきたいところです。
解答のポイント
各機関の役割と事例に必要な支援とのマッチングの適否を判断できること。
選択肢の解説
『①児童相談所』
児童相談所の主な機能として、やはり虐待対応が挙げられます。
法律的には児童福祉法第11条第1項および第2項の業務が中心になります。
- 第十条第一項各号に掲げる市町村の業務の実施に関し、市町村相互間の連絡調整、市町村に対する情報の提供、市町村職員の研修その他必要な援助を行うこと及びこれらに付随する業務を行うこと。
- 児童及び妊産婦の福祉に関し、主として次に掲げる業務を行うこと。
イ 各市町村の区域を超えた広域的な見地から、実情の把握に努めること。
ロ 児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応ずること。
ハ 児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行うこと。
ニ 児童及びその保護者につき、ハの調査又は判定に基づいて心理又は児童の健康及び心身の発達に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導その他必要な指導を行うこと。
ホ 児童の一時保護を行うこと。
ヘ 里親に関する次に掲げる業務を行うこと(略)。
ト 養子縁組により養子となる児童、その父母及び当該養子となる児童の養親となる者、養子縁組により養子となつた児童、その養親となつた者及び当該養子となつた児童の父母その他の児童を養子とする養子縁組に関する者につき、その相談に応じ、必要な情報の提供、助言その他の援助を行うこと。
より詳しい内容は、厚生労働省のページにも記載がありますので参考にしましょう。
さて事例ですが、福祉的支援が必要な情報は現在のところ見当たりません。
もちろん、児童全般に関する相談を受け付けるのが児童相談所ですから、連絡をすれば対応はしてくれると思います。
しかし、現在の事例の内容からは教育的支援の重要性について述べられており、福祉的支援の必要性については見受けられません。
例えば、本事例Aの「ささいなことで感情が高ぶったり教室の中で暴れたりするようになった」ということが、両親からの不適切な養育によって生じていると判断できるなら児童相談所を利用することも考えねばなりません。
しかし「スクールカウンセラーとAの母親が継続面接を行い」とあることからも、その可能性は低いと考えてよいでしょう。
以上より、選択肢①は適切と言えないと判断できます。
『②教育支援センター』
教育支援センターについては、文部科学省の「教育支援センター(適応指導教室)整備指針(試案)」に記載があります。
それによると、その目的は「センターは、不登校児童生徒の集団生活への適応、情緒の安定、基礎学力の補充、基本的生活習慣の改善等のための相談・適応指導(学習指導を含む)を行うことにより、その学校復帰を支援し、もって不登校児童生徒の社会的自立に資することを基本とする」とされています。
不登校児童生徒等に対する指導を行うために教育委員会及び首長部局が、教育センター等学校以外の場所や学校の余裕教室等において、学校生活への復帰を支援するため、児童生徒の在籍校と連携をとりつつ、個別カウンセリング、集団での指導、教科指導等を組織的、計画的に行う組織として設置された機関ということになります。
教育支援センターは通所希望者に対する支援だけでなく、通所を希望しない者への訪問型支援、コンサルテーションの担当など、不登校児童生徒への支援の中核となることが期待されています。
上記の通り、教育支援センターは不登校児童生徒等への支援が目的となっており、事例Aはその枠組みと合致しないことがわかります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
『③児童自立支援施設』
児童自立支援施設の根拠法は、児童福祉法第44条になります。
「児童自立支援施設は、不良行為をなし、又はなすおそれのある児童及び家庭環境その他の環境上の理由により生活指導等を要する児童を入所させ、又は保護者の下から通わせて、個々の児童の状況に応じて必要な指導を行い、その自立を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする」
入所経路は児童相談所の措置によるもの(児童福祉法27条1項3号)や、家庭裁判所での審判の結果、保護処分として児童自立支援施設に送致される場合(少年法24条1項2号)などがあります。
事例Aは上記の枠組みに合致しないことは明らかです。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
『④児童家庭支援センター』
児童家庭支援センターの根拠法は、児童福祉法第44条の2になります。
「児童家庭支援センターは、地域の児童の福祉に関する各般の問題につき、児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応じ、必要な助言を行うとともに、市町村の求めに応じ、技術的助言その他必要な援助を行うほか、第二十六条第一項第二号及び第二十七条第一項第二号の規定による指導を行い、あわせて児童相談所、児童福祉施設等との連絡調整その他厚生労働省令の定める援助を総合的に行うことを目的とする施設とする」
上記の「第二十六条第一項第二号及び第二十七条第一項第二号の規定」については、基本的に児童虐待に関する内容となっています。
そもそも児童家庭支援センターは、児童虐待の増加によって児童相談所が手一杯の状態になり、地域の相談を受け付ける機関として設立されたという面もあります。
また児童相談所は虐待対応だけが役割ではなく、児童福祉に関する様々な相談を受け付けています。
しかし、実際には緊急性のない事例に細やかに対応するほどのゆとりは皆無に等しく、そういった相談を地域で受けてもらうための機関として児童家庭支援センターがあるわけです。
児童家庭支援センターは、児童養護施設に併設されていることが多いです。
児童家庭支援センターの動き方については、そこに勤めているケースワーカーによってかなり異なります。
事例に戻ると、事例Aは上記のような枠組みではないことがわかります。
もちろん、受け付けられないことはないのですが、やはりAの問題に一番合致している機関とは言い難いでしょう。
以上より、選択肢④は適切とは言えないと判断できます。
『⑤通級指導教室(通級による指導)』
通級による指導は学校教育法施行規則第140条に規定があります。
「小学校、中学校若しくは義務教育学校又は中等教育学校の前期課程において、次の各号のいずれかに該当する児童又は生徒(特別支援学級の児童及び生徒を除く)のうち当該障害に応じた特別の指導を行う必要があるものを教育する場合には、文部科学大臣が別に定めるところにより、第五十条第一項、第五十一条、第五十二条、第五十二条の三、第七十二条、第七十三条、第七十四条、第七十四条の三、第七十六条、第七十九条の五及び第百七条の規定にかかわらず、特別の教育課程によることができる」
ちなみに次条の141条には「他校通級」について定められています。
上記の「各号」は以下の通りです。
- 言語障害者
- 自閉症者
- 情緒障害者
- 弱視者
- 難聴者
- 学習障害者
- 注意欠陥多動性障害者
- その他障害のある者で、この条の規定により特別の教育課程による教育を行うことが適当なもの
こうした問題や課題のある児童生徒に通級による指導を行うことができることが定められています。
上記のような条項を基本とし、文部科学省は「障害のある児童生徒等に対する早期からの一貫した支援について(通知)」の中で通級による指導について細やかに規定しています。
- 学校教育法施行規則第140条及び第141条の規定に基づき通級による指導を行う場合には、以下の各号に掲げる障害の種類及び程度の児童生徒のうち、その者の障害の状態、その者の教育上必要な支援の内容、地域における教育の体制の整備の状況その他の事情を勘案して、通級による指導を受けることが適当であると認める者を対象として、適切な教育を行うこと。
- 障害の判断に当たっては、障害のある児童生徒に対する教育の経験のある教員等による観察・検査、専門医による診断等に基づき教育学、医学、心理学等の観点から総合的かつ慎重に行うこと。その際、通級による指導の特質に鑑み、個々の児童生徒について、通常の学級での適応性,通級による指導に要する適正な時間等を十分考慮すること。
上記からもわかるとおり、通級による指導が適当か否かの判断は医学的な診断だけに基づくのではなく「障害のある児童生徒に対する教育の経験のある教員等による観察・検査」を一番最初にもってきています。
教育の枠組みで「大変かどうか」ということが重要ということですね。
医学的な診断がつかなくても、大変な人はやはりおりますから。
また、上記の通知の中には「通級による指導を受けることが適当な児童生徒の指導に当たっての留意事項」が以下の通り定められています。
- 学校教育法施行規則第140条の規定に基づき、通級による指導における特別の教育課程の編成,授業時数については平成5年文部省告示第7号により別に定められていること。同条の規定により特別の教育課程を編成して指導を行う場合には、特別支援学校小学部・中学部学習指導要領を参考として実施すること。
- 通級による指導を受ける児童生徒の成長の状況を総合的にとらえるため、指導要録において、通級による指導を受ける学校名、通級による指導の授業時数、指導期間、指導内容や結果等を記入すること。他の学校の児童生徒に対し通級による指導を行う学校においては、適切な指導を行う上で必要な範囲で通級による指導の記録を作成すること。
- 通級による指導の実施に当たっては、通級による指導の担当教員が、児童生徒の在籍学級(他の学校で通級による指導を受ける場合にあっては、在学している学校の在籍学級)の担任教員との間で定期的な情報交換を行ったり、助言を行ったりする等、両者の連携協力が図られるよう十分に配慮すること。
- 通級による指導を担当する教員は、基本的には、この通知に示されたうちの一の障害の種類に該当する児童生徒を指導することとなるが、当該教員が有する専門性や指導方法の類似性等に応じて、当該障害の種類とは異なる障害の種類に該当する児童生徒を指導することができること。
- 通級による指導を行うに際しては、必要に応じ、校長、教頭、特別支援教育コーディネーター、担任教員、その他必要と思われる者で構成する校内委員会において、その必要性を検討するとともに、各都道府県教育委員会等に設けられた専門家チームや巡回相談等を活用すること。
- 通級による指導の対象とするか否かの判断に当たっては、医学的な診断の有無のみにとらわれることのないよう留意し、総合的な見地から判断すること。
- 学習障害又は注意欠陥多動性障害の児童生徒については、通級による指導の対象とするまでもなく、通常の学級における教員の適切な配慮やティーム・ティーチングの活用、学習内容の習熟の程度に応じた指導の工夫等により、対応することが適切である者も多くみられることに十分留意すること。
こちらでも医学的な診断の有無に左右されないように、という留意をわざわざ示しています。
通級による指導は、普通学級と特別支援学級の間に位置するようなイメージと見てよいでしょう。
普通学級と特別支援学級だけの場合、特別支援で教育を受けるなら措置替えをしなければなりません。
教育委員会の会議にかけ、医学的診断を要すなど、かなりの手続きが必要になります。
一方、通級による指導はこうした措置替えが不要で、普通学級に在籍しながら必要な指導を受けられるという良さがあります。
従来の特別支援学級の枠組み(いわゆる5障害)に当てはまらない児童生徒が増加したことで「通級による指導」がなされるようになりました。
合理的配慮の一環とも言えますね。
事例では、「学業成績は平均的」といった学業上の支援の必要性は薄そうである一方で、「ささいなことで感情が高ぶったり教室の中で暴れたりするようになった」とあり、この点で何かしらの支援が必要であると思われます。
事例Aに一番疑われるのはADHDですが、上記の規定の中で「注意欠陥多動性障害の児童生徒については、通級による指導の対象とするまでもなく、通常の学級における教員の適切な配慮やティーム・ティーチングの活用、学習内容の習熟の程度に応じた指導の工夫等により、対応することが適切である者も多くみられることに十分留意すること」とあります。
これは「落ち着かない」という状態は通常学級で対応できる可能性もあることを示唆していますが、事例にある「スクールカウンセラーとAの母親が継続面接を行い、Aには個別の指導が必要であると判断した」という点から、熟考の末の判断であると見なすことが自然であり、通級による指導を妨げることにはならないでしょう。
これらの点から、Aが利用する機関として通級による指導は第一選択になると言えるでしょう。
よって、選択肢⑤が最も適切と判断できます。