公認心理師 2024-40

母子生活支援施設に関する問題です。

各児童福祉施設の特徴をしっかりと掴んでおきましょう。

問40 母子生活支援施設について、不適切なものを1つ選べ。
① 母子を保護し、自立の促進に向けた取り組みを行う。
② 入所に至る経緯は、児童相談所による措置が大半を占める。
③ DV等の被害者を一時保護する委託施設としての役割がある。
④ 母子で一緒に暮らすことのできる唯一の児童福祉施設である。
⑤ 離婚が未成立でも、実質的に母子家庭であれば利用可能である。

選択肢の解説

② 入所に至る経緯は、児童相談所による措置が大半を占める。
④ 母子で一緒に暮らすことのできる唯一の児童福祉施設である。

「母子生活支援施設」は、1998(平成10)年に「母子寮」から名称が変更されました。

「母子寮」は、大正期からその萌芽を見ることができますが、法律上に位置づけられたのは、世界大恐慌(1929年)後の社会不安の中、1932年に施行された「救護法」によるものです。

その後母子寮は、1938年、厚生省の設置と同年に施行された「母子保護法」により規定され、その数が増加してきました。

第二次世界大戦後、混乱する社会の中で、着の身着のままで荒廃の中をさまよう母子の保護が、社会的に大きな課題となりました。

当時は戦争で住宅を失ったり、夫の戦災死による死別母子家庭が圧倒的に多い状況の中、「屋根、寝る場所と住む場所を」と、戦争によって夫を失い、家を失い、家族を失った、切実な課題を抱えた母子に対して支援を行ってきました。母子寮は、戦後の母子家庭対策として大きな役割を担ってきたのです。

高度経済成長の時代に入ると、母子家庭にも変化が生じてきて、母子家庭になった理由も「死別母子家庭」から、離婚などを理由とする「生別母子家庭」が増加しました。

それにあわせて母子寮を利用される母子家庭も、住居課題から、複雑で多様な生活課題を理由とする母子の利用が増加します。

核家族化の進展の中で、「夫の失業」「サラ金対策支援」と、母子家庭をめぐる経済・就労課題が生じてきます。

また現在では心理的課題、ドメスティック・バイオレンス(DV)被害や児童虐待、外国人の母子の問題など、多様な背景が重なってきています。

このような利用者の変化をふまえ、社会福祉基礎構造改革の流れの中で1998年に改正された児童福祉法では、児童福祉全般の見直しの中で、「母子寮」の名称を「母子生活支援施設」に改称することとなりました。

つまりすべての母子生活支援施設が、母子の「保護」から、「保護するとともに、生活を支援する」という役割の変化を担うこととなったのです。

また、2004年の児童福祉法改正により、母子生活支援施設は「退所した者について相談及びその他の援助を行うことを目的とする」として、利用者の退所後の支援を行うことが位置づけられました。

このように、母子生活支援施設は、児童福祉法において定められた児童福祉施設です。

児童福祉法によれば、児童福祉施設とは、助産施設、乳児院、母子生活支援施設、保育所、幼保連携型認定こども園、児童厚生施設、児童養護施設、障害児入所施設、児童発達支援センター、情緒障害児短期治療施設、児童自立支援施設及び児童家庭支援センターとされています(児童福祉法第7条)。

各施設についてざっくりと概要を述べると以下の通りです。

  • 助産施設:保健上必要があるにもかかわらず、経済的な理由により入院助産を受けることが難しい妊産婦が入院し、助産を受けることができる施設
  • 乳児院:保護者の養育を受けられない乳幼児を養育する施設
  • 母子生活支援施設:離婚やDVなどさまざまな理由により生活困窮に陥った母子を保護し、自立に向けた生活支援をおこなう施設
  • 保育所:保護者が働いているなどの何らかの理由によって保育を必要とする乳幼児を預かり、保育することを目的とする通所の施設
  • 幼保連携型認定こども園:児童福祉施設(保育所機能)と学校施設(幼稚園機能)を併せ持つ施設。
  • 児童厚生施設:児童に健全な遊びを与えて、その健全育成を図る目的で設置された施設で、児童遊園、児童館などがある。
  • 児童養護施設:保護者のいない子どもや虐待されている子どもなどを自立まで養護する施設
  • 障害児入所施設:障害のある児童を入所させて、保護、日常生活の指導及び自活に必要な知識や技能の付与を行う施設
  • 児童発達支援センター:地域の障害児支援の中心となって療育を提供したり、関係機関と連携をとって地域内の障害児たちやその家族に対する支援を行なったり、地域内の事業所に対して支援を行なったり、居宅訪問型児童発達支援などの訪問サービスを提供する施設。
  • 情緒障害児短期治療施設:心理的問題を抱え、社会生活への適応が困難な満20歳未満の子どもたちを対象として短期間の入所を行ったり、保護者の元から通所し、医療的な視点から、生活支援や心理治療を行う。
  • 児童自立支援施設:不良行為をする恐れのある「虞犯傾向」と言われる子どもたちが入所、または通所しながら自立を目指す施設。
  • 児童家庭支援センター:地域の児童の福祉に関する各般の問題につき、児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応じ、必要な助言を行うとともに、市町村の求めに応じ、技術的助言その他必要な援助を行うほか、保護を要する児童又はその保護者に対する指導を行い、あわせて児童相談所、児童福祉施設等との連絡調整等を総合的に行い、地域の児童、家庭の福祉の向上を図ることを目的とした施設。

上記の説明からもわかる通り、この中で母子で一緒に暮らすことのできるのは「母子生活支援施設」のみということになります。

母子生活支援施設の利用は通常、福祉事務所からの紹介という形で行われます(こちらの資料などでも示されていますね)。

入所が必要な世帯に迅速に正しい情報が提供され、施設利用に円滑につながる事は、入所前の不安を軽減し、入所後の自立支援につながる上で大変重要な要素となります。

所管する福祉事務所だけではなく、近隣の市町村やこれまでに広域措置が実施された地域の福祉事務所、都道府県の所管課などにパンフレットを配布し積極的に情報提供を行うことが大切です。

児童相談所との絡みとしては、母子生活支援施設への入所時、きょうだいが乳児院や児童養護施設等に入所しているケースについて、早期の再統合を目指した家族関係の調整を児童相談所と連携して実施しています。

また、母子生活支援施設を利用する場合、子どもが虐待を受けている割合は非常に高いため、児童相談所との連携は重要になってきますね(この辺の資料も参考になります。)。

上記の通り、選択肢④は適切と判断でき、除外することになります。

また、選択肢②が不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

① 母子を保護し、自立の促進に向けた取り組みを行う。
③ DV等の被害者を一時保護する委託施設としての役割がある。
⑤ 離婚が未成立でも、実質的に母子家庭であれば利用可能である。

まず母子生活支援施設は、児童福祉法第38条に基づいた施設になっています。


第三十八条 母子生活支援施設は、配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設とする。


配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援することを目的とする施設です。

ざっくりいうと、18歳未満の子どもを育てている母子家庭や、何かの事情で離婚届けができていないけれど実質、母子家庭となっている母親と子どもが一緒に暮らすところです。

この「何かの事情で離婚届けができていないけれど実質、母子家庭となっている母親と子ども」という表現からもわかる通り、母子の多くは家庭内での暴力やトラブルなど、様々な事情により生活が立ち行かなくなって入所となります。

ここでDV防止法を見ていきましょう。


(配偶者暴力相談支援センター)
第三条 都道府県は、当該都道府県が設置する女性相談支援センターその他の適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするものとする。
2 市町村は、当該市町村が設置する適切な施設において、当該各施設が配偶者暴力相談支援センターとしての機能を果たすようにするよう努めるものとする。
3 配偶者暴力相談支援センターは、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護のため、次に掲げる業務を行うものとする。
一 被害者に関する各般の問題について、相談に応ずること又は女性相談支援員若しくは相談を行う機関を紹介すること。
二 被害者の心身の健康を回復させるため、医学的又は心理学的な指導その他の必要な指導を行うこと。
三 被害者(被害者がその家族を同伴する場合にあっては、被害者及びその同伴する家族。次号、第六号、第五条、第八条の三及び第九条において同じ。)の緊急時における安全の確保及び一時保護を行うこと。
四 被害者が自立して生活することを促進するため、就業の促進、住宅の確保、援護等に関する制度の利用等について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。
五 第四章に定める保護命令の制度の利用について、情報の提供、助言、関係機関への連絡その他の援助を行うこと。
六 被害者を居住させ保護する施設の利用について、情報の提供、助言、関係機関との連絡調整その他の援助を行うこと。
4 前項第三号の一時保護は、女性相談支援センターが、自ら行い、又は厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行うものとする。
5 前項の規定による委託を受けた者若しくはその役員若しくは職員又はこれらの者であった者は、正当な理由がなく、その委託を受けた業務に関して知り得た秘密を漏らしてはならない。
6 配偶者暴力相談支援センターは、その業務を行うに当たっては、必要に応じ、配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護を図るための活動を行う民間の団体との連携に努めるものとする。


このDV防止法第3条の4に「前項第三号の一時保護は、女性相談支援センターが、自ら行い、又は厚生労働大臣が定める基準を満たす者に委託して行うものとする」とありますが、ここで定められている被害者を一時保護する委託施設としての役割が母子生活支援施設にはあります。

児童(18歳未満)及びその保護者(配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子)が対象ですが、児童が満20歳に達するまで引き続き在所させることができます。

母子生活支援施設においては、母子を保護するとともに、その自立を促進するため個々の母子の家庭生活及び稼動の状況に応じ、就労、家庭生活及び児童の教育に関する相談及び助言を行う等の支援を行っています。

各母子世帯の居室のほかに集会・学習室等があり、母子支援員、少年指導員等の職員が配置されています。

これらを踏まえれば、母子生活支援施設は「母子を保護し、自立の促進に向けた取り組みを行う」施設であり、「離婚が未成立でも、実質的に母子家庭であれば利用可能」です。

DV加害者とトラブルになり、すんなりと離婚できないことも多いですし、離婚未成立でも利用できることが重要になるわけです。

また、DV防止法で定められている通り、DV等の被害者を一時保護する委託施設としての役割もありますね。

よって、選択肢①、選択肢③および選択肢⑤は適切と判断でき、除外することになります。

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