公認心理師 2024-35

高齢者支援における公認心理師の業務に関する問題です。

こういう問題って簡単なようで、明確な根拠が示しづらくて意外と解説が難しいです。

問35 高齢者支援における公認心理師の業務として、不適切なものを1つ選べ。
① BPSDのアセスメント
② GDSによるアセスメント
③ パーソンセンタード・ケアの実践
④ リアリティ・オリエンテーションの実施
⑤ ケアプラン(介護サービス計画書)の作成

選択肢の解説

⑤ ケアプラン(介護サービス計画書)の作成

ケアプラン原案の作成は、介護サービスを利用するための手続きに含まれています。

介護サービスを利用するためには、市町村(保険者)に申請して要介護・要支援認定を受けなくてはなりません。

給付資格の要件を認めてもらって初めて、サービスの利用が可能になるということです。

要介護・要支援認定とケアプランの作成、特に在宅の場合の大まかな流れは以下の図をご参照ください。

申請からの流れを順を追って説明していきます。

申請をすると、市町村から職員などが訪問し、定められた様式の調査が行われ、調査票をもとにコンピュータによる1次判定結果が出されます。

それと、あらかじめ提出されている主治医意見書の資料を参考にして、保険者が設定した介護認定審査会で2次判定が出されるという仕組みになっています。

ここでは「要支援」の1~2から「要介護」の1~5までの7段階で認定されます。

介護度ごとに、在宅サービスで利用できる給付の上限が設けられております。

施設サービスに関しては「要介護1」以上でないと利用することができません。

「要支援1~2」の認定を受ける人は、地域包括支援センターが介護予防ケアマネジメントを行います。

そこで予防プランの作成をして介護予防サービスを受けることになります。

認定を受けた後に、サービス計画をもとに必要なサービスを利用します。

利用計画は利用者自身で作成することもできますが、多くはケアマネージャーに作成を依頼することになります(自己負担はありません)。

利用者から介護サービス計画(ケアプラン)の作成、サービスの選定・調整依頼を受けるところから、ケアマネージャーによるケアマネジメント(居宅介護支援)が始まります。

介護保険制度は、都道府県に認定されたケアマナージャーが利用者のニーズに即したサービスの選定・調整を行うところに特徴があります。

依頼を受けたケアマネージャーは、利用者の状態把握をアセスメント表を用いて行います。
状態把握から、課題分析を行ってケアプランを作成します。

ケアプランの書類で、利用者のニーズ(生活上、解決を要する課題)や、長期・短期目標、サービス内容、サービス提供の頻度、サービス担当者などが明らかにされます。

それとともに総合的な支援方針や、週間サービス、日課も書類化されます。

同時に、利用者にかかわるサービス担当者を収集してケアカンファレンスを開き、ケアプランについての意見を交換します。

その積には、利用者・家族が同席することが望ましいとされています。

作成されたケアプランは、利用者に説明した後、同意を得て初めてサービス利用に結びつきます。

提供されたサービスについて、ケアマネージャーが、利用者・家族の満足・苦情、またサービス提供者の意見などを定期的に聴取し、同時にケアプランに策定してあるニーズや目標に照らし合わせて、その達成状態を把握、サービス内容を評価し、必要に応じて調整をしていくことになります。

これらの状態把握に基づくケアプランの作成から、サービス提供、評価に至る過程を「ケアマネジメント」と呼びます。

さて、ここからは別個に「ケアマネージャー」について詳しく述べていきます。

ケアマネージャー(介護支援専門員)とは、介護保険法法第7条第5項において「要介護者又は要支援者からの相談に応じ、及び要介護者等がその心身の状況等に応じ各種サービス事業を行う者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けたもの」と位置づけられています。

厚生労働省が出しているケアマネージャーの定義は「要介護者や要支援者からの相談に応じるとともに、要介護者や要支援者が心身の状況に応じた適切なサービスを受けられるよう、ケアプラン(介護サービス等の提供についての計画)の作成や市町村・サービス事業者・施設等との連絡調整を行う者であって、要介護者や要支援者が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識・技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けた者」となっており、ケアプランの作成はケアマネージャーが主に行うことと言えますね。

ケアマネジャーは、大別すれば、居宅におけるケアマネジャーと施設等におけるケアマネジャーに区分されます。

居宅におけるケアマネージャーは、居宅介護支援事業所(ケアマネ事業所)や介護予防支援事業所(地域包括支援センター)に配置され、要介護者や要支援者からの相談を受け、ケアプランを作成するとともに、居宅サービス事業者等との連絡調整等や、入所を要する場合の介護保険施設への紹介等を行います。

要介護者等はケアプラン作成の依頼の旨を市町村にあらかじめ届け出た上で、ケアマネジャーによって作成されたケアプランに基づき、居宅サービス等の提供を受ける場合、1割の自己負担を払うことでサービスを受けることが可能になります(現物給付化)。

以上より、ケアプランの作成は公認心理師ではなくケアマネージャーが行うものと考えられます。

既に述べた通り、ケアプランの作成がケアマネージャー(介護支援専門員)の業務と厚生労働省が示している以上、公認心理師の業務と見なすことはできませんね。

よって、選択肢⑤は公認心理師の業務として不適切と判断でき、こちらを選択することになります。

① BPSDのアセスメント
② GDSによるアセスメント
③ パーソンセンタード・ケアの実践
④ リアリティ・オリエンテーションの実施

本問の解説はちょっと難しいところがあって、その理由として、ここで挙げた選択肢が明確に「公認心理師の業務である」と明記してあるものがあるわけではないということが挙げられます。

そもそも公認心理師が「業務独占資格」ではなく、「名称独占資格」である以上、公認心理師でなくても、公認心理師の業務を行うことはできるわけです。

ですから、本問の捉え方としては「別に公認心理師が独占的に行っている業務ではないけど、公認心理師の業務だよねーとまぁ言えそうな選択肢はどれ?」という感じで良かろうと思いますし、その前提で本問を解いていくことにしましょう。

と言っても、取っ掛かりが無いと解きにくいので、ここでは公認心理師法に規定されている4つの業務をおさらいしておきましょう。


(定義)
第二条 この法律において「公認心理師」とは、第二十八条の登録を受け、公認心理師の名称を用いて、保健医療、福祉、教育その他の分野において、心理学に関する専門的知識及び技術をもって、次に掲げる行為を行うことを業とする者をいう。
一 心理に関する支援を要する者の心理状態を観察し、その結果を分析すること。
二 心理に関する支援を要する者に対し、その心理に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
三 心理に関する支援を要する者の関係者に対し、その相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うこと。
四 心の健康に関する知識の普及を図るための教育及び情報の提供を行うこと。


この4つの業務を踏まえた上で、挙げられている選択肢を見ていくことにしましょう。

選択肢①のBPSDのアセスメントと、選択肢②のGDSによるアセスメントについては、上記第1項に規定されているものと見なして問題ありません。

まずは選択肢①についてですが、認知症の症状は、中核症状とBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia〈BPSD:認知症の行動・心理症状〉とに分けることができます。

国際老年精神医学会(IPA)が、認知障害以外の障害をBPSDと一括して呼ぶことを提唱しています。

BPSDは、本人の性格や生活環境をはじめ、普段から接している人との関係などによって症状の現れ方が異なるので個人差が大きいとされています。

中核症状よりもBPSDの方が、介護者の負担感を増大させ、医療的な介入が求められる症状とされているので、BPSDの評価は認知症の治療や介護を考える上で、極めて重要と言えます。

国際老年精神医学会が2003年に提示し、日本老年精神医学会が2005年に監訳を行ったBPSDの症状については以下の通りです。

行動面活動性の障害:焦燥、不穏、多動、徘徊、不適切な行為
攻撃性:言語性、身体性
摂食障害
日内リズムの変動
睡眠と覚醒の障害
夕暮れ症候群
とくに不適切な行動
心理面焦燥、うつ、不安、感情不安定、興奮、無為
妄想:ものを盗まれる、隠されるというもの、ここは自分の家でないという
配偶者や介護者:浮気をしている、だましている
幻の同居人妄想
鏡徴候
幻覚:幻視、幻聴、幻嗅、幻触

また、これら以外にも、喚声、性的抑制欠如、不用品の溜め込み、罵り、つきまとい、弄便、失禁などが含まれます。

こうしたBPSDの存在やその程度についてアセスメントするのは、公認心理師の業務の一つと見なして問題ありません。

続いて、選択肢②についてですが、GDSは「Geriatric depression scale」の略であり老年期うつ検査になります。

うつのスクリーニング検査として世界でもっともよく使用されている検査であり、認知症や軽度認知障害に対応しており認知症患者のうつを検出できること、認知症だけでなく身体疾患があっても使用可能であることが特徴です。

回答について「はい」は0点、「いいえ」には1点で加算していき、5点以上が軽度のうつ状態(うつ傾向、うつを示唆するといった表現に分かれる)、10点以上が重度のうつ状態(単にうつ状態と表記するものもある)と解釈されます。

こうした検査の実施や解釈は、公認心理師の重要な業務の一つに挙げられています。

そして、選択肢③のパーソンセンタード・ケアの実践と、選択肢④のリアリティ・オリエンテーションの実施については、公認心理師法第2条第2項に規定されているものと見なして問題ありません。

まず選択肢③についてですが、パーソンセンタード・ケアとは、認知症をもつ人を一人の「人」として尊重し、その人の立場に立って考え、ケアを行おうとする認知症ケアの一つの考え方です。

認知症のさまざまな問題に対して、薬物で鎮静化させたり管理を図ろうという考え方が、何十年も前から日本を含め、さまざまな国で支配的でした。

イギリスの老年心理学者であるトム・キットウッドは、1980年代にイギリスで蔓延していたこのような風潮に異議を唱え、言葉が表出できなくなったり、理解力が低下したりすること自体は脳の障害によるものだが、それから起きる焦燥や興奮、意欲低下などは脳の機能低下から直接起こっているのではなく、周囲との関係性や不快などが影響しているはずであると説きました。

そしてキットウッドは、認知症が軽度な間は本人のさまざまな不快感や人間関係に考慮するのに、重度化するとそれらがなくなったかのように対応するのは、脳の機能ばかりに関心を抱きすぎているのであり、そのような文化や背景こそが問題の根本にあると考えました。

キットウッドは、認知症者のどんな異常に見える行動にも何らかの理由があると見なすことが重要であると指摘しています。

例えば、以下のようなことが挙げられます。

  • 暴力や暴言には「子ども扱いされた怒り」「そのような扱いをしないでほしいという訴え」という意味があるのかもしれない。
  • 介護を拒否するのは「誰にも迷惑をかけたくない」「自分のことを自分でやりたいという性格」があるのかもしれない。
  • 徘徊には「体調が悪いのだけど、どこにどう訴えればよいのかわからない」という状態なのかもしれない。

このようにパーソンセンタード・ケアでは、その人の問題行動の背景にある欲求を踏まえて理解していこうとします。

こうしたケアの在り様は、どちらかと言えば「考え方」も含まれており、そういう意味では公認心理師に限らず、多くの高齢者支援者が共有しているものであると言えます。

そして、もちろん、こうしたケアの実践もさまざまな職種が行っていると同時に、公認心理師の業務として挙げることも可能です。

そして選択肢④についてですが、Reality Orientation=ROは、現実検討識訓練を指し、認知機能の低下した患者が見当識などの能力を高めるために行われる方法です。

24時間型(非定型)とクラスルーム型(定型)があります。

24時間型は、日常生活のあらゆる機会に「いま」の状況を確認できるような情報によって意図的に患者に働きかけます。

「いま」の状況は日常のありふれたもので確認され、時計、日付や天気などが書かれた大きな掲示板(ORボード)、食事のにおい、包丁で材料を切る音、風の冷たさなどが用いられます。

クラスルーム型は、毎日1時間程度の集中的なセッションで24時間型の補完的役割をします。

認知症病棟などで心理師が行う場合がありますね。

いずれの方法においても、参加者に強制訓練のような印象を与えないことや自尊心を傷つけないように注意することが求められます。

こうしたリアリティ・オリエンテーションについても、高齢者支援における公認心理師の業務の一つとして挙げられるものと言えます。

パーソンセンタード・ケアもリアリティ・オリエンテーションも、他職種が行うこともあり、公認心理師が独占的に行っているものではないという認識も重要です。

支援の現場では、互いの領域が重なり合う方が自然であり、だからこそ互いに助け合ったり、協働して支援にあたることができるという面もあるのです(これが、公認心理師が「業務独占資格」ではなく「名称独占資格」であることの利点と言えるかもしれませんね)。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は公認心理師の業務と見なすことができるので、除外することになります。

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