児童相談所における判定業務に関する理解が問われています。
児童相談所で活動する職種も併せて理解しておくと良いでしょう。
問3 児童相談所において、子どもと家庭の社会診断を行う職種として、適切なものを1つ選べ。
① 児童委員
② 民生委員
③ 児童指導員
④ 児童心理司
⑤ 児童福祉司
解答のポイント
児童相談所における判定業務に関する理解を有している。
選択肢の解説
⑤ 児童福祉司
本問の解説は、厚生労働省のホームページから引用しつつ行っていきます。
児童相談所に持ち込まれる問題の効果的解決を図るには、担当者の価値観や人生観、好悪といった個人的性向を排除し、専門的な科学的知見に基づき問題の本質、性質を分析することにより、合理的・客観的見地から個々の事例について最善の援助を検討する必要があります。
この過程が診断であり、診断には児童福祉司による社会診断、心理職員(主に児童心理司)による心理診断、医師による医学診断、一時保護所の児童指導員や保育士による行動診断等があり、これら各専門職がそれぞれの診断結果を持ち寄り、協議した上で総合的見地から児童相談所としての援助方針を立てるのが「判定(総合診断)」になります。
ここでは本問で問われている「社会診断」について述べていきましょう。
社会診断の内容は以下の通りになります。
- 主訴は何か:主訴を具体的に記述する。
- 主訴の背後にある本質的問題は何か:他の種別の相談であっても、虐待状況が認められる場合もある。特に、保護者からの相談においては「遅れがある」「強情で育てにくい」「言うことを聞かない」「金品の持ち出しがある」等、子どもの性格・行動上の問題を主訴とした事例が少なくない。これら子どもの性格・行動上の問題があるため、これを治したいとの焦りから虐待している場合もある。このような事例では、保護者自身も虐待しているとの意識を持たない場合もあるので注意が必要である。また、事例によっては保護者による虐待の結果、子どもに性格上の問題や行動上の問題が現れている場合もある。いずれにしろ、主訴の背後に、むしろ援助目標をそこに置くべき本質的問題が潜んでいることも少なくないので注意する。なお、虐待が判明した場合、他のきょうだいも虐待を受けているおそれがあることにも留意する必要がある。
- 虐待の内容、頻度、危険度:家庭裁判所への審判申立てや行政不服審査等に備え、いつ誰が誰のどこをどのように叩き、その結果、どうなったのか等、具体的、客観的に記述する。そして、これらの事実から緊急に親子分離を図るべきか、在宅で経過を観察することとしてもよいのか(危険度の判断)等について記述する。この場合、そう判断した根拠を明記しておく必要がある。
- 虐待が子どもに与えていると考えられる影響:虐待によって子どもがどのような影響を受けているのか、身体的・心理的影響を具体的に記述する。
- なぜ虐待するに至ったか:虐待発生のメカニズムについて、保護者の生育歴、家族歴、性格、価値観、子どもの性格・行動、家庭や近隣との人間関係等、種々の要因との関係について社会・心理学的観点から分析を加える。
- 他の家族の虐待および虐待する保護者に対する認識、感情、態度:他の家族成員が虐待行為や虐待を加える保護者にどのような認識、感情、態度をとっているのかを記述する。このことは、虐待発生のメカニズムを分析する上で必要となるばかりでなく、援助を検討する上でも重要な資料となる。
- 家族内外におけるキーパーソンの有無:虐待を行う保護者には援助を受ける動機づけがないばかりか、拒否的な者も多い。家族内外にキーパーソンがおれば介入に当たっての仲介役や緊急時の連絡を引き受けてもらうことができ、援助や介入が円滑に運びやすくなる。キーパーソンの氏名、連絡先等を具体的に明記する。
- 社会資源の活用の可能性:経済的に困窮している場合の生活保護適用、アルコールや薬物依存の場合における保健所保健師や精神保健福祉相談員による援助、保護者の育児負担軽減のための保育所入所やショートステイの活用等、社会資源の活用が有用であると判断される場合、所管する機関との調整結果を含め当該資源の活用の可能性や制約等について明記する。
- 援助形態および援助方法:上記の情報や分析を踏まえながら、緊急保護の要否、親子分離の必要性の有無等について総合的な判断を加え、助言指導、児童福祉司指導、施設入所(施設種別)、里親委託等の援助形態を選択するとともに、その援助形態を選択した根拠を必ず明記する。面接指導を行うとした場合は援助目的や援助方法、施設入所措置を採るとした場合は、施設入所措置上の留意点や施設入所措置後の児童相談所としての援助方法等を具体的に明記し、援助指針に繋げるようにする。また、施設入所した子どもの保護者への指導については、必要に応じ児童福祉法第27条第1項第3号の措置に併せ、同法第27条第1項第2号及び児童虐待防止法第11条に基づく措置を実施する。
- 援助方針に対する子ども、保護者の意向:援助方針に対する子ども、保護者の意向を具体的に明記する。なお、子どもや家庭の状況は常に流動的であり、また、ソーシャルワーク的関与によっても変化しうるものであるから、適宜社会診断を改める必要があることは言うまでもない。
前述の通り、こうした社会診断を行うのは児童福祉司になります。
なお、児童福祉司とは、児童福祉法に基づいて各自治体(都道府県)に設置されている児童相談所に勤務する公務員です。
子どもに関する家庭等からの相談に応じ、子どもが有する問題又は子どもの真のニーズ、子どもの置かれた環境等の把握、個々の子どもや家庭に最も効果的な援助により子どもの福祉を図るとともにその権利を擁護することが目的で設置されています。
以上より、選択肢⑤が適切と判断できます。
④ 児童心理司
児童心理司とは、児童相談所において、①子ども、保護者等の相談に応じ、診断面接、心理検査、観察等によって子ども、保護者等に対し心理診断を行う、②子ども、保護者、関係者等に心理療法、カウンセリング、助言指導等の指導を行う、職員のことを指します。
児童心理司が心理診断を行う旨は、すでに述べてありますね。
以下では心理診断の内容について述べていきます。
心理診断は虐待を受けた子どもたちが、その不適切な関わりによって、発達や心理にどのような影響を受けたか、その状況について、どのように感じ、どのように受け止めているかを把握することにより、心理学的見地から、診断と予後の予測を行い、援助の方針を立てます。
1.心理診断の方法
虐待を受けてきた子どもたちの多くは、虐待によって心身共に傷ついていることが多いのに加え、児童相談所という機関で、どのようなことがどのように行われるのか、何をされるのか、不安や緊張感を抱いている。また身柄を一時保護などの形で、保護者や慣れた環境から分離されている場合は、多くの場合、虐待に加え、分離体験という大きな心理的ダメージを受けることになる。
子どもは人間関係の基本となるべき、養育者との愛情に基づく良い関係が築けず、虐待という不幸な環境で育っているため、無力感や自己防衛、周囲の大人への不信感が強い。したがって、自分の心の中を素直に表すことができない。そこで、子どもに関わった時点から「あなたが悪いのではない」「児童相談所はあなたの味方である」ことを十分に伝え、時間や回数を重ねて、子どもが安心して心の中を表すことが出来るような信頼関係を作っていかなければならない。
そのような関係を築き上げた上で、初めて子どもたちの診断が可能になる。
子どもたちが表出しにくい心の中を、的確に把握するためには面接だけではなく、行動観察や心理検査、関係者からの聴取等を行い、それぞれの結果を総合して心理診断を行う必要がある。したがって、いきなり虐待の事実を聞き出したり、即座に心理検査を行うことは却って心を閉ざすことになるので慎むべきである。
2.心理診断の内容
- 知的発達レベルとその内容
虐待を受けている子どものなかにはしばしば、「扱いにくい子」と保護者から見られている場合がある。人の言うことが理解できない、場面理解が困難、スムーズな動きが困難、落ち着きがない、人への関心が乏しい、集中力が乏しい、多動であるなどで「扱いにくい子」と見られて、虐待の対象にされる場合がある。このような場合、知的発達レベルに遅れが見られたり、アンバランスが見られたりすることが多い。また、発達上は遅れがないにもかかわらず、情緒面に問題があり能力の発揮が十分でなく、学業においても授業についていけず、知的障害が疑われる場合がある。
このような場合、保護者が子どもの発達の状況を知り、その対応方法を知ることによって虐待が軽減される場合もある。
また一方、発達の遅れやアンバランスが生来的なものではなく、虐待に起因する場合がある。したがって、行動観察や知能検査を行うだけではなく、医師との協力体制をとってそのメカニズムや状態像を明らかにすることが望ましい。 - 情緒・行動面の特徴とその心的外傷体験の程度
虐待された子どもたちは素直に甘えが表現できず、情緒面でのコントロールも悪い。また、大人の気持ちを逆撫でするような言動に出ることもある。要するに内面と外に表す行動に大きなギャップが見られる。そのため、保護者から「扱いにくい嫌な子だ」と評価され、更に虐待が繰り返されるという悪循環に陥っている場合がある。
愛情を持って育てられていないため、自分自身に対して自信が持てない、周囲の人に注目してもらうためにはどのような態度を取るべきか分からない、そのようなことから来る不安定な行動のため、周囲の人たちからも理解されず、益々嫌われ、孤立してしまいがちになる。
また、心的外傷体験に起因するものとして、不眠、食欲不振、頭痛、易疲労感等の身体症状の訴えがあったり、感情のコントロールができず、すぐに興奮したり、泣き易かったり、反対に無表情であったり、怯え、無気力、強い依存、強い緊張、乱暴な行動や、自信の欠如、集中力の欠如、対人関心の欠如などの症状等が見られたりする。
これら、虐待を受けたことによる子どもの行動の特徴や心的外傷体験による傷の深さを把握することは、援助方針、治療方針を検討する上で重要なことである。
また、これらの把握には精神科の医師との協力が欠かせない。 - 親子関係・家族関係
どのように虐待を受けていても、多くの場合、子どもたちは親の悪口は言わない。むしろ、年少の場合は、親を慕う発言が多く聞かれる。年長の場合でも親を許容したり、「自分が悪かったから」「自分のためを思ってくれている」というようにかばうような発言がきかれる。それは自分が悪いからと思い込まされていることの他に、自分が親を悪く言うことで、はかない親子の絆を断ち切ってしまうのではないか、という恐れの気持ちの表現とも考えられる。また、文章完成法テストなどで、「父は自分を大事にしてくれる」「母は優しい」等という表現が見られることがあるが、これは現実の親子関係と言うよりも、その子どもにとっての理想や願望であったりする。
この子どもにとって、親子関係はどのようなものであるのか、家族のなかでこの子どもがどのような位置にあるのか、この子どもを支えているのは誰なのか、親子関係の修復のために親子それぞれがどのような援助を必要としているのか、子どもの表面に現れた発言だけにとらわれないで、きちんと押さえておくことが肝要である。 - 集団生活(学校、保育所等)の適応状況
虐待を受けていた子どもにとって、家庭以外の場はどのような意味を持っていたのか。集団生活をどのように受け止めていたのか、自分にとってどのような意味を持っているのか、子どもからは面接や心理テストなどを通して把握する。
家庭の外の、学校や保育所等の集団生活での行動状況については、担任や保育士などから聞き取る。
家庭で十分に養育されていなければ、学校や保育所が安心できる生活の場になっていてもよいはずだが、必ずしも居心地のいい場として生活をしてはいない。集団に入っていけない、孤立している、周囲の友達に乱暴をしたり、意地悪をしたりする。器物を壊したり、周囲の人たちに迷惑をかけたりする。先生や保育士を独占しようとしたり、人にやたらとベタベタしたり、あるいは避けようとしたり、など対人関係で適当な距離をおくことができなかったりする。
また一方、学校では明るく振る舞って、そのような暗い影の部分を周囲の人に感じさせないで頑張っている子どももいる。かなり無理をしていることもあって、一時保護所のような安全な場での生活に入ると、緊張が急激に解け、様々な不適応症状が出てきて、周囲を困惑させることもある。 - 虐待者の病理性
虐待されている子どもだけではなく、虐待を行っている保護者についても状況を押さえておくことは必要である。虐待を行っている保護者は、自身、過去に虐待を受けている場合が少なくない。その心的外傷体験の影響により、精神的に不安定であったり、自信がないままに子育てをし、どうしてよいか分からないために、結果的に虐待をしてしまう。
虐待を行っている保護者の精神症状を、医師との協力によって確かめることが出来ればよいが、大変困難なことである。
保護者に対しては
・ どのような時虐待をするのか
・ 子どもについてどのように思っているのか
・ 子育てをどのように思っているのか
・ 自分の行っていることが子どもにどのように影響していると考えているのか
・ 親子関係、家族関係のなかでの自分の立場、葛藤、不安等
できればこのようなことも確かめたい。しかし、保護者からこのようなことを聞き出すことは大変困難を伴うことであるので、児童福祉司と協力して、子どもの面接や、関係者からの聞き取りなどを通して、情報を集めておくことが必要である。
上記が心理診断の内容になり、これらを児童心理司が主に判定していくということになります。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。
③ 児童指導員
児童指導員及び保育士の役割が厚生労働省のホームページに以下の通り記載されています。
- 子ども、保護者等の相談に応じ、診断面接、心理検査、観察等によって子ども、保護者等に対し心理診断を行うこと
- 子ども、保護者、関係者等に心理療法、カウンセリング、助言指導等の指導を行うこと
ただ、こちらの内容は児童相談所内での業務になります。
児童指導員は、保護者のいない児童や虐待されている児童など、家庭環境上養護を必要とする子どもが入所する施設等で子どもたちの育成、生活指導等を行う職員になりますから、児童相談所以外の施設にもいることになります。
例えば、児童養護施設は、基本的に2歳から18歳未満の子どもを対象とし、子どもとその家族への支援を行い、入所した子どもたちが健全に成長・自立できるよう、18歳以降のアフターケアも含めて援助、育成、生活指導を行うものであり、子どもたちの家庭の事情や成長の様子を見極め、一人ひとりに合わせた支援計画をたて、サポートしていきます。
その中で、児童指導員は子どもの日常生活の支援、社会ルールの習得、学習や遊びなどの支援・指導に当たることになります。
児童指導員の仕事は、基本的に子どもたちの生活時間と連動しており、朝は子どもを学校に送り出し、その後は日誌を記録するなど事務作業を行い、子どもたちが学校から帰ってきたら、学年別に勉強の手伝いや身の回りの世話等を行います。
発達に特性がある子どもも少なくないので、対応には様々な工夫が求められ、必要に応じて保護者や児童相談所などと面談し、対応方針等の検討も行っていきます。
以上より、児童指導員は「児童相談所において、子どもと家庭の社会診断を行う職種」ではないことがわかりますね。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
① 児童委員
② 民生委員
さて、残りの選択肢に関しては児童相談所内の職種ではありません。
民生委員は、厚生労働大臣から委嘱され、それぞれの地域において、常に住民の立場に立って相談に応じ、必要な援助を行い、社会福祉の増進に努める立場であり、「児童委員」を兼ねています。
児童委員は、地域の子どもたちが元気に安心して暮らせるように、子どもたちを見守り、子育ての不安や妊娠中の心配ごとなどの相談・支援等を行います。
また、一部の児童委員は児童に関することを専門的に担当する「主任児童委員」の指名を受けています。
つまり、児童委員や民生委員は地域において、家庭の相談・支援を行う立場ということですね。
児童委員や民生委員の関連法規はこちらにまとめられています。
このように、児童委員や民生委員は「児童相談所において、子どもと家庭の社会診断を行う職種」ではないことがわかります。
むしろ、児童相談所で行われる問診を「される側」になることが多い立場と言えますね(厚生労働省のホームページにある判定業務に関する記述には「保護者、児童福祉司、児童委員、一時保護所職員など、子どもに関わっている人に問診を行う」とある)。
よって、選択肢①および選択肢②は不適切と判断できます。