公認心理師 2023-104

成年後見人の職務に関する問題です。

きちんと法律的に成年後見人の役割とその範囲を理解しているかが問われていますね。

問104 成年後見人の職務として、正しいものを1つ選べ。
① 養子縁組
② 手術の同意
③ 遺言の作成
④ 介護保険の申請手続
⑤ 日用品の購入取消し

解答のポイント

成年後見人の職務を理解している。

選択肢の解説

① 養子縁組
② 手術の同意
③ 遺言の作成
④ 介護保険の申請手続
⑤ 日用品の購入取消し

認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な場合、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。

また自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。

このような判断能力の不十分な人たちを保護し、支援するのが成年後見制度です。

法定後見制度は「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。

法定後見制度においては、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって本人を保護・支援します。

後見はほとんど判断出来ない人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護するという形になっています。

保佐人は、判断能力が著しく不十分な人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。

簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。

補助は、判断能力が不十分な人を対象としており、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。

大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。

民法第7条によると、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができるとされています。

なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされています(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健福祉法51条の11の2)。

なお、平成25年5月、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律が成立、公布されました(平成25年6月30日施行)。

これにより、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙について、成年被後見人の方は、選挙権・被選挙権を有することとなります。

また、この改正では、併せて、選挙の公正な実施を確保するため、代理投票において選挙人の投票を補助すべき者は、投票に係る事務に従事する者に限定されるとともに、病院、老人ホーム等における不在者投票について、外部立会人を立ち会わせること等の不在者投票の公正な実施確保の努力義務規定が設けられました。

さて、実際の成年後見人の職務について考えていきましょう。

成年後見人の職務は、「財産管理」と「身上監護」です。

「財産管理」の中身について一般的に思い浮かべるのは、被後見人の代理人として、様々な契約の締結や取引(銀行取引等)をしたり市役所等の行政機関の手続を行ったり、場合によっては親族間の遺産分割協議を行ったり裁判手続したりすることです。

後見人等は、法定代理人であり、様々な(包括的な)代理権を有しており、日常的な財産管理業務の大部分は、この代理権の行使であるといえます(なお、身上監護業務についても、施設の入所契約を行ったり介護サービスの手配をするのは、法定代理人としての代理権の行使になります)。

ところで、後見人等が本人の財産を保護するために有している権限には、代理権だけでなく取消権や同意権があります。

取消権とは、文字通り一定の法律行為を取り消す(事後的に無効にする)ことのできる権限であり、同意権は一定の法律行為に同意を与える(与えない)権限です。

具体的には、被後見人の不動産や預貯金等の財産を管理したり、被後見人の希望や身体の状態、生活の様子等を考慮して、必要な福祉サービスや医療が受けられるよう、利用契約の締結や医療費の支払などを行ったりします(なお、食事の世話や実際の介護などは、一般に成年後見人等の職務ではありません)。

ですから、選択肢④の「介護保険の申請手続」については、成年後見人の職務に該当するものになります。

判断が難しいと思われるのが、選択肢⑤の「日用品の購入取消し」になります。

上述の通り、成年後見人は「取消権」を有していますから、日用品の購入取消しもできそうに思いがちですね。

ですが、成年後見人が「取消権」を行使できるのは原則として被後見人の法律行為になりますから、被後見人の日用品の購入は取り消せません。

こちらのサイトに成年後見人の職務に含まれないものが以下のようにまとめられていました。

  1. 実際の介護・看護(成年後見人等は、本人のために日用品の買い物をしたり、掃除をしたり、食事を作ったり、洗濯をしたり、介護をしたり、看護をしたりしてくれる人を探してきて、本人代わってその人と契約をして、その人が契約どおりに本人のために仕事をしてくれるか監督し、契約どおりにやってくれないときには苦情を言ったり、変更してもらったり、場合によっては契約を解除します)。
  2. 遺言・婚姻・離婚・認知・養子縁組・離縁などの身分行為(但し、裁判による離婚・裁判による離縁は含まれます)。
  3. 身元引受人や保証人にはなれません。(病院への入退院や施設への入退所の手続きなどは、成年後見人として手続きします)。
  4. 医療行為に関する決定権・同意権(実務上、非常に問題になるところなのですが、現在は職務の範囲外の行為としか言えないのが現状です)。
  5. 居所指定権(住む所は本人の自由意思に委ねるべきとされており、成年後見人等がいくら本人のためになると考えても、病院や施設への入所を強制することはできません)。

本問と関連があるものを詳しく見ていきましょう。

まず選択肢①の「養子縁組」および選択肢③の「遺言の作成」ですが、成年後見人は財産的行為の代理権をもっていますが、身分行為の代理権を有していません。

身分行為とは、法律上の身分関係に関する法律効果を発生させ、あるいは変更、消滅させる法律行為のことを指し(要するに、家族に関連する法律問題にかかわる行為)、例えば、婚姻の成立や離婚、養子縁組といったものが身分行為の一種に該当します。

これに関わる代理権を成年後見人は有していませんから、成年後見人が本人の代わりに婚姻届けや離婚届けに判を押すことはありませんし、養子縁組が成年後見人の職務に含まれることもないということです。

また、遺言の作成も単なる財産上の行為ではなく、身分行為に該当するものになり、被後見人から口頭で伝えられたものを書き記したものなども無効の遺言になってしまいます。

被後見人が遺言の作成を行う場合は、①成年被後見人は、遺言を作成するための能力が回復しているときに遺言を作成する必要があり、②これを確認するために医師2名の立会い、遺言者が遺言作成時に事理を弁識する能力を有していた旨を遺言書に付記し、これに署名押印をすることが必要とされています(民法972条)。

続いて、選択肢②の手術の同意についてです。

成年後見人は、医的侵襲行為(手術やなどの身体への物理的侵襲を伴う行為)や一身専属的な行為に対する同意権はありません。

どんな医療を受けるか、そして医療を受けるか受けないかについても、憲法13条により自己決定権として保障されていますから、成年後見人であっても手術の同意を代わりに行うことはできないということですね。

なお、医療行為において治療、及び入院手続の支援をすることは可能です。

以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は誤りと判断でき、選択肢④が正しいと判断できます。

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