施設等で行われるケアに関する問題です。
関連のある2つの選択肢で迷うことが大切になってきますね。
問103 子どもが里親や児童福祉施設などに措置される際、その前後に児童福祉司と、里親や施設職員が連携しながら、子どもへの特別の配慮を行うことが求められる。このような支援を表す用語として、最も適切なものを1つ選べ。
① イン・ケア
② アドボカシー
③ 新エンゼルプラン
④ アドミッション・ケア
⑤ パーソンセンタード・ケア
解答のポイント
施設等で行われるケアの概要を把握している。
選択肢の解説
① イン・ケア
④ アドミッション・ケア
児童養護施設では、以下のように様々なケアが存在します。
- アドミッションケア:入所する前の準備としてのケアはアドミッションケアと言います。施設入所前に生活のリズムを整え、施設の見学や体験などを行います。
- インケア:施設に入所した子どもたちの日々の生活を支えるのがインケアになります。児童養護施設職員の主な仕事であり、子どもたちの心身が健やかに成長できるように様々な支援を行います。
- リービングケア:施設を退所する前の準備期間に行う支援をリービングケアと言います。退所後は今までの生活とは大きく変わります。大きな環境の変化にも対応ができるよう、想定できる事を事前に準備していきます。個室や別の棟で一人暮らしの練習を行う場合もあります。
- アフターケア:施設を退所した子どもたちのへの支援です。「ケアリーバー」という言葉があるように、施設を出た後は公的責任で保護されていた状態ではなくなるので、困難に直面する児童も多くいます。なので、退所した後であっても施設職員の方々のケアが必要になってきます。
リービングケアについては「公認心理師 2022-69」にて詳しく述べていますが、本問はそれ以外のケアが出題されています。
上記からもわかる通り、インケアとは「児童養護施設入所中すべての期間の支援」を指すものであり、アドミッションケアとは「施設入所前などに行う支援」を指しています。
インケアには環境整備(掃除、洗濯、料理)、安全な空間の提供、親子の交流、メンタルのケアなどが含まれており、アドミッションケアには家庭から保護されて一時保護所にいる子どもに対して、施設側や里親が受け入れ体制を整えて、スムーズに受け入れることなどが挙げられます。
いずれも児童相談所(の児童福祉司など)と里親や施設職員が連携しながら行っていくことになりますが、インケアは施設や里親措置後になるので施設側や里親がどちらかと言えば中心になり、児童相談所は助言等が中核になってくると言えます(もちろん、子どもが示す問題にもよりますが)。
アドミッションケアは施設や里親への措置がなされる前後に行われるので、施設に入所する前の準備期間における支援や生活リズムを整え、関係機関と協働しながら、子どもたちの入所後の生活の安定を図っていくことになるので、より児童相談所と里親・施設職員との連携が重要になってくるでしょう。
以上を踏まえると、本問の「子どもが里親や児童福祉施設などに措置される際、その前後に児童福祉司と、里親や施設職員が連携しながら、子どもへの特別の配慮を行うこと」を表す用語はアドミッションケアであることがわかります。
よって、選択肢①は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。
② アドボカシー
アドボカシーとは「擁護・代弁」「支持・表明」などの意味を持ち、同時に政治的、経済的、社会的なシステムや制度における決定に影響を与えることを目的とした、個人またはグループによる活動や運動を意味します。
単純化して表現すれば、この用語は権利擁護と訳され、利用者が自分の要求を表明できない場合に、援助者がそれを代弁する機能のことを指します。
アドボカシーは、個人や家族を対象にした「ケース・アドボカシー」と地域や集団を対象にした「クラス(コーズ)・アドボカシー」の2つに大別することができます。
「ケース・アドボカシー」とは、個人の権利を守るために、個別のクライエントを対象として行われるアドボカシー活動のことです。
その人が本来ならば受益できるサービスを、その権利を知らなかったり、知っていても公使が困難な状況にある人々に、適切な支援がなされるよう働きかけることが代表的なケース・アドボカシーだといえます。
このように、ケース・アドボカシーの目的はあくまでも個別の権利を尊重することなので、対象者の気持ちや要望を充分に理解した上で行われることが重要です。
これに対して、「クラス(コーズ)・アドボカシー」とは、同じ課題を抱えた当事者の代弁や制度の改善・開発を目指すことを指します。
特定の対象者に限定せず、地域全体の状況を改善すべく取り組むアドボカシー活動です。
社会制度に不備があったり、他の地域に比して著しく公的支援が弱い地域があったりする場合に、行政に制度や政策の改善を求めて働きかけるのがクラス・アドボカシーの代表的活動と言えます。
この活動は、同じような属性にある人々すべてにポジティブな影響を与えることになりますので「クラス」アドボカシーと表現するわけです。
他にも「セルフ・アドボカシー(当事者が自ら行動を起こし、権利を主張していくこと。自ら・代弁、とやや矛盾を感じる表現ですが)」「シチズン・アドボカシー(当事者を含む市民が主体となって、権利の抑圧を受けている市民を擁護する市民運動)」「リーガル・アドボカシー(弁護士など法的な訓練を受けた人が、クライエントの権利行使を援助したり、権利を擁護するために働きかける)」などがあります。
以上を踏まえると、本問の「子どもが里親や児童福祉施設などに措置される際、その前後に児童福祉司と、里親や施設職員が連携しながら、子どもへの特別の配慮を行うこと」を表す用語としてアドボカシーは適切ではないことがわかります。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 新エンゼルプラン
新エンゼルプランは、1999年12月19日に、大蔵・文部・厚生・労働・建設・自治の6大臣合意で策定された少子化対策の2004年度目標の実施計画の通称であり「重点的に推進すべき少子化対策の具体的実施計画について」が正式名称になります。
少子化傾向を食い止めるため、共働き家庭の育児を援護するなどさまざまな施策が盛り込まれています。
策定の趣旨としては、「少子化対策については、これまで、「今後の子育て支援のための施策の基本的方向について」(平成6年12月文部・厚生・労働・建設4大臣合意)及びその施策の具体化の一環としての「当面の緊急保育対策等を推進するための基本的考え方」(平成6年12月大蔵・厚生・自治3大臣合意)等に基づき、その推進を図ってきたところであるが、今般、「少子化対策推進関係閣僚会議」で決定された「少子化対策推進基本方針」において、重点的に実施すべき対策の具体的実施計画を取りまとめることとされたことから、このプランを策定する」とされています。
主な内容としては以下が示されています。
- 保育サービス等子育て支援サービスの充実
(1) 低年齢児(0~2歳)の保育所受入れの拡大
(2) 多様な需要に応える保育サービスの推進
・ 延長保育、休日保育の推進等
(3) 在宅児も含めた子育て支援の推進
・ 地域子育て支援センター、一時保育、ファミリー・サポート・センター等の推進
(4) 放課後児童クラブの推進 - 仕事と子育ての両立のための雇用環境の整備
(1) 育児休業を取りやすく、職場復帰をしやすい環境の整備
・ 育児休業制度の充実に向けた検討、育児休業給付の給付水準の40%への引上げ(現行25%)、育児休業取得者の代替要員確保及び原職等復帰を行う事業主に対する助成金制度の創設等
(2) 子育てをしながら働き続けることのできる環境の整備
・ 短時間勤務制度等の拡充や子どもの看護のための休暇制度の検討等
(3) 出産・子育てのために退職した者に対する再就職の支援
・ 再就職希望登録者支援事業の整備 - 働き方についての固定的な性別役割分業や職場優先の企業風土の是正
(1) 固定的な性別役割分業の是正
(2) 職場優先の企業風土の是正 - 母子保健医療体制の整備
・ 国立成育医療センター(仮称)、周産期医療ネットワークの整備等 - 地域で子どもを育てる教育環境の整備
(1) 体験活動等の情報提供及び機会と場の充実
・ 子どもセンターの全国展開等
(2) 地域における家庭教育を支援する子育て支援ネットワークの整備
・ 家庭教育24時間電話相談の推進等
(3) 学校において子どもが地域の人々と交流し、様々な社会環境に触れられるような機会の充実
(4) 幼稚園における地域の幼児教育センターとしての機能等の充実 - 子どもたちがのびのび育つ教育環境の実現
(1) 学習指導要領等の改訂
(2) 平成14年度から完全学校週5日制を一斉に実施
(3) 高等学校教育の改革及び中高一貫教育の推進
・ 総合学科、中高一貫教育校等の設置促進
(4) 子育ての意義や喜びを学習できる環境の整備
(5) 問題行動へ適切に対応するための対策の推進
・「心の教室」カウンセリング・ルームの整備、スクールカウンセラー等の配置 - 教育に伴う経済的負担の軽減
(1) 育英奨学事業の拡充
(2) 幼稚園就園奨励事業等の充実 - 住まいづくりやまちづくりによる子育ての支援
(1) ゆとりある住生活の実現
(2) 仕事や社会活動をしながら子育てしやすい環境の整備
(3) 安全な生活環境や遊び場の確保
なお、2005年度からは、少子化社会対策大綱にもとづく「子ども・子育て応援プラン(新新エンゼルプラン)」が実施されました。
以上を踏まえると、本問の「子どもが里親や児童福祉施設などに措置される際、その前後に児童福祉司と、里親や施設職員が連携しながら、子どもへの特別の配慮を行うこと」を表す用語として新エンゼルプランは適切ではないことがわかります。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
⑤ パーソンセンタード・ケア
パーソンセンタード・ケアとは、認知症をもつ人を一人の「人」として尊重し、その人の立場に立って考え、ケアを行おうとする認知症ケアの一つの考え方です。
認知症のさまざまな問題に対して、薬物で鎮静化させたり管理を図ろうという考え方が、何十年も前から日本を含め、さまざまな国で支配的でした。
イギリスの老年心理学者であるトム・キットウッドは、1980年代にイギリスで蔓延していたこのような風潮に異議を唱え、言葉が表出できなくなったり、理解力が低下したりすること自体は脳の障害によるものだが、それから起きる焦燥や興奮、意欲低下などは脳の機能低下から直接起こっているのではなく、周囲との関係性や不快などが影響しているはずであると説きました。
そしてキットウッドは、認知症が軽度な間は本人のさまざまな不快感や人間関係に考慮するのに、重度化するとそれらがなくなったかのように対応するのは、脳の機能ばかりに関心を抱きすぎているのであり、そのような文化や背景こそが問題の根本にあると考えました。
キットウッドは、認知症者のどんな異常に見える行動にも何らかの理由があると見なすことが重要であると指摘しています。
例えば、以下のようなことが挙げられます。
- 暴力や暴言には「子ども扱いされた怒り」「そのような扱いをしないでほしいという訴え」という意味があるのかもしれない。
- 介護を拒否するのは「誰にも迷惑をかけたくない」「自分のことを自分でやりたいという性格」があるのかもしれない。
- 徘徊には「体調が悪いのだけど、どこにどう訴えればよいのかわからない」という状態なのかもしれない。
このようにパーソンセンタード・ケアでは、その人の問題行動の背景にある欲求を踏まえて理解していこうとします。
また、パーソンセンタード・ケアでは、介護者が自分の不安、感情、弱さなどを無視せず、これらを介護の重要な資源に変えていくという姿勢が大切になってきます。
つまり、従来の医学モデルで行われてきた介護施設や介護者中心の一方的な介護を再検討し、認知症患者の個性や人生、尊厳などとしっかり向き合うことで、「その人を中心とした最善のケア」を目指すのがパーソンセンタード・ケアということになります。
従来の考え方(old culture)において、介護者は組織に属し、指示に従うものであり、管理者にとって、彼らの心理的ニーズは大きな問題ではないとしていました。
対して、新しい考え方(new culture)、すなわちパーソンセンタード・ケアにおける介護者は、人格をもった人間であり、認知症の人の個性・人間性を尊重するのと同じように、介護者の個性・人間性を尊重すべきであるとしています。
介護者の怒り(相手が気難しかったり、感謝しない)、不快感(されたくないことをされたとき)、罪悪感(うまくできなかったとき)、孤独(自分の気持ちを誰もわかってくれないとき)、恐怖(どんな困難があるかわからないとき)、羨望(自分の周りは自分のような苦しい思いをせずにすんでいるとき)、絶望(良いことが起こらないことがわかったとき)などは、まったく自然で人間らしいものです。
このような気持ちになることは悪いことではなく、この気持ちにしがみついてしまったり、否定したり閉め出そうとすることは介護者にとって良くないことであるとパーソンセンタード・ケアでは考えます。
キットウッドが要求していること(認知症者の自発性や創造的な活動、人に尊重されているという感覚を伸ばすこと)はかなり大変で、想像力・創造力を必要とします。
この実践のためには、介護者の人間性が大いに関係してきます。
この人間性を育てたり維持するために、介護者は自分自身のネガティブな感情も含めて大切にすることが重要です。
パーソンセンタード・ケアで言うパーソンとは、認知症者だけでなく、スタッフや同僚、事務員、給食を運ぶ人、掃除をしてくれる人など、すべての人を指しており、自分の感情を大切にするということも認知症者同様に大切ということです。
以上を踏まえると、本問の「子どもが里親や児童福祉施設などに措置される際、その前後に児童福祉司と、里親や施設職員が連携しながら、子どもへの特別の配慮を行うこと」を表す用語としてパーソンセンタード・ケアは適切ではないことがわかります。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。