乳児院から児童養護施設へと措置変更となった際の配慮に関する問題です。
この論文などが役立つかもしれません。
問146 2歳の女児A。Aは、生後間もない頃から乳児院で暮らしている。定期的に行われてきた発達検査では年齢相応の発達がみられ、入所直後から担当養育者となったBとの間にも安定した関係がみられている。その後、Aが2歳となり、Aは同じ県内にある児童養護施設に措置変更されることになった。児童養護施設では保育士CがAの担当になることが決まり、受け入れに向けた準備が進められている。
この後、Aが乳児院から児童養護施設へと措置変更となるプロセスにおける配慮として、最も適切なものを1つ選べ。
① 児童養護施設の受け入れ準備が整い次第、できるだけ早く措置変更をする。
② Cが先入観を持たないようにするために、乳児院でのAの様子についてBからCに直接伝える機会は設けない。
③ 乳児院で暮らす他の子どもへの影響を考慮し、他の子どもとの間ではAの措置変更に関することを話題にしない。
④ BがAと児童養護施設を訪問したり、Cが乳児院を訪れてAと交流するなど、ならし養育(訪問交流)の機会を設ける。
⑤ Bとの別れや乳児院を離れることはAにとってつらい経験となることを考慮して、措置変更に関することは直前までAに伝えない。
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なし
解答のポイント
措置変更における愛着対象との別れに関する配慮ができる。
選択肢の解説
① 児童養護施設の受け入れ準備が整い次第、できるだけ早く措置変更をする。
② Cが先入観を持たないようにするために、乳児院でのAの様子についてBからCに直接伝える機会は設けない。
④ BがAと児童養護施設を訪問したり、Cが乳児院を訪れてAと交流するなど、ならし養育(訪問交流)の機会を設ける。
まずAの状態について考えてみましょう。
「定期的に行われてきた発達検査では年齢相応の発達がみられ、入所直後から担当養育者となったBとの間にも安定した関係がみられている」とありますから、発達や愛着の問題は現時点では見られないと考えてよいでしょう。
発達や愛着の観点から特別なアプローチを必要とはしない2歳児が、児童養護施設に措置変更される場合の「受け入れ準備」について何をすべきかを考えていくことが求められています。
古い知見ですが、ある大学を受診した神経症患者(要するに心理的要因によって症状が出ている患者)の共通要因を調べようとしたところ、多くの要因で共通項は認められなかったそうですが、唯一「引っ越しの経験」だけは有意差を示したそうです。
小さな子どもにとって「引っ越し=住む場所が変わる」というのは、宇宙旅行に等しい体験といえます。
本事例のような2歳児だと、いま住んでいる世界と、措置変更先の世界が「地続きである」という感覚も得にくく、生きている世界の連続性が保ちにくい状況といえます。
また、児童養護施設では、どうしても一人の子どもに関わっていられる時間も取りにくいので、そした「世界の連続性が崩れたことによる不穏状態」を細やかに対応できないこともあり得ます(これは施設に限らず、一般家庭も同様でしょうね。特に引っ越しとなると、親自身も新しい世界の適応で忙しく、子どものケアが手薄になってしまう)。
こうした諸点を踏まえ、今いる乳児院から措置替え先の児童養護施設との「心理的段差」を小さくするような工夫が求められます。
その一つとして、選択肢④の「BがAと児童養護施設を訪問したり、Cが乳児院を訪れてAと交流するなど、ならし養育(訪問交流)の機会を設ける」ということが考えられますね。
他にも、地図を見せて「今いる場所はここで、次に行くのはここなんだよ」といった感じで話しながら、「今いる場所と、次に行く場所は地続きなんだ」という感覚を持たせる努力が大切になります(これは引っ越しをするときに、親が子どもにしてもよいアプローチの一つといえます)。
なお、事例Aは2歳という年齢なので、やはり、愛着を結んでいる人物との別れが最も大きなダメージになると考えられますから、B→Cというつながりを大事にしていくことが中核になるでしょう(だから、選択肢④のような対応が重要になる)。
上記を踏まえれば、選択肢①の「児童養護施設の受け入れ準備が整い次第、できるだけ早く措置変更をする」といった性急な対応は適切とは言えませんね。
どのような場所であれ、施設職員は忙しいと思いますが、こうした措置替えによるダメージを最小化するような努力をしておくことが重要であるといえます。
また、選択肢②の「Cが先入観を持たないようにするために、乳児院でのAの様子についてBからCに直接伝える機会は設けない」というのも、得策でないことがわかると思います。
先述の「心理的段差」が生じやすい一番のポイントは、B→Cという愛着対象の変更になることは当然の成り行きですから、Bが得ているAの細やかな特徴をCに伝えることで、その間の混乱をできるだけ減らそうとすることが求められます。
これは「Aが混乱してはならない」のではなく、「愛着対象が変わることで必ず混乱は生じる。それを見越して、できる範囲の努力をすることが重要」という認識でいることが大切です。
選択肢②のような機会を設けることで、BとCとの間がすっぱりと分かたれるのではなく、この両者の間に重なりが生じるようなイメージを持って関わっていけると良いでしょうね。
以上より、選択肢①および選択肢②は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。
③ 乳児院で暮らす他の子どもへの影響を考慮し、他の子どもとの間ではAの措置変更に関することを話題にしない。
⑤ Bとの別れや乳児院を離れることはAにとってつらい経験となることを考慮して、措置変更に関することは直前までAに伝えない。
これらの選択肢については「現実の加工・改竄」になっていますね。
まず、選択肢③ですが、Aが措置変更することは現実であり、また、他の子どもにとってもAとの別れや(2歳児くらいの子どもにどの程度影響があるのかは諸説あるでしょうが)、他の子どもも同じような措置変更があり得ます。
重要なのは、他の子どもが経験するあらゆる出来事と、それに伴う感情体験は、そうした現実を前に生じる「自然な反応」なわけですから、きちんとその反応を受けとめていくことが求められるということです。
この考え方は、選択肢⑤でも同様で、「Bとの別れや乳児院を離れることはAにとってつらい経験となる」のは間違いないわけです。
ですが、だからと言って「措置変更に関することは直前までAに伝えない」というのは支援としてはあり得ないことです。
「Bとの別れや乳児院を離れることはAにとってつらい経験となる」からこそ、そうした体験をBや乳児院という場でして、受けとめられることに意義があります。
選択肢⑤のような対応は単なる「先送り」であり、次の場でのAの適応を悪くすると考えるのが自然ですね。
以上より、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。