合理的配慮に関する問題です。
頻出の問題と言ってよさそうですから、障害者基本法をはじめ、各法律や各省庁の見解もしっかりと理解しておくようにしましょう。
本問の内容自体はそこまで難易度が高いものではないと思います。
問46 合理的配慮について、適切なものを1つ選べ。
① 公平性の観点から、入学試験は合理的配慮の適用外である。
② 合理的配慮の対象は、障害者手帳を持っている人に限られる。
③ 合理的配慮によって取り除かれるべき社会的障壁には、障害者に対する偏見も含まれる。
④ 発達障害児がクールダウンするための部屋を確保することは、合理的配慮には含まれない。
解答のポイント
法律や各省庁の合理的配慮に関する見解を把握していること。
必要な知識・選択肢の解説
まずは合理的配慮に関するおさらいです。
合理的配慮については、障害者基本法がいわゆる「基本法」です。
それに準じて「障害者差別解消法」や「障害者雇用促進法」の中でも条項が定められています。
ここでは、合理的配慮に関する条項等の流れについて追っていきましょう。
障害者権利条約第2条には以下のように定められています。
「合理的配慮」とは障害のある人が他の人同様の人権と基本的自由を享受できるように、物事の本質を変えてしまったり、多大な負担を強いたりしない限りにおいて、配慮や調整を行うことである。
ここのポイントは2点で、障害者が他の人と同じように社会で生きることができるようにすること、そのための配慮が度を超えていたりする側の負担が大きすぎないことが重要、ということです。
この定義については、他の法律でも同様と捉えて良さそうです(他の法律で「合理的配慮」について明確な定義を示している箇所はありません)。
そして、障害者基本法 第4条第2項では以下の通り定められています。
社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、それを怠ることによって前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。
この条項の要点は、2006年に国連総会で採択された障害者権利条約の批准に向けた以下の部分にあります。
まずは障害者の定義の拡大で、いわゆる3障害(知的、身体、精神)に加え、「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」が追加され、性同一性障害などが含まれるようになっています。
そして、合理的配慮概念の導入であり、これを受け障害者差別解消法の中でも、「合理的配慮」の実施について示されるようになりました。
障害者基本法では「合理的配慮をしなくていはいけませんよ」という大枠を定めており、細かい部分については以下の法律になってきます。
障害者差別解消法 第7条第2項では以下の通り定められています。
行政機関等は、その事務又は事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をしなければならない。
ここで重要なのが「合理的配慮をしなければならない」と「法的義務」が定められているのが「行政機関等」、つまり国や地方自治体などは合理的配慮を行う義務があるということになります。
この点については、障害者差別解消法 第8条第2項との違いを把握しておきましょう。
事業者は、その事業を行うに当たり、障害者から現に社会的障壁の除去を必要としている旨の意思の表明があった場合において、その実施に伴う負担が過重でないときは、障害者の権利利益を侵害することとならないよう、当該障害者の性別、年齢及び障害の状態に応じて、社会的障壁の除去の実施について必要かつ合理的な配慮をするように努めなければならない。
この記載は、事業者(国税法令等の定義では、個人事業者(個人事業主・事業を行う個人)と法人や団体を指す:要は民間)おいて合理的配慮が「努力義務」であることを示しています。
「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答〈国民向け〉」には、ここを「努力義務」にしている理由としては以下のように述べられています。
教育、医療、公共交通、行政の活動など、幅広い分野を対象とする法律ですが、障害のある方と行政機関や事業者などとの関わり方は具体的な場面によって様々であり、それによって、求められる配慮も多種多様です。
このため、この法律では、合理的配慮に関しては、一律に義務とするのではなく、行政機関などには率先した取組を行うべき主体として義務を課す一方で、民間事業者に関しては努力義務を課した上で、対応指針によって自主的な取組を促すこととしています。
ただし、政府は、民間の企業や店舗に対し、障害者の社会生活上のバリア(障壁)を負担が重すぎない範囲で取り除く「合理的配慮」の提供を義務付けるため、障害者差別解消法を改正する方針を固めたというニュースもありました。
2021年1月召集の通常国会に同法改正案を提出する方向で調整しているそうですから、民間の努力義務というのも近々変わる可能性がありますね。
最後に、障害者雇用促進法 第36条2です。
事業主は、労働者の募集及び採用について、障害者と障害者でない者との均等な機会の確保の支障となつている事情を改善するため、労働者の募集及び採用に当たり障害者からの申出により当該障害者の障害の特性に配慮した必要な措置を講じなければならない。ただし、事業主に対して過重な負担を及ぼすこととなるときは、この限りでない。
記載にあるとおり、「必要な措置を講じなければならない」としている以上、労働者として障害者を雇う場合には「法的義務」が生じます。
どの法律でも共通しているのが、配慮する側に過重な負担がかからない程度、という制限があることです。
合理的配慮だからといって、その組織の限界を超えてまで配慮するのは違うということですね。
また、その他の共通点として「障害者自身からの申し出」という文言を入れているところです。
「申し出なければしなくて良い」というわけではなく、障害者と合理的配慮を提供する側の相互のやり取りをもって、その内容は定められるべきという前提があるのでしょうね。
以上の点を踏まえ、各選択肢を見ていきましょう。
① 公平性の観点から、入学試験は合理的配慮の適用外である。
まず文部科学省の見解について見ていきましょう。
「文部科学省所管事業分野における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応指針」の中で、合理的配慮に当たり得る配慮の具体例として以下が挙げられています。
なお、ここでは具体例のうち「ルール・慣行の柔軟な変更の具体例」を列挙していきます。
- 学校、社会教育施設、スポーツ施設、文化施設等において、事務手続の際に、職員や教員、支援学生等が必要書類の代筆を行うこと。
- 障害者が立って列に並んで順番を待っている場合に、周囲の理解を得た上で、当該障害者の順番が来るまで別室や席を用意すること。
- 他人との接触、多人数の中にいることによる緊張のため、不随意の発声等がある場合、緊張を緩和するため、当該障害者に説明の上、施設の状況に応じて別室を用意すること。
- 学校、文化施設等において、板書やスクリーン等がよく見えるように、黒板等に近い席を確保すること。
- スポーツ施設、文化施設等において、移動に困難のある障害者を早めに入場させ席に誘導したり、車椅子を使用する障害者の希望に応じて、決められた車椅子用以外の客席も使用できるようにしたりすること。
- 入学試験や検定試験において、本人・保護者の希望、障害の状況等を踏まえ、別室での受験、試験時間の延長、点字や拡大文字、音声読み上げ機能の使用等を許可すること。
- 点字や拡大文字、音声読み上げ機能を使用して学習する児童生徒等のために、授業で使用する教科書や資料、問題文を点訳又は拡大したものやテキストデータを事前に渡すこと。
- 聞こえにくさのある児童生徒等に対し、外国語のヒアリングの際に、音質・音量を調整したり、文字による代替問題を用意したりすること。
- 知的発達の遅れにより学習内容の習得が困難な児童生徒等に対し、理解の程度に応じて、視覚的に分かりやすい教材を用意すること。
- 肢体不自由のある児童生徒等に対し、体育の授業の際に、上・下肢の機能に応じてボール運動におけるボールの大きさや投げる距離を変えたり、走運動における走る距離を短くしたり、スポーツ用車椅子の使用を許可したりすること。
- 日常的に医療的ケアを要する児童生徒等に対し、本人が対応可能な場合もあることなどを含め、配慮を要する程度には個人差があることに留意して、医療機関や本人が日常的に支援を受けている介助者等と連携を図り、個々の状態や必要な支援を丁寧に確認し、過剰に活動の制限等をしないようにすること。
- 慢性的な病気等のために他の児童生徒等と同じように運動ができない児童生徒等に対し、運動量を軽減したり、代替できる運動を用意したりするなど、病気等の特性を理解し、過度に予防又は排除をすることなく、参加するための工夫をすること。
- 治療等のため学習できない期間が生じる児童生徒等に対し、補講を行うなど、学習機会を確保する方法を工夫すること。
- 読み・書き等に困難のある児童生徒等のために、授業や試験でのタブレット端末等の ICT機器使用を許可したり、筆記に代えて口頭試問による学習評価を行ったりすること。
- 発達障害等のため、人前での発表が困難な児童生徒等に対し、代替措置としてレポートを課したり、発表を録画したもので学習評価を行ったりすること。
- 学校生活全般において、適切な対人関係の形成に困難がある児童生徒等のために、能動的な学習活動などにおいてグループを編成する時には、事前に伝えたり、場合によっては本人の意向を確認したりすること。また、こだわりのある児童生徒等のために、話し合いや発表などの場面において、意思を伝えることに時間を要する場合があることを考慮して、時間を十分に確保したり個別に対応したりすること。
- 理工系の実験、地質調査のフィールドワークなどでグループワークができない学生等や、実験の手順や試薬を混同するなど、作業が危険な学生等に対し、個別の実験時間や実習課題を設定したり、個別のティーチング・アシスタント等を付けたりすること。
また、内閣府が出している「合理的配慮等具体例データ集 合理的配慮サーチ」の教育の項目にも、以下のような合理的配慮の例が示されています。
- 聴覚過敏の児童生徒のために机・いすの脚に緩衝材をつけて雑音を軽減する
- 視覚情報の処理が苦手な児童生徒のために黒板周りの掲示物の情報量を減らす
- 支援員等の教室への入室や授業・試験でのパソコン入力支援、移動支援、待合室での待機を許可する
- 意思疎通のために絵や写真カード、ICT機器(タブレット端末等)を活用する
- 入学試験において、別室受験、時間延長、読み上げ機能等の使用を許可する
ここでも入学試験における配慮は含まれていますね。
そもそもこの選択肢で迷っているということは、合理的配慮の理解に不足があるということです。
合理的配慮というのは、その人のもつ障害によって「公平性が担保できない」というのが前提にあります。
ですから、合理的配慮を行うことで公平性を保とうとしているわけです。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② 合理的配慮の対象は、障害者手帳を持っている人に限られる。
まず教育領域から考えていきましょう。
教育領域において「障害者」とは、障害者基本法に定められている「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害がある者であつて、障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるものをいう」という定義になります。
あくまでもこの定義に従って考えていくので、単に障害者手帳や診断書の有無によって決められるものではないということになります。
なお、教育領域において各障害をどのように定義しているかは、文部科学省が出している「教育支援資料」に示されておりますので、こちらを参考にしながら合理的配慮に該当するかを考えていくことになります。
雇用の面でも考えておきましょう。
雇用の分野における障害者に対する差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者は障害者雇用促進法に定められている障害者となります。
障害者雇用促進法第2条第1号には、障害者という用語について以下のような説明をしております。
- 障害者 身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者をいう。
- 身体障害者 障害者のうち、身体障害がある者であつて別表に掲げる障害があるものをいう
- 重度身体障害者 身体障害者のうち、身体障害の程度が重い者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。
- 知的障害者 障害者のうち、知的障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。
- 重度知的障害者 知的障害者のうち、知的障害の程度が重い者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。
- 精神障害者 障害者のうち、精神障害がある者であつて厚生労働省令で定めるものをいう。
このように、障害者手帳を所持していない者であっても、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む)その他の心身の機能の障害があるため、長期にわたり、職業生活に相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な者」に該当する者であれば、差別禁止・合理的配慮の対象となる障害者に含まれます。
ただし、本人から障害者である旨の申出があったが、障害者かどうか判断に迷う場合、もしも障害者手帳を所持している障害者については、障害者手帳により確認することにはなります(もちろん、障害者手帳を持ってないから合理的配慮はされないということではない)。
今回は領域を分けて論じましたが、あくまでもベースは障害者基本法にある障害者の定義であって、診断書の有無によって判断されるものではありません。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 合理的配慮によって取り除かれるべき社会的障壁には、障害者に対する偏見も含まれる。
まず、本選択肢にある「社会的障壁」について正しく理解しておきましょう。
障害者基本法第2条では社会的障壁を「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のものをいう」と定義しています。
なお、この定義は障害者差別解消法でも同様です(障害者基本法が「基本法」ですから、当たり前ですが)。
ここで大切なのは、上記の「社会における事物、制度、慣行、観念」が何を指すか具体的に理解しておくことです。
こちらについては「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律についてのよくあるご質問と回答〈国民向け〉」に記載があります。
- 社会における事物:通行、利用しにくい施設、設備など
- 制度:利用しにくい制度など
- 慣行:障害のある方の存在を意識していない慣習、文化など
- 観念:障害のある方への偏見など
このように、障害者に対する偏見は、障害者基本法で定められている社会的障壁の「観念」に該当することがわかりますね。
以上より、選択肢③が適切と判断できます。
④ 発達障害児がクールダウンするための部屋を確保することは、合理的配慮には含まれない。
こちらについては文部科学省の「特別支援教育の在り方に関する特別委員会 論点整理 参考資料」の中の「参考資料19:合理的配慮についての特別委員会における意見等」に記載があります。
この資料では、ソフト面とハード面のそれぞれにおける合理的配慮の例を示しており、その中のハード面の記載の一つとして「教育現場の体制整備として、クールダウンスペースの設置、リレーションルームの設置、学習スタイルの多様化を踏まえた教科書・副教材の提供、情報保障としての図書室/図書館の充実、校外委嘱等アウトソーシングなどが必要である」とあります。
上記の資料では、特に発達障害児という記載はありませんが、「特別支援教育の在り方に関する特別委員会 合理的配慮等環境整備検討ワーキンググループ(第1回) 配付資料」でより具体的に示されています。
上記の資料のうち「資料8:合理的配慮について」の「(別紙2)「合理的配慮」の例」には、「LD、ADHD、自閉症等の発達障害」への合理的配慮の例として以下のような記載があります。
- 個別指導のためのコンピュータ、デジタル教材、小部屋等の確保
- クールダウンするための小部屋等の確保
- 口頭による指導だけでなく、板書、メモ等による情報掲示
こちらは2011年の資料ですから、発達障害の名称に関して古いものもありますが本選択肢の言わんとしていることに応えるには十分な内容と言えますね。
このように、発達障害児がクールダウンするための部屋を確保することは合理的配慮に含まれます。
もちろん、それが学校内で可能か否か、具体的にはそのような部屋を確保することが可能かどうかといった事情もあるでしょう(確保できないからしない、というのはダメですが)。
しかし、少子化によって特に古い学校では教室が空いている場合がありますので、多くの学校ではそれが可能なことが多いと思われます。
また、クールダウンのスペースを設ければそれで終わりというわけではなく、誰かが付いていることも必要になります。
もちろん、傍にべったりかどうかは子どもや支援者によりますが、誰も見ていないという状況は避ける必要があります。
いつの間にか、子どもが学校から出ていってしまうということも考えねばなりませんからね。
いずれにせよ、合理的配慮はハード面だけを充実させても意味はなく、それに伴うマンパワーがあって初めて成り立つものだと思います。
以上より、選択肢④は不適切と判断できます。