公認心理師 2020-139

高齢者に対する虐待の種別に関する問題です。

事例の内容が、法律で定められているいずれの虐待種別に該当するか同定できることが求められています。

問139 87歳の女性A。Aは、軽度のAlzheimer型認知症であり、日常生活において全面的に介助が必要である。特別養護老人ホームのショートステイ利用中に、介護士Bから虐待を受けているとの通報が、同僚から上司に寄せられた。施設の担当者がAに確認したところ、Bに太ももを平手で叩かれながら乱暴にオムツを替えられ、荒々しい言葉をかけられたとのことであった。Aは、夫と死別後、息子夫婦と同居したが、家族とは別の小屋のような建物で一人離れて生活させられていた。食事は、家族が気が向いたときに残り物を食べさせられ、食べ残すと強く叱られたことも、今回の調査で判明した。
 AがBと家族の双方から受けている共通の虐待として、最も適切なものを1つ選べ。
① 性的虐待
② 経済的虐待
③ 身体的虐待
④ 心理的虐待
⑤ ネグレクト

解答のポイント

高齢者虐待防止法に定められている虐待種別について理解している。

選択肢の解説

① 性的虐待
② 経済的虐待
③ 身体的虐待
④ 心理的虐待
⑤ ネグレクト

こちらの問題は、まずは高齢者虐待防止法第2条の「定義」を把握していることが求められています。

重要な箇所なので、少し長いですが引用していきましょう。


  1. この法律において「高齢者」とは、六十五歳以上の者をいう。
  2. この法律において「養護者」とは、高齢者を現に養護する者であって養介護施設従事者等以外のものをいう。
  3. この法律において「高齢者虐待」とは、養護者による高齢者虐待及び養介護施設従事者等による高齢者虐待をいう。
  4. この法律において「養護者による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
    一 養護者がその養護する高齢者について行う次に掲げる行為
    イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
    ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置、養護者以外の同居人によるイ、ハ又はニに掲げる行為と同様の行為の放置等養護を著しく怠ること。
    ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
    ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
    二 養護者又は高齢者の親族が当該高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
  5. この法律において「養介護施設従事者等による高齢者虐待」とは、次のいずれかに該当する行為をいう。
    一 老人福祉法第五条の三に規定する老人福祉施設若しくは同法第二十九条第一項に規定する有料老人ホーム又は介護保険法第八条第二十二項に規定する地域密着型介護老人福祉施設、同条第二十七項に規定する介護老人福祉施設、同条第二十八項に規定する介護老人保健施設、同条第二十九項に規定する介護医療院若しくは同法第百十五条の四十六第一項に規定する地域包括支援センターの業務に従事する者が、当該養介護施設に入所し、その他当該養介護施設を利用する高齢者について行う次に掲げる行為
    イ 高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
    ロ 高齢者を衰弱させるような著しい減食又は長時間の放置その他の高齢者を養護すべき職務上の義務を著しく怠ること。
    ハ 高齢者に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応その他の高齢者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
    ニ 高齢者にわいせつな行為をすること又は高齢者をしてわいせつな行為をさせること。
    ホ 高齢者の財産を不当に処分することその他当該高齢者から不当に財産上の利益を得ること。
    二 老人福祉法第五条の二第一項に規定する老人居宅生活支援事業又は介護保険法第八条第一項に規定する居宅サービス事業、同条第十四項に規定する地域密着型サービス事業、同条第二十四項に規定する居宅介護支援事業、同法第八条の二第一項に規定する介護予防サービス事業、同条第十二項に規定する地域密着型介護予防サービス事業若しくは同条第十六項に規定する介護予防支援事業(以下「養介護事業」という。)において業務に従事する者が、当該養介護事業に係るサービスの提供を受ける高齢者について行う前号イからホまでに掲げる行為
  6. 六十五歳未満の者であって養介護施設に入所し、その他養介護施設を利用し、又は養介護事業に係るサービスの提供を受ける障害者については、高齢者とみなして、養介護施設従事者等による高齢者虐待に関する規定を適用する。

上記を踏まえ、各選択肢を検証していきます。

まず前提条件として、本事例は「87歳の女性」ですから、高齢者虐待防止法の対象(65歳以上)になると言えますね。

なお、認知症であるか否かは対象にならない要件ではありませんから、今回は気にする必要はありません。

そして、本法では高齢者に対する虐待を「養護者による高齢者虐待」と「養介護施設従事者等による高齢者虐待」とに分けております。

表現は若干異なりますが(養護者の場合は、その親族も対象になるため表現が若干異なる)、上記のいずれの虐待であっても、内容は「身体的虐待」「ネグレクト」「心理的虐待」「性的虐待」「経済的虐待」と共通しています。

本問で求められているのは、Bと家族が行っていることが、上記のいずれの虐待種別に該当するか判断できることであり、この両者に共通する虐待種別を選択することが求められています。

ここでは、Bと家族が行ったことを抜き出しつつ、どの虐待種別に該当するかを示していきます。

まずはBが行ったことについてです。

「太ももを平手で叩かれながら乱暴にオムツを替えられ」については、身体的虐待に該当します。

また、「荒々しい言葉をかけられた」という点は、心理的虐待に該当すると言えますね。

続いて、家族が行ったことについてです。

「家族とは別の小屋のような建物で一人離れて生活させられていた」及び「食事は、家族が気が向いたときに残り物を食べさせられ」については、ネグレクトに該当すると言えます。

また、「食べ残すと強く叱られた」については心理的虐待に該当しますね。

以上より、本事例においてAがBと家族の双方から受けている共通の虐待は「心理的虐待」であると判断できます。

よって、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断できます。

また、選択肢④が適切と判断できます。

こうした問題については、どういった関わりが虐待に該当するか判断できることが重要になるので、具体的な問題となる関わりを理解しておきましょう。

まずは養護者による虐待の例です。

【身体的虐待】

  1. 暴力的行為で、痛みを与えたり、身体にあざや外傷を与える行為。
    ・平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。やけど、打撲をさせる。
    ・刃物や器物で外傷を与える。 など
  2. 本人に向けられた危険な行為や身体に何らかの影響を与える行為。
    ・本人に向けて物を壊したり、投げつけたりする。
    ・本人に向けて刃物を近づけたり、振り回したりする。
  3. 本人の利益にならない強制による行為によって痛みを与えたり、代替方法があるにもかかわらず高齢者を乱暴に取り扱う行為。
    ・医学的判断に基づかない痛みを伴うようなリハビリを強要する。
    ・移動させるときに無理に引きずる。無理やり食事を口に入れる。
  4. 外部との接触を意図的、継続的に遮断する行為。
    ・身体を拘束し、自分で動くことを制限する(ベッドに縛り付ける。ベッドに柵を付ける。つなぎ服を着せる。意図的に薬を過剰に服用させて、動きを抑制する)。
    ・外から鍵をかけて閉じ込める。中から鍵をかけて長時間家の中に入れない。など

【ネグレクト】

  1. 意図的であるか、結果的であるかを問わず、介護や生活の世話を行っている者が、その提供を放棄又は放任し、高齢者の生活環境や、高齢者自身の身体・精神的状態を悪化させていること。
    ・入浴しておらず異臭がする、髪や爪が伸び放題だったり、皮膚や衣服、寝具が汚れている。
    ・水分や食事を十分に与えられていないことで、空腹状態が長時間にわたって続いたり、脱水症状や栄養失調の状態にある。
    ・室内にごみを放置する、冷暖房を使わせないなど、劣悪な住環境の中で生活させる。
  2. 専門的診断や治療、ケアが必要にもかかわらず、高齢者が必要とする医療・介護保険サービスなどを、周囲が納得できる理由なく制限したり使わせない、放置する。
    ・徘徊や病気の状態を放置する。
    ・虐待対応従事者が、医療機関への受診や専門的ケアが必要と説明しているにもかかわらず、無視する。
    ・本来は入院や治療が必要にもかかわらず、強引に病院や施設等から連れ帰る。
  3. 同居人等による高齢者虐待と同様の行為を放置する。
    ・孫が高齢者に対して行う暴力や暴言行為を放置する。

【心理的虐待】

  • 脅しや侮辱などの言語や威圧的な態度、無視、嫌がらせ等によって、精神的苦痛を与えること。
    ・老化現象やそれに伴う言動などを嘲笑したり、それを人前で話すなどにより、高齢者に恥をかかせる(排泄の失敗、食べこぼしなど)。
    ・怒鳴る、ののしる、悪口を言う。
    ・侮蔑を込めて、子どものように扱う。
    ・排泄交換や片づけをしやすいという目的で、本人の尊厳を無視してトイレに行けるのにおむつをあてたり、食事の全介助をする。
    ・台所や洗濯機を使わせないなど、生活に必要な道具の使用を制限する。
    ・家族や親族、友人等との団らんから排除する。 など

【性的虐待】

  • 本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為又はその強要。
    ・排泄の失敗に対して懲罰的に下半身を裸にして放置する。
    ・排泄や着替えの介助がしやすいという目的で、下半身を裸にしたり、下着のままで放置する。
    ・人前で排泄行為をさせる、オムツ交換をする。
    ・性器を写真に撮る、スケッチをする。
    ・キス、性器への接触、セックスを強要する。
    ・わいせつな映像や写真を見せる。
    ・自慰行為を見せる。 など

【経済的虐待】

  • 本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること。
    ・日常生活に必要な金銭を渡さない、使わせない。
    ・本人の自宅等を本人に無断で売却する。
    ・年金や預貯金を無断で使用する。
    ・入院や受診、介護保険サービスなどに必要な費用を支払わない。

続いて、養介護施設従事者等による高齢者虐待の例は以下の通りです。

【身体的虐待】

  1. 暴力的行為
    ・平手打ちをする。つねる。殴る。蹴る。
    ・ぶつかって転ばせる。
    ・刃物や器物で外傷を与える。
    ・入浴時、熱い湯やシャワーをかけてやけどをさせる。
    ・本人に向けて物を投げつけたりする。 など
  2. 本人の利益にならない強制による行為、代替方法を検討せずに高齢者を乱暴に扱う行為
    ・医学的診断や介護サービス計画等に位置づけられておらず、身体的苦痛や病状悪化を招く行為を強要する。
    ・介護がしやすいように、職員の都合でベッド等へ抑えつける。
    ・車椅子やベッド等から移動させる際に、必要以上に身体を高く持ち上げる。
    ・食事の際に、職員の都合で、本人が拒否しているのに口に入れて食べさせる。
  3. 「緊急やむを得ない」場合以外の身体拘束・抑制

【ネグレクト】

  1. 必要とされる介護や世話を怠り、高齢者の生活環境・身体や精神状態を悪化させる行為
    ・入浴しておらず異臭がする、髪・ひげ・爪が伸び放題、汚れのひどい服や破れた服を着せている等、日常的に著しく不衛生な状態で生活させる。
    ・褥瘡(床ずれ)ができるなど、体位の調整や栄養管理を怠る。
    ・おむつが汚れている状態を日常的に放置している。
    ・健康状態の悪化をきたすほどに水分や栄養補給を怠る。
    ・健康状態の悪化をきたすような環境(暑すぎる、寒すぎる等)に長時間置かせる。
    ・室内にごみが放置されている、鼠やゴキブリがいるなど劣悪な環境に置かせる。
  2. 高齢者の状態に応じた治療や介護を怠ったり、医学的診断を無視した行為
    ・医療が必要な状況にも関わらず、受診させない。あるいは救急対応を行わない。
    ・処方通りの服薬をさせない、副作用が生じているのに放置している、処方通りの治療食を食べさせない。 など
  3. 必要な用具の使用を限定し、高齢者の要望や行動を制限させる行為
    ・ナースコール等を使用させない、手の届かないところに置く。
    ・必要なめがね、義歯、補聴器等があっても使用させない。 など
  4. 高齢者の権利を無視した行為又はその行為の放置
    ・他の利用者に暴力を振るう高齢者に対して、何ら予防的手立てをしていない。
  5. その他職務上の義務を著しく怠ること

【心理的虐待】

  1. 威嚇的な発言、態度
    ・怒鳴る、罵る。
    ・「ここ(施設・居宅)にいられなくしてやる」「追い出すぞ」などと言い脅す。
  2. 侮辱的な発言、態度
    ・排せつの失敗や食べこぼしなど老化現象やそれに伴う言動等を嘲笑する。
    ・日常的にからかったり、「死ね」など侮蔑的なことを言う。
    ・排せつ介助の際、「臭い」「汚い」などと言う。
    ・子ども扱いするような呼称で呼ぶ。 など
  3. 高齢者や家族の存在や行為を否定、無視するような発言、態度
    ・「意味もなくコールを押さないで」「なんでこんなことができないの」などと言う。
    ・他の利用者に高齢者や家族の悪口等を言いふらす。
    ・話しかけ、ナースコール等を無視する。
    ・高齢者の大切にしているものを乱暴に扱う、壊す、捨てる。
    ・高齢者がしたくてもできないことを当てつけにやってみせる(他の利用者にやらせる)。
  4. 高齢者の意欲や自立心を低下させる行為
    ・トイレを使用できるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視しておむつを使う。
    ・自分で食事ができるのに、職員の都合を優先し、本人の意思や状態を無視して食事の全介助をする。 など
  5. 心理的に高齢者を不当に孤立させる行為
    ・本人の家族に伝えてほしいという訴えを理由なく無視して伝えない。
    ・理由もなく住所録を取り上げるなど、外部との連絡を遮断する。
    ・面会者が訪れても、本人の意思や状態を無視して面会させない。 など
  6. その他
    ・車椅子での移動介助の際に、速いスピードで走らせ恐怖感を与える。
    ・自分の信仰している宗教に加入するよう強制する。
    ・入所者の顔に落書きをして、それをカメラ等で撮影し他の職員に見せる。
    ・本人の意思に反した異性介助を繰り返す。
    ・浴室脱衣所で、異性の利用者を一緒に着替えさせたりする。

【性的虐待】

  • 本人との間で合意が形成されていない、あらゆる形態の性的な行為又はその強要
    ・性器等に接触したり、キス、性的行為を強要する。
    ・性的な話しを強要する(無理やり聞かせる、無理やり話させる)。
    ・わいせつな映像や写真をみせる。
    ・本人を裸にする、又はわいせつな行為をさせ、映像や写真に撮る。撮影したものを他人に見せる。
    ・排せつや着替えの介助がしやすいという目的で、下(上)半身を裸にしたり、下着のままで放置する。
    ・人前で排せつをさせたり、おむつ交換をしたりする。またその場面を見せないための配慮をしない。 など

【経済的虐待】

  • 本人の合意なしに財産や金銭を使用し、本人の希望する金銭の使用を理由なく制限すること
    ・事業所に金銭を寄付・贈与するよう強要する。
    ・金銭・財産等の着服・窃盗等(高齢者のお金を盗む、無断で使う、処分する、無断流用する、おつりを渡さない)。
    ・立場を利用して、「お金を貸してほしい」と頼み、借りる。
    ・日常的に使用するお金を不当に制限する、生活に必要なお金を渡さない。

こうした例を把握することで、本問のような問題の判断を素早くできるようにしておきたいものですね。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です