公認心理師 2019-153

問153は示された事例状況において、地域包括支援センターの対応として適切なものを選択する問題です。
介護保険の申請がなく、認知症もないとされていますので、その時点で除外できる選択肢がありますね。

問153 85歳の男性A。Aは一人暮らしで、介護保険は申請しておらず、認知症の診断もされていない。しかし、身辺自立はしているものの、室内の清掃が行き届かず、物を溜め込みがちであるので、地域ケア会議で、ホームヘルパーによる清潔管理を行っていく方針を取り決め、実施していた。ヘルパーを受け入れているようにみえたが、2か月が経過した頃、Aからホームヘルパーの利用を終わりにしたいと突然申出があった。
地域包括支援センターの対応として、適切なものを2つ選べ。
①基本チェックリストの再確認
②グループホームへの入居の提案
③小規模多機能型居宅サービスの利用
④地域ケア会議での支援方法の再検討
⑤定期巡回・随時対応型訪問サービスの利用

地域包括支援センターとは、介護保険法で定められた、地域住民の保健・福祉・医療の向上、虐待防止、介護予防マネジメントなどを総合的に行う機関です。
介護保険法第115条の46には「地域包括支援センターは、第一号介護予防支援事業及び第百十五条の四十五第二項各号に掲げる事業(以下「包括的支援事業」という)その他厚生労働省令で定める事業を実施し、地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、その保健医療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的とする施設とする」と定義されています。

介護・医療・保健・福祉などの側面から高齢者を支える「総合相談窓口」になります。
専門知識を持った職員が、高齢者が住み慣れた地域で生活できるように介護サービスや介護予防サービス、保健福祉サービス、日常生活支援などの相談に応じており、介護保険の申請窓口も担っています。

解答のポイント

事例の状況から選択される可能性のあるサービスを把握していること。
Aの反応から考えられる事態を推定し、そこから必要な対応を導くことができること。

選択肢の解説

①基本チェックリストの再確認
④地域ケア会議での支援方法の再検討

事例は「介護保険は申請しておらず、認知症の診断もされていない」「身辺自立はしている」状態ではありますが、「室内の清掃が行き届かず、物を溜め込みがち」のため「ホームヘルパーによる清潔管理を実施」していました。
このときには「ヘルパーを受け入れているようにみえた」が、「2か月が経過した頃、Aからホームヘルパーの利用を終わりにしたいと突然申出があった」ということです。

この事態では以下の2点を考えてよいかなと思います。

  1. Aが本当は何らかの理由で、自分の家に入られたり、掃除をされることを良く思っていなかった。
  2. Aの意見の変化は、心身の機能の低下などの要因により生じている。

こうした可能性などを踏まえ、それらに沿った対応を考えていきましょう。

まず第1項のAが受け入れているように見えていたが、実際はホームヘルパーを拒否したい気持ちがあった場合を考えていきます。
事例は「室内の清掃が行き届かず、物を溜め込みがち」ということですが、こういうものを片付けられることを嫌う人はけっこういるものです。
その極端な例がゴミ屋敷の住人ですが、それに限らず、多くの人が自分のプライベートな領域において、自我からクモの糸のようなものを出して、その空間の色んなものを絡めて自我の一部にしています。
この辺の心理の説明は難しいのですが、自分の使い慣れた物が自分の一部に感じられるような体験は多くの人にあるだろうと思います。
ゴミ屋敷の住人にとって、そこにおいてあるものは自我の一部であり、それに触れる人、それをゴミと呼ぶ人に怒りを覚えるのはそういった背景があります。

いずれにせよ、「室内の清掃が行き届かず、物を溜め込みがち」という状態の背景にこうした心理状態が潜んでいれば、いったん受け入れたホームヘルパーを後になって拒否するということもあり得るでしょう。
片づけられることによって、その不快さが滲み出てきたという感じでしょうか。
もちろん、こうした心理だけが影響しているとは断言できませんが、こうした心理的な要因による拒否感が働いていると仮定するならば、選択肢④にある「地域ケア会議での支援方法の再検討」が行われるのが普通です
入っていたホームヘルパーからAの様子の変化や物を片付けたときの反応などを細かく聞き、Aがホームヘルパーを拒否した背景の心理を探っていくことになるでしょう。
そして、今度はそうした心理を踏まえた提案なり対応を採っていくことが大切になります

さて、続いて心身の機能の低下が生じている可能性についても考えてみましょう。
認知症の診断はされていないということですが、それがいつの段階の話かは明示されていませんね。
本事例では心身の機能のうち、他者を受け付けずひきこもる場合、認知機能の低下によって適切な判断が不可能になった場合、などを検討していくことが重要になってきます。

こういうことを踏まえ、選択肢①の「基本チェックリストの再確認」は採り得る対応の一つと言えるでしょう。
基本チェックリストは、65歳以上の高齢者が自分の生活や健康状態を振り返り、心身の機能で衰えているところがないかどうかをチェックするためのものです。
生活機能の低下のおそれがある高齢者を早期に把握し、介護予防・日常生活支援総合事業へつなげることにより状態悪化を防ぐためのツールとされています。

基本チェックリストは全25項目の質問で構成されており、この中には「閉じこもり」や「認知症」に関する質問項目も設けられております。
改めて基本チェックリストの再確認を行い、Aの現時点での生活機能等を再検証し、その上で必要な対応を考えることになるでしょう。

以上より、選択肢①および選択肢④が適切と判断できます。

②グループホームへの入居の提案

グループホームは、認知症の高齢者が日常生活での介助や身体介護を受けながら暮らすための施設です
利用者と職員が一緒に食事の準備をするなど、家庭的な雰囲気で運営されていることが多いですね。

要支援2以上で原則65歳以上の認知症高齢者で、施設がある自治体に住民票を持つ人が入居できる施設となり、5~9人を1ユニットとする少人数で、専門スタッフから介護サービス、機能訓練等を受けながら、料理や掃除などの家事を分担し共同生活を送ります
ただし、グループホームは看護師配置が義務付けられていません。
よって、看護師がいないグループホームでは、医療行為が必要になるなど身体状況によっては退去せざるを得ない場合があります。

まずは事例の男性は認知症の診断もされておらず、介護保険申請もしていませんから、グループホームへの入居を提案するのはできません。
また、既に述べたように、現状で必要なことは支援の内容の選定ではないと考えるのが臨床的に妥当だと言えますね

以上より、選択肢②は不適切と判断できます。

③小規模多機能型居宅サービスの利用

小規模多機能型居宅サービスに関しては、介護保険法第8条の19に以下の通り規定されています。
この法律において「小規模多機能型居宅介護」とは、居宅要介護者について、その者の心身の状況、その置かれている環境等に応じて、その者の選択に基づき、その者の居宅において、又は厚生労働省令で定めるサービスの拠点に通わせ、若しくは短期間宿泊させ、当該拠点において、入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって厚生労働省令で定めるもの及び機能訓練を行うことをいう

在宅介護でデイサービス・ショートステイといったさまざまなサービスを利用していると、利用しているサービスの数だけ契約手続き・信頼関係の構築が必要になります。
利用者の身体状況等が変化したので別のサービスに変更しようとしても、手続きが煩雑だったり、新しい担当者との関係構築に苦労する恐れがあります。
そのような状況を踏まえて活用されるのが「小規模多機能型居宅サービス」です。

小規模多機能型居宅介護とは、介護保険制度で創設された地域密着型サービスの一つで、同一の介護事業者が「通所(デイサービス)」を中心に、「訪問(ホームヘルプ)」や「泊まり(ショートステイ)」を一体的に提供することができます。
「通所」「訪問」「泊まり」という別々のサービスを、一体的に行うことができるという利点があります。
なお、このサービスを利用するには、介護認定の「要介護」「要支援」ともに1以上と認定されることが要件となっています。

こちらは介護保険サービスの一つであることから、介護保険を申請していない事例の状況とは合致しないサービスであると判断できます
そのサービス内容も、身辺自立している事例の内容とは齟齬があるものと見なすのが自然ですね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

⑤定期巡回・随時対応型訪問サービスの利用

定期巡回・随時対応型訪問サービスに関しては、介護保険法第8条の15に以下の通り規定されています。
この法律において「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」とは、次の各号のいずれかに該当するものをいう

  1. 居宅要介護者について、定期的な巡回訪問により、又は随時通報を受け、その者の居宅において、介護福祉士その他第二項の政令で定める者により行われる入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生労働省令で定めるものを行うとともに、看護師その他厚生労働省令で定める者により行われる療養上の世話又は必要な診療の補助を行うこと。ただし、療養上の世話又は必要な診療の補助にあっては、主治の医師がその治療の必要の程度につき厚生労働省令で定める基準に適合していると認めた居宅要介護者についてのものに限る。
  2. 居宅要介護者について、定期的な巡回訪問により、又は随時通報を受け、訪問看護を行う事業所と連携しつつ、その者の居宅において介護福祉士その他第二項の政令で定める者により行われる入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話であって、厚生労働省令で定めるものを行うこと。

なお、こちらのサービスに関しては、一つの事業所で訪問介護と訪問看護のサービスを一体的に提供する「一体型事業所」と、事業所が地域の訪問看護事業所と連携をしてサービスを提供する「連携型事業所」の2つの類型があります。

このサービスは、要介護状態となった場合においても、利用者が尊厳を保持し可能な限り利用者の居宅において、自身の能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう定期的な巡回又は随時通報により、利用者の居宅を訪問し、入浴、排せつ、食事等の介護、日常生活上の緊急時の対応など安心して居宅で生活を送ることができるようにするための援助を行うとともに、療養生活を支援し、心身の機能の維持・回復を目指すものです
定期巡回・随時対応型訪問介護看護は、要介護1以上の認定を受けた方が対象となります。

事例の状態は身辺自立しており、「介護保険は申請しておらず」とありますから、介護保険サービスの一つである「定期巡回・随時対応型訪問サービス」の利用の要件を満たしていないことがわかります

また、事例の状態から見ても「入浴、排せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話」というサービス内容とは齟齬があることがわかりますね。
以上より、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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