問143は虐待種別を選択する問題です。
事例の内容を読んで、どの虐待に該当するかを判断する必要があります。
各虐待の内容については、厚生労働省のページや「子ども虐待対応の手引き」に詳しいです。
問143 13歳の男子A、中学1年生。Aは両親と2つ上の兄Bと暮らしている。両親は、AとBが幼い頃から、多くの学習塾に通わせるなどして中学受験を目指させた。Bは志望校に合格したが、Aは不合格であった。両親は「お前は出来そこないだ。これからは死ぬ気で勉強しろ」とAを繰り返しなじった。次第に両親は「お前はBとは違って負け犬だ。負け犬の顔など見たくない」と言い、Aに別室で一人で食事をさせたり、小遣いを与えなかったりし始めた。両親の行為は虐待種別の何に当たるか、最も適切なものを1つ選べ。
①教育的虐待
②経済的虐待
③身体的虐待
④心理的虐待
⑤ネグレクト
本事例で描かれているような事例は、本当によく見聞きするようになりました。
極端な事例ならば通告も可能ですが、実際にはグレーゾーンで児童相談所が動けないような事例が山のようにあります。
そういった場合でも、各機関に「状況を知っておいてもらう」ということは大切だと思います。
解答のポイント
「虐待種別」を理解し、事例に沿った判断ができる。
選択肢の解説
①教育的虐待
②経済的虐待
③身体的虐待
④心理的虐待
⑤ネグレクト
まず問題文にある「虐待種別の何に当たるか」の意味を正確に捉えることが大切です。
虐待種別はその被虐待者によって法律で規定されておりますが、本事例のような児童が両親から虐待を受けるという場合には児童虐待防止法の虐待種別が採用されることになります。
児童虐待防止法第2条にある虐待の定義は「保護者(親権を行う者、未成年後見人その他の者で、児童を現に監護するものをいう)がその監護する児童(十八歳に満たない者をいう)について行う次に掲げる行為をいう」とされ、以下が規定されております。
- 児童の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること。
- 児童にわいせつな行為をすること又は児童をしてわいせつな行為をさせること。
- 児童の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、保護者以外の同居人による前二号又は次号に掲げる行為と同様の行為の放置その他の保護者としての監護を著しく怠ること。
- 児童に対する著しい暴言又は著しく拒絶的な対応、児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含む)の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動をいう)その他の児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。
上から順に、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待となりますね。
この4つが本事例における「虐待種別」ということになりますから、この中から適切な種別を選択することが求められている問題と言えます。
よって、この時点で「教育的虐待」は除外できることになります(そういう「虐待種別」は存在しないから。教育にまつわる出来事といえ、種別がなければ選択することはできません)。
ちなみに身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4種類に経済的虐待を加えた5種別を採用しているのは、高齢者虐待防止法(第2条第2項)と障害者虐待防止法(第6条)になります。
この時点で「経済的虐待」は除外できますね。
さて、事例の内容を見ていきましょう。
- 両親は「お前は出来そこないだ。これからは死ぬ気で勉強しろ」とAを繰り返しなじった。
- 次第に両親は「お前はBとは違って負け犬だ。負け犬の顔など見たくない」と言い、Aに別室で一人で食事をさせたり、小遣いを与えなかったりし始めた。
という点が虐待種別のいずれに該当するかを考えていく必要があります。
身体的に傷つけるような行為をしていないこと、わいせつな行為をしていないことなどから、身体的虐待および性的虐待は除外できます。
「Aに別室で一人で食事をさせたり」「小遣いを与えなかったり」という点をネグレクトと感じる人もいるかもしれませんが、食事を与えなければネグレクトになりますが、この事例では別室とはいえ与えています。
また、小遣いに関しては「児童の心身の正常な発達を妨げるような」というネグレクトの定義に該当しません。
これらより、ネグレクトも除外することができます。
厚生労働省は心理的虐待の例として「言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV)など」を挙げております。
これらの内容は明らかに本事例の内容と合致していることがわかります。
また「子ども虐待対応の手引き」の心理的虐待の例としては…
- ことばによる脅かし、脅迫など。
- 子どもを無視したり、拒否的な態度を示すことなど。
- 子どもの心を傷つけることを繰り返し言う。
- 子どもの自尊心を傷つけるような言動など。
- 他のきょうだいとは著しく差別的な扱いをする。
- 子どもの面前で配偶者やその他の家族などに対し暴力をふるう。
以上より、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。