問103は成年後見制度に関する問題です。
公認心理師法第3条の「欠格事由」の一番最初に「成年被後見人又は被保佐人」が挙げられておりますね。
問103 成年後見制度について、正しいものを1つ選べ。
①成年被後見人であっても選挙権は制限されない。
②医療保護入院は補助人の同意によって行うことができる。
③成年後見人に選任される者は、弁護士又は司法書士に限られる。
④法定後見は簡易裁判所の審判により成年後見人等が選任される。
⑤保佐人は被保佐人が行った食料品の購入を取り消すことができる。
成年後見制度自体の問題は初出ですが、私はこれを初出とは捉えません。
なぜなら先述の通り、公認心理師法の欠格事由に挙げられており、2018追加-1の選択肢①でもしっかりと出題があるからです。
「成年被後見人又は被保佐人は公認心理師になれないんだなー」とだけ覚えてもあまり意味はなく、重要なのは「成年被後見人又は被保佐人」とは何かを理解していることです。
とある研究で、ファッション雑誌の知らない単語にマークをつけていったら、7割くらいの単語が実際には理解していないということが示されています。
つまり、ほとんどの人が書かれている内容を理解していない可能性があるということですね。
「わからなさ」というのは麻痺を生じさせます。
「わからないこと」を「わからないまま」にしておくことで、自分が「わかっていない」ということに鈍くなってしまうのです。
試験勉強において、この麻痺は大敵です。
学ぶ上では「自分が何をわかっているか」よりも、「自分が何をわかっていないのか」を理解しておくことが重要です。
これは臨床実践でも同じかもしれません。
クライエントの話をききながら「わかっている」ということよりも「何がわかっていないのか」を自覚しておく方が、効果的な質問を可能にし、それによってクライエントの気づきを促すことも有り得るでしょう。
解答のポイント
成年後見制度に関する理解があること。
選択肢の解説
①成年被後見人であっても選挙権は制限されない。
認知症、知的障害、精神障害などの理由で判断能力が不十分な場合、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。
また自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。
このような判断能力の不十分な人たちを保護し、支援するのが成年後見制度です。
平成25年5月、成年被後見人の選挙権の回復等のための公職選挙法等の一部を改正する法律が成立、公布されました(平成25年6月30日施行)。
これにより、平成25年7月1日以後に公示・告示される選挙について、成年被後見人の方は、選挙権・被選挙権を有することとなります。
また、この改正では、併せて、選挙の公正な実施を確保するため、代理投票において選挙人の投票を補助すべき者は、投票に係る事務に従事する者に限定されるとともに、病院、老人ホーム等における不在者投票について、外部立会人を立ち会わせること等の不在者投票の公正な実施確保の努力義務規定が設けられました。
詳しくはこちらの資料をご覧ください。
公職選挙法の成年被後見人に係る選挙権及び被選挙権の欠格条項の削除がなされております。
以上より、選択肢①は正しいと判断できます。
②医療保護入院は補助人の同意によって行うことができる。
この選択肢の解説のためには、後見人・保佐人・補助人の違いについて理解しておくことが重要になります。
法定後見制度は「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれており、判断能力の程度など本人の事情に応じて制度を選べるようになっています。
法定後見制度においては、家庭裁判所によって選ばれた成年後見人等(成年後見人・保佐人・補助人)が本人の利益を考えながら、本人を代理して契約などの法律行為をしたり、本人が自分で法律行為をするときに同意を与えたり、本人が同意を得ないでした不利益な法律行為を後から取り消したりすることによって本人を保護・支援します。
【後見】
ほとんど判断出来ない人を対象としています。
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力を欠く常況にある者を保護します。
大体、常に自分で判断して法律行為をすることはできないという場合です。
家庭裁判所は本人のために成年後見人を選任し、成年後見人は本人の財産に関するすべての法律行為を本人に代わって行うことができます。
また、成年後見人または本人は、本人が自ら行った法律行為に関しては日常行為に関するものを除いて取り消すことができます。
【保佐】
判断能力が著しく不十分な人を対象としています。
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が特に不十分な者を保護します。
簡単なことであれば自分で判断できるが、法律で定められた一定の重要な事項については援助してもらわないとできないという場合です。
家庭裁判所は本人のために保佐人を選任し、さらに、保佐人に対して当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権を与えることができます。
また、保佐人または本人は本人が自ら行った重要な法律行為に関しては取り消すことができます。
【補助】
判断能力が不十分な人を対象としています。
精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)によって判断能力が不十分な者を保護します。
大体のことは自分で判断できるが、難しい事項については援助をしてもらわないとできないという場合です。
家庭裁判所は本人のために補助人を選任し、補助人には当事者が申し立てた特定の法律行為について代理権または同意権(取消権)を与えることができます。
上記からもわかるとおり、後見・保佐・補助は、「代理権」「同意権」「取消権」という権限を与えられますが、それぞれこの権限を使える場合で違いがあります。
代理権とは「家の売買契約や預貯金の解約など財産に関わる重要な行為を本人に代わって行う権限」であり、同意権とは「家の売買契約や預貯金の解約など財産に関わる重要な法律行為を本人が行う際は、代理人の同意を必要とする権限」であり、取消権とは「本人が代理人の同意を得ないで行った契約や取引などを取り消す権限」を指します。
後見人→保佐人→補助人と、本人の判断能力が高くなっていくわけですから、当然後見人等の権限も変わってくるということになりますね。
このことを踏まえて、本選択肢を見ていきましょう。
精神保健福祉法第33条(医療保護入院)に以下の通り規定があります。
- 精神科病院の管理者は、次に掲げる者について、その家族等のうちいずれかの者の同意があるときは、本人の同意がなくてもその者を入院させることができる。
一 指定医による診察の結果、精神障害者であり、かつ、医療及び保護のため入院の必要がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
二 第三十四条第一項の規定により移送された者 - 前項の「家族等」とは、当該精神障害者の配偶者、親権を行う者、扶養義務者及び後見人又は保佐人をいう。ただし、次の各号のいずれかに該当する者を除く。
一 行方の知れない者
二 当該精神障害者に対して訴訟をしている者、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
三 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
四 成年被後見人又は被保佐人
五 未成年者
このように医療保護入院の決定は「後見人」または「保佐人」までとなっております。
普通の人よりも判断能力は多少不足するものの、日常生活には問題がない場合に補助人がサポートを行います。
精神保健福祉法においては、この補助人は家族等には入らないということですね。
以上より、選択肢②は誤りと判断できます。
③成年後見人に選任される者は、弁護士又は司法書士に限られる。
④法定後見は簡易裁判所の審判により成年後見人等が選任される。
民法第7条によると、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができるとされています。
なお市町村長も65歳以上の者、知的障害者、精神障害者につきその福祉を図るため特に必要があると認めるときは後見開始の審判を請求することができることとされています(老人福祉法32条、知的障害者福祉法28条、精神保健福祉法51条の11の2)。
後見人であるか否かの判断は上記の通りですが、成年後見人に就任する場合には特別な資格は必要ありません。
基本的には誰でも後見人になることができますが、未成年者、破産者(破産者でも、すでに免責許可決定を受けている人は、後見人になれます)、被後見人に対し訴訟をし、またはした者、およびその配偶者並びに直系血族以下の事由に該当する者は後見人になることができません。
成年後見制度は大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の2つがあります。
任意後見制度は、本人が十分な判断能力があるうちに、将来、判断能力が不十分な状態になった場合に備えて、あらかじめ自らが選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活、療養看護や財産管理に関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書ょで結んでおくというものです。
そうすることで、本人の判断能力が低下した後に、任意後見人が、任意後見契約で決めた事務について、家庭裁判所が選任する「任意後見監督人」の監督のもと本人を代理して契約などをすることによって、本人の意思にしたがった適切な保護・支援をすることが可能になります。
任意後見制度は本人の判断能力が衰える前から利用できますが、法定後見は判断能力が衰えた後でないと利用できません。
以上より、成年後見人に選任されるのは弁護士又は司法書士に限らず、誰でもなることが可能であり、それを家庭裁判所が選任することになります。
よって、選択肢③および選択肢④は誤りと判断できます。
⑤保佐人は被保佐人が行った食料品の購入を取り消すことができる。
保佐は、軽い認知症などで普通の人よりか判断能力は不足するものの、日常の生活は自分で出来ると判断された場合に適用されます。
本人の判断力の程度が成年後見人をつける程低下している状態ではないと家庭裁判所が判断した場合、保佐が適用され保佐人がサポートを行うことになります。
日常生活のことについては本人が自分で判断するものの、訴訟や契約など慎重な判断が必要な場面では保護者である保佐人が判断を行います。
そのため保佐人には、「取消権」「同意権」の2つの権限があります。
さて、具体的に保佐人が何を「取り消す」権限があるのかを見ていくことが重要です。
民法第13条第1項にこちらについて定められております。
- 被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。 - 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
- 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。
- 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
ここで示された行為については、保佐人の同意なく行われた場合、それを取り消すことが可能です。
しかし、本選択肢の「食料品の購入」については、13条第1項の各号で規定されておりませんね。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。
この問題は、保佐人の「取消権」「同意権」の2つの権限を知っている人ほど間違えやすい、意地悪な問題ですね