中途障害者の障害受容に関する問題です。
中途障害者とは、人生の途中で脳血管性障害、難病、交通事故などで障害をおった方という意味ですね。
解答のポイント
中途障害者の障害受容過程(上田敏)について把握していること。
中途障害者の障害受容過程
- ショック期:
受傷してすぐの段階で、障害が残る可能性などが分かっていないことから、比較的平穏な心理状態。感情が麻痺してしまっているため心理的には平穏な状態で、現実に起きていることを自分ごとに感じられなくなっていることが多く、「治療を受けていれば完治する」と希望を持っているケースも見られる。
- 否認期:
治療が一段落して、自分の身体状況などにも目が向くようになってくるが、自分に障害が残ることを認めていない時期。自分の身体に障害があることは認められますが、それが今後の生活にどう影響するのかまでは考えが至らず、正確に受け入れることができない。
心理的な防衛反応として障害を否認したり、回復への希望を過剰に抱くことも。 - 混乱期:
圧倒的な現実を到底有効に否認し切ることができず、障害が完治することの不可能性を否定し切れなくなった結果起こってくる時期。この時期の患者は攻撃性が高く、それが外向的・他罰的になって現れる。
すなわち、自分の障害が治らないのは治療が間違っているからだ、もっと回数や時間を多くやってくれないからだ、そもそも発病の最初の時の治療が失敗したからこうなったのだ、等々とすべてを他人の責任にし、怒り・うらみの感情をぶつける。逆にそれが内向的・自罰的な形で現れると、今度は自分を責め、すべては自分が悪いのだと考え悲嘆にくれ、また抑鬱的になり、時には自殺企図にはしるとされる。障害を受け止めることができず、他人に感情をぶつけたり、他人を責めたりする。
- 努力期:
怒りをぶつけたり、絶望しても問題解決にはならない、自ら努力することも必要と気づきはじめる時期。いろいろな葛藤をしながら、少しずつ自身の状況を理解していく時期で、障害を受け入れることに対して、前向きな努力ができるようになる頃。
- 受容期:
障害の存在によって、自身の価値が低下するわけではないという価値観が生じてくる。
現状の自分自身を受け入れ、障害もまた自身の個性だと捉えられるようになる。現実を受け止め、残された機能の活用や価値の転換がはかられていく時期。
この他にも、障害受容はいくつかの理論が提唱されています。
コーンの「ショック→回復への期待→悲哀→防衛→適応」や、フィンクの「ショック→防御的退行→承認→適応と変化」などが有名です。
選択肢の解説
『①他責を示すことはない』
「3.混乱期」には他罰的になることが示されています。
よって、選択肢①は誤りと言えます。
『②一旦前進し始めると、後退することはない』
こうした過程論すべてに言えることでしょうが、必ずしもプロセス通りに障害を受容できるわけではありません。
努力期まで来ていた人がショック期に戻ることも往々にして見られますし、最後まで受容できないということも少なくないです。
らせん階段のように、同じ場所にいるように感じてもちょっと高いところに登れていたり、人によってその歩みが違うのと同じだと思います。
「障害の受容」と「偏見の克服」は連動しつつ生じるものであり、この過程は内在化されていた価値判断が変化するということを意味します。
この点から考えても、前進・後退を繰り返しつつ進行するのが自然なものと考えられます。
よって、選択肢②は誤りと言えます。
『③他者や一般的な価値と比較して自分を評価することが必要である』
「5.受容期」にあるように、障害の存在によって自身の価値が低下するわけではないという価値観が生じてくることが重要です。
他者と比較するのではなく、一般的な価値に照らすのでもなく、自分を障害という個性を持ったひとりの人間として位置づけることが大切です。
よって、選択肢③は誤りと言えます。
『④障害によって自分の価値全体を劣等だと認知することが必要である』
こちらは「5.受容期」の内容と真逆となっております。
どう考えても、こちらの選択肢を選ぶことはできないように感じますが…。
よって、選択肢④は誤りと言えます。
『⑤ショック期の次の期では、障害を認めつつ、一方で回復を期待した言動がしばしばみられる』
ショック期の次は「2.否認期」で、心理的な防衛反応として障害を否認したり、回復への希望を過剰に抱くことが確認されています。
現状把握がきちんとできていない段階ということですね。
こちらは選択肢⑤の内容と合致しており、正しい内容と言えます。