ひきこもり当事者への訪問支援アウトリーチ型支援 について、最も適切なものを1つ選ぶ問題です。
公認心理師2018-67でも類似の問題が出ていますね。
上記と同様に、「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン(厚生労働省)」を参考にしつつ解説をしていきましょう。
基本事項として、ひきこもりの定義は以下の通りです。
「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である。なお、ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態とは一線を画した非精神病性の現象とするが、実際には確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである」
解答のポイント
厚生労働省のガイドラインを中心に、ひきこもり支援の概要を理解していること。
ひきこもり当事者の心境を推察し、理解するよう努めていること。
選択肢の解説
『①当事者に会えない場合は、長時間の家族との面談は避ける』
当事者に会えない状態で、長時間家族と面談していると、当事者がどのように感じるかを考えておきましょう。
他選択肢でも述べますが、ひきこもり当事者は「世界が自分を責めている」ように感じています。
このような状況下で家族と長時間の面談を行うと、自分のことを話している、文句を言っている、告げ口している、などといった認識が生まれやすいと考えられます。
「当事者が見えないところで家族と面談している」という状況では、上記の理由から短く切り上げた方が適切と言えます。
もちろん当事者が目の前にいれば、支援者が安全であること、侵襲する存在でないことをその会話の中から示すことが可能ですので、状況に合わせて時間を延ばすことも考えてよいでしょう。
かしまえりこ先生は(不登校児の)家庭訪問のコツを示しており、その中に「短時間ですませる」という項目があります。
「お茶が出るまでいたら失敗です」としていますね。
お互いに負担になると続かないこと、長居は熱意ではなく「一度ですまそう」という手抜きのこころであることが多いということです。
不登校児は家庭訪問時に緊張していることも多いものです。
その辺への配慮が重要になりますし、その点はひきこもりでも同様ですね。
ガイドラインには以下のように記載されています。
「当事者は支援者と会うことを拒んでいる場合でさえ、多くの事例では訪問してきた支援者に強い関心を持って、支援者の気配に注目しているはずです。支援者はどのような振る舞いをするのか、家族とどのような話をしているのか、どれだけ耳を傾けてくれそうな人なのかなどを知ろうと、五感をとぎすましているはずです。もちろん、訪問が終わった後の家族の自分への接し方や会話にも関心は向いています。そのため、支援者は当事者がいない部屋での家族との面談でも、当事者の存在を意識し、当事者の本当の気持ちを尊重するという姿勢で臨むことを忘れてはなりません」
当事者を気遣って短い時間で面接を終える、しかし家族がそれによって変化してきているということについては、しっかりと当事者は受け取ります。
相手への安全感を高めるのは、何も会話の内容や話し方だけによるのではないのです。
当事者がいない場面でも当事者の立場に立った関わりをできること、そのように振る舞えることがより糸のように交わりながら当事者に届くのです。
以上より、選択肢①は適切と判断できます。
『②近隣への配慮のため、原則として訪問スタッフは1人とする』
ガイドラインにある「訪問実施前の準備段階で検討すべきこと」では、「訪問の適切なセッティングを工夫すること」について以下のように記載されています。
- 適切な訪問日時、場所、話題などを検討します。また、訪問への当事者の反応も予測しながら、訪問スタッフの構成を考えます。
- 事情を近隣に知られたくないと思う家族もあり、訪問時に車を近くにとめないようにするなどの配慮もその必要性を事前に確認します。
- 家庭内暴力などの暴力行為が激しい事例の場合は、家族による警察への支援の要請や一時家を出て避難するといった対応も訪問以前に考えられますが、もし訪問型の支援を行うとすれば、支援者の前で激しい暴力を家族に向けたり、支援者に向ける場合には警察の介入を要請することになるでしょう。
上記にある「訪問への当事者の反応も予測しながら、訪問スタッフの構成を考える」ということはどういう意味かを考えておくことが重要です。
ひきこもりでは家庭内暴力が併存しているケースも多いため、暴力への対応も念頭に置いておく必要があります。
家族の暴力を振るったり、支援者に攻撃を向けるような可能性がある場合には、男性スタッフがいることや、スタッフ間で緊急時の対応を事前に話し合っておくことも必要でしょう。
上記のガイドラインにも「訪問スタッフの構成」と、支援スタッフが複数であることを前提とした書き方になっているのはそのためです。
家族から「事情を近隣に知られたくない」という意見が出る可能性もありますが、訪問スタッフが複数であることは当事者の暴力の要因だけでなく、閉ざされた空間で支援者が何をしているかの証明という、危機管理上も重要な事柄と言えます。
もちろん、上記にあるように「訪問時に車を近くにとめないようにするなどの配慮」は重要になります。
支援には譲れることと譲れないことがありますが、そこのラインに支援者の専門性や技術が現れるとも言えますね。
以上より、選択肢②は不適切と判断できます。
『③相談意欲が極めて低い当事者には、対等な関係づくりから始める』
ガイドラインに記載されている当事者との関わりを抜き出すと以下の通りです。
- 初回の訪問に限らず、当事者に会えときには必ず支援者は「よく顔を出してくださいました。お会いできて本当に嬉しいです」といった気持ちを自分の言葉で伝えるようにしましょう。そして、支援者は自分が何者で、何の目的で家庭訪問をしたのかを静かな口調で話すことが特に重要です。
- もし当事者が自分から能動的に話をしてくれるなら、支援者はその話しを十分に聞くことが必要です。せっかちに話の腰を折ったり、いきなり内容を批判したりといったことはせずに、この日当事者が勇気を出して支援者と会ったことに込めた気持ちをとらえようと、耳を傾けましょう。初回訪問時に当事者が話した言葉は、一見取りとめのない雑談のような言葉であっても、後にその言葉には大切な意味があると気づくことは案外多いものです。
- 当事者との会話の内容として、訪問前の家族などからの情報収集で得た情報を活用して、好きな趣味や特技など、当事者にとって話しやすく侵襲性の低い話題を取り上げることで、比較的速やかに気軽に話せる関係になれるかもしれません。しかし、あまりにも当事者のことを知りすぎているという印象を与えるような支援者の話し方はかえって逆効果となることはいうまでもありません。
上記のアプローチは、選択肢にあるような「対等な関係づくり」と言うよりも、「安心できる関係づくり」と捉えるのが適切です。
ひきこもり当事者は決して怠けている人たちではありません。
誰よりも当事者が自分自身を責めています。
このことはひきこもりに限らず、不登校児でも同様で、どんなにそうは見えなくても、間違いなく自分で自分を責めているのだと認識しておくことが支援者には求められます。
ひきこもりや不登校児にその状態を責めてはいけない理由として、「当事者が一番自分を責めている」という論理が背景にあります。
中井久夫先生はアルコール中毒者が「道徳を過敏に意識する、超自我が重すぎる人」であるとし、家族が当人を責めると「その重たい超自我を代わりに引き受ける」という事態が生じてしまい、身軽になってひたすら「アルコール中毒」への道を歩きはじめる、としています。
この点はひきこもりや不登校児でも同じではないかと思います。
よくひきこもりや不登校児の保護者から聞くのは「(その状態について)何とも思ってないように見える」ということですが、多くの場合、当事者が自分自身を責める代わりに保護者が当事者を責めているという仕組みが隠されていることが多いものです。
これほど強く自分自身を責めていると何が起こるのかを理解しておくことが重要です。
閉ざされた空間の中で自分自身を強く責め続けていると、自分が考えていること、認識していることが世界のすべてになっていきます(この仕組みは種々の洗脳、暴力が繰り返される場面などでも生じる世界観です)。
つまり、「自分が自分を責めている」という状態から、「世界全体が自分を責めている」と感じるようになっていくのです(この辺の思考パターンは精神医学的問題と親和性が高くなりますね)。
訪問支援の支援者も、彼らからすれば「自分を責めてくる可能性が高いやつら」という認識から始まります。
むしろそれが基本であると考えた方がよいですし、本選択肢にあるような「相談意欲が極めて低い当事者」では尚更だと考えておいた方がよいでしょう。
ですから訪問支援の際には、支援者が安全な存在であること、彼らを侵襲するような人間ではないこと、が伝わることが大切になります。
よって、上記のガイドラインにあるような「安全な関係づくり」が最初になるわけです。
「対等な関係づくり」はその先にある目標と考えておいた方がよいでしょう。
こちらからの意見に対し侵襲されたという思いを持つことなくやり取りが可能になる状態になれば、対等な関係と表現できるかもしれません。
斎藤環先生も述べておられますが、自分がひきこもりであることを冗談交じりに話せるような関係になれば、その関係自体が治療的なものと言えます。
このような「対等な関係づくり」のためにも、そして本選択肢のような「相談意欲が極めて低い当事者」であれば間違いなく、安心できる関係づくりを目標にすることが重要です。
よって、選択肢③は不適切と判断することができます。
『④訪問に際しては、家族の了解があれば当事者の了解は不要である』
ガイドラインでは、「訪問実施前の準備段階で検討すべきこと」として「訪問することを事前に家族や当事者に伝えること」の重要性が挙げられています。
以下にその内容を転記します。
- 一般に家族や当事者の了解を得たうえで訪問することが推奨されています。
- 多くの支援者が配慮しているのは、家族の伝言や手紙などを介した間接的な接触の試みを通じて、支援者や訪問そのものに対する当事者の反応を確認するということです。
- 当事者が訪問を拒否している場合は、訪問以外の支援法や家族に対象を限定した訪問を検討します。無理やり面談を強いるのではなく、当事者の部屋の外からドア越しに声かけをすることを繰り返し、家族と雑談して帰る、というタイプの訪問活動も有効です。
- ただし、生命に関わるような深刻な自傷・他害の危険があると判断される場合には、精神保健福祉法に基づく精神保健指定医による措置入院のための診察などの制度を利用することも検討しなければなりません。
- 当事者に訪問の了解を得る手続きは原則的には必須であり、了解なしの訪問はあくまで緊急の必要性が存在する場合の例外的なものにとどめるべきです。当事者への予告なしの訪問が契機となって、ひきこもりがひどくなったり、家庭内暴力が悪化したりといった結果も起こりうることを、支援者は重々承知していなければなりません。
上記の通り、訪問支援にあたっては当事者の了承も重要であることが示されています。
他選択肢でも述べたように、ひきこもり当事者は非常に安全感を欠いた心理状態で過ごしていることが多いです。
当事者の了承を得ない訪問は、ただでさえ欠いている安全感を侵襲することにつながり、支援において重要な信頼関係の基盤を崩すことになりかねません。
当事者の生命に係わるような事態であると見立てられる場合を除き、当事者の了承を得ることを前提としておいた方が望ましいと言えます。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
『⑤家族に重大な健康問題や家族機能不全のある場合は、当事者への訪問は避ける』
ガイドラインには「訪問支援を考慮するタイミング」が以下のように示されています。
- 当事者の心身の状態が悪化し、あるいは不安定となり、生じている事態の正確な評価、自他の生命の危険性(自傷他害を含む)、安全性の検討が必要とされるとき。
- 当事者に精神医学的な観点から見た病的なエピソードがあり、受療の必要性についての判断や精神医学的な判断が、家族や関係機関から求められるとき。
- 家族自身が重大な健康問題を抱えている、または家族機能不全を起こしており、支援者が直接当事者に会って、状況確認や支援方針を見定める必要性が高いと判断したとき。
- 家族や関係機関との相談を継続していく中で、支援者が訪問することを当事者が納得する、あるいは希望するとき。
こうした訪問支援を開始するタイミングの指標は重複していることも多く、その場合にはより緊急性が高まるものと考えられます。
より具体的な内容としては以下の通りです。
「ひきこもり中の子どもと親、特に母親との間で、過保護や過干渉を伴う共生的な関係性が形成されやすいという事例も多く見られますが、そういう場合は青年期の子どもを社会に送り出してゆくために必要な社会との橋渡しの機能を家族が発揮できなくなりがちです。ひきこもりに必然的に伴うこうした家族の機能不全が、さらにひきこもりの長期化を招くという悪循環を形成してしまいがちです。このような家族システムの機能不全も支援の重要な対象となります」
上記の通り、むしろ家族に重大な健康問題や家族機能不全がある場合は、当事者への訪問を積極的に検討する必要がある事態と言えます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。