児童虐待が疑われる事例の支援にあたって、公認心理師が関わる機関と介入の内容との組み合わせについて、正しいものを1つ選ぶ問題です。
まず、児童虐待に関する記載のある主な法律は児童福祉法と児童虐待防止法です。
これらについての理解はまずが大切です。
また、児童虐待に関わらずですが「これってどこに申請するんだっけ?」という話題は臨床実践の中でもよく出てきます。
こういった「知っていればすぐに答えられること」に時間を費やすのは非常にもったいない行為なので、きちんと把握しておくことが専門家として求められますね。
解答のポイント
児童福祉法を中心に、児童虐待と関わる機関とその役割について把握していること。
選択肢の解説
『①裁判所 ― 一時保護』
児童福祉法第28条第1項には、児童養護施設等への措置を拒否する場合、家庭裁判所の承認を経て、児童福祉施設等への措置ができるとされています。
同様の内容は児童虐待防止法第9条の3にも規定されています。
こうした強制的に分離をする場合、家庭裁判所の承認が必要になるとされていますが、一時保護を行う主体は裁判所ではありません。
これは児童福祉法第33条第1項に「児童相談所長は、必要があると認めるときは、第二十六条第一項の措置を採るに至るまで、児童の安全を迅速に確保し適切な保護を図るため、又は児童の心身の状況、その置かれている環境その他の状況を把握するため、児童の一時保護を行い、又は適当な者に委託して、当該一時保護を行わせることができる」と規定されています。
このように、一時保護を行う主体は児童相談所です。
以上より、選択肢①は誤りと判断できます。
『②医療機関 ― 医療費の助成』
医療機関の児童虐待に関わる事柄については、児童虐待防止法第13条の4に以下のように規定があります。
「地方公共団体の機関及び病院、診療所、児童福祉施設、学校その他児童の医療、福祉又は教育に関係する機関並びに医師、歯科医師、保健師、助産師、看護師、児童福祉施設の職員、学校の教職員その他児童の医療、福祉又は教育に関連する職務に従事する者は、市町村長、都道府県の設置する福祉事務所の長又は児童相談所長から児童虐待に係る児童又はその保護者の心身の状況、これらの者の置かれている環境その他児童虐待の防止等に係る当該児童、その保護者その他の関係者に関する資料又は情報の提供を求められたときは、当該資料又は情報について、当該市町村長、都道府県の設置する福祉事務所の長又は児童相談所長が児童虐待の防止等に関する事務又は業務の遂行に必要な限度で利用し、かつ、利用することに相当の理由があるときは、これを提供することができる」
やや長いですが、児童相談所から児童虐待防止に関する業務の遂行に必要な限度で活用する範囲で、医療機関は情報提供をすることができる旨の規定となっています。
児童虐待とはこの点で関わりがあると言ってよいでしょう。
一方で医療費の助成については、医療機関が行っているわけではありません。
医療費助成制度は、医療機関にかかることで発生する医療費の負担を軽減する目的で、国および地方公共団体が実施している福祉制度のことです。
「公費負担医療制度」と「公費以外の医療費助成制度」があります。
「公費負担医療制度」は、障害者総合支援法に基づく育成医療や精神通院医療、養育医療、小児慢性特定疾病、特定疾病、生活保護、公害医療などがあります。
病院や診療所など医療機関は患者に請求すべき一部負担金を、国または地方公共団体に請求します。
「公費以外の医療費助成制度」は、健康保険制度や各地方公共団体の条例に基づくもので、その多くは医療機関の窓口で支払った一部負担金の一部または全部が、後日、保険者または地方公共団体から払い戻される間接的な助成制度です。
具体的には、高額療養費制度、家族療養付加金制度、重度心身障害者医療費助成制度、ひとり親(母子)家庭等医療費助成制度、乳幼児医療費助成制度などがあります。
このような各自治体の条例に基づく制度では、名称や負担の内容等は各自治体により異なっています。
医療費助成については、児童虐待と直接絡むような条項は見つけられませんでした。
もちろん、ひとり親、乳幼児、生活保護などリスクの高い家庭に対して医療費の助成を行っているということは、虐待リスクを下げる効果があると思われます。
以上より、医療機関が医療費の助成を行っているわけではないと言えます。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。
『③市町村役場 ― 里親への支援』
里親とは、児童福祉法第6条の4に基づき通常の親権を有さずに児童を養育する者のことを指します。
虐待を受けた児童を保護し、その後里親委託を行うこともありますから、里親への支援も児童虐待と関連がある内容と言えますね。
児童を里親に委託する権限は国が都道府県知事に与えており、知事は実務権限を児童相談所長に与えることで児童相談所により行われることが日本では一般的です。
児童福祉法第10条には「市町村長は、前項第三号に掲げる業務のうち専門的な知識及び技術を必要とするものについては、児童相談所の技術的援助及び助言を求めなければならない」とされています。
また同法第12条第2項には「児童相談所は、児童の福祉に関し、主として前条第一項第一号に掲げる業務並びに同項第二号及び第三号に掲げる業務並びに障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律第二十二条第二項及び第三項並びに第二十六条第一項に規定する業務を行うものとする」とされています。
そして、児童福祉法第11条は以下のような規定となります。
児童相談所が行っている実務については、児童福祉法第11条に「里親に関する次に掲げる業務を行うこと」として以下が規定されています。
- 里親に関する普及啓発を行うこと。
- 里親につき、その相談に応じ、必要な情報の提供、助言、研修その他の援助を行うこと。
- 里親と第二十七条第一項第三号の規定により入所の措置が採られて乳児院、児童養護施設、児童心理治療施設又は児童自立支援施設に入所している児童及び里親相互の交流の場を提供すること。
- 第二十七条第一項第三号の規定による里親への委託に資するよう、里親の選定及び里親と児童との間の調整を行うこと。
- 第二十七条第一項第三号の規定により里親に委託しようとする児童及びその保護者並びに里親の意見を聴いて、当該児童の養育の内容その他の厚生労働省令で定める事項について当該児童の養育に関する計画を作成すること。
上記に出てくる児童福祉法第27条第1項第3号は「児童を小規模住居型児童養育事業を行う者若しくは里親に委託し、又は乳児院、児童養護施設、障害児入所施設、児童心理治療施設若しくは児童自立支援施設に入所させること」という規定を指しています。
以上より、里親への支援は児童相談所が中心となって行っており、市町村役場ではないことがわかります。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。
『④児童相談所 ― 心理的支援』
児童相談所の業務内容は児童福祉法11条1項2号で以下の通り定められています。
- 各市町村の区域を超えた広域的な見地から、実情の把握に努めること。
- 児童に関する家庭その他からの相談のうち、専門的な知識及び技術を必要とするものに応ずること。
- 児童及びその家庭につき、必要な調査並びに医学的、心理学的、教育学的、社会学的及び精神保健上の判定を行うこと。
- 児童及びその保護者につき、前項の調査又は判定に基づいて心理又は児童の健康及び心身の発達に関する専門的な知識及び技術を必要とする指導その他必要な指導を行うこと。
- 児童の一時保護を行うこと。
- 里親に関する次に掲げる業務を行うこと(選択肢③参照)。
上記は心理的支援を指すものですが、厚生労働省のホームページにある「児童相談所の運営指針について」では、より明確に役割を定めています。
養護相談の説明として「父又は母等保護者の家出、失踪、死亡、離婚、入院、稼働及び服役等による養育困難児、棄児、迷子、虐待を受けた子ども、親権を喪失した親の子、 後見人を持たぬ児童等環境的問題を有する子ども、養子縁組に関する相談」としています。
これらより、児童相談所が心理的支援を行う機関として規定されていることがわかります。
よって、選択肢④は正しいと判断できます。
『⑤女性相談センター ― 生活保護』
女性相談センターでは、配偶者・恋人などからの暴力の相談や女性相談(ストーカー被害、夫婦・家庭内のトラブル、対人関係の悩みなど)を扱っています。
DV防止法第3条で規定されている「配偶者暴力相談支援センター」の機能を持たせている場合が多いようです。
DVは虐待との関係も深いです。
母親が暴力を振るわれている場面を見せることも児童虐待です。
児童福祉法第38条に規定されている「母子生活支援施設」についても同様の機能を持つことになっているようです。
規定としては「配偶者のない女子又はこれに準ずる事情にある女子及びその者の監護すべき児童を入所させて、これらの者を保護するとともに、これらの者の自立の促進のためにその生活を支援し、あわせて退所した者について相談その他の援助を行うことを目的とする施設」ですが、DV被害者の保護から自立支援を進めるための重要な施設となっています。
このように、女性相談センターは児童虐待と絡む機関ですが、生活保護は別機関が行っております。
生活保護の実施機関は生活保護法第19条に以下の通り規定されています。
「都道府県知事、市長及び社会福祉法に規定する福祉に関する事務所(以下「福祉事務所」という)を管理する町村長は、次に掲げる者に対して、この法律の定めるところにより、保護を決定し、かつ、実施しなければならない」
厚生労働省のページにも、生活保護の相談・申請窓口として「現在お住まいの地域を所管する福祉事務所の生活保護担当です。福祉事務所は、市(区)部では市(区)が、町村部では都道府県が設置しています」としています。
以上より、生活保護は福祉事務所が実施していることがわかります。
よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。