2018年の健康増進法改正で国及び地方公共団体の責務として規定された内容に関する問題です。
身の回りにある制度がどのような経緯で規定されたのかを理解するようにしましょう。
問113 2018年(平成30年)に改正された健康増進法で、国及び地方公共団体の責務として、新たに規定されたものを1つ選べ。
① 自殺予防
② 受動喫煙防止
③ 地域保健対策
④ 特定健康診査
⑤ ストレスチェック制度
解答のポイント
各制度が成立した経緯と根拠法を把握している。
選択肢の解説
② 受動喫煙防止
健康増進法は2018年に改正されていますが、この改正の趣旨は厚生労働省のこちらの資料に詳しいですね(この資料を基に解説していきます)。
この改正の趣旨は、望まない受動喫煙の防止を図るため、多数の者が利用する施設等の区分に応じ、当該施設等の一定の場所を除き喫煙を禁止するとともに、当該施設等の管理について権原を有する者が講ずべき措置等について定めることです。
この改正の基本的な考え方は以下の通りです。
- 「望まない受動喫煙」をなくす:
受動喫煙が他人に与える健康影響と、喫煙者が一定程度いる現状を踏まえ、屋内において、受動喫煙にさらされることを望まない者がそのような状況に置かれることのないようにすることを基本に、「望まない受動喫煙」をなくす。 - 受動喫煙による健康影響が大きい子ども、患者等に特に配慮:
子どもなど20歳未満の者、患者等は受動喫煙による健康影響が大きいことを考慮し、こうした方々が主たる利用者となる施設や、屋外について、受動喫煙対策を一層徹底する。 - 施設の類型・場所ごとに対策を実施:
「望まない受動喫煙」をなくすという観点から、施設の類型・場所ごとに、主たる利用者の違いや、受動喫煙が他人に与える健康影響の程度に応じ、禁煙措置や喫煙場所の特定を行うとともに、掲示の義務付けなどの対策を講ずる。その際、既存の飲食店のうち経営規模が小さい事業者が運営するものについては、事業継続に配慮し、必要な措置を講ずる。
このために国及び地方公共団体は、望まない受動喫煙が生じないよう、受動喫煙を防止するための措置を総合的かつ効果的に推進するよう努めることになります。
具体的には、①周知啓発(国民や施設の管理権原者などに対し、受動喫煙による健康影響等について、国及び地方自治体がパンフレット資材の作成・配布等を通じて周知啓発を行う)、②喫煙専用室等の設置に係る予算・税制上の措置(飲食店等における中小企業の事業主等が、受動喫煙対策として一定の基準を満たす喫煙専用室等を整備する際、その費用について助成を行う。また、中小企業等が経営改善設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度について、喫煙専用室に係る器具備品等がその対象となることを明確化する)、③屋外における分煙施設(屋外における受動喫煙対策として、自治体が行う屋外における分煙施設の整備に対し、地方財政措置による支援を行う)になります。
確か喫煙のスペースをどう作るかなどテレビなどで一時期話題になっていたような記憶がありますが、私たち専門職と関連することとしては病院等での喫煙場所に関わることが大きいかなと思います。
この法律を受けてデイケアなどが禁煙になり、デイケアと病院敷地外との境目で利用者が横並びになって煙草を吸っていた光景が思い出されます。
以上のように、2018年の健康増進法の改正で国及び地方公共団体の責務として規定されたのは、受動喫煙防止になります。
よって、選択肢②を選択することになります。
① 自殺予防
③ 地域保健対策
④ 特定健康診査
⑤ ストレスチェック制度
ここでは挙げた選択肢が関連する法律を簡単に紹介しておきます。
まず選択肢①の自殺予防については、自殺の予防と防止、その家族の支援の充実のために制定された自殺対策基本法が挙げられるでしょう。
2006年6月21日に公布、10月28日に施行され、この背景には、2000年以降自殺者数が毎年約3万人を超えている(警察庁統計資料による)現状があります。
基本理念として、自殺対策が社会的な取り組みとして実施されなければならないこと、国や地方公共団体、医療機関などの各団体が密接に連携しなければならないことなどを掲げています。
また、対策の実施には国や自治体が責務を負うこと、未遂者や自死遺児への支援、自殺対策に取り組む民間団体の支援、自殺総合対策会議の設置と政府による施策の報告義務などが定められています。
平成19(2007)年6月には、この基本法に基づいて政府が推進すべき自殺対策の指針を示した「自殺総合対策大綱」が策定されました。
法制化には、自殺に取り組む市民団体が中心となって短期間に10万人もの署名を集めた署名運動や、「議員有志の会」による要望書提出と国会での説明が大きな役割を果たしました。
選択肢③の地域保健対策は、地域保健法が中核的な役割を担うことになるでしょう。
地域保健法は、地域保健対策の推進に関する基本指針、保健所の設置その他地域保健対策の推進に関し基本となる事項を定めることにより、母子保健法その他の地域保健対策に関する法律による対策が地域において総合的に推進されることを確保し、地域住民の健康の保持および増進に寄与することを目的として制定された法律です。
1937年に保健所法(旧)が制定され、戦後の1947年に保健所法(新)が制定され、この時点では「保健所法」という名称でしたが、1994年の改正で「地域保健法」という呼称になりました。
具体的には、保健センターを全市町村に拡大し、従来保健所と市町村がそれぞれ提供してきた地域保健サービスを一元化し、市町村保健センターが実施するようにしました。
また、これからの地域保健のあり方として、①生活者を重視、②身近な保健行政は市区町村へ移す、③保健所の位置づけを新たに行い機能を強化、④地域保健マンパワーを強化、などを図ることとしています。
本法が関連する事柄として、2000年3月に「健康日本21(21世紀における国民健康づくり運動)」が策定されたことが挙げられますね。
選択肢④の特定健康診査に関する法律は、厚生労働省のこちらの資料にまとめられています。
こちらによると「高齢者の医療の確保に関する法律」に基づき、医療保険者は平成20年4月から「特定健康診査」・「特定保健指導」を実施することになりました。
第18条 厚生労働大臣は、特定健康診査(糖尿病その他の政令で定める生活習慣病に関する健康
診査をいう。以下同じ。)及び特定保健指導(特定健康診査の結果により健康の保持に努める必要がある者として厚生労働省令で定めるものに対し、保健指導に関する専門的知識及び技術を有する者として厚生労働省令で定めるものが行う保健指導をいう。以下同じ。)の適切かつ有効な実施を図るための基本的な指針(以下「特定健康診査等基本指針」という。)を定めるものとする。
上記が関連する条項になりますね。
特定健診は、国の法律によって、医療保険者が40歳以上の加入者を対象に実施することが義務付けられた健診になります。
被保険者には健診を受診する義務はありませんが(強制ではありませんが)、生活習慣病予防や自身の健康を継続して確認するためにも、年に1回、特定健診を受けて健康管理をしていくことが推奨されています。
私は昨年度40歳になり、初めて受けた特定健診で大腸にポリープが見つかり、けっこう大きかったので入院で切除しましたが、放っておいたらガン化した可能性もあったのでやはりこの年代になると色々と不都合が出てくるものだなぁと実感しています。
最後に選択肢⑤のストレスチェック制度ですが、これは定期的に労働者のストレスの状況について検査を行い、本人にその結果を通知して自らのストレスの状況について気付きを促し、個人のメンタルヘルス不調のリスクを低減させるとともに、検査結果を集団的に分析し、職場環境の改善につなげることによって、労働者がメンタルヘルス不調になることを未然に防止することを主な目的とした制度です。
労働安全衛生法第66条の10全体に係るものを指しており、2015年(平成27年)12月に施行されました。
元々は「労働者の心の健康の保持増進のための指針(平成18年3月31日)」を公表し、事業場における労働者の心の健康の保持増進のための措置の実施を促進してきましたが、仕事による強いストレスが原因で精神障害を発病し、労働災害認定される労働者が、平成18年度以降も増加傾向にあり、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止することが益々重要な課題となっていました。
こうした背景を踏まえ、平成26年6月25日に公布された「労働安全衛生法の部を改正する法律(平成26年法律第82号)」においては、心理的な負担の程度を把握するための検査(=ストレスチェック)及びその結果に基づく面接指導の実施を事業者に義務付けること等を内容としたストレスチェック制度が新たに創設されるに至ったわけです。
以上のように、選択肢①、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は、2018年の健康増進法の改正で国及び地方公共団体の責務として規定されたものではないと判断でき、除外することになります。