情報提供に際して必要なことに関する理解が問われています。
正答は医療の知識がなくても選べますが、大切なのはそれ以外の選択肢に関する理解ですね。
問78 公認心理師が、成人のクライエントの心理に関する情報を医療チームに提供する場合に事前に必要なものとして、正しいものを1つ選べ。
① 成年後見人の同意
② クライエント本人の同意
③ 医療チームが作成した手順書
④ ストレングス・アセスメント
⑤ シェアード・ディシジョン・メイキング
解答のポイント
医療においてクライエント情報を提供する際に必要な事柄を理解していること。
クライエントとの情報共有に関する諸概念を理解していること。
選択肢の解説
① 成年後見人の同意
② クライエント本人の同意
本選択肢では「クライエントに成年後見人がいる場合」にどのように判断するかが問われていると読み替えて考えていきましょう。
まず、成年後見人制度についてですが、民法第7条によると、精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができるとされています。
本問の状況として「(成年後見人がいる)成年のクライエントの心理に関する情報を医療チームに提供する場合」ですから、この状況のクライエントの情報を提供するのに、誰(どこ)に同意を取ることが事前に必要かが問われているわけです。
本事例では少なくとも公認心理師が対応しているわけですから、クライエントとのやり取りは可能であると見なして考えていきます。
個人情報保護法第16条第1項には「個人情報取扱事業者は、あらかじめ本人の同意を得ないで、前条の規定により特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて、個人情報を取り扱ってはならない」とあります。
この法律で言う「本人の同意」とは、本人の個人情報が、個人情報取扱事業者によって示された取扱方法で取り扱われることを承諾する旨の当該本人の意思表示を指します。
また、「本人の同意を得(る)」とは、本人の承諾する旨の意思表示を当該個人情報取扱事業者が認識することをいい、事業の性質及び個人情報の取扱状況に応じ、本人が同意に係る判断を行うために必要と考えられる合理的かつ適切な方法によらなければなりません。
これらより、個人情報保護法においては「本人の同意」を重視していることがわかります。
ただし、個人情報の取扱いに関して同意したことによって生ずる結果について、未成年者、成年被後見人、被保佐人及び被補助人が判断できる能力を有していないなどの場合は、親権者や法定代理人等から同意を得る必要があります。
関連しそうな資料として「医療現場における成年後見制度への理解及び病院が身元保証人に求める役割等の実態把握に関する研究」があります。
この中には「判断能力が不十分で成年後見制度を利用している場合」の手順が示されており、その中で「本人の入院診療についての説明に同席を希望する人がいる場合は本人へ意向を確認した上で、情報提供を行います」とあります。
続けて「医療機関が提供する診療の内容を説明しているものとして、診療契約の代理権をもつ成年後見人等がその内容の確認を行います。本人や家族等だけでなく、成年後見人等にも説明します」とありますが、成年後見制度を利用していたとしても本人の意向を確認することが前提であると述べられていますね。
あくまでも「判断できる能力を有していないなどの場合」ならば親権者や法定代理人ということになりますが、本人の同意が取れる状況であればそれが情報提供の同意に最も大切なことであるのは間違いありません。
以上より、選択肢①は誤り、選択肢②が正しいと判断できます。
③ 医療チームが作成した手順書
厚生労働省によると、手順書とは「医師又は歯科医師が看護師に診療の補助を行わせるために、その指示として作成する文書」であって、「看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲」、「診療の補助の内容」等が定められているものです。
具体的に、手順書の記載事項としては、以下の事項となります。
- 看護師に診療の補助を行わせる患者の病状の範囲
- 診療の補助の内容
- 当該手順書に係る特定行為の対象となる患者
- 特定行為を行うときに確認すべき事項
- 医療の安全を確保するために医師又は歯科医師との連絡が必要となった場合の連絡体制
- 特定行為を行った後の医師又は歯科医師に対する報告の方法
本選択肢の「手順書」も上記の内容であると認識して考えていくことにしましょう。
クライエント情報を提供する場合は、上記で挙げられている項目に先んじて「クライエント本人の同意」を取ることが重要になります。
この同意の上にこうした「手順書」に従った支援を行うことになると考えられます。
以上より、選択肢③は誤りと判断できます。
④ ストレングス・アセスメント
カンザス大学のRappらは、エンパワーメントモデルをベースに、1970年代から、ケースマネジメント領域において新たな実践モデルを生み出しました。
それが「ストレングスモデル」であり、その要点は、「リカバリー(その人の人生をとりもどすこと)」のために、「アスピレーション(熱望、夢、希望)」に重点を置き、「個人の強み(過去、現在、未来のすべての実験体験を含む)」と「地域の強み」を活用し、新たな生活設計や具体化を図ろうとするものです。
「ストレングスモデル」では以下の原則が掲げられています。
- 人々はリカバリーし、生活を改善し高めることができる
- 欠陥ではなく、個人のストレングス(強みや長所)に焦点を当てる
- 地域を資源のオアシスとして捉える
- 利用者こそが支援過程の監督者である
- ケースマネージャーと利用者の関係性が根本であり本質である
- 支援者の仕事の主要な場所は地域である
このように、ストレングス・モデルでは、疾患や障害に焦点を当てるのではなく、ストレングス、つまりその人の健康的な部分、可能性に着目するわけです。
この6原則のうち、特に原則2が大きな意味を持ちます。
すなわち、専ら病気や障害の克服に焦点を当ててきた「伝統的な医学モデルや社会福祉モデル」から、ユーザーのアスピレーションや潜在能力を最大限に尊重し、その実現のために医療福祉や福祉サービスなどが貢献するという「リカバリーモデル」への転換の必要性と実効性を提示しているからです。
なお、ストレングスには以下の4つのタイプがあるとされます。
- 個人の性格:正直である、思いやりがあるなど
- 才能・技能:○○が得意、○○ができるなど
- 環境のストレングス:安心できる家がある、仲の良い友人がいるなど
- 関心と熱望:○○になりたい、○○がしたいなど
さて、本選択肢の「ストレングス・アセスメント」とは、こうしたストレングスモデルの考え方を踏まえて、その人の「ストレングス」をアセスメントすることを指します。
クライエントのストレングスを細やかに把握し、それを支援に繋げていくわけですね。
本選択肢の「ストレングス・アセスメント」は支援において重要ではありますが、本問の状況は「クライエントの情報を提供する場合に事前に必要なもの」を選択するわけですから、「ストレングス・アセスメント」が「クライエントの同意」よりも先に来ることはないことがわかるはずですね。
「クライエントの同意」を前提として情報提供がなされ、その情報からクライエントのストレングスを読み取っていくことが「ストレングス・アセスメント」になりますから、本選択肢の内容は順序違いということになります。
以上より、選択肢④は誤りと判断できます。
⑤ シェアード・ディシジョン・メイキング
「Shared decision making」とは、医療者と患者がエビデンス(科学的な根拠)を共有して一緒に治療方針を決定するというもので「共有意思決定」と呼ばれます。
もしも、他の選択肢に比べて、患者がよくなる可能性が高いことが分かっている、すなわち確実性が高い治療があれば、その治療法が選択されるので、「informed consent(インフォームドコンセント)」が行われます。
「Shared decision making」が行われるのは、どの治療法がよいのかが分からないときになるということです。
すなわち、「Shared decision making」はいつも行われるものというわけではありません。
「Shared decision making」は、不確実性の高低と命のリスクの2つの軸から4タイプに分けられ、これが行われるのは確実性が低い場合になります。
例えば、腫瘍の圧迫によって膝が伸ばせない場合、腫瘍を取り除く手術にはリスクがあり、しかし、それをすることによって膝は伸ばせるようになるが、ある箇所に麻痺は残る…などの場合は、端的に「この方針が良い」と決められないだろうと思います。
患者がどのように考えるのか、どういった社会生活を営んでいるかで全く異なります(正座をせねばならない職業の人が、「歩けるようになる」よりも「歩けないけど正座ができる」を選んだ例を知っています)。
このようにシェアード・ディシジョン・メイキングとは「共有意思決定」を指す概念となりますが、こちらは本問の情報提供に際して事前に必要な事柄とは言えないことがわかりますね。
まず、「クライエントの同意」によって示された情報をもって、クライエントへの支援の方針が挙げられ、その中で不確実性が高い支援法が複数ある場合に「Shared decision making」が行われるのだろうと思います。
以上より、選択肢⑤は誤りと判断できます。
いつも丁寧な解説ありがとうございます。
無料でこれを読ませていただけるのが、とてもありがたいです。
「医療チーム」と記載があったので、秘密保持の例外である「直接クライエントに関わる専門家で話し合う場合」にあたるかと考えたのですが、この点についてどのように考えれば良いでしょうか。
ご助言いただけますそ幸いです。
コメントありがとうございます。
この問題では、例外状況の「直接」という箇所の重要性を把握しておくことが大切です。
「医療チーム」と一言で言っても、その幅は広いと考えています。
ご指摘の例外状況では「『直接』クライエントに関わる専門家で話し合う場合」の「直接」という箇所が大切で、「医療チーム=直接ケアに関わる」とは限らないと見なすのが自然です。
また、実践上で言えば、まずはクライエントに「直接ケアに関わる専門家間での情報共有」に関する了承を得ることが求められます。
いずれにせよ、まずはクライエントの了解が第一となるということですね。
この辺に関してはYoutubeで挙げている「秘密保持義務の例外状況」の中で述べています。
もし良ければご視聴ください。
それでは。