公認心理師 2020-3

 自殺予防に関する問題です。

おそらく正しい答えを選ぶのはそれほど難しい問題ではなかったと思います。

ですが、正答以外の選択肢についても深く掘り下げて考えていくことが、「未見の問題」を解くために必要なことですから、それをやっていきましょう。

問3 自殺予防や自殺のリスク評価について、正しいものを1つ選べ。

① 文化的・宗教的な信条は、自殺のリスクに関連しない。

② 自殺念慮に具体的な計画があると、自殺のリスクが高い。

③ 家族や身近な人に自殺者がいても、自殺のリスクが高いとは言えない。

④ 自殺予防のための情報提供などの普及啓発は、自殺の二次予防として重要である。

⑤ 自殺手段や自殺が生じた場所について繰り返し詳しく報道することは、自殺予防になる。

解答のポイント

自殺予防や自殺リスクのアセスメントに関する理解があること。

選択肢の解説

① 文化的・宗教的な信条は、自殺のリスクに関連しない。

文化は個人の行動を左右するという意味で社会的な要素であり、宗教はその主要な構成要素と言えます。

日本は宗教色がそれほど強い国とは言えないのでこの辺の感覚はつかみにくいかもしれませんが、文化や宗教はいったん身に付くとかなりその人の言動を統制するものになっていきます。

これは自殺に関しても同様で、自殺をどのように見なすのか、自殺に対してどのような態度を取るのか、どのような経緯を経た自殺行動が受容される(文化によっては、時に望ましいとされるような自殺もある)のかなどは、その文化集団によって大きく異なります。

このような違いは個人レベルでは目に見えてはっきりしているとは限りませんが、集団レベルで眺めてみると、自殺率、自殺の社会的分布、行動を起こす動機は文化層によって明確な違いが見られます。

特に西欧では自殺への態度を決定しているのは強い信仰心であることが多く、宗教との繋がりが均衡を取れているか否かで自殺のリスクがかなり変わってきます。

こうした文化や宗教による自殺率の違いについては、多くの知見が示されています。

宗教ごと、国ごと、人種ごと、文化圏ごとなど、さまざまな視点から自殺の発生率などが示されており、それぞれにリスクの高い集団の存在などが明らかになっておりますね。

また別の知見としては、新しい国で適応できないでいる人の自殺率は高いと言えます。

これも広い意味では文化が自殺のリスクに影響するという捉え方が可能ですね。

慣れ親しんだ文化から離れて、新しい文化に直面することが自殺の一因になるということです。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

② 自殺念慮に具体的な計画があると、自殺のリスクが高い。

カウンセリングにおいて、死について考えていると告白されることは少なからず体験します。

その際に大切なことの一つが、自殺を実行するリスクをアセスメントすることです。

そのアセスメントの中でも「具体的な計画の有無」によって、自殺のリスクはずいぶん変わってきます。

例えば、クライエントが銃で自殺するつもりだといっても、銃を手に入れる方法がなければ、自殺の危険は比較的低いと見なすことが可能です。

しかし、計画をすでに立てていて、具体的な方法(たとえば、薬)を手に入れている場合、あるいはその方法がすぐに手に入るような場合は、自殺の危険は高いと評価すべきです。

ある研究結果ですが、自殺を思い立ってから実行するまでの時間が短い場合、より衝動的な方法(例えば、リストカットなど)が採られることが多く、自殺について考える時間が長くなってくるとより具体的な方法になっていく傾向があります。

つまり、死を願うという意図が強くなるほど、その方法が具体的になりやすい傾向が高いということであり、当然ながら自殺のリスクも高くなります(死にたいという意図が強い+それを実現可能な方法になる)。

計画が具体的であるということは、それだけ死について考えている時間が長いということであり、視野狭窄が生じている可能性も含め支援していくことが重要になります。

以上より、選択肢②が正しいと判断できます。

③ 家族や身近な人に自殺者がいても、自殺のリスクが高いとは言えない。

自分の助けになってくれるようなキーパーソン(家族や身近な人はここに含まれますね)がいなくなることは、大きな喪失体験であり、自殺のリスクを高めると考えられます。

親や配偶者の死後は自殺のリスクは男女関係なく上昇しますが、その死が自殺の場合は残された家族の自殺率は、悲嘆プロセスの間は高い値を示し続けます。

また、学校でよく見られる現象ですが、自傷行為をする友人がいると、その人も自傷行為をする率が明らかに高くなります(これは統計的にも示されております)。

しかも、これは男女ともに自傷の最も強力な予測因子とされています。

このように「身近な人の行動」は、自殺に限らず大きなリスク因子となり得ます。

不登校児がいるときょうだいの中からも不登校児が出やすかったり、母親がリストカットをしていれば子どももリストカットしやすくなったり、親族に自殺者がいれば自殺リスクも高まります。

共通して言えることは「苦しいときの表現法・対処法として、そういうやり方があるということを身近で見ていたため、自分が苦しいときにそうした方法が頭に浮かびやすくなり、結果として選択されやすくなる」ということです。

もちろん、内容によっては遺伝とか、世代間伝達とか、そういう概念で説明が付くこともあるのでしょうが、私は上記の説明が実は一番重要なのではないかと考えています(実際に、家族内で自殺行動が多いからといって、家族の多くが精神疾患があるとは限らない等の研究結果も示されています)。

以上より、選択肢③は誤りと判断できます。

④ 自殺予防のための情報提供などの普及啓発は、自殺の二次予防として重要である。

公衆衛生では、予防はその目的から第一次予防、第二次予防、第三次予防の3つのレベルに分けて考えられており、自殺の対策に関しても同様です。

まず一次予防とは、自殺行動へと駆り立てるようなさまざまな要因を除去することが目的です。

例えば、個々人の認識を変えるように働きかけたり、より適切な対処行動が取れるように援助したりすることが含まれます。

よく行われているのが自殺予防啓発プログラムの実施で、学校の授業などを活用して進められることも多いですね。

最近は「SOSの出し方」に関する研修依頼が多く来ていますが、これも広い意味では自殺予防とも関連すると言えるでしょう。

余談ですが、私が「SOSの出し方」について話すときに、いつもする話があります。

私がある職場を辞めることに決めたとき、ある同僚が「あなたは辛いことを言ってくれないから。もっと言ってくれればいいのに」と言ってきました。

私は「SOSを出さなかったのが悪いような言い方をするが、SOSを出されなかった自身の振る舞いを振り返って見られてはいかがか」と思いました。

つまり何が言いたいのかというと、SOSを出しやすくするには出す側に「SOSの出し方」を伝えるだけでなく、出される側の普段の振る舞いも大切であるということです。

そして「SOSを出される側の振る舞い」は、限定的・局所的な言動(例えば、何か特別なことをするとか、表面的で分かり易い優しさを見せるとか)にあるのではありません。

何気ない言動にも他者への配慮が含まれていること、そういう配慮を毎日のように自然に続けていること、そういうことができる人だからこそ「この人にならSOSを出したい」と思えるのです。

そういう人が多いと、ずいぶん生き心地の良い世界になるのだが、なんて思っているのですが。

話を戻して、二次予防について見ていきましょう。

二次予防の目的は、既に存在している状況が進行しないように阻止することです。

つまり、自殺における二次予防とは「自分を傷つけたいと思っている」「自殺をしようと思っている」「過去に自殺を試みたことがある」といった対象を同定し、支援に繋げることを指します。

例えば、自殺行動のハイリスク群をスクリーニングするためのプログラムを実施するなどが二次予防に該当します。

そして三次予防とは、自殺を実際に実行してしまった人に対して援助を提供することを指します。

この中には、自殺行動の影響が家族や友人、医療関係者に広がらないように働きかけることも含んでいます。

なお自殺予防の領域では、プリベンション(prevention:事前対応)、インターベンション(intervention:危機介入)、ポストベンション(postvention:事後対応)という3段階に分けて予防について論じます。

プリベンションとは、現時点で危険が迫っているわけではありませんが、その原因を取り除いたり、教育をしたりすることによって、自殺が起きるのを予防することを指し、上記で言えば一次予防に該当します。

インターベンションとは、今まさに起きつつある自殺の危険に介入し、自殺を防ぐことを指し、上記で言えば二次予防に該当します。

自殺の予防に全力を挙げることは当然ですが、残念ながら自殺を100%防ぐことは不可能です。

そこで、ポストベンションとは、不幸にして自殺が生じてしまった場合に、遺された人々に及ぼす心理的影響を可能な限り少なくするための対策を意味し、これは上記で言えば三次予防に該当します。

本選択肢の「自殺予防のための情報提供などの普及啓発」は、プリベンションつまり一次予防に該当すると言えますね。

よって、選択肢④は誤りと判断できます。

⑤ 自殺手段や自殺が生じた場所について繰り返し詳しく報道することは、自殺予防になる。

自殺の当事者を知っている人、マスメディアの報道でその自殺行為を知った感受性の強い一部の人々が影響されて、ある一定の期間ではあるが、自殺企図や自殺が続いて起こる可能性があります。

こうした自殺や自殺企図の群発は、暗示の効果により、自殺者や自殺企図者の周囲の人々やマスメディアの視聴エリアに起こる可能性があります。

自殺の群発は、特に15歳~19歳の思春期に見受けられ、10代の若者の全自殺の約1~13%がこの群発自殺に分類されるという知見もあります。

世界保健機関(WHO)が作成した自殺対策に関するガイドラインの中のひとつに「メディア関係者に向けた自殺対策推進のための手引き」があります。

厚生労働省のホームページに「自殺対策を推進するためにメディア関係者に知ってもらいたい基礎知識(2017年版)」が示されておりますのでご参照ください。

この手引きでは、メディア関係者が自殺関連報道をする際の「やるべきこと」、「やってはいけないこと」などがまとめられています。

やるべきことは…

  • どこに支援を求めるかについて正しい情報を提供すること
  • 自殺と自殺対策についての正しい情報を、自殺についての迷信を拡散しないようにしながら、人々への啓発を行うこと
  • 日常生活のストレス要因または自殺念慮への対処法や支援を受ける方法について報道すること
  • 有名人の自殺を報道する際には、特に注意すること
  • 自殺により遺された家族や友人にインタビューをする時は、慎重を期すること
  • メディア関係者自身が、自殺による影響を受ける可能性があることを認識すること

一方で、やってはいけないことは…

  • 自殺の報道記事を目立つように配置しないこと。また報道を過度に繰り返さないこと
  • 自殺をセンセーショナルに表現する言葉、よくある普通のこととみなす言葉を使わないこと、自殺を前向きな問題解決策の一つであるかのように紹介しないこと
  • 自殺に用いた手段について明確に表現しないこと
  • 自殺が発生した現場や場所の詳細を伝えないこと
  • センセーショナルな見出しを使わないこと
  • 写真、ビデオ映像、デジタルメディアへのリンクなどは用いないこと

以上のように、本選択肢の「自殺手段や自殺が生じた場所について繰り返し詳しく報道すること」は、むしろ群発自殺を招く危険な行為であることがわかりますね。

よって、選択肢⑤は誤りと判断できます。

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