公認心理師 2018追加-105

精神保健及び精神障害者福祉に関する法律〈精神保健福祉法〉の入院に関する規定について、正しいものを1つ選ぶ問題です。

精神保健福祉法の入院形態については、臨床心理士資格試験でも何度も出題されております。
かなり出題しやすいテーマなので、きちんと押さえておきたいところです。
以前の記事に簡単にまとめていますので、ご参照ください。

解答のポイント

精神保健福祉法に規定されている、各入院形態の特徴を掴んでおくこと。

選択肢の解説

『①応急入院の入院期間は24時間以内に制限される』

精神保健福祉法第33条の7に応急入院について以下の通り規定されています。
「厚生労働大臣の定める基準に適合するものとして都道府県知事が指定する精神科病院の管理者は、医療及び保護の依頼があつた者について、急速を要し、その家族等の同意を得ることができない場合において、その者が、次に該当する者であるときは、本人の同意がなくても、七十二時間を限り、その者を入院させることができる

どういった患者が該当するかは以下の通りです。

  1. 指定医の診察の結果、精神障害者であり、かつ、直ちに入院させなければその者の医療及び保護を図る上で著しく支障がある者であつて当該精神障害のために第二十条の規定による入院が行われる状態にないと判定されたもの
  2. 第三十四条第三項の規定により移送された者

上記の第2項は「第1項と同じ判定を受けて急速を要し、その者の家族等の同意を得ることができない場合として都道府県知事が移送したもの」となります。

更に条文内の「急速を要し」とは、緊急性ゆえに家族等と連絡がつかないこと等をいい、家族等が現に反対していて説得が間に合わない場合はこれに該当しません。
家族等と現に連絡できるときは本要件を欠くため応急入院が成立することはないということです(同意の有無によって医療保護入院の可否が定まるのみ)。

以上より、選択肢①は誤りと判断できます。

『②任意入院者から退院の申出があったときは退院の制限はできない』

任意入院は、医療保護入院や措置入院と異なって、精神保健指定医の診察を経る必要はありません。
任意入院者の退院については、精神保健福祉法第21条第2項以下が重要になります。

まず、第2項には「精神科病院の管理者は、自ら入院した精神障害者から退院の申出があつた場合においては、その者を退院させなければならない」とあります。
これだけを読めば、本選択肢は正しいのですが、第3項以降に退院を許可できない場合の規定がなされています。

第21条第3項は以下の通りです。
「前項に規定する場合において、精神科病院の管理者は、指定医による診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、同項の規定にかかわらず、七十二時間を限り、その者を退院させないことができる

ただし指定医がいない場合も想定し、第4項が定められています。
「前項に規定する場合において、精神科病院の管理者は、緊急その他やむを得ない理由があるときは、指定医に代えて指定医以外の医師に任意入院者の診察を行わせることができる。この場合において、診察の結果、当該任意入院者の医療及び保護のため入院を継続する必要があると認めたときは、前二項の規定にかかわらず、十二時間を限り、その者を退院させないことができる

以上より、任意入院者であっても医師の診察の結果、入院を継続する必要があると認めたときには72時間もしくは12時間に限り、退院を制限することができます
もちろん、72時間や12時間で状態が改善することはないので、この間に医療保護入院等へ切り替えることがほとんどだと言えましょう。
よって、選択肢②は誤りと判断できます。

『③措置入院は自傷他害の恐れのある精神障害者を市町村長が入院させるものである』

措置入院については精神保健福祉法第29条に規定されています。
都道府県知事は、第二十七条の規定による診察の結果、その診察を受けた者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めたときは、その者を国等の設置した精神科病院又は指定病院に入院させることができる

このように、入院させなければ自傷他害のおそれがある場合について、これを都道府県知事(または政令指定都市の市長)の権限と責任において精神科病院に強制入院させるのが措置入院です

その判断のためには「その指定する二人以上の指定医の診察を経て、その者が精神障害者であり、かつ、医療及び保護のために入院させなければその精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認めることについて、各指定医の診察の結果が一致した場合でなければならない」とされています(同法第29条第2項)。

上記の通り、入院させるのは市町村長ではなく都道府県知事になります。
よって、選択肢③は誤りと判断できます。

『④医療保護入院者の退院請求は本人又は入院に同意した家族1名が行うことができる』

医療保護入院は、自傷他害のおそれはないが、医療及び保護のため入院を必要とする精神障害者で、任意入院を行う状態にない者が対象になります。

精神保健福祉法は平成25年に改正が行われています。
改正前は、退院請求は本人のほか、保護者となった者(1名のみ)が行うことができるとされてきましたが、改正後は、本人のほか、家族等の全員が行うことができるようになりました

これは精神保健福祉法第38条の4に規定されています。
精神科病院に入院中の者又はその家族等(その家族等がない場合又はその家族等の全員がその意思を表示することができない場合にあつては、その者の居住地を管轄する市町村長)は、厚生労働省令で定めるところにより、都道府県知事に対し、当該入院中の者を退院させ、又は精神科病院の管理者に対し、その者を退院させることを命じ、若しくはその者の処遇の改善のために必要な措置を採ることを命じることを求めることができる

以上より、選択肢の内容は改正前のものと言えます。
よって、選択肢④は誤りと判断できます。

ちなみにこの法律における「家族等」の取り扱いもこの改正で拡大されています。

改正前:

  1. 後見人又は保佐人
  2. 配偶者
  3. 親権者
  4. 2および3の者以外の扶養義務者のうち家庭裁判所が保護義務を履行すべき者として選任した者(扶養義務者は改正後に同じ)

※以下の1~4の順位で1名のみ。上位の者がない場合や所在地不明の場合等は下位の者。

改正後:

  • 後見人又は保佐人
  • 配偶者
  • 親権者
  • 扶養義務者(民法の規定により、直系血族、兄弟姉妹及び家庭裁判所に選任された三親等以内の親族とされている)
※以下に該当する者のうちいずれかの者。順位はない。

『⑤精神科病院の管理者は医療保護入院者の退院促進に向けて退院後生活環境相談員を選任しなければならない』

精神保健福祉法第33条の4には以下の通り規定されています。
医療保護入院者を入院させている精神科病院の管理者は、精神保健福祉士その他厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、退院後生活環境相談員を選任し、その者に医療保護入院者の退院後の生活環境に関し、医療保護入院者及びその家族等からの相談に応じさせ、及びこれらの者を指導させなければならない

退院後生活環境相談員の概要は以下の通りです。

1.役割
①個々の医療保護入院者の退院支援のための取組において中心的役割を果たす。
②医師の指導を受けつつ、多職種連携のための調整や行政機関を含む院外の機関との調整に努める。

2.選任及び配置
配置の目安:退院後生活環境相談員1人につき、概ね50人以下の医療保護入院者を担当
医療保護入院者1人につき1人の退院後生活環境相談員を入院後7日以内に選任

3.資格要件
①精神保健福祉士
②看護職員(保健師を含む)、作業療法士、社会福祉士として、精神障害者に関する業務の経験者
③3年以上精神障害者及びその家族等との退院後の生活環境についての相談及び指導に関する業務に従事した経験を有する者であって、かつ、厚生労働大臣が定める研修を修了した者

4.業務内容
①入院時に本人及び家族等に対し、退院後生活環境相談員として選任されたことや、退院促進の措置への関わりについて説明
②退院に向けた相談支援業務
 Ⅰ本人及び家族等からの相談や退院に向けた具体的な取組の工程の相談等を積極的に行い、退院促進に努める。
 Ⅱ退院に向けた相談支援を行うに当たって、主治医の指導を受けるとともに、その他本人の治療に関わる者との連携を図る。
③地域援助事業者等の紹介に関する業務
 Ⅰ:本人及び家族等から紹介の希望があった場合等、必要に応じて地域援助事業者を紹介するよう努める
 Ⅱ:地域援助事業者に限らず、本人の退院後の生活環境又は療養環境に関わる者の紹介や連絡調整を行い、退院後の環境調整に努める。
④退院調整に関する業務
 Ⅰ:医療保護入院者退院支援委員会開催に向けた調整や運営の中心的役割を担う。
 Ⅱ:居住の場の確保等の退院後の環境に係る調整や、地域援助事業者等との連携等、円滑な地域生活への移行を図る。

これら以外にも、病院の管理者には「地域援助事業者の紹介」や「医療保護入院者退院支援委員会の設置」が義務付けられています。

以上より、選択肢⑤が正しいと判断できます。

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