精神病床の特徴に関する問題です。
解説に使う資料が一つじゃないので、解説が厄介なタイプの問題でした。
問38 精神病床の特徴として、適切なものを1つ選べ。
① 一般病院には設置されない。
② 一般病床に比べて、平均在院日数が長い。
③ 一般病床に比べて、人口当たりの病床数が多い。
④ 一般病床に比べて、病床当たりの医師数が多い。
⑤ 病床数は、私的な病院よりも公的な病院に多い。
解答のポイント
精神病床の特徴を歴史的な背景も含めて把握している。
選択肢の解説
① 一般病院には設置されない。
病院の種類には、おもに「一般病院」「精神科病院」「特定機能病院」「地域医療支援病院」があり、一般病院とは医療法人や社会福祉法人、公益法人など運営している病院で、病床数は病院の定義である20床以上ということになっています。
一般病院にも精神科が置かれているのは周知の事実でしょうし、当然精神病床が置かれている場合も多いですね。
精神科疾患であっても身体との合併症が見られる場合も多いですし、他科の診察を受けられるというメリットは大きいでしょうね。
なぜわざわざこんな当たり前の内容が出題されているのかよくわからなかったのですが、ちょっと医療法の第7条の2を見ていきましょう。
2 病院を開設した者が、病床数、次の各号に掲げる病床の種別(以下「病床の種別」という。)その他厚生労働省令で定める事項を変更しようとするとき、又は臨床研修等修了医師及び臨床研修等修了歯科医師でない者で診療所を開設したもの若しくは助産師でない者で助産所を開設したものが、病床数その他厚生労働省令で定める事項を変更しようとするときも、厚生労働省令で定める場合を除き、前項と同様とする。
一 精神病床(病院の病床のうち、精神疾患を有する者を入院させるためのものをいう。以下同じ。)
二 感染症病床(病院の病床のうち、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成十年法律第百十四号)第六条第二項に規定する一類感染症、同条第三項に規定する二類感染症(結核を除く。)、同条第七項に規定する新型インフルエンザ等感染症及び同条第八項に規定する指定感染症(同法第四十四条の九の規定により同法第十九条又は第二十条の規定を準用するものに限る。)の患者(同法第八条(同法第四十四条の九において準用する場合を含む。)の規定により一類感染症、二類感染症、新型インフルエンザ等感染症又は指定感染症の患者とみなされる者を含む。)並びに同法第六条第九項に規定する新感染症の所見がある者を入院させるためのものをいう。以下同じ。)
三 結核病床(病院の病床のうち、結核の患者を入院させるためのものをいう。以下同じ。)
四 療養病床(病院又は診療所の病床のうち、前三号に掲げる病床以外の病床であつて、主として長期にわたり療養を必要とする患者を入院させるためのものをいう。以下同じ。)
五 一般病床(病院又は診療所の病床のうち、前各号に掲げる病床以外のものをいう。以下同じ。)
このように、精神病床と一般病床が分けて述べられています。
この辺が混同していないか(一般病床‐一般病院)をチェックしているのかもしれませんね。
本選択肢の内容は「一般病院」ですから、この一般病院の中に精神病床と一般病床が同時に存在することはあり得るわけです。
以上より、選択肢①は不適切と判断できます。
② 一般病床に比べて、平均在院日数が長い。
③ 一般病床に比べて、人口当たりの病床数が多い。
④ 一般病床に比べて、病床当たりの医師数が多い。
⑤ 病床数は、私的な病院よりも公的な病院に多い。
病院の平均在院日数については、厚生労働省のこちらの資料を参考にしていきましょう。
資料の冒頭に「平均在院日数は、37.5日で前年に比べ1.2日短くなっており、病床の種類別にみると、「精神病床」は363.7日、「結核病床」は88.0日、「一般病床等」は22.2日で 前年に比べそれぞれ10.2日、6.0日、1.3日短くなっている」とありますね。
明らかに精神病床は一般病床に比べて平均在院日数が長いことがわかります。
こちらによると、精神病床の平均在院日数は274.7日であり、これでも過去10年間で精神病床の平均在院日数は52.5日短縮しているということでした。
精神病床の平均在院日数についてはかなり地域差もあり、「精神病床」では東京都(256.3日)が最も短く、次いで長野県(264.6日)、島根県(273.9日)であり、徳島県(656.2日)、鹿児島県(588.3日)、茨城県(513.3日)などが長いです。
こうした精神病床における平均在院日数の長さは、精神科病院の約8割、精神科病床の約9割を民間の医療法人が運営していることが要因とされています。
開設者別に見た施設数をこちらの資料で確認すると以下の通りになります(とりあえず「病院」だけの数字を載せます。診療所も同じような割合ですね)。
- 国=厚生労働省、独立行政法人国立病院機構、国立大学法人、独立行政法人労働者健康安全機構、国立高度専門医療研究センター、独立行政法人地域医療機能推進機構、その他(国の機関):321
- 公的医療機関=都道府県、市町村、地方独立行政法人、日赤、済生会、北海道社会事業協会、厚生連、国民健康保険団体連合会:1199
- 社会保険関係団体=健康保険組合及びその連合会、共済組合及びその連合会、国民健康保険組合:49
- 医療法人:5687
- 個人:156
- その他=公益法人、私立学校法人、社会福祉法人、医療生協、会社、その他の法人:826
このように、日本における精神病床は圧倒的に私的な病院が占めていることがわかります。
そして、1958年の事務次官通達(発医第132号)により、精神病床の許可基準の定数については、医師は1/3、看護師は2/3とされており(いわゆる、精神科特例)、こうした取り決めにより設置基準を緩める代わりに、診療報酬は一般病床より低く設定されています。
病院のスタッフ配置の標準数(最低基準)を医療法施行規則が定めていますが、精神科特例によりこの最低基準が精神病床ではかなり低く設定されているということです。
- 一般病床 16:1
- 精神病床 48:1
- 療養病床 48:1
- 結核病床 16:1
- 感染症病床 16:1
- 特定機能病院 8:1
上記が医療法施行規則に記載されている基準ですが、一般病床では医師は入院患者16人あたり1人、看護職員は入院患者3人に1人であるにも関わらず、精神病床では医師は48人に1人、看護職員は4人に1人です。
前述の通知がこうした方針を打ち出したことで、民間精神病院がどんどん増える一因となりました(当時の精神病院は医療というより、生涯収容の場とみなされていました)。
こうした精神科特例は、2000年の医療法改正で精神病床の配置基準も施行規則に組みこまれ、法的には特例ではなく本則になっており、精神科に人手が少ないのは公式な形となっております。
そのため、日本の精神病床の特徴としてはその多さが挙げられており、先進国の中で人口10万人当たりのベッド数を比較したら、日本は一貫して世界一を続けています(人口当たりの精神病床数は、OECD加盟国の中では最も多く、人口10万人当たり257.2床(令和2年医療施設調査)である)。
ちなみに選択肢③で問われている、一般病床との比較では、一般病床は888,009床であり、精神病床は324,661床となっていますから(2020年の数字。参考資料はこちら)、さすがに一般病床を上回るほど精神病床が多いというわけではありません(それでも国際社会と比べて精神病床が異様に多いのは間違いありません)。
平均在院日数が長くなるのは、こうした設置基準の低さ、民間の医療機関が大多数を占めていること(利益を出すことに力点が置かれやすくなる)、病床数を増やすほど経営的に利益が出やすい構造があること(精神病床の保険点数は低いので、数を増やして利益を出すことになる)などが要因とされており、精神科病院側では自嘲的に「薄利多売」と評しているモデルになっているわけです。
以上のように、日本の精神病床においては、一般病床に比べて明らかに平均在院日数が長くなっており、その要因として医師数などの設置基準が緩いので私的な病院が多くなること、病床数などを増やすことで利益が出やすい構造があること、などが挙げられています。
よって、選択肢③、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢②が適切と判断できます。