公認心理師 2022-131

こちらは「認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」からの出題になります。

ガイドラインの内容を知らなくても、認知症の知識や常識的な判断に基づけば、かなり選択肢を絞ることができそうですね。

問131 認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援について、適切なものを2つ選べ。
① 本人の意思決定をプロセスとして支援するものである。
② 本人の意思を支援者の視点で評価し、支援すべきと判断した場合に行う。
③ 本人が最初に示した意思を尊重し、その実現を支援することが求められる。
④ 意思決定支援を行う上で、本人をよく知る家族も意思決定支援者の立場で参加する。
⑤ 社会資源の利用で本人と家族の意思が対立した場合には、家族の意思決定を優先する。

関連する過去問

なし

解答のポイント

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン」を把握している。

選択肢の解説

① 本人の意思決定をプロセスとして支援するものである。

こちらについてはガイドラインの「Ⅱ 基本的考え方」に記載があります。


1 誰の意思決定支援のためのガイドラインか

  • 認知症の人(認知症と診断された場合に限らず、認知機能の低下が疑われ、意思決定能力が不十分な人を含む。以下、「認知症の人」ないし「本人」という)を支援するガイドラインである。

2 誰による意思決定支援のガイドラインか

  • 特定の職種や特定の場面に限定されるものではなく、認知症の人の意思決定支援に関わる全ての人(以下、「意思決定支援者」という)による意思決定支援を行う際のガイドラインである。
  • その多くはケアを提供する専門職種や行政職員等であるが、これだけにとどまらず、家族、成年後見人(脚注ⅲ)、地域近隣において見守り活動を行う人、本人と接し本人をよく知る人などが考えられる。
  • ケアを提供する専門職種や行政職員の例として、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、ケアマネジャー、認知症地域支援推進員、相談支援専門員、生活保護ケースワーカー、社会福祉士、精神保健福祉士、民生委員や医療機関、訪問看護ステーション、包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター、介護サービス事業所、障害福祉サービス事業所、市町村などの職員などが考えられる。

3 意思決定支援とは何か(支援の定義)

  • 認知症の人であっても、その能力を最大限活かして、日常生活や社会生活に関して自らの意思に基づいた生活を送ることができるようにするために行う、意思決定支援者による本人支援をいう。(脚注ⅳ)
  • 本ガイドラインでいう意思決定支援とは、認知症の人の意思決定をプロセスとして支援するもので、通常、そのプロセスは、本人が意思を形成することの支援と、本人が意思を表明することの支援を中心とし、本人が意思を実現するための支援を含む。(脚注ⅴ)

〈脚注ⅲ〉ここにいう成年後見人には、法定後見人と任意後見人が含まれ、前者には、補助人や保佐人も含む。

〈脚注ⅳ〉本ガイドラインは、認知症の人の意思決定支援をすることの重要性にかんがみ、その際の基本的考え方等を示すもので、本人の意思決定能力が欠けている場合の、いわゆる「代
理代行決定」のルールを示すものではない。今後、本ガイドラインによって認知症の人の意思決定を支援してもなお生ずる問題については、別途検討されるべきで、この点は本ガイドラインの限界と位置付けられる。
本ガイドラインは、本人の意思決定支援のプロセスは、代理代行決定のプロセスとは異なるということを中心的な考えとして採用している。

〈脚注ⅴ〉本人が意思を形成することの支援を意思形成支援、本人が意思を表明することの支援を意思表明支援、本人が意思を実現するための支援を意思実現支援と呼ぶこともできる。


上記の「3 意思決定支援とは何か(支援の定義)」において、「本ガイドラインでいう意思決定支援とは、認知症の人の意思決定をプロセスとして支援するもので、通常、そのプロセスは、本人が意思を形成することの支援と、本人が意思を表明することの支援を中心とし、本人が意思を実現するための支援を含む」とされていますね。

よって、選択肢①は適切と判断できます。

② 本人の意思を支援者の視点で評価し、支援すべきと判断した場合に行う。

こちらについてはガイドラインの「認知症の人の特性を踏まえた意思決定支援の基本原則」に含まれています。


1 本人の意思の尊重

  • 意思決定支援者は、認知症の人が、一見すると意思決定が困難と思われる場合であっても、意思決定しながら尊厳をもって暮らしていくことの重要性について認識することが必要である。
  • 本人への支援は、本人の意思の尊重、つまり、自己決定の尊重に基づき行う。したがって、自己決定に必要な情報を、認知症の人が有する認知能力に応じて、理解できるように説明しなければならない。
  • 意思決定支援は、本人の意思(意向・選好あるいは好み)(脚注ⅵ)の内容を支援者の視点で評価し、支援すべきだと判断した場合にだけ支援するのではなく、まずは、本人の表明した意思・選好、あるいは、その確認が難しい場合には推定意思・選好(脚注ⅶ)を確認し、それを尊重することから始まる。
  • 認知症の人は、言語による意思表示が上手くできないことが多く想定されることから、意思決定支援者は、認知症の人の身振り手振り、表情の変化も意思表示として読み取る努力を最大限に行うことが求められる。
  • 本人の示した意思は、それが他者を害する場合や、本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合(脚注ⅷ)でない限り、尊重される。

〈脚注ⅵ〉本ガイドラインでは、「意思」という言葉で、意向、選好(好み)を表現することがある。

〈脚注ⅶ〉本人に意思決定能力が低下している場合に、本人の価値観、健康観や生活歴を踏まえて、もし本人に意思決定能力があるとすると、この状態を理解した本人が望むであろうところ、好むであろうところを、関係者で推定することを指す。

〈脚注ⅷ〉本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合は、本人が他に取り得る選択肢と比較して明らかに本人にとって不利益な選択肢といえるか、一旦発生してしまえば、回復困難なほど重大な影響を生ずるといえるか、その発生の可能性に蓋然性があるか等の観点から慎重に検討される必要がある。その例としては、自宅での生活を続けることで本人が基本的な日常生活すら維持できない場合や、本人が現在有する財産の処分の結果、基本的な日常生活すら維持できないような場合を指す。


上記の通り、本人の意思を支援者の視点で評価し、支援すべきだと判断した場合にだけ支援するのではなく、まずは、「本人の表明した意思・選好、あるいは、その確認が難しい場合には推定意思・選好を確認し、それを尊重することから始まる」とされていますね。

よって、選択肢②は不適切と判断できます。

③ 本人が最初に示した意思を尊重し、その実現を支援することが求められる。

こちらについてはガイドラインの「適切な意思決定プロセスの確保(意思決定支援者は、意思決定を支援する際には、本人の意思決定能力を適切に評価しながら、以下の適切なプロセスを踏むことが重要である)」で示されています。


(1) 本人が意思を形成することの支援(意思形成支援)

  • まずは、以下の点を確認する。
    ・本人が意思を形成するのに必要な情報が説明されているか。
    ・本人が理解できるよう、分かりやすい言葉や文字にして、ゆっくりと説明されているか。
    ・本人が理解している事実認識に誤りがないか。
    ・本人が自発的に意思を形成するに障害となる環境等はないか。
  • 認知症の人は説明された内容を忘れてしまうこともあり、その都度、丁寧に説明することが必要である。
  • 本人が何を望むかを、開かれた質問で聞くことが重要である。(脚注ⅺ)
  • 選択肢を示す場合には、可能な限り複数の選択肢を示し、比較のポイントや重要なポイントが何かをわかりやすく示したり、話して説明するだけではなく、文字にして確認できるようにしたり、図や表を使って示すことが有効な場合がある。(脚注ⅻ)
  • 本人が理解しているという反応をしていても、実際は理解できていない場合もあるため、本人の様子を見ながらよく確認することが必要である。

(2) 本人が意思を表明することの支援(意思表明支援)

  • 本人の意思を表明しにくくする要因はないか。その際には、上述したように、意思決定支援者の態度、人的・物的環境の整備に配慮が必要である。
  • 本人と時間をかけてコミュニケーションを取ることが重要であり、決断を迫るあまり、本人を焦らせるようなことは避けなければならない。
  • 複雑な意思決定を行う場合には、意思決定支援者が、重要なポイントを整理してわかりやすく選択肢を提示するなどが有効である。
  • 本人の示した意思は、時間の経過や本人が置かれた状況等によって変わり得るので、最初に示された意思に縛られることなく、適宜その意思を確認することが必要である。
  • 重要な意思決定の際には、表明した意思を、可能であれば時間をおいて確認する、複数の意思決定支援者で確認するなどの工夫が適切である。
  • 本人の表明した意思が、本人の信条や生活歴や価値観等から見て整合性がとれない場合や、表明した意思に迷いがあると考えられる場合等は、本人の意思を形成するプロセスを振り返り、改めて適切なプロセスにより、本人の意思を確認することが重要である。

(3) 本人が意思を実現するための支援(意思実現支援)

  • 自発的に形成され、表明された本人の意思を、本人の能力を最大限活用した上で、日常生活・社会生活に反映させる。
  • 自発的に形成され、表明された本人の意思を、意思決定支援チームが、多職種で協働して、利用可能な社会資源等を用いて、日常生活・社会生活のあり方に反映させる。
  • 実現を支援するにあたっては、他者を害する場合や本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずる場合でない限り、形成・表明された意思が、他から見て合理的かどうかを問うものではない。
  • 本人が実際の経験をする(例えば、ショートステイ体験利用)と、本人の意思が変更することがあることから、本人にとって無理のない経験を提案することも有効な場合がある。

上記の(2)内に「本人の示した意思は、時間の経過や本人が置かれた状況等によって変わり得るので、最初に示された意思に縛られることなく、適宜その意思を確認することが必要である」や「重要な意思決定の際には、表明した意思を、可能であれば時間をおいて確認する、複数の意思決定支援者で確認するなどの工夫が適切である」などとされています。

認知症である以上(認知症でなくてもだけど、認知症なら尚更)、一度示された意思が変わり得ることが予見され、それを時間をおいて確認したり、その後の生活の過ごし方から整合性が取れなければ再確認をするなどの対応が必要になってきます。

よって、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 意思決定支援を行う上で、本人をよく知る家族も意思決定支援者の立場で参加する。
⑤ 社会資源の利用で本人と家族の意思が対立した場合には、家族の意思決定を優先する。

これらについてはガイドラインの「意思決定支援プロセスにおける家族」で示されています。


(1) 家族も本人の意思決定支援者であること

  • 同居しているかどうかを問わず、本人の意思決定支援をする上で、本人を良く知る家族は本人を理解するために欠かすことはできない。したがって、本人をよく知る家族が意思決定支援チームの一員となっていただくことが望ましい。
  • 家族も、本人が自発的に意思を形成・表明できるように接し、その意思を尊重する姿勢を持つことが重要である。
  • 一方で、家族は、本人の意思に向き合いながら、どうしたらよいか悩んだり、場合によっては、その本人の意思と家族の意思が対立する場合もある。こうした場合、意思決定支援者(この場合は、主として専門職種や行政職員等)は、その家族としての悩みや対立の理由・原因を確認した上で、提供可能な社会資源等について調査検討し、そのような資源を提供しても、本人の意思を尊重することができないかを検討する。

(2) 家族への支援

  • 本人と意見が分かれたり、本人が過去に表明した見解について家族が異なって記憶していたり、社会資源等を受け入れる必要性の判断について見解が異なることがあるが、意思決定支援者(主として専門職種や行政職員等)は、家族に対して、本人の意思決定を支援するのに必要な情報を丁寧に説明したり、家族が不安を抱かないように支援をすることが必要である。

上記の通り、「本人をよく知る家族が意思決定支援チームの一員となっていただくことが望ましい」とされていますね。

家族の力については、おそらくその支援者が主に所属する領域によって認識が異なると思います。

シビアな事例に関わる人ほど家族が本人の状態の悪化に関与する場合を多く見ているでしょうし、比較的健康・常識的な家族と関わることが多い領域の支援者は家族の力を重要なものと見なすでしょう。

話はやや飛びますが、ロールシャッハテストにおいて、創始者のヘルマン・ロールシャッハが最も重要視した記号がM(人間運動反応)ですが、これは人間の内的な資質を表現するものであり、これが豊かであれば共感性や能力の高さなど様々なプラスの面が示唆されるわけですが、一方で、これが病的な内容で示されれば精神疾患の可能性を強く示唆するものになり得ます。

つまり何が言いたいかというと「重要な因子であれば、その内容によってプラスにもマイナスにも傾き得る」ということなんですね。

ですから、家族は重要な因子であるが故に、その内容(在り様)によって支援者として機能することもあれば、悪化の第一因子として機能する場合もあり得るということです。

ただ、厄介なのが「家族が悪化の第一因子として機能している」としても、易々と切り離すことがしにくいということです。

単純に生活を共にしているという場合もあれば、精神的に囚われているということも少なくありません(家出が自立を妨げる場合が多いのはそういう理由です)。

ですから、本問のガイドラインのように「家族も本人の意思決定支援者である」としているように、家族の要因をあらかじめ含めて考えていくという姿勢で支援に臨んでいくのが、適切なスタンスなのかなと思っています(期待するとかしないとかではなく「含める」という感じですね)。

やや話は逸れましたが、認知症者の意思決定支援において、家族も意思決定支援者の立場で参加することになります。

また、意思決定支援者である家族と本人との間で意見の対立が見られた場合には、「意思決定支援者(この場合は、主として専門職種や行政職員等)は、その家族としての悩みや対立の理由・原因を確認した上で、提供可能な社会資源等について調査検討し、そのような資源を提供しても、本人の意思を尊重することができないかを検討する」とされています。

すなわち、選択肢⑤のように「家族の意思を尊重する」のではなく、別の支援者に間に入ってもらって、「対立の理由・原因を確認した上で、提供可能な社会資源等について調査検討し、そのような資源を提供しても、本人の意思を尊重することができないかを検討する」という対応が述べられています。

以上より、選択肢④は適切と判断でき、選択肢⑤は不適切と判断できます。。

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