今日は統合失調症についてまとめてみました。
まずは診断基準をしっかりと把握しておきましょう。
2018年度に行われた試験の内容を見ると、あまり過去に示された概念については出題されないようです。
私はその傾向に残念な気持ちを持っています。
現在の統合失調症理論も、過去のさまざまな積み重ねの先っぽにあるわけで、いわば積み上げられた積木の一番上にあたります。
一番上だけ見せられても、味気なく覚えるだけになってしまいます。
もちろん試験ですから「それでいいのだ」という人もいるでしょうけど。
以下にはたぶん試験に出ないような事柄も含まれていると思います(一応、過去に公認心理師もしくは臨床心理士の試験に出たところを中心に書いていますよ)。
診断基準:DSM-5
A.以下のうち2つ(またはそれ以上)、おのおのが1カ月間(または治療が成功した際はより短い期間)ほとんどいつも存在する。これらのうち少なくとも1つは(1)か(2)か(3)である。
- 妄想
- 幻覚
- まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
- ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
- 陰性症状(すなわち感情の平板化、意欲欠如)
B.障害の始まり以降の期間の大部分で、仕事、対人関係、自己管理などの面で1つ以上の機能のレベルが病前に獲得していた水準より著しく低下している(または、小児期や青年期の発症の場合、期待される対人的、学業的、職業的水準にまで達しない)。
C.障害の持続的な徴候が少なくとも6カ月間存在する。この6カ月の期間には、基準Aを満たす各症状(すなわち、活動期の症状)は少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い期間)存在しなければならないが、前駆期または残遺期の症状の存在する期間を含んでもよい。これらの前駆期または残遺期の期間では、障害の徴候は陰性症状のみか、もしくは基準Aにあげられた症状の2つまたはそれ以上が弱められた形(例i奇妙な信念、異常な知覚体験)で表されることがある。
D.統合失調感情障害と「抑うつ障害または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」が以下のいずれかの理由で除外されていること。
- 活動期の症状と同時に、抑うつエピソード、躁病エピソードが発症していない。
- 活動期の症状中に気分エピソードが発症していた場合、その持続期間の合計は、疾病の活動期および残遺期の持続期間の合計の半分に満たない。
E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。
F.自閉スペクトラム症や小児期発症のコミュニケーシ∃ン症の病歴があれば、統合失調症の追加診断は、顕著な幻覚や妄想が、その他の統合失調症の診断の必須症状に加え、少なくとも1カ月(または、治療が成功した場合はより短い)存在する場合にのみ与えられる。
診断基準:ICD-10
統合失調症の診断のために通常必要とされるのは、下記の(1)から(4)のいずれか1つに属する症状のうち少なくとも1つの明らかな症状(十分に明らかでなければ、ふつう2つ以上)。
あるいは(5)から(8)の少なくとも2つの症状が、1カ月以上、ほとんどいつも明らかに存在していなければならない。
- 考想化声、考想吹入あるいは考想奪取、考想伝播。
- 支配される、影響される、あるいは抵抗できないという妄想で、身体や四肢の運動や特定の思考、行動あるいは感覚に関するものである。それに加えて妄想知覚。
- 患者の行動を実況解説する幻声、患者のことを話し合う幻声。あるいは身体のある部分から聞こえる他のタイプの幻声。
- 宗教的あるいは政治的身分、超人的力や能力などの文化的にそぐわないまったくありえない他のタイプの持続的妄想(たとえば、天候をコントロールできるとか宇宙人と交信しているなど)。
- どのような種類であれ、持続的な幻覚が、感情症状ではない浮動性や部分的妄想あるいは持続的な支配観念を伴って生じる、あるいは数週間か数カ月間毎日継続的に生じる。
- 思考の流れに途絶や挿入があるために、まとまりのない、あるいは関連性を欠いた話し方になり、言語新作がみられたりする。
- 興奮、常同姿勢あるいはろう屈症、拒絶症、緘黙、および昏迷などの緊張病性行動。
- 著しい無気力、会話の貧困、および情動的反応の鈍麻あるいは状況へのそぐわなさなど、通常社会的引きこもりや社会的能力低下をもたらす「陰性症状」。それは抑うつや向精神薬によるものでないこと。
- 関心喪失、目的欠如、無為、自己没頭、および社会的引きこもりとしてあらわれる、個人的行動のいくつかの側面の質が全般的なに、著明で一貫して変化する。
臨床心理士資格試験等で求められたことを中心に
以下では臨床心理士資格試験で出題された内容をもとに、統合失調症に関する事柄を挙げていきます。
この知識が大事というよりも(大事ではあるんですけど)、解くためにはこういうことを知っておいた方が良いですよ、ということを中心に。
秘密について
土居健郎先生は秘密の持ち方について以下のように述べておられます。
健康人は、自分の秘密を不安なしに保て、他人が秘密をもつことに寛容です。
神経症者は、自分の秘密を自分の目からも覆い隠そうと一生懸命になります。
人格障害者は、こころの秘密の大切さを知らず、他人の秘密に土足で入ってきます。
精神病者は、自分の秘密が他人に筒抜けになっている(統合失調症)か、自分に秘密を認めません(躁うつ病)。
かなり以前から統合失調症における秘密の意義については議論されており、それが治療論に活用されたのが神田橋先生の「自閉の利用」です。
この内容を簡単に述べると、自閉的生活を「実験」してみることを提案し、それを実践する中で対人関係の有害作用を確信するようになったら、自閉能力や拒否能力の訓練を行うというものです。
特異的なことの一つが、治療関係自体も有害である可能性を明示しながら、進めていくことがあるでしょう。
この考えは、統合失調症者に関わる治療者のみならず、すべての治療者に必要なものだと思います。
ブロイラーの基本症状・副症状
オイゲン・ブロイラーは統合失調症概念を提出した人物の一人です。
他にも提出した人はいて、それがエミール・クレペリンです。
クレペリンは「早発性痴呆」という表現をしていますね。
ブロイラーは「統合失調症」を「早発性痴呆」と同じ意味で使おうとしましたが、統合失調症を心理的障害として定義しようとしたために転帰が脱落しました。
そのために経過の良いものがたくさん入り、ブロイラーの「統合失調症」は、クレペリンの「早発性痴呆」よりも経過がよく、範囲の広いものになりました。
さて、そのブロイラーは統合失調症の基本的な症状として、以下の4つを挙げています。
- 観念連合の弛緩(association loosening):
連想のテストで飛躍や停滞や音だけの繋がりが生まれることがある。当時は連想を思考の主な形とする説があった。 - 感情障害(affect disturbances):
感情が枯渇したり、はずみがなくなって「平板化」したり、固くなったりする。 - 両義性(ambivalence):
矛盾する考えが葛藤をおこさずあっけらかんと共存していること。好き-憎いなど。 - 自閉(autism):
人間世界に背を向けて自分の殻に閉じこもる。
シュナイダーの一級症状・二級症状
先述の通り、一級症状・二級症状がシュナイダーによって示されました。
ただ、一級症状があったからと言って直ちに統合失調症であると言えないことがわかっています。
ただ、精神的な問題がある人を見分ける指標としては大変有用なものであることは間違いないでしょう。
以下が一級症状になります。
- 思考化声
- 対話形式の幻聴
- 自分の行為を批判する幻聴
- 身体への影響体験
- 思考奪取および思考の被影響体験
- 思考伝播
- 妄想知覚
- 感情・欲動・意思の分野における外からの作為体験
何が統合失調症の中核なのか?
ブロイラーやシュナイダーは、統合失調症者の基本的な症状を挙げています。
他のアプローチとして、統合失調症の中核的な問題は何なのかについての議論もかつて行われ、諸家がさまざまな知見を示しています。
そのいくつかを押さえておきましょう。
まずはブランケンブルクは統合失調症の問題を「自明性の喪失」と捉えました。
他にも、ミンコフスキーは「現実との生ける接触の喪失」としました。
「見ぬ子を好き」で覚えましょう(ネット上で会ったことが無い人を好きになる、みたいな感じ)。
「生ける現実」と「接触していない」のに、ということです。
また、ビンスワンガーは「経験の首尾一貫性の喪失」としています。
瓶にスワンが入って、首と尾っぽだけ出ているイメージで覚えましょう。
首と尾っぽが出ているので「首尾」ですね。
各自の著作を読んでおくのが一番ですが、それもなかなか大変だと思います。
とりあえず覚えておくことが肝要ですね。
個人的には、統合失調症の問題の大きなものは「自我境界の希薄化」だと考えています。
これは、自分と他人ないし外界との心理的境界が薄れ、自己の内的世界と外の現実世界との区別が曖昧になるという現象です。
いわゆる筒抜け体験(自分の考えが他人に伝わり、周囲に筒抜けになっていると思う)はこの影響によるものですね。
その他こまごましたことについて
その他、公認心理師試験・臨床心理士資格試験で出た内容を列挙します。
- 治療では薬物療法・生活指導療法(生活臨床など)・心理療法などを組み合わせて行う。
- 発病の原因は諸説あり、特定されていないが、遺伝と環境の組み合わせとされている。
- 統合失調症の幻聴では、他者からの自我侵害性、被影響性、作為体験や離人症状と近縁の性質を帯びていることが見受けられる。単なる音響の幻聴より人の声を聞くことが多く、しかも脅迫する、蔑視する、罵倒する、非難する、あるいは命令してくる内容が多い。褒めてくるようなものもないではないが、慢性化した不安の少ない時期に見られることが多い。急性期には被害的なものが多い。
- 妄想とは、その文化圏で不合理・訂正不能(併せてヤスパースの了解も把握しよう)
- サリヴァンは、妄想的な言動はパラタクシックな歪みの産物であるとした。
- 統合失調症で幻視はあまり見られない。しかし、インドやアラブでは幻視の方が幻聴よりも多いと報告されている。文化依存性があるのかもしれない。また、幻視の方が幻聴よりも衝撃力が弱い(身体の向きを変えると消えるなど)。
いずれにせよ、幻視の奇妙さに引っ張られて統合失調症と決めつけないことが重要になる。幻視は解離性障害などにも見られるので、そちらの可能性も考えておくこと。 - リュムケのプレコックス感について知っていること(公認心理師では出なさそうだけど)。
【2018-103、2018追加-133】