心的外傷後ストレス障害(PTSD)

精神症状については、まず間違いなく診断基準を押さえておくことが重要です。
ブループリントにはICD-10の記載が中心でしたが、蓋を開けてみればDSM-5に関することも同じかそれ以上問われていました。
ここではDSM-5を中心に述べていきます。

近々、ICD-11が出るとされています。
ゲーム依存がICD-11に正式に入ったとか。
その辺も含めて押さえておかねばならないかもしれないですね。

ここではまずPTSDとはどういった現象なのかに関する知見を示し、その上でDSMなどの提示に移っていきます。

PTSDとは何なのか?

「臨床家が見通しと計画とをもって治療を進めていくためには、ひとつの物語を必要とする。その「やまい」のなりたち、本性、治癒の道筋などを含むとりあえずつじつまのあうストーリーである」
これは神田橋先生が30年以上前に述べられた言葉です。

そしてどのような物語が支援にとって有用かと言うと、

  1. それは無意識レベルでの、言語以前の推測と体験からのフィードバックとの繰り返しによって生まれてくる世界像である。つまり、経験則という学習の集積物である。
  2. 正誤で判定される研究の成果としての因果図式をも取り込んで活用していること。つまりエビデンス。研究の成果を無視したのでは、医学に直結する物語ではなく、代替医療の物語になってしまう。
  3. 実際の運用場面での臨機応変の工夫を許容するシンプルさとルーズさを備えていること。物語は行動の方向を示唆するのであり、規制し不自由をさせるものではいけない。
  4. フラクタルの構造を備えている。すなわち、小部分と大部分とが同型であるという物語であること。それが運用場面で臨機応変の工夫を可能にする。
となります。
神田橋先生はこうした視点に立ち、各精神医学的問題の物語をこしらえ、示されてきています。
ここでは神田橋先生が示されたPTSDの物語の概略を示そうと思います。
精神医学的な定義はさておき、PTSDとは「ある心理的な外傷体験の記憶、その記憶の再生に関連して起こってくる不安状態が、現在、「here and now」で動いている精神活動に阻害的に働くこと」を指します。
ハーマンの「心的外傷と回復」では、PTSD治療はまず、安全な「安心できる今」を作ることが重要としています。
そしてこの「安心できる環境」から、PTSDという体験を眺めて、それに対する意味づけとか納得などをしていく。
「今」を直接に揺さぶらなくなったこの体験は、自分を圧倒するものではなくなるので、自分の懐にこの体験を入れこんでしまいます。
自分の人生史の中にPTSD体験を組み込むことで、外傷体験は歴史上の出来事して定着されます。
すなわち、「安心できる環境」から外傷体験を振り返るのが重要ということになるが、心理的デブリーフィングではそれを推し進め、その反治療的影響が指摘されています。
治療的な振り返りと心理的デブリーフィングの何が違うのか?
それは能動性の有無になります。
外傷体験はパッシブ(受身的)な体験です。
本人の意思がないところで、その出来事に襲われ大変な思いをしたわけです。
実はこの点が治療において非常に重要で、クライエントが受身的な状態で治療を受けるという形で外傷体験の振り返りを行うことは、それ自体が外傷体験の類似体験であると言えるのです。
受身的な状態で体験を振り返えらせることは、単なる悲惨な記憶の「復習」であり、ほとんど犯罪のような行為です。
必要なのは、カウンセラーとの間に安心できる雰囲気ができて、その上でクライエントが「怖いけど、振り返ってみようと思う」と能動的に治療に臨む姿勢ということになります。
ただこの「安心できる環境」を揺さぶるのがフラッシュバックです。

ハーマンは安全な環境を作ってじっと待っていれば自然治癒力で少しずつ良くなっていくとしました。
神田橋先生は何か効くものがないかと探し、漢方の処方を提示しています(いわゆる神田橋処方)。
この辺については公認心理師の枠組みを超える話ですから割愛します。

こうしたフラッシュバックを抑える行為は緊急処置であり、それが済むと、そこから治療が始まります。
この治療の第一は、インフォームド・コンセントです。
つまり、治療方針と、その治療方針の下に流れている仮説をクライエントに伝えることが最も精神療法的となります。

現在、どのような方針で治療がなされているかをクライエント自身が把握できるようにすることが、特にPTSDの精神療法として有効となります。
それは先述したように、外傷体験が自分の力の及ばないところで生じた「受身的」体験であることに加え、そうした理不尽な出来事に受身的に巻き込まれ、自分の心身によくわからない事態が生じているということと関連があります。
よくわからないという状況は、知的生命体である人間にとっては非常に苦痛な状況であるので、そこに治療方針とその背景にある仮説を伝えることで、つじつまがあることによって生じる把握感による治療効果を期待することができます。

その上で、先述したように「能動的に振り返る」ということを、確かな安心できる関係性の中で行うことが治療の中心になります。
このときに生じているクライエントの「自分の状況を、自分なりにコントロールしていこうとするスタンス」が、実はPTSDの治療の峠というか、非常に重要なポイントになります。

外傷的記憶に関すること

中井久夫先生は外傷性記憶に関して、とある考えを提示されています。
これをここで紹介しておきましょう。

外傷性記憶の特性は次のように列挙されます。

  1. 静止的あるいはほぼ静止的映像で一般に異様に鮮明であるが、
  2. その文脈(前後関係、時間的・空間的定位)が不明であり、
  3. 鮮明性と対照的に言語化が困難であり、
  4. 時間に抵抗して変造加工が無く(生涯を通じてほとんど変わらず)、
  5. 夢においても加工(置き換え、象徴化なく)されずそのまま出現し、
  6. 反復出現し、
  7. 感覚性が強い。状況の記述や解釈を伴う場合は事後的、特に周囲、写真、日記、新聞記事などの外的示唆によることが多い。
  8. 視覚映像が多いが、振動感覚の場合もあり、全感覚が記憶に参与し得る。聴覚の場合、微妙な鑑別が必要になる。
  9. 何年たっても何かのきっかけによって(よらないこともある)昨日のごとく再現され、かつしばしば当時の情動が鮮明に表れる。
  10. 過去の追想につきものの「時間の霞」がかかるどころか、しばしば原記憶よりも映像の鮮明化や随伴情動の増強が見られる。
そしてこれらの特徴が、2歳半から3歳半前後までの幼児的記憶の特性と合致していることを指摘しています。
3歳以降の記憶は自己史記憶連続体を成しており、現在の自分とのつながりのある記憶とされています。
これに対し、フラッシュバックを起こすような外傷体験の記憶は、変化に乏しい3歳以前の古い記憶形式ではないかとしています。
なぜ幼児型の記憶が危機のときに出てくるのかというと、咄嗟の対応には幼児型の記憶の方が効率的だからです。
動物に食べられそうになった記憶を思い出すときに、すなわち、また同じような体験をしそうな時にいち早く逃げられるようになるためには、文脈で覚えておく成人型の記憶では効率が悪いのはわかりますね。
それよりも端的に動物のぐわっと開いた口のイメージが浮かんだ方が、生命を守る上では効率的なわけです。
そして動物に食べられそうな場所を何気なく回避できる個体(つまりはPTSD症状の回避などがある個体)の方が、生存率が高いことが予測されますね。
そういった事情もあり、人類が成人型記憶・言語を獲得した後も、外傷性記憶の方が、差し迫った危機に際しては警告性が直接的、瞬間的で、効率において勝るために、外傷性記憶は適応的として現在まで生き残ったのではないかとされています。
これらを踏まえた外傷性記憶の治療は、上記の外傷性記憶の10条件を、成人型記憶に変えることだろうが、これは理念的なものです。
実際の治療において、中井先生は以下を伝えるそうです。
  1. 症状は他の病気の症状が消えるようには消えないこと。
  2. 外傷以前に戻るということが外傷性記憶の治癒ではないこと。
  3. 症状の間隔が間遠になり、その衝撃力が減り、内容が恐ろしいものから退屈、矮小、滑稽なものになってきて、事件の人生における比重が減って、不愉快なエピソードの1つになっていくなら、それは成功であること。
  4. 今後の人生をいかに生きるかが、回復のために重要であること。これは記憶を司る生活体自体の健全化が重要であることと同じ。
  5. 薬物は多少の助けになるかもしれない。

大切なのは記憶自体へのアプローチというよりも、アートセラピーなどのイメージが関与する治療を通して、その人の全体的な力の健全化が大切になるとしています。
この点は、ハーマンらの「安全な環境を重視する」ということと同じと言えますね。

DSM-5より

DSM-5からは6歳以下と、それ以上で診断基準を別に設けています。
資格試験としても実践としても、両方とも押さえておくことが肝要です。

以下の基準は成人、青年、6歳を超える子どもについて適用する。

A. 実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。家族または友人が実際に死んだ出来事または危うく死にそうだった出来事の場合、それは暴力的なものまたは偶発的なものでなくてはならない。
  4. 心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(例:遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。

注:基準A4は、仕事に関連するものでない限り、電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。
※「実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事」の中に、当然ですが日常的に行われる家庭内暴力〈DV〉や虐待も含みます。

B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在。

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
    注:6歳を超える子どもの場合、心的外傷的出来事の主題または側面が表現された遊びを繰り返すことがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
    注:子どもの場合、内容のはっきりしない恐ろしい夢のことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。
    注:子どもの場合、心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
  5. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに対する顕著な生理学的反応。

C.心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、心的外傷的出来事の後に始まり、以下のいずれか1つまたは両方で示される。

  1. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情の回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事についての、または密接に関連する苦痛な記憶、思考、または感情を呼び起こすことに結びつくもの(人、場所、会話、行動、物、状況)を回避しようとする努力。

D. 心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 心的外傷的出来事の重要な側面の想起不能(通常は解離性健忘によるものであり、頭部外傷やアルコール、または薬物など他の要因によるものではない)。
  2. 自分自身や他者、世界に対する持続的で過剰に否定的な信念や予想(例:「私が悪い」、「誰も信用できない」、「世界は徹底的に危険だ」、「私の全神経系は永久に破壊された」)。
  3. 自分自身や他者への非難につながる、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識。
  4. 持続的な陰性の感情状態(例:恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)。
  5. 重要な活動への関心または参加の著しい減退。
  6. 他者から孤立している、または疎遠になっている感覚。
  7. 陽性の過剰を体験することが持続的にできないこと(例:幸福や満足、愛情を感じることができないこと)。

E. 診断ガイドラインと関連した、覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化し、以下のいずれか2つ(またはそれ以上)で示される。

  1. 人や物に対する言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り。
  2. 無謀なまたは自己破壊的な行動
  3. 過度の警戒心
  4. 過剰な驚愕反応
  5. 集中困難
  6. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

F. 障害(基準B、C、DおよびE)の持続が1ヵ月以上

G.その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。

H. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

いずれかを特定せよ

  • 解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、次のいずれかの症状を持続的または反復的に体験する。
  • 離人感:自分の精神機能や身体から離脱し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚。
  • 現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ぼんやりし、またはゆがんでいるように体験される)。

注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:意識喪失)または他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。

該当すれば特定せよ

  • 遅延顕症型:その出来事から少なくとも6ヵ月間(いくつかの症状の発症や発現が即時であったとしても)診断基準を完全には満たしていない場合。

6歳以下の子どもの心的外傷後ストレス障害

A.6歳以下の子どもにおける、実際にまたは危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の形による曝露:

  1. 心的外傷的出来事を直接体験する。
  2. 他人、特に主な養育者に起こった出来事を直に目撃する。
  3. 親または養育者に起こった心的外傷的出来事を耳にする。

B.心的外傷的出来事の後に始まる、その心的外傷的出来事に関連した、以下のいずれか1つ(またはそれ以上)の侵入症状の存在:

  1. 心的外傷的出来事の反復的、不随意的、および侵入的で苦痛な記憶
    注:自動的で侵入的な記憶は必ずしも苦痛として現れるわけではなく、再演する遊びとして表現されることがある。
  2. 夢の内容と情動またはそのいずれかが心的外傷的出来事に関連している、反復的で苦痛な夢
    注:恐ろしい内容が心的外傷的出来事に関連していることを確認できないことがある。
  3. 心的外傷的出来事が再び起こっているように感じる、またはそのように行動する解離症状(例:フラッシュバック)(このような反応は1つの連続体として生じ、非常に極端な場合は現実の状況への認識を完全に喪失するという形で現れる)。このような心的外傷に特異的な再演が遊びの中で起こることがある。
  4. 心的外傷的出来事の側面を象徴するまたはそれに類似する、内的または外的なきっかけに曝露された際の強烈なまたは遷延する心理的苦痛。
  5. 心的外傷を想起させるものへの顕著な生理学的反応。

C. 心的外傷的出来事に関連する刺激の持続的回避、または心的外傷的出来事に関連した認知と気分の陰性の変化で示される、以下の症状のいずれか1つ(またはそれ以上)が存在する必要があり、それは心的外傷的出来事の後に発現または悪化している。

【刺激の持続的回避】

  1. 心的外傷的出来事の記憶を喚起する行為、場所、身体的に思い出させるものの回避、または回避しようとする努力。
  2. 心的外傷的出来事の記憶を喚起する人や会話、対人関係の回避、または回避しようとする努力。

【認知の陰性変化】

  1. 陰性の情動状態(例:恐怖、在宅感、悲しみ、恥、混乱)の大幅な増加
  2. 遊びの抑制を含め、重要な活動への関心または参加の著しい減退
  3. 社会的な引きこもり行動
  4. 陽性の情動を表出することの持続的減少

D. 心的外傷的出来事と関連した覚醒度と反応性の著しい変化。心的外傷的出来事の後に発現または悪化しており、以下のうち2つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 人や物に対する(極端なかんしゃくを含む)言語的または肉体的な攻撃性で通常示される、(ほとんど挑発なしでの)いらだたしさと激しい怒り
  2. 過度の警戒心
  3. 過剰な驚愕反応
  4. 集中困難
  5. 睡眠障害(例:入眠や睡眠維持の困難、または浅い眠り)

E. 障害の持続が1ヵ月以上

F. その障害は、臨床的に意味のある苦痛、または両親や同胞、仲間、他の養育者との関係や学校活動における機能の障害を引き起こしている。

G. その障害は、物質(例:医薬品またはアルコール)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

いずれかを特定せよ

  • 解離症状を伴う:症状が心的外傷後ストレス障害の基準を満たし、次のいずれかの症状を持続的または反復的に体験する。
  • 離人感:自分の精神機能や身体から離脱し、あたかも外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験(例:夢の中にいるような感じ、自己または身体の非現実感や、時間が進むのが遅い感覚。
  • 現実感消失:周囲の非現実感の持続的または反復的な体験(例:まわりの世界が非現実的で、夢のようで、ぼんやりし、またはゆがんでいるように体験される)。
    注:この下位分類を用いるには、解離症状が物質(例:意識喪失)または他の医学的疾患(例:複雑部分発作)の生理学的作用によるものであってはならない。

該当すれば特定せよ

  • 遅延顕症型:その出来事から少なくとも6ヵ月間(いくつかの症状の発症や発現が即時であったとしても)診断基準を完全には満たしていない場合。

DSM-Ⅳ-TRからDSM-5への変更点

DSM-5の改定に伴い、けっこうな数の変更点がありました。
ここではその変更点についてまとめてあげていきます。

【枠組みの変更】

Ⅳ-TRまでは「不安障害」に含まれていたが、Ⅴからは「心的外傷およびストレス因関連障害群」という新たなカテゴリーが作られた。

【出来事基準】

「危うく死ぬ、重症を負う、性的暴力を受ける出来事への曝露」と具体性がアップされた。また、主観的反応(強い恐怖心や無力感や戦慄)が削除された。以下の項目もプラスされている。
  1. 伝聞によるトラウマ体験:近親者または親しい友人に起こった心的外傷的出来事を耳にする。
  2. 直接でない体験:心的外傷的出来事の強い不快感をいだく細部に、繰り返しまたは極端に曝露される体験をする(遺体を収容する緊急対応要員、児童虐待の詳細に繰り返し曝露される警官)。電子媒体、テレビ、映像、または写真による曝露には適用されない。

【症状】

3症状クラスター計17項目から4症状クラスター計20項目に変更された。持続が1ヵ月以上は変わらず。
侵入(再体験)症状
一つ目の基準では、心像・思考・知覚が削除され、記憶に限定。
神経症との鑑別がしやすい。
回避症状
想起不能、活動の減退、孤立感などが削除され、「認知と気分の陰性の変化」に移動。
認知と気分の陰性の変化
追加された項目。
想起不能、活動の減退、孤立感、陽性の感情が持続しない、などが回避症状から移動になる。
同時に、過剰に否定的な信念や予想(サイバーズギルトっぽい)、心的外傷的出来事の原因や結果についての持続的でゆがんだ認識、持続的な陰性の感情状態(恐怖、戦慄、怒り、罪悪感、または恥)が新設。
過覚醒
特に大きな変更はなし。

【解離の強調】

フラッシュバックは元々解離性であることを明言していたが、想起不能にも解離性健忘の文言を付した。
また、「解離症状(離人感・現実感消失)」を伴うか否かの特定項目が追加された。

【遅延顕症型の新設(3か月基準の撤廃)】

その出来事から少なくとも6ヵ月間診断基準を完全には満たしていない場合を設定。
DSM-Ⅳでは、3か月を基準に急性・慢性を分けていたが、実態として3か月以内に症状がおさまる場合が多いので、3か月を急性とみなす考え方自体が撤廃されたと思われる。

【6歳以下の基準の新設】

出来事基準
内容は大人と変わらないが、状況の設定がある。
①心的外傷的出来事を直接体験する。
②他人、特に主な養育者に起こった出来事を直に目撃する。
③親または養育者に起こった心的外傷的出来事を耳にする。
症状
「持続的回避」と「認知と気分の陰性変化」を合体している。
  • 侵入症状:「再演する遊びとして表現されることがある」のような子どもの特徴を加味した文言が付されている。
  • 持続的回避・認知と気分の陰性の変化:大人で分けられている2項目を合体している。
  • 過覚醒:大人と変わらず。
  • 特定項目:大人と同じく「解離症状の特定」と「遅延顕症型」が定められている。

その他、PTSDに関する事柄

PTSDの周辺情報として以下が挙げられています。
  • PTSDを発症した人の半数以上がうつ病、パニック障害などを合併しているという報告がある。また、PTSDではしばしばアルコール依存症や薬物依存症といった嗜癖行動を抱える。
  • トラウマに焦点を当てた認知行動療法として、持続エクスポージャー法などがある。持続エクスポージャー法の理論によると、PTSDが慢性化するのは、トラウマの想起刺激を極度に回避したためにトラウマ記憶が適切な処理を受けなかったからと考える。したがってPTSDの治療では情動処理を促進する必要となり、持続エクスポージャー法では、自然回復の場合と同様に恐怖構造が十分に賦活されるのだと考えられています。
  • EMDR(Eye Movement Desensitization and Reprocessing:眼球運動による脱感作と再処理法)は、Shapiroが1981年に発表したPTSDの心理療法。トラウマを想起しているときの脳は、右脳の活性が優勢であり感情やイメージにあふれているが、トラウマを想起しながら目の前の指に注意を割くとワーキングメモリが阻害されるため、トラウマティックな出来事のことに巻き込まれ過ぎずに距離を取れるようになる。また、左脳と右脳を繋いでいる脳梁を通じて、言語化を司る左脳の活性化を行うため、トラウマ記憶やその感情に圧倒されずにトラウマ的な出来事を分析できるようになる。
  • 心理的デブリーフィングは、災害直後の数日から数週間後に行われる急性期介入であり、ストレス反応の悪化とPTSDを予防するための方法であると主張され、各国に広められたが、PTSDへの予防効果は現在では否定されており、かえって悪化する場合も報告されている。
【2018-153、2018追加-117、2018追加-154①】

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