示された副作用を生じさせる薬剤を選択する問題です。
頻出問題ですから、きちんと解けるようにしておきたいところですね。
問32 副作用として、不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転などが起こる薬剤として、最も注意すべきものを1つ選べ。
① 睡眠薬
② 抗不安薬
③ 気分安定薬
④ 抗精神病薬
⑤ 抗認知症薬
選択肢の解説
② 抗不安薬
抗不安薬は、不安・焦燥・恐怖・興奮を取り除くために用いる薬物群でありベンゾジアゼピン系が代表的です。
また、抗不安薬の副作用としてよく示されるのがベンゾジアゼピン系ですから、本問の解説においてはベンゾジアゼピン系抗不安薬についてを中心に述べていきましょう。
ベンゾジアゼピン系薬物は、神経症・心身症・不眠症・アルコール中毒からの離脱や予防に用いられ、個々の薬物の特徴によって、抗不安薬、催眠・鎮静薬、筋弛緩薬、抗てんかん薬などとして使い分けられています。
一般的特徴は以下の通りです。
- 作用機序:Cl-チャネル内蔵型GABA受容体機能促進による神経活動の抑制
- 適用:神経症(不安・焦燥、抑うつ、不眠など)、心身症(消化性潰瘍や過敏大腸症など身体症状を伴う神経症)、その他(アルコール中毒からの離脱や予防)
- 抗不安作用:
①大脳辺縁系や視床下部を抑制→葛藤軽減作用(動物に報酬と罰を同時に与えたときの葛藤を軽減)、馴化作用(闘争的な動物を馴れさせる)
②抗精神病薬のように行動そのものを抑制することは無い - 催眠作用:大脳辺縁系を抑制して催眠・鎮静作用を示す。また、抗不安作用によって二次的に催眠作用を示す。
- 中枢性筋弛緩作用:脊髄多シナプス反射抑制。単シナプス反射は抑制しにくい。
- 抗てんかん作用:てんかん焦点部位からの興奮の広がりを抑制。
- 副作用:眠気、運動失調、健忘など
- 依存性・耐性:身体依存、精神依存、耐性共に強い。投与中止によってけいれん発作を伴う禁断症状が現れる場合あり。
- 薬物相互作用:CYP3A4で代謝される薬物が多く、CYP3A4阻害薬で作用増強。
- 禁忌:急性狭隅角緑内障(抗コリン作用による)、重症筋無力症(筋弛緩作用による)
- 解毒薬:ベンゾジアゼピン拮抗薬が過度の鎮静・呼吸抑制に拮抗。
上記の中に、依存性が示されていることがわかりますね。
更に副作用を分けて解説していきましょう。
【一般的副作用】
最も高頻度に見られるのは、眠気であり、以下ふらつき、歩行失調、めまい、脱力感、倦怠感、易疲労感などが続きます。
これはベンゾジアゼピン系のもつ鎮静作用や骨格筋の弛緩作用が過度に現れたものであり、治療初期(特に投薬1日目)や老人、小児、病弱者に多いとされています。
抗不安薬では抗精神病薬や抗うつ薬と異なり、錐体外路症状や自律神経症状など重篤な副作用が見られないのが通常です。
【中枢神経系・血管系・呼吸器系】
抗不安薬投与によりかえって不安が増強されたり、不眠、精神運動興奮、敵意の増強、憤怒、抑うつ、自殺念慮、せん妄などの急性中毒性精神病像が出現する場合があります。
このような薬剤に本来期待される薬理学的効果と全く反対の効果が現れることを「奇異反応(逆説反応)」と呼びます。
また、静脈注射により2時間ないしそれ以上の前向性健忘が生じることがあるが、麻酔の前投薬としては望ましいが他の場合には副作用となります。
他の効力の強い抗不安薬でも一過性の健忘症状が見られるとされています。
静脈注射により低血圧が見られることがあるが、静脈注射を緩徐に行うことにより防ぐことが可能です。
また、全てのベンゾジアゼピン系で呼吸抑制の可能性があるとされています。
【抗不安薬依存】
ベンゾジアゼピン系は、臨床用量の範囲であっても長期に服用すると「身体依存」が形成されるため、ベンゾジアゼピン系の長期投与は例外的になっています。
ちなみに、乱用薬物としてよく使われる順に、エチゾラム(デパス)、フルニトラゼパム(サイレース等)、トリアゾラム(ハルシオン)、ゾルピデム(マイスリー)となっています。
また上記以外にも、妊娠・出産への影響なども指摘されております。
後述しますが、本問で示されている「不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転など」は、いわゆる錐体外路症状であると考えるのが妥当です。
抗不安薬では、抗精神病薬や抗うつ薬と異なり、錐体外路症状や自律神経症状など重篤な副作用が見られないのが通常ですから、本問で示されている副作用が出現する要因として抗不安薬は除外して良いでしょう。
よって、選択肢②は問われている副作用に注意すべき薬剤として不適切と判断でき、除外することになります。
① 睡眠薬
現在、主に用いられている嗣明役は、GABA受容体を介してGABA神経伝達を増強するベンゾジアゼピン系薬や非ベンゾジアゼピン系薬になります。
バルビツール酸系薬は過去に汎用されていましたが、依存性が生じやすく、過量服用によって昏睡や呼吸抑制などの急性中毒を起こすなどの副作用があります。
従って、最近はバルビツール酸系薬は睡眠薬として使用されず、主に抗痙攣薬や静脈麻酔薬として用いられています。
その他、新しい作用機構をもつ不眠症治療薬としてメラトニン受容体作動薬やオレキシン受容体拮抗薬があります。
半減期(時間) | 適応 | |
【ベンゾジアゼピン系薬】 超短時間型 トリアゾラム 短時間型 ブロチゾラム ロルメタゼパム 中間型 ニトラゼパム フルニトラゼパム 長時間型 クアゼパム フルラゼパム ハロキサゾラム | 2~4 7 10 28 24 36 65 85 | 入眠障害 入眠障害・中途覚醒 中途覚醒・早朝覚醒 早朝覚醒 |
【非ベンゾジアゼピン系薬】 ゾルピデム ゾピクロン | 2 4 | 入眠障害 入眠障害 |
【メラトニン受容体作動薬】 ラメルテオン | 1 | 入眠障害 |
【オレキシン受容体拮抗薬】 スボレキサント | 10 | 入眠障害・中途覚醒 |
ベンゾジアゼピン系薬の副作用は選択肢②で既に述べましたが、以下のような副作用が睡眠薬としての特徴として挙げられています。
- 持ち越し効果:日中の眠気、ふらつき、倦怠感、頭痛
- 前向性健忘:入眠まであるいは中途覚醒時の記憶が障害
- 反跳性不眠:薬物中断後の不眠、不安、焦燥、痙攣
- 依存:精神、身体依存
- 奇異反応:不安、興奮、攻撃性、錯乱
- 筋弛緩作用:ふらつきや転倒
このほかの薬剤についても述べていくと、非ベンゾジアゼピン系薬では筋弛緩作用や抗痙攣作用が弱いとされており、依存性も少ないと考えられてきましたが、高容量の慢性使用ではあり得ます。
メラトニンは松果体ホルモンで、概日リズムの調整に重要な役割を持つと考えられています。
松果体におけるメラトニン合成には顕著なサーカディアンリズムが認められ、昼行性夜行性を問わず夜間に合成が亢進します。
光入力経路はサーカディアンリズムの光同調経路と共通しており、網膜から入った光情報は網膜視床下部路、視交叉上核を経由して交感神経系に入り、松果体細胞に達します。
明るい光によってメラトニンの分泌は抑制されるため、日中にはメラトニン分泌が低く、夜間に分泌量が十数倍に増加する明瞭な日内変動が生じます。
この経路は形態視を司る視神経から独立しており、完全盲の人でも眼球が保存されている場合には、メラトニン合成が光によって抑制されることがわかっています。
光によるメラトニン抑制反応は、ヒトでは500ルックス以上の光で生じるとされています。
要するに、夜に暗くなると、脳の松果体からメラトニンが分泌されて眠りを誘発することになるわけですが、メラトニン受容体作動薬は主に老化などでメラトニンが減少し、それを補うために用いられることが多いです。
メラトニン受容体作動薬は入眠困難の改善に有効とされてはいますが、一般的にメラトニンの催眠作用は弱く、寝る前に服用しても寝つきは若干良くなるものの、不眠症の改善効果は乏しいことが分かっています(ですから、老化でメラトニンが減少するなどの状態で処方されることが多い)。
良いところとして、自然な睡眠を誘発することが期待されている点や、抗不安作用や筋弛緩作用がほとんど見られない点が挙げられますね。
メラトニン受容体作動薬の副作用としては、傾眠(4.2%)、頭痛(2.6 %)、胃腸障害(1.3%)、肝機能異常(1.0%)などが挙げられていますね(メラトベルの承認時の数字です)。
オレキシン受容体拮抗薬は、覚醒を維持する神経伝達物質であるオレキシンの受容体(オレキシン1およびオレキシン2)への結合を競合的に阻害することで、過剰な覚醒状態を抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へと移行させる生理的なプロセスをもたらします。
ちょっとわかりにくいので、もう少し簡単に述べてみましょう。
オレキシンは覚醒を維持する脳の物質(目覚ましホルモンと呼ばれている)で、食事を摂るとオレキシンが減少するため眠くなります(私は食事を摂ると必ず眠くなりカウンセリングに影響が大きいので昼ご飯は食べないようにしています。その分朝ご飯はたくさん食べます。1日2食生活ですね)。
この食後に眠くなる仕組みと同じ作用をもたらすのが、オレキシン受容体拮抗薬になります。
脳の覚醒を促進するオレキシンの受容体を阻害することで、脳を睡眠状態へ移行させ睡眠障害を改善する薬がオレキシン受容体拮抗薬になります。
入眠効果と睡眠維持効果があり、認知機能テストによる評価でも持ち越されないことが示されています。
また、ベンゾジアゼピン系薬剤に比べ耐性や依存性が少ないとされています。
なお、オレキシン受容体ノックアウトマウス(オレキシン受容体に問題のあるマウスだと思っといてください)はナルコレプシーになりますが、ナルコレプシー犬ではオレキシン受容体の変異が見つかっています。
このため、ナルコレプシーの原因はオレキシンが視床下部で不足しているためと考えられています(ナルコレプシー患者の脳脊髄液を検査すると、9割以上の症例でオレキシンの量が測定できないほど低下しています。死後に脳を調べるとオレキシンを産生する神経細胞が消失しています)。
ナルコレプシーは、睡眠と覚醒の切り替えが非常に不安定な状態と言え、オレキシンは言わば覚醒状態を安定化する(=睡眠に移行することを防ぐ)働きをもっていると考えられています。
これらを踏まえれば、睡眠薬では「不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転など」は生じないと考えるのが妥当です。
よって、選択肢①は問われている副作用に注意すべき薬剤として不適切と判断でき、除外することになります。
③ 気分安定薬
気分安定薬は、主に双極性障害(双極症:今年度まではDSM-5に基づいて出題されているので、まだ双極性障害という表記でいきます)の躁症状およびうつ症状の改善と両エピソードに対する予防という3つの効果を期待して用いられるものです。
もっとも代表的な薬剤が「炭酸リチウム」であり、1949年にCadeによって双極性障害の治療に有効であることが報告されました(偶然、リチウムがモルモットを鎮静化させることを見出し、躁状態の患者に投与したところ効果が長期にわたって有効だった)。
1960年代後半になって、炭酸リチウムがうつ状態と躁状態のいずれのエピソードにも有効性を示し、気分を安定化させる作用があることが明らかになりました。
炭酸リチウムには即効性は無いが、気分の安定をもたらし再発を予防します。
炭酸リチウムの副作用として、手指振戦、口喝、甲状腺機能低下、腎濃縮力低下(多尿)、不整脈などが見られます。
過量投与や脱水による腎疾患などによって引き起こされる炭酸リチウムの中毒症状としては、初期は悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状、傾眠、振戦や運動機能障害が見られ、進行すると急性腎不全による電解質異常や昏睡、痙攣が起こります。
注意すべき点は、炭酸リチウムや治療有効血中濃度と中毒域が近いことです。
そのため、治療薬物モニタリングを行い、血中薬物濃度を監視する必要があります。
また、心血管系の催奇形性があるため、妊婦には禁忌とされています。
抗てんかん薬の一部(バルプロ酸やカルバマゼピン)には気分安定効果があり、双極性障害の治療にも使われています。
これらも合わせた気分安定薬の副作用は以下の通りです。
使用する薬物 | 副作用 |
炭酸リチウム | 手指振戦、口喝、多尿、甲状腺機能低下、胃腸障害、不整脈、催奇形性(心血管系)中毒症状。 初期:悪心・嘔吐、下痢などの消化器症状、傾眠、振戦、運動機能障害 進行期:急性腎不全、昏睡 |
バルプロ酸 | 胃腸障害、肝機能障害、血中アンモニア上昇、ふらつき、催奇形性(神経管閉鎖不全) |
カルバマゼピン | 胃腸障害、眠気、ふらつき |
ラモトリギン | Stevens-Johnson症候群、頭痛、傾眠、ふらつき |
これらを踏まえれば、気分安定薬に「不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転など」の副作用はないと考えるのが妥当です。
よって、選択肢③は問われている副作用に注意すべき薬剤として不適切と判断でき、除外することになります。
④ 抗精神病薬
統合失調症は、思考障害や陽性症状(幻覚・妄想、興奮など)と陰性症状(感情鈍麻、意欲減退、自閉・昏迷など)・人格の崩壊などの症状を特徴とする症候群であり、その治療においては抗精神病薬が大きな役割を果たします。
上記に「陽性症状・陰性症状」という大きな分け方がありますが、「非定型抗精神病薬」は主に陰性症状の改善に(正確には陰性症状と陽性症状の両方に作用するように作られている)、そして「定型抗精神病薬」は主に陽性症状の改善に寄与する薬剤となっています。
陽性症状ですが、これは大脳皮質・辺縁系を支配するドパミン作動性神経の過剰活動が症状の発現を促進すると考えられており、定型抗精神病薬のもつドパミンD2受容体遮断作用の強さと陽性症状改善作用とがよく相関します。
一方、陰性症状改善作用は、ドパミンD2受容体遮断作用の強さと相関せず、セロトニン5-HT2受容体遮断作用と陰性症状改善作用との関連が示されています。
従って、陽性症状と陰性症状を共に改善する抗精神病薬として、D2受容体と5-HT2受容体の両方を遮断する薬物が開発されています。
まずここではドパミンD2受容体遮断薬の副作用を挙げておきましょう。
- 錐体外路症状:主なものとしては、パーキンソニズム、急性ジストニア、急性アカシジア、遅発性ジスキネジア。
- 悪性症候群:視床下部・大脳基底核での急激なドパミン受容体遮断によって起こる。発熱、意識障害、筋強剛を主要症状とする悪性高熱症と類似の症候群で致死的。
- プロラクチン分泌増加:乳汁分泌亢進・女性化乳房。脳下垂体前葉のドパミンD2受容体遮断。
- その他:
①α1受容体遮断作用:降圧・起立性低血圧誘発
②抗コリン作用:口喝・便秘誘発、錐体外路障害の副作用軽減
③抗ヒスタミン作用:眠気、鎮静作用
④他の中枢抑制薬の作用を相乗的に増強
⑤痙攣閾値の低下(てんかん誘発)
非定型抗精神病薬では、錐体外路症状が少ないのが特徴です。
ただし、それでも錐体外路症状、プロラクチンの上昇、眠気、口の渇き、心電図の変化などの副作用が出る場合があります。
全ての抗精神病薬は錐体外路症状の原因薬物となり得ますが、特に高力価薬物により惹起されやすく、第二世代抗精神病薬では惹起されにくいという特徴があります。
錐体外路症状は急性と慢性に分けられ、急性は抗精神病薬投与開始後数日から数週で出現し、用量依存的で、玄以に薬物の減量や中止により改善します。
一方、慢性の錐体外路症状は、抗精神病薬投与開始後数か月から数年で出現し、明らかな用量依存性はなく、原因薬物の中止後も持続することがあり、治療抵抗性を示します。
錐体外路症状は頻度の比較的高い副作用であり、アドヒアランス低下を招きやすく、その対策は重要になります。
主なものとしては、パーキンソニズム、急性ジストニア、急性アカシジア、遅発性ジスキネジアがあり、以下のその詳細を述べていきます。
1.パーキンソニズム
パーキンソニズムが生じるのは、黒質線条体系ドパミン受容体遮断により、ドパミン系に対してアセチルコリン系が相対的に有意となるために惹起されるとするドパミン・アセチルコリン不均等仮説が有力です。
振戦(手、頭、声帯、体幹、脚などの体の一部に起こる、不随意でリズミカルなふるえ)、筋強剛(無意識のうちに、筋肉がこわばり、スムーズに動けない)、無動(動きが少ない)が三徴候であり、流涎(よだれを流す)や脂漏(脂が出る。テカテカする)なども見られます。
無動は陰性症状や抑うつと間違われることもあり、鑑別が必要です。
女性や高齢者で惹起されやすい副作用とされています。
対策は原因薬物の減量・中止、抗パーキンソン病薬の併用です。
抗パーキンソン病薬としては、一般にビペリデンなど抗コリン薬が選択されますが、抗パーキンソン病薬の長期投与は遅発性ジスキネジアや認知機能障害などを引き起こす可能性があるため、漫然とした長期投与は避け、必要最小限の使用を心がけるべきです。
抗精神病薬に対する体制の形成によってパーキンソニズムが消失する場合もあり、初期のパーキンソニズムに対して抗パーキンソン病薬を併用したとしてもその数か月後に抗パーキンソン病薬を中止して、パーキンソニズムが出現しないことは少なくありません。
2.急性ジストニア
ジストニアは、持続的な筋収縮を呈する症候群であり、しばしば捻転性・反復性の運動、または異常な姿勢をきたします。
つまり、自分で制御できない(不随意の)持続的な筋肉の収縮をきたし、うねるような運動や姿勢異常が現れる神経症候群と定義されています。
他の不随意運動と異なり、ジストニア運動は同じグループの筋肉による反復した運動であることが多く、パターン化されたうねるような運動で震えもみられます。
若年男性に最も多く見られ、頸部後屈や斜頸、開口障害、嚥下障害、眼球上転などが特徴で、咽頭攣縮では生命の危険もあります。
急性ジストニアは、後シナプスドパミン受容体の遮断に反応して前シナプスからのドパミン放出が亢進し、それが受容体遮断作用を上回る結果惹起されると考えられています。
また、オピオイド受容体の一つであるσ(シグマ)受容体の関与も示唆されています。
対策は抗コリン薬を筋注し、早期に改善を図るとともに、抗コリン薬の経口投与を行います。
原因薬物の減量は変更が必要になることもあります。
3.急性アカシジア
中脳辺縁系あるいは中脳皮質系D2受容体遮断作用に加えて、ノルアドレナリン系の亢進やγ(ガンマ)アミノ酪酸(GABA)受容体の関与も考えられています。
アカシジアは鎮座不能とも呼ばれ、下肢のムズムズ感、落ち着きのなさなど自覚的な内的不穏症状、及び足踏みをしたり、歩き回ったりするなど、他覚的な運動亢進症状からなります。
不安や焦燥といった精神症状との鑑別は重要ではあるが困難な場合も少なくありません。
対策は原因薬物の減量が第一であるが、抗コリン薬もある程度有効とされています。
プロペラノロールなどのβ遮断薬やクロナゼパムなどのベンゾジアゼピン系薬物の有効性も報告されています。
4.遅発性ジスキネジア
抗精神病薬の長期投与による黒質線条体系の後シナプスドパミン受容体の感受性亢進により惹起されるとするドパミン受容体過感受性仮説がよく知られています。
また、フリーラジカル形成による神経損傷説も唱えられています。
舌を突きだす、口をもぐもぐさせるなど口顔面の異常運動の出現頻度が高く、四肢の舞踏病様運動や体幹をくねらせる運動異常は頻度が低いです。
現在のところ、有効性が確立された治療法は存在しないため、抗精神病薬の投与量を必要最小限とし、予防に重点を置くことが求められます。
原因薬物の減量や中止、ビタミンE投与などが試みられています。
なお、遅発性ジスキネジアと一般的なジスキネジアがあり、前者はほとんど抗精神病薬使用後に出現し、後者の多くは抗パーキンソン病薬などのドパミン関連薬剤使用時に出現します。
呈する症状は運動の種類としては同じようですが、原因・治療などにおいて両者で全く異なるため、この2種類は分けて理解しておくことが重要です。
非定型抗精神病薬のオランザピンやフマル酸クエチアピンなどは、他の薬と比べて体重増加をもたらす可能性が高い薬とされています(はっきりとしたことは分かっていませんが、食欲増進、活動低下による運動不足や食べすぎが原因と考えられている)。
肥満は糖尿病などの生活習慣病を招き、心臓にも負担がかかります。
特に血糖値が高くなると糖尿病性昏睡やケトアシドーシス(だるい、脱力感、吐き気などの糖尿病の症状)がみられることもありますので、定期的に血糖値をチェックする必要があります。
著しく体重が増えた場合は、薬を変更したり、合併症を防ぐための生活指導を行ったりします。
このように非定型抗精神病薬は、定型抗精神病薬ほど副作用は生じないとされていますが、やはり類似の副作用(錐体外路症状など)がみられることはありますし、体重増加がみられることもあります。
上記の通り、本問の「副作用として、不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転などが起こる薬剤」とは抗精神病薬であると考えられます。
異常姿勢や頸部や躯幹の捻転および眼球上転=急性ジストニア、舌の突出=遅発性ジスキネジアということですね。
個人的には、こうした主に定型抗精神病薬で出現する副作用について述べる際、「定型抗精神病」「非定型抗精神病薬」をきちんと言い分けて出題した方が良いと思っています。
「抗精神病薬」とまとめた形で出題されると、目の前のクライエントの反応が飲んでいる薬に拠るものか否かを見極めるポイントが学べなくなってしまいます(要するに、それと思しき反応が見られたときに、飲んでいる薬剤を確認するという手続きにすぐに移ることができる)。
こうした臨床実践に直結する知識については、細かく問えるようにしておいた方が良いというのが私個人の考えですね。
以上より、選択肢④が「副作用として、不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転などが起こる薬剤」であると判断できます。
⑤ 抗認知症薬
抗認知症薬は、認知症症状の進行は抑制するが、病態そのものの進行(神経の脱落、変性)を抑えることはできません。
現時点において日本では、以下の4つの抗認知症薬が用いられています。
それぞれの特徴等をまとめてみましょう。
薬物(薬品名:商品名) | 期待できる効果 | 注意事項 | 副作用 |
ドネペジル:アリセプト | 記憶障害の緩和 | 不整脈など⼼臓疾患を合併している場合には使用不可 | 吐き気・嘔吐・⾷欲不振・下痢・興奮 |
リバスチグミン:リバスタッチパッチ、イクセロンパッチ | 記憶障害の緩和 | 心臓病、胃潰瘍、気管支喘息、パーキンソン病、てんかんのある人などは慎重投与 | かゆみ・発疹・胸の痛み・頭痛 |
ガランタミン:レミニール | 記憶障害や⾒当識障害を抑制 | 心臓病、胃潰瘍、気管支喘息、パーキンソン病、てんかんのある人は慎重投与 | 吐き気・嘔吐 |
メマンチン:メマリー | 中核症状の緩和 | 腎臓の悪い人は慎重投与 | めまい・便秘・意欲低下 |
各薬物に関して説明を加えておきましょう。
- ドネペジル:①偽性コリンエステラーゼに比べて、真正コリンエステラーゼ(アセチルコリンエステラーゼ:AChE)を選択的かつ可逆的・非競合的に阻害し、脳内アセチルコリン含量を増加させて抗アルツハイマー病効果を示す。②脳移行性と持続性に優れ、比較的選択的に脳内AChEを阻害する。③レビー小体型認知症にも適用。
- リバスチグミン:①初の経皮吸収型製剤。②コリンエステラーゼを擬非可逆的・競合的に阻害する。
- ガランタミン:①AChEを選択的・可逆的・競合的に阻害する。②ニコチン受容体アロステリック部位に結合し、アセチルコリンの作用を増強する。③神経細胞保護作用を示す。
- メマンチン:①過剰なグルタミン酸による記憶・学習障害を改善する。②生理的な強いNMDA受容体活性化時には、メマンチンは受容体から解離するため、神経伝達の長期増強には影響を及ぼさない。
上記を踏まえれば、抗認知症薬は「副作用として、不随意的で継続的な筋収縮による異常姿勢、頸部や躯幹の捻転、舌の突出、眼球上転などが起こる薬剤」ではないことがわかります。
よって、選択肢⑤は問われている副作用に注意すべき薬剤として不適切と判断でき、除外することになります。