公認心理師 2024-148

事例の病態の理解に関する問題です。

今まで出題の無かった疾患が多いので、特徴を掴んでおきましょう。

問148 8歳の女児A、小学2年生。両親に連れられて総合病院小児科を受診した。両親によると、Aは、入眠して1、2時間後にベッドから起き上がり、ぼんやりといた表情で寝室を歩き回ることがある。ドアを開けて隣の部屋に行くこともある。声をかけるとうなずく程度の反応はあるが、覚醒することはない。不自然な身体の動きや、尿失禁はない。10分程度でベッドに戻り、朝まで眠る。翌朝、Aに聞いても何も覚えていない。以上のようなエピソードが月に数回あるという。日中の行動に問題はなく、学校の成績も平均的である。既往歴はなく、薬剤は服用していない。身体診察でも異常は認められなかった。
 Aの病態の理解として、最も適切なものを1つ選べ。
① 解離性障害
② 睡眠時遊行症
③ ウイルス性脳炎
④ 特発性全般てんかん
⑤ 急性一過性精神病性障害

選択肢の解説

① 解離性障害

本事例の特徴としては、以下の通りになりますね。

  • 8歳の女児A、小学2年生。
  • 両親によると、Aは、入眠して1、2時間後にベッドから起き上がり、ぼんやりといた表情で寝室を歩き回ることがある。ドアを開けて隣の部屋に行くこともある。声をかけるとうなずく程度の反応はあるが、覚醒することはない。10分程度でベッドに戻り、朝まで眠る。
  • 不自然な身体の動きや、尿失禁はない。翌朝、Aに聞いても何も覚えていない。
  • 以上のようなエピソードが月に数回あるという。
  • 日中の行動に問題はなく、学校の成績も平均的である。既往歴はなく、薬剤は服用していない。身体診察でも異常は認められなかった。

こうした特徴に合致する疾患を選択する必要があります。

まずは本選択肢の解離性障害についてですが、解離性障害に含まれているのが解離性同一性障害、解離性健忘、離人感・現実感消失障害になります。

解離性同一性障害については「2つまたはそれ以上の、他とはっきりと区別されるパーソナリティ状態によって特徴づけられた同一性の破綻で、文化によっては憑依体験と記述されうる。同一性の破綻とは、自己感覚や意思作用感の明らかな不連続を意味し、感情、行動、意欲、記憶、知覚、認知、および/または感覚運動機能の変容を伴う。これらの徴候や症状は他の人により観察される場合もあれば、本人から報告される場合もある」とあり、2つ以上のパーソナリティ状態が示されていない本事例に合致しないことがわかるはずですね。

解離性健忘では「重要な自伝的情報で、通常、心的外傷的またはストレスの強い性質をもつものの想起が不可能であり、通常の物忘れでは説明ができない」という特徴でありますが、本事例の「記憶がない」という状態は「重要な自伝的情報」「ストレスの強い性質の記憶」とは言えませんから、こちらも除外されます。

離人感・現実感消失障害としては、離人感(自分の体、精神、感情、感覚などから自分が切り離されているような感じ)や現実感消失(外界(人、物、あらゆること)から切り離されているように感じられ、外界のことが現実ではないように思える)のいずれかまたは両方の持続的または反復的な体験の存在で特徴づけられますが、入眠後に問題が生じていることを踏まえると、解離性障害の文脈で考えるのは適切ではありません。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 睡眠時遊行症

睡眠時遊行症はいわゆる夢遊病であり、以下のような基準が設けられています。


A.睡眠から不完全に覚醒するエピソードが反復し、通常は主要睡眠時間帯の最初の1/3の間に起こり、以下のいずれかの症状を伴う。

睡眠時遊行症型:睡眠中にベッドから起き上がり歩き回るエピソードの反復、睡眠時遊行の間、その人はうつろな表情で視線を動かさず、他の人が話しかけようとしてもあまり反応せず、覚醒させるのがきわめて困難である。
睡眠時驚愕症型:睡眠から突然驚愕覚醒するというエピソードの反復で、通常は恐怖の叫び声で始まる。各エピソード中に、強い恐怖と瞳孔散大、頻脈、呼吸促迫、発汗など自律神経系緊張の徴候がある。エピソード中、他の人達が落ち着かせようとしても反応がかなり悪い。

B.夢の映像はまったく、または少ししか早期されない(例:たった1つの情景しか)。

C.エピソードについての健忘がある。

D.そのエピソードは、臨床的に意味のある苦痛、または社会的、職業的、または他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。

E.その障害は、物質(例:乱用薬物、医薬品)による生理学的作用によるものではない。
併存する精神疾患または医学的疾患では、睡眠時遊行症または睡眠時驚愕症のエピソードを説明できない。


ここで改めて、本事例の特徴を見ていきつつ、上記の診断基準との関連を見ていきましょう。

  • 8歳の女児A、小学2年生:
    睡眠時遊行症は大人でも生じうるため、明確に児童期に限定した基準は設けられていないが、多くは3歳~9歳ごろに始まり、通常は睡眠機能の発達にともない落ち着いていくことが多い。
  • 両親によると、Aは、入眠して1、2時間後にベッドから起き上がり、ぼんやりといた表情で寝室を歩き回ることがある。ドアを開けて隣の部屋に行くこともある。声をかけるとうなずく程度の反応はあるが、覚醒することはない。10分程度でベッドに戻り、朝まで眠る:
    「睡眠から不完全に覚醒するエピソードが反復し、通常は主要睡眠時間帯の最初の1/3の間に起こる」という特徴と合致しており、また、睡眠時遊行症型の特徴とも一致している。
  • 不自然な身体の動きや、尿失禁はない。翌朝、Aに聞いても何も覚えていない。:
    エピソードについての健忘があるという基準Cに合致している。不自然な身体の動きや尿失禁については他の疾患との鑑別ポイントなので、ここでは扱わない。
  • 以上のようなエピソードが月に数回あるという。:
    回数についての記述は無いが、あんまり多いと家族の対応が大変だったりするので、基準Dにちょっとかかってくるか。
  • 日中の行動に問題はなく、学校の成績も平均的である。既往歴はなく、薬剤は服用していない。身体診察でも異常は認められなかった:
    こちらも鑑別のための項目。薬剤や身体的な問題で生じているのではないですよ、というお話。

といった形になるので、本事例を睡眠時遊行症と見なすのは妥当であると言えます。

睡眠時遊行症は深いノンレム睡眠から中途半端に覚醒することで生じるとされ、脳の発達が未熟な児童期くらいに見られ、女子に多い印象のある疾患です。

何かにぶつかったりすることもあるので、睡眠時遊行症が生じている場合には、ケガや事故が生じないようにしていく必要があり、そのための助言を行っていくことが多いですね(もちろん、ぐっすり眠れるように心身の状態を整えることも大切ですね)。

以上より、選択肢②が適切と判断できます。

③ ウイルス性脳炎

脳炎は脳実質の炎症であり、ウイルス(ヘルペスウイルス科、日本脳炎、ロタウイルス、エンテロウイルスA71型、D68型、インフルエンザウイルス、麻疹ウイルス、風疹ウイルスなど)の直接侵襲に起因します。

ウイルス性脳炎は感染急性期に様々な神経症状を呈し、一般的には発熱、意識障害、けいれん、異常行動・言動などがあり、また、頭蓋内圧亢進症状として頭痛や嘔吐が生じます。

疾患定義は「ウイルスなど種々の病原体の感染による脳実質の感染症である。炎症所見が明らかではないが、同様の症状を呈する脳症もここには含まれる」であり、臨床的特徴として「多くは何らかの先行感染を伴い、高熱に続き、意識障害や痙攣が突然出現し、持続する。髄液細胞数が増加しているものを急性脳炎、正常であるものを急性脳症と診断することが多いが、その臨床症状に差は少ない」とされており、一般的には髄液検査、脳波、頭部CT/MRI等も施行し、診断の参考とします。

本事例では、何かしらの先行感染があるとは認められず、高熱も見られませんし、エピソードの健忘を意識障害と見なすには無理があります。

その他、異常行動なども見られないので、本事例をウイルス性脳炎と見なすのは妥当ではありませんね。

以上より、選択肢③は不適切と判断できます。

④ 特発性全般てんかん

まず「特発性」とはどういうことかというと、検査しても異常がみつからない原因不明のてんかんという意味です。

これに対して「症候性」とは、脳に何らかの障害が起きたり、脳の一部が傷ついたことで起こるてんかんを指します(出生時のトラブルや、低酸素、脳炎、髄膜炎、脳出血、脳梗塞、脳外傷、アルツハイマーなどが原因で脳が傷害を受けた場合)。

また、てんかん発作は、過剰な電気的興奮が起こる部位や電気的な興奮の広がり方によって「部分発作(焦点発作)」と「全般発作」に分けられ、さらに、意識障害の有無、発作症状、発作型、発作の対称性によって細かく分類されます。

こちらのサイトにある、上記の図が非常にわかりやすいですね。

特発性全般てんかんは、主に25歳未満の小児期から青年期に発病することが多く、他の神経症状はなく、意識を失うことが多いとされており、脳の左右に同時期に同じ脳波異常が現れるなどの特徴がありますが、手足の麻痺や脳の障害などの異常はみられません。

本事例との絡みで言えば、8歳という年齢や意識がないことなどが、一応共通点として挙げられそうですね。

詳しい症状についてですが、全般発作は脳の広い範囲が興奮しておこる発作で、患者はミオクロニー発作を除いて意識がありません。

  1. 強直間代発作(狭義の大発作)
    もっともよく知られているてんかん発作です。前兆がなく突然、全身のけいれんをおこします。その際、最初に叫び声やうめき声が出ます。手足を硬く伸ばして全身が硬くなる状態が数秒~10数秒続きます(強直期)。その後、手足を一定のリズムでガクンガクンさせながらけいれんします(間代期)。発作中は口を固くくいしばるため、口の中や舌を噛んだり、呼吸停止がみられます。発作は突然おこるため、転倒によるけがに注意が必要です。発作は1分ほどで終息しますが、そのまま眠りに入ったり、意識がもうろうとしたり、失禁することもあります。15~30分で意識は回復しますが、その後、頭痛、筋肉痛、嘔吐がみられる場合もあります。
  2. 欠神発作
    突然、動作が止まったり、ボーっとしたり、話が途切れたり、反応がなくなるという症状の発作です。発作時間は5~20秒くらいと短いために周りの人にてんかん発作と気づかれず、集中力がない、注意力散漫などと勘違いされることもあります。主に小児期に発症し、成人期に発症することはまれです。
  3. ミオクロニー発作
    突然、手足や全身がびくっとけいれんする状態です。単発でおこったり、連続しておこったりとさまざまです。寝起きによくおこります。
  4. 脱力発作
    突然、全身の力が入らなくなり、頭がガクンと垂れて、倒れこんでしまいます。持続時間は1~2秒ですが、突然転倒するためけがをしやすく頭部を保護することが必要です。

上記の中で、例えば、欠神発作のような症状は本事例には存在しないことがわかりますね。

やはり本事例の反応をてんかん性のものであると見なすのは難しいと言えます。

よって、選択肢④は不適切と判断できます。

⑤ 急性一過性精神病性障害

DSM-5の基準は以下の通りです。


A.以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在する。これらのうち少なくとも1つは(1)か(2)か(3)である。

  1. 妄想
  2. 幻覚
  3. まとまりのない発語(例:頻繁な脱線または滅裂)
  4. ひどくまとまりのない、または緊張病性の行動
    注:文化的に許容された反応様式であれば、その症状は含めないこと。

B.障害のエピソードの持続期間は、少なくとも1日以上1ヵ月未満で、最終的には病前の機能レベルまで完全に回復すること。

C.その障害は、「うつ病または双極性障害、精神病性の特徴を伴う」、統合失調症または緊張病のような他の精神病性障害ではうまく説明されず、物質(例:乱用薬物、医薬品)または他の医学的疾患の生理学的作用によるものではない。

● 該当があれば特定せよ
明らかなストレス因がある(短期反応精神病):その人の属する文化圏で同様の環境にあるほとんどすべての人にとって著しくストレスの強いような、単独あるいは複数の出来事に反応して症状が起こっている場合。
明らかなストレス因がない:その人の属する文化圏で同様の環境にあるほとんどすべての人にとって著しくストレスの強いような、単独あるいは複数の出来事に反応して症状が起こっていない場合。 周産期発症:発症が妊娠中もしくは分娩後4週間以内である場合。

● 該当があれば特定せよ
緊張病を伴う:短期精神病性障害に関連する緊張病のコードも追加で用いる。

● 現在の重症度を特定せよ
症度の評価は、精神病の主要症状の定量的評価により行われる。その症状には妄想、幻覚、まとまりのない発語、異常な精神運動行動、陰性症状が含まれる。それぞれの症状について、0(なし)から4(あり、重度)までの5段階で現在の重症度(直近7日間で最も重度)について評価する。
注:短期精神病性障害は、この重症度の特定用語を使用しなくても診断することができる。


上記の通り、妄想・幻覚・まとまりのない会話など、統合失調症を連想させるような症状が記述されており、しかもそれが「障害のエピソードの持続期間は、少なくとも1日以上1ヵ月未満で、最終的には病前の機能レベルまで完全に回復すること」という特徴があります。

こうした特徴は、本事例のそれと合致していませんね。

よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。

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