公認心理師 2024-137

愛着関連の疾患・概念から事例に該当するものを選択する問題です。

精神医学的疾患と心理学の有名な実験で産出された概念が混在しているという、珍しい問題になっていますね。

問137 1歳6か月の女児A、乳児保育園に通園中。Aは、1か月前に入園後、登園時における母親Bからの分離不安が強く、執拗に激しく泣き続ける。そのため、Bが耐えられなくなり、そのまま家に連れ帰ったことも数回ある。分離が可能な日も、園では長くぐずった状態が続き、とりわけ担当保育者に対するしがみつきや後追いが、ほぼ1日中、持続してしまうこともある。夕方、Bが迎えに来ると、AはすぐにBに近接しようとするが、怒りながら泣き叫ぶことが多く、容易になだめられない。
 Aの行動の特徴として、最も適切なものを1つ選べ。
① 回避型アタッチメント
② 脱抑制型対人交流障害
③ 反応性アタッチメント障害
④ アンビバレント型アタッチメント
⑤ 無秩序・無方向型アタッチメント

選択肢の解説

② 脱抑制型対人交流障害
③ 反応性アタッチメント障害

本問では精神医学的な診断と、ストレンジシチュエーションでの概念が入り混じって出題されております。

本解説では、その整理のためにそれらを分け、まずは精神医学的な診断の方から精査していくことにしましょう。

ここではまずDSM-5における脱抑制性対人交流障害の診断基準を示しましょう。


A.以下のうち少なくとも2つによって示される、見慣れない大人に積極的に近づき交流する子どもの行動様式:

  1. 見慣れない大人に近づき交流することへのためらいの減少または欠如
  2. 過度に馴れ馴れしい言語的または身体的行動(文化的に認められた、年齢相応の社会的規範を逸脱している)
  3. たとえ不慣れな状況であっても、遠くに離れて行った後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如
  4. 最小限に、または何のためらいもなく、見慣れない大人に進んでついて行こうとする。

B.基準Aにあげた行動は注意欠如・多動症で認められるような衝動性に限定されず、社会的な脱抑制行動を含む。

C.その子どもは以下の少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。

  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた病理の原因となる養育に続いて始まった)。

E.その子どもは少なくとも9ヵ月の発達年齢である。

該当すれば特定せよ
持続性:その障害は12カ月以上存在している。

現在の重症度を特定せよ
脱抑制型対人交流障害は、子どもがすべての症状を呈しており、それぞれの症状が比較的高い水準で現れているときには重度と特定される。


上記を読めばわかる通り、「脱抑制」という表現どおり、対人交流をすることへの抑制が無いことを特徴とする障害になります。

本事例が脱抑制型対人交流障害ではない最も有力なポイントが「たとえ不慣れな状況であっても、遠くに離れて行った後に大人の養育者を振り返って確認することの減少または欠如」ということであり、要するに「後腐れがない」という様子が見られます。

ベタベタとくっつき、関わりを求めるが、その人に固執しないというあり様で、これは事例の「分離不安が強く、執拗に激しく泣き続ける」という状態像と不一致ですね。

続いて、反応性アタッチメント障害のDSM-5の基準を示しますね。


A.以下の両方によって明らかにされる、大人の養育者に対する抑制され情動的に引きこもった行動の一貫した様式:

  1. 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽を求めない。
  2. 苦痛なときでも、その子どもはめったにまたは最小限にしか安楽に反応しない。

B.以下のうち少なくとも2つによって特徴づけられる持続的な対人交流と情動の障害

  1. 他者に対する最小限の対人交流と情動の反応
  2. 制限された陽性の感情
  3. 大人の養育者との威嚇的でない交流の間でも、説明できない明らかないらだたしさ、悲しみ、または恐怖のエピソードがある。

C.その子どもは以下のうち少なくとも1つによって示される不十分な養育の極端な様式を経験している。

  1. 安楽、刺激、および愛情に対する基本的な情動欲求が養育する大人によって満たされることが持続的に欠落するという形の社会的ネグレクトまたは剥奪
  2. 安定したアタッチメント形成の機会を制限することになる、主たる養育者の頻回な変更(例:里親による養育の頻繁な交代)
  3. 選択的アタッチメントを形成する機会を極端に制限することになる、普通でない状況における養育(例:養育者に対して子どもの比率が高い施設)

D.基準Cにあげた養育が基準Aにあげた行動障害の原因であるとみなされる(例:基準Aにあげた障害が基準Cにあげた適切な養育の欠落に続いて始まった)。

E.自閉スペクトラム症の診断基準を満たさない。

F.その障害は5歳以前に明らかである。

G.その子どもは少なくとも9カ月の発達年齢である。


これらが反応性アタッチメント障害の基準ですが、脱抑制性対人交流障害との比較で考えていくと、両者ともに「不十分な養育の極端な様式を経験している」という点が共通しています。

ただ、脱抑制性対人交流障害では「だれかれ構わず」という対処スタイルだったのに対し、反応性アタッチメント障害では「他者との交流を抑制する」という対処スタイルとして表現されているのが特徴です。

「確かな愛着対象が形成されていないので、誰彼構わず関わりを求めるが、確かな愛着対象が無い故に固執・後腐れがない」というのが脱抑制性対人交流障害であるのに対し、「愛着対象との適切な交流が無い故に、愛着に伴う感情表出が抑制され、対人交流に期待できない」というのが反応性アタッチメント障害であると言えます。

この反応性アタッチメント障害の姿は、事例の「分離不安が強く、執拗に激しく泣き続ける」および「担当保育者に対するしがみつきや後追いが、ほぼ1日中、持続してしまう」と合致しませんね。

以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。

① 回避型アタッチメント
④ アンビバレント型アタッチメント
⑤ 無秩序・無方向型アタッチメント

エインズワースは、ボウルビィの共同研究者の一人で、生後12~18か月の子どもの愛着の安定性を評価する実験室用の手続きとしてストレンジ・シチュエーション法を考案しました。

以下のような手続きにおいて赤ちゃんは観察窓から、活動水準、遊びへの関わり、泣くなどの苦痛の程度、母親への接近と母親の注意を得ようとする試み、見知らぬ女性への接近や相互作用への意思などを記録されました。

  1. 母親と乳児が実験的に仮設された部屋に入る。母親は乳児をおもちゃが並べられた床に置き、部屋の反対側に離れて座る。
  2. 見知らぬ女性が部屋に入ってきて、1分間静かに座る。そして1分間母親と会話する。その後その女性は乳児とおもちゃ遊びを試みる。
  3. 母親は不意に部屋から出ていく。乳児が泣かないなら、見知らぬ女性は再び静かに座り直す。もし気が動転して泣いたなら、あやしてなだめるようにする。
  4. 母親が部屋に戻ってきて乳児と遊ぶ。その間に見知らぬ女性は退室する。
  5. 母親は再び退室する。その時点で乳児は独りで部屋に取り残されることになる。
  6. 見知らぬ女性が再び戻ってくる。もし赤ちゃんが動転しているなら、あやしてなだめるようにする。
  7. 母親が再び部屋に入り、見知らぬ女性は退室する。

こうした手続きに沿って得られた記録から、愛着のタイプ分類が行われたわけです。

タイプは、回避型、安定型、アンビバレント型、無秩序・無方向型が示されていますが、無秩序・無方向型は後になって追加された型になっています(A:回避型、B:安定型、C:抵抗/アンビバレント型、D:無秩序・無方向型、と表記されることが多いです。この順番は、養育者と子どもとの心理的距離の遠い→近いの順番と見なすと良いでしょう。近いから良いわけではないです)。

研究者たちは、子どもに見られる愛着の違いを説明するために、主たる養育者、すなわち母親のとる行動に多くの関心を寄せました。

その主なものとして、子どもの欲求に対する養育者の「応答感受性」が安定した愛着を生み出しているという知見があります。

安定型の愛着を持つ子どもの母親は、ふつう子どもが泣くとすぐに反応し、子どもを抱き上げ、愛情深く行動したり、自分たちの応答を子どもの欲求に密接に合わせようとします(例えば、授乳において、乳児が示す信号を読み取り、いつ授乳し始め、いつ終えるべきかを決め、食べ物の好みに注意を払うなど。いわゆるマザリングもこの中に含まれていると思われる)。

一方で、回避型やアンビバレント型のような愛着不安定型を示す子どもの母親は、子どもからの信号に対して応じるというよりも、母親自身の思いや気分に基づいて反応する傾向が強いとされています。

子どもの泣き声に注意を払って反応するのは母親が抱きたいと思っている場合に限られており、それ以外では泣き声を無視する、などが特徴ですね。

特に回避型では、全般的に子どもの働きかけに拒否的にふるまうことが多く、他のタイプの養育者と比較して普段から子どもと対面しても微笑むことや身体接触することが少ないとされています。

子どもが苦痛を示すと、それを嫌がって子どもを遠ざけてしまうような場合や、子どもの行動を強く統制しようとする働きかけが多く見受けられるとされています。

ストレンジ・シチュエーション法における回避型の子どもは、再開場面において母親に対して相互作用することを明らかに回避する傾向があり、母親を無視する場合もあります。

また相互作用しようという試みと、それを回避しようとする試みの混合を示す子どももいます。

回避する子どもは、母親が部屋に居てもほとんど注意を払うことなく、母親が出ていこうとしても苦痛を感じているようにも見せず、仮に苦痛を示しても、見知らぬ女性によって容易になだめることが可能という特徴をもちます。

アンビバレント型(C型)は、否定的感情が落ち着きにくく、親に両価的態度を見せることから名づけられました(両価的=ambivalent)。

アンビバレント型では、最初から不安で親から離れることができず、近接と怒りや拒否が入り混じる行動を表すとされています。

本来ならば、否定的感情は親との関係の中で消化されていくところを、親がそれを外に向け直すことで、自身の不穏感情を外に向ける傾向が強くなってきたように思うのです。

ストレンジ・シチュエーション法での再会場面で言えば、親に近接することで安心を得ようとすると同時に、それまでの不安を怒りとしてぶつけてきているという感じでしょうか。

どんどん社会が外罰的な方向に偏ってきていることに加え、子どもに「不快な思いをさせてはならない」という誤った認識が拡大しているように見受けられ、今後もこの傾向は広がっていくだろうと思います。

ストレンジ・シチュエーション法では、当初は回避型・安定型・アンビバレント型の3つが示されていましたが、その後の研究で、再会時にはっきりとした親に向けた行動がなく、また首尾一貫せず、極端に混乱した様子が見られるタイプとして「無秩序・無方向型」が示されました(Main&Solomon,1986)。

前述の3類型のいずれにも属さない、一定のパターンを見出せないということで「無秩序・無方向型」という表現がなされているということですね。

この型の子どもは、突然のすくみ、顔を背けて親に接近するなど、不可解な行動パターンや本来は両立しない行動が同時に活性化され、観察者に個々の行動がバラバラで組織立っていない印象を与えます。

この型は、不適切に養育された子どもや両親が精神障害の治療を受けている家庭の子どもに高い割合で出現しています。

いわゆる虐待家庭の子どもに多い反応であるとされているものですね。

何らかの問題を抱えた臨床群や社会的経済的地位の低いグループで増えるという知見もあります。

こうした回避型・アンビバレント型・無秩序無方向型の違いを踏まえると、本事例の「Bが迎えに来ると、AはすぐにBに近接しようとするが、怒りながら泣き叫ぶことが多く、容易になだめられない」は明確にアンビバレント型の特徴であると言えます。

交流を強く求めている、しがみついている時点で回避型は否定されますし、無秩序無方向というほどアンビバレント型から逸脱して類型化が困難な様子でもありません。

ですから、本事例の特徴はストレンジシチュエーション法で分類されている「アンビバレント型」であると見なすのが妥当ですね。

よって、選択肢①および選択肢⑤は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。

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