公認心理師 2024-101

マタニティー・ブルーズの説明になっているものを選択する問題です。

問われているのは、マタニティー・ブルーズ、産後うつ病、産褥期精神病の弁別ですね。

問101 マタニティー・ブルーズの説明として、最も適切なものを1つ選べ。
① 幻覚や妄想がみられる。
② 症状は1か月以上持続する。
③ 全出産の約1%でみられる。
④ 約50%の患者が産後うつ病に移行する。
⑤ 出産後2日から5日頃が発症のピークである。

選択肢の解説

① 幻覚や妄想がみられる。
② 症状は1か月以上持続する。
③ 全出産の約1%でみられる。
④ 約50%の患者が産後うつ病に移行する。
⑤ 出産後2日から5日頃が発症のピークである。

本問は「マタニティー・ブルーズ」「産後うつ病」「産褥期精神病」の鑑別が求められています(一般的には、この並びで症状が軽い→重いということになるかと思います)。

出産自体は(多くの場合は)喜ばしいことでありますが、同時に身体的、心理的、社会的にストレス因子になり得るライフイベントです(ホームズ&レイのリストでもLCU得点40となっていますね)。

産後、多くの褥婦は気分の浮き沈みを経験し、約1割の褥婦は産後うつになり、稀ではあるが産褥期精神病となる場合もあります。

ここでは、マタニティブルーズ、産後うつ病、産褥期精神病の3つについて、その病態機序やマネジメントについて述べていきます。

マタニティブルーズは、産後2~3日ごろから認められ、主な症状としては、急に泣けてくる、悲しくなる、不安、イライラ感、不眠、食思不振、疲労感などが挙げられます。

しかし、これらの症状はいずれも軽度であり、生活や育児には支障をきたさないものとされています。

さらに、産後10日程度でこれらの症状は自然に消失します。

マタニティブルーズの頻度は、報告によって異なりますが13~76%と非常に広くなっていますが、臨床的には約半数が経験するという印象があります。

産後うつ病との鑑別点としては、気持ち的な辛さは一定程度あるものの、生活には支障をきたさないこと、そして産後2週間以内には消失していることが挙げられます。

このため、マタニティブルーズに対しては薬物療法は不要であり、褥婦の気持ちの辛さをケアできるような体制を整えることが主となります。

臨床現場では、マタニティブルーズの症状では、その症状の程度から、産科医が精神科に診察を依頼しなければと思うことは少ないと言えます。

一般に、産後2週間検診が始まっている段階で生活に支障をきたすような気持ちの辛さが続いている場合、マタニティブルーズではなく産後うつ病をきたしていると捉えて関わることが求められます。

DSM-5では、妊娠期間中もしくは産後4週間以内にうつ病を発症した場合「周産期の発症」として特定用語を付記することになっています。

この背景にある思想としては、産後うつ病は、一つの疾患単位というよりは、あくまでも周産期に付随して発症するうつ病の一つの表現型であるということです。

このため、産後うつ病の診断は、一般的なうつ病の診断基準を満たし、なおかつ、産後1か月以内の発症であるという基準が必要となります。

このように産後うつ病は一つの疾患単位ではありませんが、それでも特徴的な症状がいくつか認められます。

一つは流涙であり、(うつ病でも涙は流しますが)産後うつ病の場合は「涙が知らずにあふれてくることはないですか?」という質問に対して肯定する褥婦が多いです。

もう一つは強い不安や恐怖であり、不安とうつは合併しやすいですが、産後うつ病は不安に前面に出ることは珍しくありません。

産後うつ病の有病率は報告によって異なりますが、6.5~12.9%となっており、おおよそ10%程度と考えられています。

産後うつ病のリスク因子としては以下が挙げられます。

  • 心理的側面:うつ病、不安障害、月経前症候群の既往があること。子どもの性別に対してがっかりすること。性的な虐待の既往があること。
  • 身体的側面:緊急帝王切開や切迫早産による長期の入院など。早産や低出生体重児など。
  • 社会的側面:サポート不足、家庭内暴力、妊娠中の喫煙など。

産後うつ病の治療は、うつ病の治療に準じます。

精神科が関わるような産後うつ病は中等症以上の患者であり、抗うつ薬は主にSSRIを使用することが多いです。

分娩により褥婦はエストラジオールが減少し、その結果、セロトニントランポーターが増加します。

SSRIはセロトニントランスポーターに選択的に結合し、セロトニンの再取り込みを阻害することから産後うつ病にSSRIを使用することは理にかなっています(SSRIは相対的乳児投与量:母乳を介して新生児が摂取する薬の量が低いことも知られています)。

母乳をあげたいから薬は飲みたくない、という産後うつ病の患者は少なくないでしょうから、こうした相対的乳児投与量の情報を提供することで、患者は安心して母乳を与えながら治療に臨むことができます。

なお、SSRIは効果が出現するまでに2週間程度かかるため、効果が出現するまでの間は即効性がある抗不安薬を併用することがあります。

また、希死念慮を訴えることもあるので、入院を考慮したり、家族のサポートがある場合には家族が目を離さないようにと伝えることも重要になります。

なお、マタニティブルーズと産後うつ病の違いは以下の通りになります。

マタニティー・ブルーズ産後うつ病
持続期間10日~2週間以内2週間以上
発症時期産後2~3日産後1か月以内が多いが、数か月で発症することもある
有病率13~76%10%程度
重症度生活・育児には支障をきたさない程度生活・育児に支障をきたす
希死念慮認められない認められることもある

最後は産褥期精神病についてです。

産褥期精神病の有病率は、おおよそ0.1%と考えられています。

入院に至った症例のみではありますが、出産1000あたり0.25~0.6と報告されています。

発症時期は産後4週間以内が多く、産後4週以降と比べると危険率は23倍にもなるとされています。

興味深いことに、産前に精神病状態を呈する人はほとんどおらず、産後に偏ります。

産褥期精神病を呈した女性の50~80%は、その後、何らかの精神症状を呈する可能性があります(20~50%の女性では、産後に限って精神病症状を呈すると報告されています)。

そして、産褥期精神病を呈した女性の約30%は次の出産でも産褥期精神病になる可能性があります。

産褥期精神病はおそらく2つの群から構成されていると考えられています。

一つは、産後に限局して精神症状を呈しやすい群であり、もう一つは双極性障害を背景にもっている女性が産後に精神症状を呈するという群です。

症状は多彩であり、多弁になり、誇大的な話をするなど、双極性障害の躁症状を呈する例もあれば、幻覚妄想状態を呈し、言動がまったくまとまらなくなる例もあります。

産褥期精神病の治療の報告は少ないですが、Berginkらによる推奨治療は以下の通りです。

  • 産褥期精神病の入院加療を必要とする場合は、診断、安全性の評価、治療の導入である。
  • 患者のキーパーソンを把握し、治療に関わってもらう。
  • リチウムは、腎機能低下や過去に副作用が出たことがわかっている等使えない場合を除いて、急性期治療の第1選択である。
  • 電気痙攣療法、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬は重症の躁状態、精神病症状に対して有用な補助的治療である。電気痙攣療法は産後の躁状態と比べて重症の緊張病症状や精神病性うつ症状が続く場合に考慮すべきである。
  • リチウムは産後6~9か月は継続する。産後に限って症状が出た女性で、心理社会的ストレスが少ないときに寛解を保っている女性の場合、漸減する。
  • 精神病症状を伴う産後うつには、気分安定薬なしには抗うつ薬は使わない。気分の不安定性が増悪する可能性がある。

以上を踏まえて、各選択肢を見ていきましょう。

各選択肢の内容は、上記の「マタニティー・ブルーズ」「産後うつ病」「産褥期精神病」のいずれかを示したものになります。

ざっとまとめると以下のようになります(マタニティー・ブルーズとの比較も併せて述べていきましょう)。

  • 選択肢①:幻覚や妄想がみられる。
    …産褥期精神病にあり得る。マタニティー・ブルーズだと、その症状は生活に支障をきたさない程度なので妄想幻覚などは生じないことが明白である。マタニティー・ブルーズの主な症状としては、急に泣けてくる、悲しくなる、不安、イライラ感、不眠、食思不振、疲労感などが挙げられている。
  • 選択肢②:症状は1か月以上持続する。
    …産後うつ病や産褥期精神病にあり得る。マタニティー・ブルーズだと、産後2~3日ごろから認められ、2週間以内には納まるものとされている。
  • 選択肢③:全出産の約1%でみられる。
    …マタニティー・ブルーズでは全体の約13~76%(約半数と考えておいて良いかな)、産後うつ病だと全体の約10%、産褥期精神病だとおおよそ0.1%とされている。
  • 選択肢④:約50%の患者が産後うつ病に移行する。
    …上記の中で明記していないが、選択肢③の割合を考えればあり得ないことだとわかる(全体の約半数(50%)がマタニティー・ブルーズになるが、産後うつ病の有病率は10%だと計算が合わない)。マタニティー・ブルーズから産後うつ病への移行自体は、約5%程度であるとされている。
  • 選択肢⑤:出産後2日から5日頃が発症のピークである。
    …出産後数日で生じるのがマタニティー・ブルーズの特徴であり、症状が強くなるのもその時期が強く、産後10日ほどで納まるものとされている。産後うつ病や産褥期精神病は産後約1か月以内に症状が出現することが多い。

このように見てみると、選択肢⑤の「出産後2日から5日頃が発症のピークである」がマタニティー・ブルーズの説明になっていると考えられますね。

よって、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④はマタニティー・ブルーズの説明として不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

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