DSM-5の月経前不快気分障害に関する問題です。
この手の問題を攻略するためには「その疾患群に含まれる各疾患が、なぜその疾患群に含まれることになったのか?」という疑問を説明するための、一定のまとめ・ストーリーを持っておくことです。
こちらについても私見を述べていきますね。
問31 DSM-5の月経前不快気分障害が含まれる症群又は障害群を1つ選べ。
① 抑うつ障害群
② 不安症群/不安障害群
③ 身体症状症および関連症群
④ 双極性障害および関連障害群
⑤ 心的外傷およびストレス因関連障害群
関連する過去問
公認心理師 2020-52:解説内で抑うつ障害群の内容を列挙している。
公認心理師 2021-19:産後うつ病のリスク因子として挙げている。
解答のポイント
各障害群に含まれる疾患を把握している。
各障害群のポイント・まとめ(そこに含まれる疾患が、なぜその疾患群に含まれるのかという大枠の理解)を持っている。
選択肢の解説
① 抑うつ障害群
DSM-5には抑うつ障害群として以下が挙げられています。
- 重篤気分調節症
- うつ病/大うつ病性障害
- 持続性抑うつ障害(気分変調症)
- 月経前不快気分障害
- 物質・医薬品誘発性抑うつ障害
- 他の医学的疾患における抑うつ障害
- 他の特定される抑うつ障害
- 特定不能の抑うつ障害
上記の通り、月経前不快気分障害は抑うつ障害群に含まれています。
抑うつ障害群のポイントは「原因は何にせよ、気分の変調や抑うつを示すもの」という感じかなと考えています。
ですから、月経という「身体的な要因」であろうとも、気分の障害を示しているので抑うつ障害群に該当するわけです。
月経前不快気分障害の診断基準は以下の通りです。
A.ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経終了後の週には最小限になるか消失する。
B.以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。
- 著しい感情の不安定性(例:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進)
- 著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加
- 著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考
- 著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚。
C.さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。
- 通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退
- 集中困難の感覚
- 倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如
- 食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望
- 過眠または不眠
- 圧倒される、または制御不能という感じ
- 他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加
注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。
D.症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。
E.この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。
F.基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、前提的に下されてもよい)。
女性の気分の変調に大きく影響しうる「月経」という因子の存在を、常に念頭に置いておくというのも大切になります。
学校で働いていると、この辺は親からの報告で見えてくることが多いですね。
以上より、選択肢①が月経前不快気分障害が含まれる障害群として適切になります。
② 不安症群/不安障害群
DSM-5には不安症群/不安障害群として以下が定められています。
- 分離不安症/分離不安障害
- 選択性緘黙
- 限局性恐怖症
- 社交不安症/社交不安障害(社交恐怖)
- パニック症/パニック障害
- パニック発作特定用語
- 広場恐怖症
- 全般性不安症/全般性不安障害
- 物質・医薬品誘発性不安症/物質・医薬品誘発性不安障害
- 他の医学的疾患による不安症/他の医学的疾患による不安障害
- 他の特定される不安症/他の特定される不安障害
- 特定不能の不安症/特定不能の不安障害
このように、不安障害群の中に月経前不快気分障害は含まれていないことがわかりますね。
不安障害群のポイントは「不安に基づいた症状である。ただし、同じ不安に基づく症状であっても強迫性障害とは群を分ける」ということにまとめられると思います。
ただ、このまとめをきちんと飲み込むためには「各障害が不安に基づいて起こっている、というストーリーを持っていること」が求められますから、それなりに研鑽が必要かもしれません。
よって、選択肢②は不適切と判断できます。
③ 身体症状症および関連症群
DSM-5には身体症状症および関連症群として以下が定められています。
- 身体症状症
- 病気不安症
- 変換症/転換性障害(機能性神経症状症)
- 他の医学的疾患に影響する心理的要因
- 作為症/虚偽性障害
- 他の特定される身体症状症および関連症
- 特定不能の身体症状症および関連症
このように、身体症状症および関連症群の中に月経前不快気分障害は含まれていないことがわかりますね。
おそらく月経前不快気分障害をこちらと迷った人も多いのではないでしょうか。
やはりポイントを掴んでおくことが重要で、この障害群のポイントは「心理的な要因によって身体に症状が出ているもの、もしくは、出ていると主張するもの」であると思います。
決して「身体の疾患によって起こる心理症状」ではないのです(それだと心身症の方向になりますからね)。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
④ 双極性障害および関連障害群
DSM-5には双極性障害および関連障害群として以下が定められています。
- 双極Ⅰ型障害
- 双極Ⅱ型障害
- 気分循環性障害
- 物質・医薬品誘発性双極性障害および関連障害
- 他の医学的疾患による双極性障害および関連障害
- 特定不能の双極性障害および関連障害
- 双極性障害および関連障害群の特定用語
このように、双極性障害および関連障害群の中に月経前不快気分障害は含まれていないことがわかりますね。
双極性障害および関連障害群のポイントは「気分の波を基盤とした疾患」であるとまとめられると思います。
私見ですが、抑うつ障害群に関しては遺伝に関係なく生じると思いますが、双極性障害および関連障害群に関しては「気分の波を有する」という遺伝的要素が深く絡んでいるという印象を持っています。
よって、選択肢④は不適切と判断できます。
⑤ 心的外傷およびストレス因関連障害群
DSM-5には心的外傷およびストレス因関連障害群として以下が定められています。
- 反応性アタッチメント障害/反応性愛着障害
- 脱抑制型対人交流障害
- 心的外傷後ストレス障害
- 急性ストレス障害
- 適応障害
- 他の特定される心的外傷およびストレス因関連障害
- 特定不能の心的外傷およびストレス因関連障害
このように、心的外傷およびストレス因関連障害群の中に月経前不快気分障害は含まれていないことがわかりますね。
この障害群のポイントは「外部環境によって生じる心理症状をまとめたもの」と考えてよいかなと思います。
愛着障害関連や適応障害がこの障害群に含まれているのは、そういったまとめがあるからでしょう。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。