回避・制限性食物摂取障害に関する問題です。
私はこの障害が出題されることには意義を感じています。
その理由は解説内で示してあります。
問30 DSM-5の回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂取障害の特徴として、最も適切なものを1つ選べ。
① 小児に特有である。
② 食べることへの関心を失う。
③ 過度の減量を契機に発症する。
④ 体型に対する認知に歪みがある。
⑤ 文化的慣習によって引き起こされる。
関連する過去問
なし
※回避・制限性食物摂取障害は扱われていないし、神経性無食欲症に関しても診断基準を扱った問題はない。
解答のポイント
回避・制限性食物摂取障害の診断基準を把握している。
選択肢の解説
② 食べることへの関心を失う。
まず回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂取障害のDSM-5における診断基準を見ていきましょう。
A.摂食または栄養摂取の障害(例:食べることまたは食物への明らかな無関心);食物の感覚的特徴に基づく回避;食べた後嫌悪すべき結果が生じることへの不安で、適切な栄養、および/または体力的要求が持続的に満たされないことで表され、以下のうち1つ(またはそれ以上)を伴う:
- 有意の体重減少(または、子どもにおいては期待される体重増加の不足、または成長の遅延)
- 有意の栄養不足
- 経腸栄養または経口栄養補助食品への依存
- 心理社会的機能の著しい障害
B.その障害は、食物が手に入らないということ、または関連する文化的に容認された慣習ということではうまく説明されない。
C.その摂食の障害は、神経性やせ症または神経性過食症の経過中にのみ起こるものではなく、自分の体重または体型に対する感じ方に障害を持っている形跡がない。
D.その摂食の障害は、随伴する医学的疾患によるものではなく、または他の精神疾患ではうまく説明できない。その摂食の障害が他の医学的疾患または精神疾患を背景として起きる場合は、その摂食の障害の重症度は、その状態または障害に通常関連するような摂食の障害の重症度を超えており、特別な臨床的関与が妥当なほどである。
上記からもわかる通り、「食べることへの関心を失う」というのは回避・制限性食物摂取症/回避・制限性食物摂取障害の基準として定められております。
やせたいがために食べることを拒否する神経性やせ症(痩せたいがために、というのはあくまでも表面的な視点ですけどね)とは異なり、自分の体型や体重について過度な関心を持っていない点が特徴的です。
食べない理由は人によってさまざまで、食べ物の外見、色、臭い、触感、温度、味への極端な感受性が関係していることがあります。
食べたことによって嫌なことが起きるのでは、という不安があって食べない人もいます(例えば、食べたあとに吐いてしまったり、胃カメラなどつらい検査を強要されたりすることを恐れている)。
症例によっては、親子関係のあり方が食べない一因となっています(例えば、食事の与え方が不適切だったり、子どもが食べないことを、親が自分に対する攻撃または拒絶だと解釈したりする場合)。
回避・制限性食物摂取障害という病名はあまり聞き覚えの無い人も多いのではないかと思います。
「こんなニッチな領域を出すなんて」と考える人もいるかもしれませんが、個人的にはこの障害を出すのは良いことだと考えています。
なぜなら、乳幼児期や児童期に時折この障害と思われるような症状に出会うのです(もちろん、有意な体重の減少とまではいかない例も含めて)。
ここでは回避・制限性食物摂取障害に関する私見を述べておきます。
前段落のような背景があって回避・制限性食物摂取障害が生じている例もありますが、それよりもまず私がチェックするのは「2歳半前後で、それまでの離乳食などは食べられていたにも関わらず、急に食事を拒否するようになった経歴がないか?」という点です。
これをチェックする理由としては以下の通りです。
- 2歳半は外界と内界の違いを理解する年齢である。だからチックはこの年齢から生じ得る。
- この年齢の子どもが不快な外界を操作しようとするときに「食べない」という手段を用いている例が散見される。食べないことによって養育者の動きを自分の思う方向に動かしている。もちろん無自覚である。
なお、外界に不快を感じるというのは人間が生まれながら持つ根源的なもの(大きく言えば「進化」の欲求である)であり、その解消として「食べない」を使うということ。この年齢の子どもにとって外界を操作する技術は少ないが、フロイトがその一つに排便を挙げたように食事もその一つになり得る。 - この「食べない」という手段が、もっとも「手段」として用いられていることを象徴しているのが「それまでは食べられていたのに、急に食べられなくなる」という状況である。もちろん、そういう状況でなくても何かしら「操作している」ということはあり得る。なお、家庭よりも保育園内の方が食事は食べている例が多い。
- 「食べない」という手段が用いられる以外に最も多いのは、「不機嫌」「泣く」「暴れる」というパターンである。いずれもそれを行うことによって養育者が環境を調整している場合が多く見られる。
ちなみに「泣く」に関してはわかりやすい特徴があり、それは「涙を拭わない」という点である。もちろん例外はあるが、こうしたパターンを持つ人にとって涙は「環境を調整する道具」になっているので、拭って見せないようにするものではない。 - 上記のような経歴があると、食事は「手段」なので興味関心が薄くなりやすい。現にこのテーマを持つ子どもたちはみな瘦身である。
- 児童期に「自分の受け容れがたい環境」が生じた際、乳幼児期のパターンが再出現して「食べられない」ということが生じる。
もちろん、根っこは「受け容れがたい環境を変えるための手段」であるので、神経性無食欲症などとは異なるルーツを持つ病態とみていくことが重要になる。
このように児童期に見られる「食べられない」「食べることへの関心の低さ」が、乳幼児期の「受け容れがたい環境」への対処パターンの再出現であり、もしかしたら回避・制限性食物摂取障害もこうしたルーツを持つのではないか、と感じることがあります。
もちろん、成人した事例は私の専門外なのでどうなのかわかりませんが、児童期の事例と関わる人はチェックしてみても損はないと思いますよ。
上記の通り、回避・制限性食物摂取障害の診断基準として「食べることまたは食物への明らかな無関心」があります。
よって、選択肢②が適切と判断できます。
③ 過度の減量を契機に発症する。
④ 体型に対する認知に歪みがある。
⑤ 文化的慣習によって引き起こされる。
さて、これらは回避・制限性食物摂取障害の診断基準に否定する記述がありましたね。
B.その障害は、食物が手に入らないということ、または関連する文化的に容認された慣習ということではうまく説明されない。
C.その摂食の障害は、神経性やせ症または神経性過食症の経過中にのみ起こるものではなく、自分の体重または体型に対する感じ方に障害を持っている形跡がない。
これらの基準は何が言いたいのかというと「回避・制限性食物摂取障害と神経性無食欲症とは違うよ」と言いたいわけです。
神経性無食欲症では、ダイエットを契機として生じるというパターンがよく見られ、それを契機に精神医学的問題を顕在化させていきます(「やせを礼賛し、肥満を蔑視する」西欧化した現代社会の影響)。
ある生育歴を持つ人にとっては、ダイエットを契機として「周囲が反応してくれる」ということに内的な反応を持っていたり(今まできょうだいにかかりきりで注目しなかった親が心配してくれた、などは昔よく見た例ですね)、「自分自身をコントロールする」ということが「自分の内にコントロールしきれない「何か」を持つ人の代償行為」として定着するということが見られます。
そして、こうしたダイエットを行う背景として多いのが「痩せている方が良い感じ」という文化的慣習の存在です。
この点に関しては、現代の若者が痩せすぎなので何とかせねばというニュースがありましたね。
なお、文化的慣習は精神病理に大きく影響することを理解し(文化圏で症状の出方はかなり違う。日本では統合失調症で幻視は少ないがインドではかなり多い等)、臨床家は社会で常識になっていることの影響を考えておくことが大切です。
また、神経性無食欲症の診断基準Cには「自分の体重または体型の体験の仕方における障害、自己評価に対する体重や体型の不相応な影響、または現在の低体重の深刻さに対する認識の持続的欠如」が設けられており、これがいわゆる「体型に対する認知の歪み」になり、回避・制限性食物摂取障害ではこれが見られないということですね。
以上より、選択肢③~選択肢⑤は不適切と判断できます。
① 小児に特有である。
先述の回避・制限性食物摂取障害には年齢の基準が設けられていませんから、小児に限定することはありません。
しかし、私見でも述べた通り、この手の問題のルーツの一つとして乳幼児期の体験があると思われ、それが再活性化するという点を踏まえると児童期・小児期に多いだろうとは思います。
実践で臨床をしている人にとっては小児に多い反応であることから、自身の狭い体験だけに振り回されずにきちんと理解していることが求められています。
なお、小児に特有というか「小児期に認識されやすく、その時点で支援が開始されやすい」という診断として、発達障害全般、不安障害群の分離不安障害や緘黙、ストレス因関連障害群の愛着障害、などがあります。
これらも小児期だけに現われるというわけではなく、大人になってもその残遺は見られますね。
その場合は、別の診断名になるなどの変遷は見られますが、結局は根っこは同じであり、支援を行う上ではその「根っこ」を理解しつつ対応していくことが求められます。
このように回避・制限性食物摂取障害は小児に特有というわけではありません。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。