公認心理師 2022-132

軽度認知障害(MCI)に関する問題です。

MCIに関する基本的事項が問われている内容となっています。

問132 軽度認知障害[mild cognitive impairment〈MCI〉]に関する説明として、適切なものを2つ選べ。
① 不可逆的な状態である。
② 日常生活動作は低下している。
③ 記憶障害は診断の必須要件である。
④ 認知機能評価にはMoCA-Jが有用である。
⑤ DSM-5では、神経認知障害群に含まれる。

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解答のポイント

軽度認知障害の定義など基本的事項を把握している。

選択肢の解説

① 不可逆的な状態である。

認知症予防の取り組みを効果的に遂行するためには、より高い効果が期待でき、かつ次号実施の必要性が高い高齢者を地域から選択する必要があります。

認知症予防のターゲットになる対象者は、MCIを有する高齢者であると考えられ、MCIは認知症ではないが軽度な認知機能の低下を有する状態であり、認知症の前駆状態として捉えられ、認知機能が正常な高齢者と比較して認知症になる危険性が高い群になります。

ただし、MCIを有していてもその後正常へと回復を示すものも少なくありません。

例えば、健忘型MCIの単一領域の問題であれば、2年後に認知障害がない状態に回復する率は44.4%であるが、健忘型MCIの複数領域に問題を持っていると10.9%しか回復しないと報告されています。

非健忘型MCIでも同様に、単一領域の問題では31.0%が回復したのに対し、複数領域の問題では5.0%の対象者しか正常の認知機能には戻りませんでした。

これらの結果は、認知症を予防するためには、MCIの状態を早期に発見して、改善のための取組を行う必要があることを示唆しています。

MCIは認知症の発症予防の点から重要な位置づけがなされているが、一様な経過を辿るわけではありません。

経過を大きく分類すると、MCIから回復することなく認知症へ移行する早期発症型、MCIから正常に回復(あるいは長期間MCIを保持)するが認知症へと移行する遅延発症型、そして、MCIから正常に回復(あるいは長期間MCIを保持)して認知症を発症しない非発症型になります。

認知症予防の目的は、早期発症型から遅延発症型、非発症型へと移行することにあります。

これらのことから、MCIは「不可逆的な状態である」というのは不適切な認識であることがわかりますね。

以上より、選択肢①は不適切と判断できます。

② 日常生活動作は低下している。
③ 記憶障害は診断の必須要件である。
⑤ DSM- 5では、神経認知障害群に含まれる。

上記の通り、認知症とも認知機能正常とも言えない状態を「軽度認知障害:MCI」と呼びます。

Petersen(1995)によるMCIの診断基準は、①本人や家族から認知機能低下の訴えがある、②認知機能低下はあるが認知症の診断基準は満たさない、③基本的な日常生活機能は正常、ということになります。

MCIの診断基準としては、NIA-AA(National Institute on Aging-Alzheimer’s Association)による認知症診断基準や、米国精神医学会によるDSM-5などが使われます。

これらの診断基準は以下に示しますが、その骨子は、認知機能の低下があり、そのために社会生活・日常生活に支障をきたしており、せん妄や精神疾患では説明されないということになります。

認知機能低下については、古い基準では記憶障害が必須でしたが、近年は、記憶を含む認知機能の諸機能のうち2つ以上(NIA-AA)、あるいは1つ以上(ICD-10やDSM-5)の障害があることが条件となっており、記憶障害は必須条件ではなく、早期には記憶が保たれている場合も診断可能です。

さて、主要な診断基準であるNIA-AAの基準(要約)およびDSM-5の基準を示します。


【NIA-AAの基準(要約)】

  1. 仕事や日常活動に支障
  2. 以前の水準に比べ遂行機能が低下
  3. せん妄や精神疾患によらない
  4. 認知機能障害は次の組み合わせによって検出・診断される
    (1)患者あるいは情報提供者からの病歴
    (2) 「ベッドサイド」精神機能評価あるいは神経心理検査
  5. 認知機能あるいは行動異常は次の項目のうち少なくとも2領域を含む
    (1)新しい情報を獲得し、記憶にとどめておく能力の障害
    (2)推論、複雑な仕事の取扱いの障害や乏しい判断力
    (3)視空間認知障害
    (4)言語障害
    (5)人格、行動あるいは振る舞いの変化

【DSM-5の診断基準】

A.1つ以上の認知領域(複雑性注意、遂行機能、学習および記憶、言語、知覚-運動、社会的認 知)において、以前の行為水準から有意な認知の低下があるという証拠が以下に基づいている。
(1)本人、本人をよく知る情報提供者、または臨床家による、有意な認知機能の低下があった という懸念、および
(2)標準化された神経心理学的検査によって、それがなければ他の定量化された臨床的評価に よって記録された、実質的な認知行為の障害
B.毎日の活動において、認知欠損が自立を阻害する(すなわち、最低限、請求書を支払う、内服薬を管理するなどの、複雑な手段的日常生活動作に援助を必要とする)。
C.その認知欠損は、せん妄の状況でのみ起こるものではない。
D.その認知欠損は、他の精神疾患によってうまく説明されない(例:うつ病、統合失調症)。


これらからは、1つ以上もしくは2つ以上の認知領域における低下が実証されること、日常生活が基本的に自立していること、認知症ではないこと、せん妄やその他の精神疾患では説明されないといった項目からなっていることがわかりますね。

MCIは記憶障害の有無によって、健忘型と非健忘型に分類し、更にその他の認知領域の障害の有無によって、健忘型MCI・非健忘型MCIそれぞれを単一領域・複数領域に分類します。

健忘型MCIはAlzheimer型認知症に進展しやすいことが知られています。

上記の通り、MCIは日常生活動作は基本的に障害されておらず、記憶障害の診断は古くは必須でしたが現在では広く認知機能の障害のうち1つもしくは2つ以上とされていることなどがわかります。

また、DSM-5のMCIの診断基準は「神経認知障害群」に含まれており、他にはせん妄、各種認知症などが含まれています(おそらく混同しやすいのが「神経発達症群/神経発達障害群」になりますが、こちらは知的障害や発達障害を含む群になりますね)。

以上より、選択肢②および選択肢③は不適切と判断でき、選択肢⑤が適切と判断できます。

④ 認知機能評価にはMoCA-Jが有用である。

MCI判定のための評価方法に関する選択肢になりますね。

いくつかの検査について挙げていきましょう。

認知障害の訴えについては以下があります。

  1. CDR:認知症の有無を評価する観察法の代表的なもので、国際的にも広く用いられている。患者本人や家族などの周囲からの情報に基づいて評価する。認知機能に関する半構造化された6項目の質問によって構成され、内容は記憶、見当識、判断力と問題解決能力、社会適応、家庭状況、介護状況である。評価は正常の0から、疑い例の0.5、軽度認知症の1、中等度認知症の2、重度認知症の3までの5段階で行われ、MCIはCDR0.5と位置づけられることが多い。
  2. 質問紙調査:本人からの聴取によって自覚的な認知機能の問題を把握する。記憶に関する問題が自覚的に顕在化しやすいので、記憶に関する聴取をする必要がある。

全般的認知機能評価については以下の通りです。

  1. MMSE:認知症の判定のために広く用いられる検査である。30点満点の11の質問から成り、見当識、記銘、注意、計算、再生、言語、図形模写などを含む。24点以上で正常と判断される場合が多く、MCI判定における全般的認知機能の低下が認められないという判定はMMSEが24点以上であるとすることが多い。
  2. 3MS:MMSEの改訂版として開発された3MSは、満点が100点であり、MMSEの項目にいくつかの項目が追加されて詳細な認知機能の得点化が可能になった。
  3. MoCA:軽度認知機能低下のスクリーニングツールであり、多領域の認知機能(注意機能、集中力、実行機能、記憶、言語、視空間認知、概念的思考、計算、見当識)の評価バッテリーで、30点満点になる。日本語版(MoCA-J)では26点以上が正常範囲と考えられている。

これら以外にも基本的な生活機能を調査する方法として、Barthel Indexがあり、生じ、移乗動作、整容動作、トイレ動作、入浴、階段昇降、更衣動作、排泄コントロールが含まれ、各動作の自立度によって評点します(0点~100点で評価され、高得点ほど高い機能を示す)。

上記の通り、認知機能評価にはMoCA-Jが有用であることが示されていますね。

よって、選択肢④は適切と判断できます。

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