抗認知症薬であるドネペジルが阻害するものを選択する問題です。
本問は「2択まで狭めることができれば、きちんと勉強している」と言えるでしょう。
それ以上に関しての知識を持っているかは、自身の臨床現場や運によって左右されそうです。
問106 抗認知症薬であるドネペジルが阻害するものとして、適切なものを1つ選べ。
① GABA受容体
② NMDA受容体
③ ドパミントランスポーター
④ アセチルコリンエステラーゼ
⑤ セロトニントランスポーター
解答のポイント
各向精神薬の作用機序を把握している。
選択肢の解説
① GABA受容体
GABA受容体に関しては、抗てんかん薬の作用機序の中で語られることが多いです。
抗てんかん薬の効果は、作用点との関連で、①電位依存性イオンチャネル、②リガンド(配位子)依存性イオンチャネル、③GABA代謝阻害、④シナプス小胞蛋白、の4つの大きなグループに分けられます。
また抗てんかん薬の分類は抑制増強と興奮抑制がありますが、GABA代謝阻害薬は抑制増強になります。
その機序を説明すると、グルタミン酸はGAD65(グルタミン酸脱炭酸酵素)によってGABA(γアミノ酪酸)を合成し、神経終末からGABAが放出され、GABAA受容体のGABA結合部位へと結合するとクロライドチャネルが開き、Cl-が流入し、シナプス後抑制によって神経伝達を抑制的に制御するということになります。
過剰なGABAはGABAトランスポーターによって再取込を受けて再度シナプス小胞へと取り込まれ、更に、GABAはGABAトランスアミナーゼによって代謝を受けます。
以上のように、GABA受容体は抗てんかん薬で関連することが多く、「抗認知症薬であるドネペジルが阻害するもの」には該当しないと考えられます。
よって、選択肢①は不適切と判断できます。
② NMDA受容体
④ アセチルコリンエステラーゼ
ここで挙げられている選択肢はアルツハイマー病治療薬の作用機序の中で語られるものになります。
本問は「抗認知症薬であるドネペジルが阻害するもの」になりますから、この2つの弁別はかなり難しい問題であると感じます。
正しく解くためには、①アルツハイマー病治療薬の分類・該当する薬物を把握している、②それぞれの作用機序を正しく理解している、ということが求められています。
なかなか難しいと感じますが、解説していきましょう。
まずはアルツハイマー病治療薬の分類と薬物、その説明を一覧にしておきましょう。
分類 薬物 | 説明 |
AChE阻害 薬物:ドネペジル | ①偽性コリンエステラーゼに比べて、真性コリンエステラーゼ(アセチルコリンエステラーゼ:AChE)を選択的かつ可逆的・非競合的に阻害し、脳内アセチルコリン含量を増加させて抗アルツハイマー病効果を示す。 ②脳移行性と持続性に優れ、比較的選択的に脳内アセチルコリンエステラーゼを阻害する。 ③レビー小体型認知症にも適用。 |
ChE阻害 薬物:リバスチグミン | ①初の経皮吸収型製剤 ②コリンエステラーゼ(ChE)を擬非可逆的・競合的に阻害する。 |
AChE阻害 +ニコチン受容体アロステリック増強 薬物:ガランタミン | ①アセチルコリンエステラーゼを選択的・可逆的・競合的に阻害する。 ②ニコチン受容体アロステリック部位に結合し、アセチルコリンの作用を増強する。 ③神経細胞保護作用を示す。 |
グルタミン酸NMDA受容体遮断 薬物:メマンチン | ①過剰なグルタミン酸による記憶・学習障害(細胞傷害やシナプティックノイズの増大)を改善する。 ②生理的な強いNMDA受容体活性時には、メマンチン受容体から解離するため、神経伝達の長期増強には影響を及ぼさない。 |
この表からもわかる通り、本問の「抗認知症薬であるドネペジルが阻害するもの」は真性コリンエステラーゼ(アセチルコリンエステラーゼ:AChE)であることがわかりますね(ちなみにドネペジルの商品名はアリセプトです。私も治験で検査を取りました。懐かしい)。
選択肢②の「NMDA受容体」を阻害するのはメマンチン(商品名:メマリー)であることが示されています。
このいずれもがアルツハイマー病治療薬なので、上記の機序を正しく理解しておく必要があり、その点でこの2つの選択肢で迷うことになる問題と言えますね。
以上より、抗認知症薬であるドネペジルが阻害するもの選択肢②は不適切と判断でき、選択肢④が適切と判断できます。
③ ドパミントランスポーター
古くからドパミントランスポーターとの関連で語られるのが、統合失調症の陽性症状です。
大脳皮質・辺縁系を支配するドパミン作動性神経の過剰活動が症状(特に陽性症状)の発現を促進すると考えられており、薬物の持つドパミンD2受容体遮断作用の強さと陽性症状改善作用とがよく相関します。
ですから、統合失調症治療薬として、従来からドパミンD2受容体遮断薬が用いられており、これが一般に「定型抗精神病薬」と表現されますね。
なお、このドパミン受容体遮断によって、様々な副作用を生じさせます。
- 錐体外路症状:黒質‐線条体ドパミンニューロンの遮断
- 遅発性ジスキネジア:線条体ドパミン受容体の過感受性
- 悪性症候群:視床下部・大脳基底核での急激なドパミン受容体遮断
- プロラクチン分泌増加:脳下垂体前葉のドパミンD2受容体遮断
これの副作用も併せて理解しておきましょう。
ドパミントランスポーターに関しては、パーキンソン病治療薬との関連でも語られることが多いです(治療薬物として抗精神病薬が使われていますからね)。
パーキンソン病に関してですが、線条体でドパミンが抑制的に、アセチルコリンが促進的に作用してバランスを取り、不随意運動を調節しています。
また、黒質‐線条体ドパミン作動性神経経路が脱落・変性し、そのためドパミン/アセチルコリンのバランスが崩れるために錐体外路症状が起こると考えられています。
なお、パーキンソン病では「Wearing‐off現象」という薬物血中濃度の変動に伴って症状の日内変動が現れる現象があります。
パーキンソン病の進行によって脳内ドパミン神経の脱落・変性が進行すると、投与されたレボドパ(脳内でドパミンに変化し、ドパミン系の神経を活性化させる)を取り込むドパミン神経が減少するため、脳内レボドパ保持能力が低下します。
その結果、レボドパの有効閾値が上昇するため、投与1回あたりの有効時間が減少します。
ここで単純にレボドパ投与量を増やすと、レボドパ投与時の能なドパミン量が過剰となり、口・舌・顔・手足などの不随意運動が出現しやすくなります。
従って、レボドパの投与量を増やすよりも、投与回数を増やすことによって、レボドパの有効血中濃度を維持する方がよいわけです。
以上のように、ドパミントランスポーターは定型抗精神病薬で関連することが多く、「抗認知症薬であるドネペジルが阻害するもの」には該当しないと考えられます。
よって、選択肢③は不適切と判断できます。
⑤ セロトニントランスポーター
うつ病のにおいて、①うつ病患者で脳脊髄液中のセロトニンの代謝物5-ヒドロキシインドール酢酸の低下が見られること、②セロトニンの前駆物質であるトリプトファンをモノアミン酸化酵素阻害剤に併用すると抗うつ作用が増強することなどから、うつ病患者の脳ではセロトニン神経伝達の機能低下が起きているという仮説が提案されています。
現在SSRIはうつ病治療では第一選択薬となり、もっとも多く使われている抗うつ薬の種類ですが、SSRIはセロトニン以外のモノアミン再取り込み阻害作用をほとんど持たないため、シナプス間隙のセロトニンを増やすことがうつ病を改善することにつながると考えられています。
この図からもわかるように、抗うつ薬では、中枢神経系のモノアミン(特に、ノルアドレナリンやセロトニン)のシナプス間隙濃度を高めることによって、うつ症状を徐々に改善するとされています。
一般に、抗うつ薬の効果発現には投与後1週間以上要するものが多いことから、シナプス間隙のモノアミン濃度の上昇が直接抗うつ効果に結びつくのではなく、シナプス部におけるモノアミンの増加が受容体の脱感作や受容体数の低下を引き起こすことによって抗うつ効果がもたらされると考えられています。
また、統合失調症の陰性症状改善作用としてセロトニンが関連することが示されています。
セロトニン5-HT2受容体遮断作用と陰性症状改善作用との関連が示されており、陽性症状と陰性症状を共に改善する抗精神病薬として、D2受容体と5-HT2受容体の両方を遮断する薬物が開発されています(非定型抗精神病薬)。
以上のように、セロトニントランスポーターに関しては、抗うつ薬や非定型抗精神病薬で関連することが多く、「抗認知症薬であるドネペジルが阻害するもの」には該当しないと考えられます。
よって、選択肢⑤は不適切と判断できます。