睡眠薬の副作用と他の薬剤による副作用の弁別が求められる問題です。
解説の内容はほぼ医学書院から出版されている「臨床精神薬理ハンドブック」からの引用です。
薬理に関しては、この書籍が個人的には一番使いやすいです。
問41 睡眠薬に認められる副作用として、通常はみられないものを1つ選べ。
① 奇異反応
② 前向性健忘
③ 反跳性不眠
④ 持ち越し効果
⑤ 賦活症候群〈アクティベーション症候群〉
解答のポイント
睡眠薬の副作用や抗うつ薬の副作用について把握していること。
選択肢の解説
① 奇異反応
② 前向性健忘
③ 反跳性不眠
④ 持ち越し効果
睡眠障害の中で有病率が高いのは、疑いなく不眠症です。
日本での調査では、不眠に関連した睡眠問題を有する人の割合は一般人口の20%を上回っていますし、その治療のために睡眠薬を服用している人は5%近くに達しています。
ただし、睡眠障害の種類は90を超えているし(睡眠障害国際分類より)、その病態もバリエーションに富んでいるため、治療者は病態に応じた慎重な治療薬の選択を図る必要があります。
日本で承認されている主な睡眠薬はバルビツール酸系睡眠薬、ベンゾジアゼピン受容体作用薬、メラトニン受容体作用薬、オレキシン受容体拮抗薬などがありますが、バルビツール酸系睡眠薬は耐性や依存などの問題から現在はほとんど使用されておらず、ベンゾジアゼピン系薬が処方の主流となっています。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬は、その作用時間から、超短時間型(半減期4時間以内)、短時間型(半減期6~10時間)、中間型(半減期20~30時間)、長時間型(半減期30時間以上)に分類されます。
ちなみに「半減期」とは、薬を飲んでから血中濃度が半分になるまでの時間のことを指します。
不眠症には「入眠障害型(布団に入って寝付くまで30分以上かかる)」「熟眠障害型(睡眠時間を取ったのに、熟睡したという感じがしない)」「早朝覚醒型(早い時間に目を覚ます)」「中途覚醒型(夜中に何度も目が覚めて、一度目が覚めるとなかなか眠れない)」などのように様々なタイプがありますので、それも踏まえつつ睡眠薬の作用時間も考えていくことになります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用に関しては、以下のようなものがあります。
- 持ち越し効果
睡眠薬の効果が翌朝以降も持続するために、日中の眠気、ふらつき、脱力、頭痛、倦怠感などが生じます。中・長時間型薬剤投与後、ないし高齢者への投与時に生じやすいとされています。日本で現在半減期の短いω1受容体作動性薬剤が主流になっている理由は、この副作用が生じにくい点が大きいと考えられています。 - 記憶障害
前向性健忘で、摂取後入眠前、中途覚醒時の記憶が障害されることが多いとされています。このような状態になるのは、睡眠薬が中途半端な覚醒状態にしてしまうことで、海馬を中心とした記憶に関する脳の機能が低下してしまうためと考えられています。総じて用量依存性に発現しますが、催眠効果が強く作用時間の短いものに多いです。アルコールとの併用も発現リスクを高めます。 - 反跳性不眠
薬剤服用中断後、数日間にわたって投与開始前よりも不眠症状が強くなることがあります。睡眠薬は長期間服用していると身体が慣れてしまい、その結果として薬剤の効果は薄れているのに、薬剤を減らすと不眠が強まってしまうことがあるのです。このような状態を反跳性不眠といい、睡眠薬の離脱症状とも言えます。顕著な場合には、不安、焦燥、発汗、せん妄、けいれんなどが生じることもあります。 - 依存形成
臨床常用量の範囲内でも長期服用するうちに身体依存が形成され、反跳性不眠や自律神経症状などの退薬症状が生じることから、常用量依存が形成されることが問題視されています。その危険因子として、長期間投与、多剤併用、アルコールとの併用、作用時間が短いこと、抗不安作用が強いこと、他の薬剤依存の既往歴などが挙げられています。 - 転倒・認知機能への影響
筋弛緩作用は、作用時間の短いω2受容体作動性薬剤で生じやすく、高齢者ではふらつき・転倒の原因になります。この点でも、ω1受容体作動性薬剤の方が有利と言えます。睡眠薬長期使用中に認知機能低下が生じるという報告もなされていますが、その因果関係は明確なものではありません。 - 奇異反応
睡眠薬投与後に、かえって不安、緊張が高まり興奮や攻撃性が募り、時に錯乱状態になることがあります。基盤に精神疾患を有する場合、高用量投与の場合、アルコールとの併用時などに生じます。実際に不眠に関する支援にあたる場合は、こうした副作用を理解したうえで、睡眠に関する心理教育等を行っていくことになります。
以上より、ここで挙げた各選択肢はベンゾジアゼピン系睡眠薬の副作用であると考えられます。
よって、選択肢①、選択肢②、選択肢③および選択肢④は睡眠薬の副作用としてみられるものであり、除外することになります。
⑤ 賦活症候群〈アクティベーション症候群〉
抗うつ薬には様々な種類があり、それぞれにおいて生じる副作用があります。
賦活症候群はSSRIで問題になりやすい副作用です。
SSRIは三環系抗うつ薬に比べて副作用が少ないのが特徴ではありますが、薬剤である以上は副作用の存在は例外ではありません。
問題になりやすい副作用としては、消化器系の副作用、性機能障害(性欲の低下、性交不能、射精遅延、オルガスムの欠如など)、振戦、パーキンソン症状の悪化やアカシジアを含む錐体外路症状、悪性症候群、セロトニン症候群、賦活症候群、中断症候群などが挙げられます。
ここでは、そのうちのいくつかについて詳しく述べていきます。
- セロトニン症候群
脳内の細胞外セロトニン濃度が極端に高まると、セロトニン症候群とよばれる、時に重篤で致死的な副作用が現れる危険性があります。この状態は自律神経系の失調、過高熱、筋硬直、ミオクローヌス、錯乱、せん妄、昏睡などの症状を特徴とし、症状の上では悪性症候群にも一部類似し、両者の異同が問題となりやすいです。セロトニン再取り込み阻害作用の強い抗うつ薬とSSRIを併用投与するときなどに起こりやすいとされています。なお、リチウムにも神経細胞外のセロトニン濃度を上げる作用があり、リチウムとSSRIの併用時にセロトニン症候群が起こることもあります。 - 賦活症候群・自殺関連行動・衝動行為
賦活症候群とは、抗うつ薬により誘発される中枢刺激症状の総称であり、比較的軽度の神経過敏から自殺関連行動まで、程度の異なる様々な症状が含まれます。多くの抗うつ薬で生じるものの、従来の抗うつ薬よりも鎮静作用の少ないSSRIや一部のSNRIの登場により、副作用として広く注目されるようになりました。不安、焦燥、パニック発作、不眠、易刺激性、敵意、衝動性、アカシジア、軽躁、躁状態にまで及びます。生物学的な機序は不明ですが、原因薬物の中止や減量、抗不安薬や抗精神病薬の投与が有効とされています。
抗うつ薬の服用によって、自殺関連行動(自殺念慮、自傷および自殺既遂)が増加するという報告があり、メタ解析でも増加が示されていますが、リスクとベネフィットを比較したうえで抗うつ薬の使用を判断することになります。
これらの副作用については、出現の可能性をあらかじめ説明しておき、特に投与初期は、すぐに連絡を取れるようにしておく配慮が必要です。因果関係は明らかではありませんが、自殺念慮、自殺企図、他害行為が報告されています。患者の状態および病態の変化を注意深く観察するとともに、これらの症状の増悪が観察された場合には、服薬量を増量せず、徐々に減量し、中止するなどの適切な処置を行うことが大切です。
家族などに自殺念慮や自殺企図、興奮、攻撃性、易刺激性などの行動の変化および基礎疾患悪化が現れるリスクなどについて十分説明を行い、医師と緊密に連絡を取り合うよう指導することが重要です。
このことから、躁うつ病患者(躁転、自殺企図が現れることがある)、自殺念慮または自殺企図の既往のある患者や自殺念慮のある患者(自殺念慮、自殺企図が現れることがある)、脳の器質的障害または統合失調症の素因のある患者(精神症状を増悪させることがある)、衝動性が高い併存障害を有する患者(精神症状を増悪させることがある)などは慎重投与の対象となります。 - 中断症候群
これは、ある薬剤を急激に中断した際に生じる有害事象であり、以前は離脱症状とほぼ同義でしたが、最近は薬剤への依存が形成されている際の中断症状とよび、離脱も含めた様々な中断症状全体を中断症候群と呼ぶようになっています。SSRIの急激な中断や減量による中断症候群のうち、典型的なものはインフルエンザ様の症状(倦怠感、過眠、頭痛、筋肉痛、下痢)、不眠、嘔気、平衡(歩行不安定、ふらつき、動揺感、めまい)、感覚障害(しびれ、電気が流れるような感覚、視覚障害)、過覚醒(不安、焦燥)があります。これらの症状は通常軽度で、1、2週間程度持続するものであり、抗うつ薬の再開と共に速やかに消退します。
症状は抗うつ薬の使用期間が長いほど、薬剤の半減期が短いほど起こりやすいとされています。
処方の際には、患者に対して、賦活症候群と併せて、十分に情報を提供しておくことによって予防を図ることが必要です。
また、抗うつ薬服用中の患者が上記の症状を訴えた場合には、自己判断による断薬が影響した可能性を忘れてはなりません。
以上より、選択肢⑤の賦活症候群は睡眠薬の副作用ではなく、抗うつ薬の副作用に多いと言えます。
よって、選択肢⑤が選択されることになります。