アルツハイマー型認知症に関する理解を問う内容になっています。
各型の認知症については、これまでも何度も出題されていますから、繰り返し見直して覚えるようにしましょう。
BPSDなど、過去問で出題された内容がそのまま活用できますね。
問22 Alzheimer型認知症について、最も適切なものを1つ選べ。
① うつ症状が起こる。
② 見当識は保持される。
③ 近時記憶障害は目立たない。
④ 具体的な幻視が繰り返し出現する。
⑤ 注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動がみられる。
解答のポイント
アルツハイマー型認知症、Lewy小体型認知症の臨床診断基準を把握していること。
症状を器質的な病変によるものに限定せず、幅広く理解しておくこと。
選択肢の解説
① うつ症状が起こる。
本問の肝は「この問題では「中核症状」だけが問われているのではない」とわかることです。
認知症の症状は、中核症状とBehavioral and Psychological Symptoms of Dementia〈BPSD:認知症の行動・心理症状〉とに分けることができます。
国際老年精神医学会(IPA)が、認知障害以外の障害を上記のように一括して呼ぶことを提唱しています。
器質的な障害によって生じる症状、つまり中核症状だけで考えると本選択肢は外すことになりますが、このBPSDも含めて考えていくことが大切になります。
BPSDは、本人の性格や生活環境をはじめ、普段から接している人との関係などによって症状の現れ方が異なるので個人差が大きいとされています。
中核症状よりもBPSDの方が、介護者の負担感を増大させ、医療的な介入が求められる症状とされているので、BPSDの評価は認知症の治療や介護を考える上で、極めて重要と言えます。
国際老年精神医学会が2003年に提示し、日本老年精神医学会が2005年に監訳を行ったBPSDの症状については以下の通りです。
行動面:
- 活動性の障害:焦燥、不穏、多動、徘徊、不適切な行為
- 攻撃性:言語性、身体性
- 摂食障害
- 日内リズムの変動
- 睡眠と覚醒の障害
- 夕暮れ症候群
- とくに不適切な行動
心理面:
- 焦燥、うつ、不安、感情不安定、興奮、無為
- 妄想:ものを盗まれる、隠されるというもの、ここは自分の家でないという
- 配偶者や介護者:浮気をしている、だましている
- 幻の同居人妄想
- 鏡徴候
- 幻覚:幻視、幻聴、幻嗅、幻触
また、これら以外にも、喚声、性的抑制欠如、不用品の溜め込み、罵り、つきまとい、弄便、失禁などが含まれます。
上記はBPSDの代表的な症状ですが、アルツハイマー型認知症では、その中でも自発性の低下といったアパシーが見られます。
また、うつ傾向も見られることがあり、症状を修飾している可能性を考慮する必要があります。
特に初期には記憶障害や実行機能障害に病識があるため、不安、うつ状態、睡眠障害、新奇的な訴えなどの心理的症状の出現が多くなります。
このように、アルツハイマー型認知症においてうつ症状は、比較的見られやすい精神症状の一つであると言えますね。
よって、選択肢①が適切と判断できます。
② 見当識は保持される。
③ 近時記憶障害は目立たない。
記憶は情報の保持時間の長さによって、即時(短期)記憶(長くても1分ほど)、近時記憶(数分~数か月まで)と遠隔記憶(数か月以上から年単位)に分類されます。
アルツハイマー型認知症では即時記憶は良好で、相手の話したことの記憶は直後には保たれており、会話そのものは可能です。
これに対して、近時記憶は早期から障害されることがわかっています。
これは初期に側頭葉内側の神経細胞群の変性が起きることにより、近時記憶の保持が困難になり、最近の出来事の記憶が困難になって同じことを何度も聞いたり、約束を忘れたりすることで気づかれることが多いです。
このように軽度のアルツハイマー型認知症の記憶障害は、近時記憶障害やエピソード記憶の障害から始まり、遅延再生課題で顕著に見られます。
長谷川式(HDS-R)とMMSEでは、HDS-Rの方が遅延再生の評価項目の分配点数が3店多いため、より得点が低下しやすい傾向を示します。
より正確に近時記憶障害を検出するためには、ストーリーを覚えてもらうWMS-Rの論理的記憶(すごく長いストーリーです)などを用いると良いとされています。
WMS-Rでは直後に記憶をテストする課題と、30分後にテストする課題があり、後者の遅延再生課題では、年齢に比してより顕著な低下が示されます。
症状がやや進行してくると見当識障害、視空間認知障害、遂行機能障害などが加わってきます。
特に、時間に対する見当識障害は比較的初期から顕著であり、月日はおおよそ言えても、年を間違えることも多いです。
また、自分の年齢も正確に答えることができなくなります。
これらは、側頭葉内側の病変が大脳皮質に広がってくることにより顕在化してくる症状です。
高度に進んだアルツハイマー型認知症では、ほとんどすべての記憶に障害が見られ、時間場所の見当識障害はさらに進行して、午前午後の区別や自宅かどうかの判断もできなくなってきます。
記銘力障害から始まるこのような被失症状は、いずれも神経変性の広がりに伴って出現し、アルツハイマー型認知症の中心となる症状であるため「中核症状」と呼ばれます。
こうしたアルツハイマー型認知症の臨床症状は脳の病理変化とともに進行します。
この経過は臨床的重症度としてまとめられており、Cummings&Bensonの分類などが使われることが多いです。
これは1992年に提唱され、アルツハイマー型認知症の病期をわかりやすく3期に分類して示したものです。
第Ⅰ期:発症後1~3年
- 記憶:記銘力障害、軽度遠隔記憶障害
- 視空間能:地誌的失見当識、複雑な構成障害
- 言語:語想起困難、失名詞
- 人格:無関心、ときに易刺激性
- 精神症状:悲哀もしくはときに妄想
- 運動機能:正常
- 脳波:正常
- CT/MRI:正常
- PET/SPECT:両側後部頭頂葉循環代謝低下
- 記憶:近時・遠隔記憶再生障害の増悪
- 視空間能:構成失行、空間的失見当識
- 言語:流暢性失語
- 計算:失算
- 失行:観念運動失行
- 人格:無関心もしくは易刺激性
- 精神症状:ときに妄想
- 運動機能:落ち着きのなさ、徘徊
- 脳波:基礎律動の徐波化
- CT/MRI:正常もしくは脳室拡大と脳溝開大
- PET/SPECT:両側側頭頭頂葉循環代謝低下
- 知的機能:重度の障害
- 運動機能:四肢固縮と屈曲姿勢
- 括約筋機能:尿便失禁
- 脳波:びまん性徐波化
- CT/MRI:脳室拡大と脳溝開大
- PET/SPECT:両側側頭頭頂葉循環代謝低下
以上のように、アルツハイマー型認知症において「見当識障害」や「近時記憶障害」は基本症状であると言えますね。
よって、選択肢②および選択肢③は不適切と判断できます。
④ 具体的な幻視が繰り返し出現する。
⑤ 注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動がみられる。
これらはLewy小体型認知症に特徴的な症状です。
Lewy小体型認知症は、認知症と意識障害、それとパーキンソン症状などを特徴とし、大脳においてLewy小体を認める疾患です。
マッキースらによって1996年に「Lewy小体をともなう認知症」の臨床的診断基準を提唱したのが注目を集めるきっかけになったのですが、それ以前より、通常はパーキンソン病の脳幹部に限局して見られるLewy小体が大脳皮質にもみられることがあることは知られていました。
老年期の認知症患者において、大脳皮質にLewy小体を認めた報告は、岡崎によってなされましたが、その後、日本を中心に多くの症例が報告されています。
小阪ら(1990)は、このような症例をびまん性Lewy小体病と名付けて報告しました。
神経病理診断では、認知症疾患の20%前後とされ、アルツハイマー型認知症について多い変性性認知症疾患です。
1995年第1回国際ワークショップでLewy小体型認知症の名称と診断基準が提唱され、第3回ワークショップで診断基準が改訂されて、変動する認知障害、パーキンソニズム、繰り返す具体的な幻視の中核的特徴に加え、示唆的特徴としてレム期睡眠行動異常症、顕著な抗精神病薬に対する過敏性、SPECTあるいはPETイメージングによって示される大脳基底核でのドパミントランスポーターの取り込み低下が挙げられました。
Lewy小体型認知症の臨床診断基準(2017)では、「日常活動に支障を来す進行性の認知機能低下(必須)」に加えて「中核的特徴」および「指標的バイオマーカー」の該当数により「Probable DLB(ほぼ確実)」または「Possible DLB(疑い)」と診断します。
Lewy小体型認知症の診断には、社会的あるいは職業的機能や、通常の日常活動に支障を来す程度の進行性の認知機能低下を意味する認知症であることが必須である。
初期には持続的で著明な記憶障害は認めなくてもよいが、通常進行とともに明らかになる。
注意、遂行機能、視空間認知のテストによって著明な障害がしばしばみられる。
1.中核的特徴(最初の3つは典型的には早期から出現し、臨床経過を通して持続する)
- 注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動
- 繰り返し出現する構築された具体的な幻視
- 認知機能の低下に先行することもあるレム期睡眠行動異常症
- 特発性のパーキンソニズムの以下の症状のうち 1つ以上;動作緩慢、寡動、静止時振戦、筋強剛
2.支持的特徴
- 抗精神病薬に対する重篤な過敏性
- 姿勢の不安定性
- 繰り返す転倒
- 失神または一過性の無反応状態のエピソード
- 高度の自律機能障害(便秘、起立性低血圧、尿失禁など)
- 過眠
- 嗅覚鈍麻
- 幻視以外の幻覚
- 体系化された妄想
- アパシー、不安、うつ
3.指標的バイオマーカー
- SPECTまたはPETで示される基底核におけるドパミントランスポーターの取り込み低下
- MIBG心筋シンチグラフィでの取り込み低下
- 睡眠ポリグラフ検査による筋緊張低下を伴わないレム睡眠の確認
4.支持的バイオマーカー
- CTやMRIで側頭葉内側部が比較的保たれる
- SPECT、PETによる後頭葉の活性低下を伴う全般性の取り込み低下(FDG-PETにより cingulate island sign を認めることあり)
- 脳波上における後頭部の著明な徐波活動
Probable DLB(ほぼ確実にLewy小体型認知症)は、以下により診断される
- 2つ以上の中核的特徴が存在する
- 1つの中核的特徴が存在し、1つ以上の指標的バイオマーカーが存在する
※Probable DLB は指標的バイオマーカーの存在のみで診断するべきではない
Possible DLB(Lewy小体型認知症の疑い)は、以下により診断される
- 1つの中核的特徴が存在するが、指標的バイオマーカーの証拠を伴わない
- 1つ以上の指標的バイオマーカーが存在するが、中核的特徴が存在しない
DLBの診断の可能性が低い
- 臨床像の一部または全体を説明しうる、他の身体疾患や脳血管疾患を含む脳障害の存在(ただし、これらはDLBの診断を除外せず、臨床像を説明する複数の病理を示しているかもしれない)
- 重篤な認知症の時期になって初めてパーキンソニズムが出現した場合
これらは国際ワークショップが示した臨床診断基準であり、米国精神医学会による認知症の診断基準(DSM)とは表現等に違いがあるので注意が必要です。
上記からもわかるとおり、「繰り返し出現する構築された具体的な幻視」と「注意や明晰さの著明な変化を伴う認知の変動」はLewy小体型認知症の中核的な特徴であると言えます。
なお、アルツハイマー型認知症でも中期以降に幻視が見られることがありますが、記銘力低下を高度に伴うため、幻視の内容を尋ねても詳細に覚えていないことが多いです。
この点でもLewy小体型認知症の幻視とは異なると言えますね。
よって、選択肢④および選択肢⑤は不適切と判断できます。